【更新日:2021年11月5日 by おざけん】
SDGsの重要性について理解しているが、「なぜ企業として取り組むべきなのか」がわからないという人も多いと思います。
ディップ総合研究所が行ったインターネット調査によると、『あなたは「SDGs(持続可能な開発目標)」について、どの程度知っていますか?』という質問に対して、『内容を把握し、行動を起こしている』と回答した人は、7.1%に留まり、認知から行動までには乖離がある現場が明らかになりました。
しかし、SDGsに取り組むことは企業にとって大きなメリットがあります。
今回はSDGsに取り組む4つのメリットと3つのデメリットを紹介し、なぜ企業がSDGsに取り組むべきなのかについて考えていきます。
見出し
SDGsに力を入れている日本企業は増加傾向にある
2021年度、帝国データバンクのSDGsに関する調査結果によると、自社におけるSDGsへの理解や取り組みについて、「意味および重要性を理解し、取り組んでいる」企業は14.3%となり、前回調査(2020年6月)より6.3ポイント増加し、年々増加していることがわかります。
また、「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」は25.4%で同9.0ポイント増、合計すると『SDGsに積極的』な企業は39.7%で同15.3ポイント増加しており、SDGsに対する企業の取り組みや意識は前年より大きく拡大していることがいえるでしょう。
しかしながら、冒頭でもご紹介した通り関心はあるものの実際に取り組む企業が少ないことも事実です。
企業や個人がSDGsに取り組む理由
その前に、なぜ企業や個人がSDGsに関心を向けているのでしょうか。ここではSDGsに取り組む目的を一緒に理解していきましょう。
企業|SDGsの取り組みが企業価値の向上に繋がる
企業がSDGsに積極的に取り組んでいる理由は、SDGsの取り組みが企業価値の向上に繋がるからです。SDGsと聞くと、環境や社会へ貢献するイメージを持たれる方も多く、売り上げになかなか結びつけられないのではないかと疑問を抱かれると思います。
しかし、2017年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では「SDGs達成により、2030年までに少なくとも12兆ドルの経済価値、最大3億8,000万人の雇用が創出される可能性がある」と発表されました。つまり、SDGsによって新たな市場が創出され、その市場に介入することは投資家などのステークホルダーから社会的価値を果たそうとしているとみなされるため企業価値向上につながるのです。
中小企業がSDGsに取り組む理由について詳しくはこちらをご覧ください。
個人|SDGs目標達成のためには、個人の活動や取り組みが重要
SDGsには17の目標があり、貧困や環境といった壮大なテーマが掲げられているからこそ、SDGsへの取り組みは政府や企業が主体であるといった考えをお持ちの方も多いでしょうが、それは大きな間違いです。
個人の活動や一人ひとりの取り組みが、SDGsの目標達成のためには何よりも重要です。私たち一人ひとりがSDGsを意識して行動することで世界は確実に良い方向へと変化していきます。例えば、日本の二酸化炭素排出量の14.6%を「家庭部門」が占めていて、お店などのサービス業などの「業務・その他部門」と合わせると31.8になります。
つまり、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」に個人での取り組みがとても重要であることがわかります。「持続可能な社会」を自分の子供たちや孫に残すためにも個人の活動や一人ひとりの取り組みが重要なのです。
企業や個人がSDGs宣言することの意味についてはこちらの記事もご覧ください。
企業がSDGsに取り組む4つのメリット
企業価値(ブランド力)の上昇
SDGsは世界共通の目標であり、企業がSDGsに取り組むということは企業価値=ブランド力の向上という面で見てメリットがあると言えます。
ブランド力の向上のメリットとして「ステークホルダーとの関係性の向上」が挙げられます。
ステークホルダーとは利害関係者全般のことを指し、株主、経営者、従業員、顧客、取引先など広範囲を意味します。
SDGsに取り組むことで社会貢献性などの面から株主や顧客をはじめとし、社会的に評価されることに繋がります。
それにより従業員の意識の変化や取引先の拡大など企業としての価値が大きくなっていきます。
具体的な例としては「ESG投資の優位性」が挙げられます。
ESG投資とは従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指し、投資家の中でこの投資方法が拡大しています。
