【更新日:2023年3月22日 by 田所莉沙】
SDGs目標16は「平和と公正をすべての人に」を掲げています。
日本は第2次世界大戦時に原子爆弾の投下を受けた唯一の被爆国であり、多くの国民が日本国憲法9条で保障される「平和」を多くの国民が大切にしています。一方で、国内では児童虐待に関するニュースが頻繁に報道されるなど、虐待や暴力に関連した社会問題が依然と残っています。
世界に目を向けると、虐待や人身売買、拷問によって苦しんでいる人がいたり、基本的な権利を得られない人も多く存在しています。
この記事では、SDGs 目標16「平和と公正をすべての人に」の概要から、詳しいターゲット、企業の取り組みなどを紹介します。
【この記事で分かること】 |
見出し
SDGs16「平和と公正をすべての人に」とは
皆さんはSDGs目標16について、どのくらい知っていますか。
まずはSDGs目標16の内容や、達成に向けて設定されたターゲットについて説明していきます。
SDGs16「平和と公正をすべての人に」の概要
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」では、すべての人が社会の一人として、法的に認められる環境を整えます。また各国で憲法や法律が行き届くようにすることで、こどもと関連した犯罪の件数を減らすことを目指します。
たとえば現在、世界各国で一定数のこどもが非道な暴力を受けています。また一部の国や地域では、暴力を禁止する法律が定められていない場合もあります。また発展途上国では、きちんとした法的環境が整っていないことから、国の中で不平等な司法制度となっている国も存在します。
すべての人を法律の観点から保護し、平等な社会の実現を目指したものが、SDGs目標16です。
SDGs16「平和と公正をすべての人に」のターゲット
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」には、12個のターゲットが設けられています。どのターゲットも、一人ひとりの人権を保障した社会の実現を目指したものです。
たとえばあらゆる場面や事例において暴力をなくしたり、こどもへの虐待・搾取をなくしたりなどが定められています。
SDGs目標16を達成するためには、法律などの法的な力が不可欠です。そのため目標の実現に向けて、世界各国で機関の力を高め、暴力や犯罪を減らしていくことが大切です。そのほかのターゲットについて、詳しくは以下の通りです。
16.1 | ・あらゆる場所において、暴力をなくす。 ・暴力と関連した原因によって、死亡してしまう人の割合を減少させる。 |
16.2 | ・子どもに対する虐待や搾取、人身売買などの取り引き、拷問をなくす。 |
16.3 | ・世界規模で通用するような、法の権力を強化する。 ・すべての人が裁判のような、法を利用する機会を得られるようにする。 |
16.4 | ・2030年までに憲法や法律に反する資金や、武器の取り引きを減らす。 ・取り引きによって奪われた財産が、持ち主の手元に戻るようにする。 ・あらゆる場面における組織的な犯罪をなくす。 |
16.5 | ・あらゆる汚職や、贈賄を大きく減少させる。 |
16.6 | ・どんな場面でも効力がある、公共的な機関を発展させる。 |
16.7 | ・物事を決める際に、すべての人が参加できるような形で決定する。 ・さまざまな人の意志を尊重し、人々の意志を代表する形で、物事を決定する。 |
16.8 | ・国際連合のような国際機関において、発展途上国も参加できるようにする。 |
16.9 | ・2030年までにすべての人々が、出生登録などを行う。 ・すべての人が法によって認められるような、身分証明を獲得する。 |
16.10 | ・各国の法律や国際的な取り決めに基づいて、だれもが簡単に情報を得られるようにする。 ・基本的に一人ひとりが自由にかつ、安全に情報が得られるようにする。 |
16.a | ・とくに発展途上国において、暴力を防ぎ、テロや犯罪をなくす。 ・テロや犯罪に対する対応力を高める。 ・各国で機関の力を強めていく。 |
16.b | ・差別のない法律や政策を提案し、実施していく。 |
参照:外務省公式サイト
SDGs16が必要な理由|平和と公正を保つためには
ここまでSDGs目標16の目指す目標や、達成に向けた取り組みについて、まとめていきました。では、なぜ目標16を達成すべきなのでしょうか。
たとえば世界各国では、少なくとも毎年約10億人の子どもたちが、なんらかの形で暴力を受けています。暴力の中でも多くの場合が、子どもの両親や学校の教師のような、本来子どもを守る立場にある人による暴力となっています。
また多くの国で人口が増加しているにもかかわらず、新たに生まれた子どもを出生登録していないことがあります。とくにアフリカ大陸に位置する国々で生まれた子どもが、出生登録をしていない事例が多いです。