SDGsに取り組むということは、貧困や飢餓をなくすことだけでなく、気候変動への対策や海の豊かさ、陸の豊かさを守ることなど、環境問題への対策も多く含まれています。つまりESG投資で重要視されるポイントに貢献することとなります。
そのため企業がSDGsに取り組むことはESG投資や資金調達の観点からも非常に有利となります。
ESG投資については以下の記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
ビジネスチャンスにつながる
2つ目のメリットは、SDGsが企業にとって大きなビジネスチャンスとなり得るということです。
企業は、これまで消費者に求められる製品やサービスを提供してきました。
しかし近年では、少子高齢化や消費者ニーズの多様化などにより、「消費者のニーズが計りきれない」といった課題を抱える企業が増えています。
そのような企業が、長期的に発展していくためには、社会のニーズを掴んでいくことが必要不可欠です。
そこで「SDGs」が注目を集めています。
SDGsの根幹の考え方である「持続可能な開発」は、「将来世代のニーズを損なわずに、現役世代のニーズを満たす開発」のことを指すため、社会の課題と長期的なニーズがつまっているからです。
それによりニーズを知ることができ、新規ビジネスに参入しやすいというメリットがあります。また取り組みが評価されることで他業種との協力なども得られる場合もあるなど、ビジネスチャンスにつながる瞬間が多くなります。
採用力の強化
3点目のメリットとして、SDGsを企業が推進することで採用力を強化できる点が挙げられます。
就職活動を行っている学生へのアンケートで、「就職先企業を選ぶ上で重視した点」で「SDGsへの取り組み」を挙げた学生が6.4%いたというデータがあります。
また「企業のSDGsへの取り組みは企業選びに影響したか」というアンケートには、「とても影響した」が42.8%、「少し影響した」が42.9%と、合計85.6%が「SDGsの取り組みが就職先を選定する際の判断基準になった」と回答するという結果になりました。
その理由には、「女性が働くための環境作りができていると思うから」や「環境に配慮した就職先を探していたため」という声があがりました。
学生へのSDGsの認知度は年々向上しており、就職先を選ぶ上で大切な指標になっていると考えられます。
そのためSDGsに関しての取り組みを行うことで優秀な学生の目に留まる機会も多くなり、採用活動を強化できるというメリットが挙げられます。
将来のビジネスリスク回避
将来的にSDGsに取り組んでいない企業は大きなリスクを背負うことにつながりかねません。それを回避できるという点でメリットになります。
SDGsに取り組まない企業は、世界で取り組む課題に無関心という表明になりかねず、将来的にサプライチェーンから外されたり、株主や地域の支援を得ることができなくなったりする可能性も少なくありません。
そのため早い段階からSDGsについて学び、企業の方針として取り組むことで将来的なリスクを回避することができます。
企業がSDGsに取り組む3つのデメリット
短期的な成果につながらない
SDGsの目標は2030年までに世界で協力し達成しよう、というものです。
そのため1つの企業が取り組み始めたからといってすぐに解決する問題ではありません。
また支援やプロジェクトを始めてもそれがSDGsの目標達成に貢献できているかを知るには長い時間が必要です。
そして結果が伴い評価され始めるにはより多くの時間が必要になります。
そのためデメリットの1つとして短期的な成果につながらないということが挙げられます。
SDGsウォッシュによる批判や炎上
SDGsウォッシュとは、SDGsへの取り組みを掲げながらその実態が伴っていない、実際と異なる状況を揶揄する言葉です。
目標を掲げているだけで実際には活動を行っていない企業も多く存在すると言われています。
またSDGsウォッシュの一種としてトレードオフと呼ばれる、特定の社会課題を解決することで新たな社会課題が生まれてしまう状況も起こります。
1つの課題を解決するために他の課題を蔑ろにしてしまっては根本的な解決には至りません。
企業側の配慮が足りなかったり、誤解を与えるような活動をしてしまったりしている場合、それが顧客や取引先からの批判の対象となります。
またSNSやネットが発達している現代では、その批判が炎上として大きな問題になる可能性もあります。
1度炎上してしまうと企業イメージは大幅にダウンし、回復することも難しいのが現状です。
SDGsウォッシュについてはこちらをご覧ください。
取り組みが進まない
デメリットとして短期的な成果が出ないということを挙げましたが、そもそも取り組みが進まないという可能性もあります。
企業全体で時間やお金を掛けてプロジェクトを立ち上げても頓挫してしまったり、プロジェクトの立ち上げ自体が上手くいかないこともあります。
その場合、掛けてきた時間や費用が無駄になってしまったり、世間からSDGsウォッシュと捉えられてしまう可能性もあります。
企業がSDGsに取り組む際の3つの注意点
CSRやボランティアと混合しない
「SDGs」「CSR」「ボランティア」これらは全て同じ意味のように捉えられてしまいがちですが、これらを混合しないことが大切です。
CSRとはCorporation Social Responsibility=企業の社会的責任を意味し、企業が組織活動を行うにあたり担っている社会的責任を指します。
ボランティアとは、もともとは「志願者」や「奉仕者」という意味の言葉で、自主的に行う無償の社会貢献活動のことです。
SDGsがCSRとやボランティアと大きく異なる点は「ビジネスと両立させられているか」というところです。
CSRやボランティアを推進している企業の多くは社会貢献の一環として活動を行っています。
社員内で清掃ボランティアを募ったり、企業として多額の募金をしたりすることがこの活動にあたります。
SDGsの場合は、自社製品を貧しい地域の子どもに贈る、自社の商品にトレードオフのものを入れる、自社の男女格差問題への取り組みや働き方改革を進める、といった自社の事業をどのように社会貢献に活かせるかを考えることがメインになっています。
それぞれの言葉の意味の違いをよく理解し、取り組みにつなげていくことが重要です。
経営理念との統合させる
SDGsに取り組む際、どのような取り組みをするのかを考えるのが非常に大切です。
取り組みが企業の経営理念とかけ離れている場合、取り組みが困難で、SDGsウォッシュに繋がる可能性が高いからです。
SDGsの導入にあたっては、まず「SDG Compass」に沿って、経営理念・指針との統合を行い戦略の方向を決定する必要があります。
SDG Compassについて詳しくはこちらをご覧ください。
SDGsウォッシュを防ぐ
デメリットにも挙げましたが、社会はSDGsウォッシュに敏感になっているため、企業としても注意が必要です。
1度批判や炎上の的になってしまうと信頼を回復するのは困難です。
SDGsに取り組んでいるようにみえて、実態が伴っていないビジネスとならないようにしなければなりません。
<h2>SDGsに取り組む企業事例6選
最後に、SDGsに取り組む企業の事例をここでは6つ国内と海外に分けて紹介します。それぞれの企業がSDGsに取り組むことでどのようなメリットが得られたのか簡単に解説します。
《国内》日清食品グループ|災害支援および飢餓支援
日清食品グループは、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」を念頭に災害支援および飢餓支援を行っています。
取り組みの事例としては、日本や世界で大規模な自然災害が発生した際には、被災地にインスタントラーメンを無償で提供する取り組みをしています。
また、国連WFPを支援しており、災害や紛争時の緊急支援、栄養状態の改善、学校給食の提供などを行っています。
SDGsに取り組むことで得られたメリットとしては、各種方針に沿い、開発、原材料の調達から製品を製造、輸送、販売するまでの社会的責任を果たしていることを示したサスティナビリティ関連方針を公開することで、ステークホルダーとの良好な関係を築けています。
《国内》富士通|新薬の開発による社会課題解決
富士通は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」を念頭に、自社のデジタルテクノロジーを国民の健康を守るために積極的に活用しています。
取り組みの事例としては、新型コロナウイルス流行の際に、医療従事者の感染リスクを押さえながら、感染状況や正確な情報を収集すべく、各自治体に相談窓口となるチャットボットを整備したり、演算速度世界一のスーパーコンピューター「富岳」を活用して、新薬の開発や飛沫感染のシミュレーションなど、幅広い社会問題の解決に貢献しています。
SDGsに取り組むことで得られたメリットとしては、新型コロナウイルスにおけるスポーツ競技にて、量子コンピューティング技術「デジタルアニーラ」を応用した独自のソリューションを構築し、安全を担保したうえでの参加可能な観客数を最大化することを可能にし他ことで、テクノロジーを通した信頼の構築をすることができ、企業のブランディングを向上させることに成功しています。
《国内》キューピー|廃棄リサイクルによる環境改善
キューピーは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」を念頭に「食を通じて社会に貢献する」という目標を掲げ、社会課題の解決に取り組んでいます。