そのほかにも性的な被害を受ける女性がいたり、戦争や紛争によって命が危険にさらされた人々がいたり、さまざまな問題が生じています。すべての人が安全かつ平和な社会にするためには、暴力や戦争などを減らすことが不可欠です。
SDGs16に関する世界の現状と問題点
ここまでSDGs目標16の必要性について、まとめていきました。
続いてSDGs目標16における世界各国の現状や、問題点について解説していきます。
紛争やテロによって年間約1万9,000人が亡くなっている
第二次世界大戦後、世界の多くの国では戦争や紛争は起きていません。しかし一部の国や地域では、いまだに紛争が続いています。2020年の段階で、発生している紛争の数は56個でした。「紛争」は「戦争」とは少し異なり、基本的には主張の異なる人々が争うことを指します。
長期的に戦争・紛争が生じていることが原因で、多くの人々や子どもたちの命が犠牲になっています。2018年、テロ攻撃による死者数は約1万9,000人でした。テロによる死者数は、各国でテロ対策に向けた取り組みを中心に行っているため、減少しつつあります。
しかし国家間や宗教間による戦争や紛争は、絶えず続いています。とくに中東や、アフガニスタンやイラクなどの国が位置するアフリカ大陸で、多くの死者を伴った紛争が発生しています。世界各国で平和な社会を実現し、多くの命を失わないためには、これらの紛争や戦争をなくすことが必要です。
紛争や災害によって約1億400万人の子どもが学校に通えていない
紛争や戦争による被害は、多くの人が亡くなるだけではなく、子どもたちの教育にも悪影響を与えます。2020年において、世界の子どものうち3億300万人は学校へ通えていません。
そのうち1億400万人の子どもたちは、紛争や自然災害の影響を受けており、学校へ通うことが難しい現状です。この数は全体の3分の1に相当し、かなり多くの子どもたちが教育の機会を奪われていることになります。
また仮に学校へ通うことができていても、学校の施設がテロ攻撃の標的となる可能性もあります。学校が攻撃されることで、授業中に子どもたちが狙われたり、子どもたちが軍の兵士として微用されたりと、危険な状況に陥ることもあります。
子どもたちが学校へ通えないことで、子どもたちは文字の読み書きや計算ができないまま育つことになります。基本的な知識を得られないことが原因で、限られた仕事しかできず、充分な報酬が得られなくなります。また教育を受けたことがない人が増加していくと、国としても経済の発展に悪影響を与えるのです。
紛争などにより故郷を追われた人は8,930万人
紛争や戦争が発生することで、その土地に暮らしていた人々の生活にも支障をきたします。2021年末において、紛争や迫害によって故郷を追われた人の数は、8,930万人でした。
故郷を離れざるを得ない国がいくつかある中で、シリアはとくに難民者数が多いです。シリアは2011年に発生したシリア内戦以降、多くのシリア人が難民として苦しい生活を送っています。
難民の数は絶えず増えています。中でも2022年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻により、難民の数が1000万人を超えました。今後も世界各国の難民が増加すると、見込まれています。これ以上難民の人々を増やさないためにも、世界各国で続いている紛争や戦争をなくすことが重要です。
5歳未満の子どもの4人に1人が出生登録をされていない
すべての子どもたちには、生まれた時に国籍を得る権利があります。出生登録は、登録手続きをすることで正式に身元が証明されることとなり、国からの補助や公共サービスを受けられるようになります。
しかし一部の国や地域で生まれた子供たちの中には、出生登録をしていない子も存在します。2022年の段階において、5歳未満の子どものうち4人に1人が出生登録をしていませんでした。
とくに発展途上国では、出生登録に必要な費用が高かったり、そもそも出生登録に関する知識がなかったりなどの理由があり、出生登録をしていない子どもが数多くいます。実際に2019年において、出生登録をしていない子供の数は、1億6,600万人でした。
女性が性的な虐待にあっている
SDGs目標16に関連した問題は、子どもへの暴力や難民だけではありません。世界には、性的な被害を受ける女性や女の子も存在します。
性的な虐待などの被害に遭う女性は、国や地域を問わず存在します。とくに南アフリカでは、毎年50万件もの事件が発生していると見込まれています。また南アフリカで暮らす女性のうち40%以上の人々が、性的暴行などの被害を一度は経験していると推定されています。