取り組みの事例としては、日本の卵生産量の約10%(1年間で約25万トン)を使用しており、卵殻は約2.8万トン発生しています。
廃棄すると環境へ多大な負荷がかかるため、1956年から卵殻を天日で干し、土壌改良材(肥料)として農家へ販売し、現在は社内外と協働することで卵殻を100%有効活用しています。
SDGsに取り組むことで得られたメリットとしては、上記の取り組みで多くの評価を受けており、「令和元年度リデュース・リユース・リサイクル推進功労者等表彰(3R推進功労者等表彰)」の農林水産大臣賞を受賞したほか、第7回「食品産業もったいない大賞」の農林水産省食料産業局長賞も受賞するなど、SDGsに積極的に取り組んでいることが可視化され、優秀な学生の目に留まる機会も多くなり、採用活動を強化することに成功しています。
SDGs CONNECTでは、この記事で紹介できなかった日本企業の取り組み事例を掲載している記事を公開していますので、ぜひご覧ください。
《海外》Huawei ファーウェイ|通信技術を用いた包括的な取り組み
中国の大手通信機器メーカーであるファーウェイは、「安全性と信頼性の高いネットワーク運用」「二酸化炭素排出削減で地球温暖化対策」「デジタルインクルージョンを目指すイニシアチブTECH4ALL」「国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成の支援活動」のテーマを軸に、通信技術を用いて情報弱者のために様々な包括的な取り組みを行なっています。
例えば、デジタル機器に触れる機会の少ないお年寄りや障害者に対し、便利に使えるよう商品開発をしたり、通信環境が整っていない地域での通信環境の整備をすることで、全ての人に平等に情報へのアクセスを可能にしています。
SDGsに取り組むことで得られたメリットとしては、数多くのサステナビリティ関係の栄誉および受賞を受けており、企業価値の上昇に繋げられているでしょう。2019年中国民間企業トップ100社CSR指数ランキング第1位や最高CSRイノベーション企業など積極的に社会貢献しているのがわかります。
《海外》Nike ナイキ|ゴミ削減
サステイナブルブランドへと進化しているナイキは、「すべてのアスリートのために、スポーツの未来を守る」というスローガンの元、プラスチックやコットンなどの素材を使いながらゴミ削減へと貢献しています。
現在、ナイキはランナーのためのリサイクルプログラムを開催しており、履かなくなったシューズを店舗に持ち込んで、炭素・廃棄物排出量ゼロの実現と、スポーツの未来を守るための取り組みを行っています。
SDGsに取り組むことで得られたメリットとしては、工場廃棄物等の再生材料で作られたスニーカーなどCO2大量排出に繋がる廃棄物やプラスチック等を材料に作られたアパレル商品を使った、サステナブル領域という新たなビジネスチャンスを生み出しているといえます。
《海外》Hilton Hotels & Resorts ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ|地域産業の発展
世界各地に拠点を置いているヒルトンは、ホテル事業を取り巻く数々の課題に取り組んでいます。SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」を念頭にホテルのある地域において、滞在客の動向を調査しフィードバックを徹底することにより、地域産業の発展に貢献しています。
SDGsに取り組むことで得られたメリットは、モルディブでサンゴの「赤ちゃん」を移植したり、日本では持続可能な食事を実現することで海を変えようと喚起するなど、ヒルトンではよりポジティブな影響を与え責任ある持続的な観光に注力したエコフレンドリーな旅行を提供する取り組みを始めていることから、SDGsを通じたビジネスチャンスを見出していることがわかります。
SDGs CONNECTでは、日本企業の取り組み事例を掲載している記事を公開していますので、ぜひご覧ください。
まとめ
今回はSDGsに取り組む企業事例を中心に、どのようなメリットがあるのかをご紹介しました。
SDGsを達成するための取り組みは、企業にとってさまざまなメリットがあることを知っていただけましたでしょうか。
これを機会に自分や企業がSDGsに取り組むことでメリットを得るためには、どのような取り組みをすればいいのかを考えてみてはいかがでしょう。
SDGsとは
SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの各目標ごとに解説記事を公開しています。
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