南アフリカ以外にも、スウェーデンは先進国の中でも性的被害が多く発生している国です。スウェーデンでは2005年に法が改定されたことで、強姦の基準を幅広く捉えています。事件の発生数のみで比較すると、スウェーデンの性的被害はかなり生じていると見受けられます。しかし基準を幅広く設けることで、どんな事例でも訴えることができるようになります。
一方で性的被害に対するきちんとした法律などが整っていない国では、被害を受けても対抗する手段がありません。中には恐怖心によって、詳細を詳しく述べられない人もいます。このようにすべての人が安心・安全に暮らすためには、各国で法の権力を強め、普及させることが必要です。
汚職や賄賂が横行している
平和と公正に関わる問題は、人に対するものだけではなく、各国の政治的・経済的な要素にも存在します。
シリアやソマリアなどの発展途上国では、数多くの汚職や賄賂に関連した問題が多発しています。政府やその国の経済を担う企業などが汚職されていたり、賄賂を行っていたりすると、国の経済成長にも悪影響を与えます。
トランスペアレンシー・インターナショナルは、汚職や賄賂が発生する原因が、富の不平等な分配であると考えています。汚職や賄賂をなくすためには、各国で憲法や法律の権力を強化し、当たり前のものにすることが重要です。
SDGs16に関する日本の現状と問題点
ここまで世界各国で発生しているSDGs目標16に関連した問題や、現状についてまとめていきました。
つぎに日本国内におけるSDGs目標16の現状や、問題点について説明していきます。
児童虐待が増えている
日本では、子どもに向けた暴力が絶えず行われています。法務省が発表している犯罪白書には、日本で発生した児童虐待を行った人の数を公表しています。2021年における児童虐待を行った人の数は、2,199人でした。この数は2020年より17人増加しており、2003年以降最多という結果です。
児童虐待の中でも暴行が最も多く発生しており、全体の約40%を占めています。暴行に次いで、傷害、強制わいせつと続きます。
子どもに対する暴力は、家庭でのストレスや経済的な問題など、さまざまな理由によって引き起こされます。とくに2020年には、蔓延した新型コロナウイルスの影響で児童虐待が増加しました。コロナ禍では、従来より家族の時間が増えたことにより、ストレスが溜まりやすい傾向にあったと考えられます。
これ以上子どもたちの被害を増やさないために、政府や自治体などが対策を行ったり、地域で子どもを守る仕組みをつくったりすることが大切です。
SDGs16に関する日本の取り組み事例3選|企業と政府の取り組み
ここまで日本で起こっているSDGs目標16における現状や、問題点についてまとめていきました。
続いてSDGs目標16を達成するために、日本国内で行われている取り組みについて、紹介していきます。
オレンジリボン運動|児童への虐待防止の活動
「オレンジリボン運動」とは、オレンジリボンを子どもへの虐待を防止するためのシンボルマークとして普及することで、児童虐待をなくす運動です。この運動を通じて児童虐待における現状や問題を伝えていき、問題の解決につなげていきます。
「オレンジリボン運動」は、2004年に栃木県で発生した児童虐待がきっかけで、活動を始めました。これ以上子どもたちが暴力で苦しみ、命を落とすことのないよう、運動を進めています。
オレンジリボン運動公式サイトでは、個人ができることから企業、育児中の人々ができることなど、分野に分けて紹介をしています。活動やできることについて、気になる方は、ぜひ公式サイトを見てみてください。
日本航空(JAL)|人権尊重に関する方針を策定
日本航空(JAL)は、全社員の物心両面の幸福を追求したうえで、最高のサービスを提供できるよう、取り組んでいます。またサステナブルな人流・商流・物流を創出するために世界各国で直面している社会問題を解決するため、日本航空(JAL)が考えたESG戦略をもとに活動を行っています。
日本航空(JAL)が行っているSDGs目標16に関連した取り組みが、人権の尊重です。社員の幸福を追求するうえで欠かせない人権は、企業理念の実現にも関わっていることから、あらゆる人々に対する人権を尊重しています。2019年には、「JALグループ人権方針」を制定しました。
社員やお客様を対象とした相談窓口を設置したり、社員への人権に関する教育・研修を行ったりすることで、すべての人が尊重される社会の実現を目指しています。
Yahoo!ネット募金|難民を支援するための寄付システム
「Yahoo!ネット募金」とは、地震などの自然災害により被害にあった子どもたちの支援や動物たちの保護などの問題を解決するために、募金を行うものです。募金活動をインターネットを通じて行うことで、支援団体へ寄付をしています。
「Yahoo!ネット募金」は2004年に発生した新潟県の中越地震をきっかけに、開始されました。2004年以来、クレジットカードを使用した寄付だけではなく、Tポイントも寄付に活用できるようになりました。2020年7月の段階において、寄付総額は70億円となっています。
「Yahoo!ネット募金」では、募金プロジェクトを行うために、いくつかの基準を満たす必要があります。その際に「なんのために・どこに」支援するための募金プロジェクトなのかどうか明確にしたプロジェクトのみを立ち上げています。そのため寄付をする人々が、安心して寄付ができるようになっています。
SDGs16に関する世界の取り組み事例3選
ここまで日本国内で実施されている、SDGs目標16の実現に向けた取り組みについて、まとめていきました。
つぎに世界各国で行われている、SDGs目標16の達成を目指した取り組み事例について、説明していきます。
ネウボラ|フィンランドの出産・育児支援施設での無料相談
「ネウボラ」とはフィンランド語で「アドバイスの場所」という意味です。当時のフィンランドは経済的にも苦しく、周産期の妊婦死亡率が高く、現在のような福祉国家も少ない状況でした。そのため1920年代初頭において妊娠期から周産期の妊婦や子どもの命を守るために、開始されたのがネウボラ活動です。
現在では、女性が妊娠してから子どもが就学するまで、同じネウボラ保健師が過程全体の相談や支援を行っています。また現在のネウボラでは「貧しい母親にも裕福な母親にも全員に、直接のアドバイスの機会を確保する」という基本理念に基づいて、すべての女性や子ども、その家族を支えています。
フィンランドにはどの自治体にもネウボラが存在しており、健診が無料で受けられます。そのためフィンランド国内におけるネウボラの利用率はほぼ100%という数値です。
国連平和維持活動(PKO運動)|対話を通じた紛争解決の支援
「国連平和維持活動(PKO運動)」とは、国際連合が紛争の起きている国家・人々の中間に立ち、停戦や軍の撤退を促すことで、紛争などに終止符を打っています。また紛争の再発を防止するため、紛争における当事者同士で対話することで、根本的な解決に取り組んでいます。
冷戦の終結後、国際連合の役割の重要性は高まっています。それに伴い、国連平和維持活動(PKO)の任務も停戦や軍の撤退の促進だけにとどまらなくなりました。近年では治安の改革や選挙、人権、法の支配などの法的な分野における支援など、多岐にわたっています。
実際に2011年に行われた国連南スーダン共和国ミッションでは、軍事面だけではなく、行政や選挙、人権に関する任務を遂行していました。
Intel|女性管理職の促進
Intelは、半導体技術を用いて、コンピューターなどの電子機器の製造に携わっているメーカーです。また世界各国で問題となっている地球温暖化は、環境だけではなく、経済や政治にも悪影響を与えると考えています。そのため企業の強みである技術を活用して、「企業責任(Responsible)」・「一体性(Inclusive)」・「サステナビリティ(Sustainable)」の3つに焦点を当てた取り組みを行っていきます。
3つの焦点のうち、SDGs16と関連しているのが、「一体性」です。世界各国に進出しているIntelでは、どの職場においても多様性や公平性などを推進しています。
とくに技術職を担う女性の人数を40%増加させ、女性における管理職の就任を促進しています。これにより男性と女性が平等な関係で働ける環境をIntel社内の文化として継続させていきます。
SDGs16を達成するために私たちにできること|個人の取り組み
私たちが身近にできる、SDGs目標16の達成に向けた取り組みとは何があるでしょうか。
まず私たちができることとして、SDGs目標16に関連した問題について知ることがあります。日本だけではなく、世界各国で子どもたちが虐待されていたり、紛争や戦争によって故郷を追われる人がいたりと、さまざまな問題が生じています。まずはそれぞれの問題に目を向け、理解することが大切です。
日本や世界の現状を知ったうえで、SDGs目標16の解決のために活動を行っている団体へ支援することで、私たちもSDGs目標16の達成に貢献できます。
日本だけではなく、世界各国で支援団体が活動しているため、自分がより支援をしたい団体へ寄付活動をしてみてください。寄付活動だけではなく、SDGs目標16に関係性のあるイベントに参加することも、目標の達成につながります。
まとめ
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」は、世界各国で法の権力を確固たるものにし、一人ひとりを守るために定められた目標です。
日本だけに限らず、世界各国で子どもが暴力の被害にあっていたり、紛争によって安心・安全な暮らしができていなかったりと、危険な環境で生活をしている人々がいます。
私たちもSDGs目標16の現状を知り、団体へ寄付をするなど、身近にできることが複数存在します。まずはインターネットやニュースを通じて、世界各国で問題となっていることについて、調べてみてはいかかでしょうか。