今、SDGs達成のために取り組む企業・個人が増加し、SDGsのさまざまな活動がメディアでも取り上げられるようになりました。しかし、実際のところ日本のSDGsの達成度がどのくらいなのか知っていますか。2030年には本当に全ての項目が達成できるのか気になりますよね。
今回は、SDGs達成度ランキングを参考に、日本のSDGsの達成度を解説します。
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SDGs達成度ランキング
まず、SDGs達成度について日本と達成度1位のフィンランドを見てみましょう。
日本は18位にランクイン
国連が発表しているSustainable Development Report 2021によると、2021年時点の日本のSDGsインデックススコアは79.8で、165カ国中18位でした。
日本を含むOECD加盟国(38カ国の先進国が加盟する国際機関)は、他の国のグループよりも目標の達成に近づいています。日本は特にSDGs1(貧困削減)、SDGs3(健康と福祉)、SDGs6(安全な水と衛生)、SDGs8(働きがいと経済成長)SDGs9(産業と技術革新)。SDGs11(持続的なまちづくり)、SDGs16(平和と公正)に関して高い評価が得られました。
一方、SDGs5(ジェンダー平等)、SDGs13(気候変動対策)、SDGs14(海の豊かさ)、SDGs16(陸の豊かさ)、SDGs17(パートナーシップでの目標達成)について、大きな課題が残っており、さらなる努力が必要であると明らかになりました。
※ SDGsインデックススコア:17のSDGs目標に関する各国の全体的なパフォーマンスの評価。スコアは、最悪の結果(0)と最高または目標達成(100)の間の国の位置を示す。例えば、日本の全体的なインデックススコア(79.8)は、平均して17の目標全体で79.8%達成していることを意味する。
達成度ランキング1位の国の達成度
2021年時点のSDGsインデックススコアで1位に輝いた国はフィンランドでした。スコアは85.9と非常に高い数値です。フィンランドが目標の達成に近づいている要因としては、さまざまなステークホルダーが目標の策定や実施などに関わっていることが挙げられます。
フィンランドでは、30年近く前から持続可能な開発に取り組んできており、社会全体、政府全体で持続可能な開発に取り組むための体制が作られてきました。省庁間の連携や国と自治体の連携が活発に行われています。
また、長期的に持続可能な開発に取り組むため、議会、政府、市民社会など、さまざまなステークホルダーの代表で構成される「持続可能な開発に関する国家委員会」が2050年に向けた長期ビジョンを作成しました。これをもとに政府は2030アジェンダの国内実施計画や国内指標を作り、モニタリング・レビューをしています。
さらに、フィンランド全体でも特に取り残されやすい人々を含めた持続可能な開発の実施体制を整えています。若い世代の影響力や科学的知見を活用する工夫が見られます。
日本のSDGs達成度はどのくらい?
では次に、日本の目標ごとのSDGs達成状況、日本のスコアと順位の推移、課題が残る目標と原因について考えていきます。
目標ごとの達成状況
先進国の一員である日本。現時点で2030年までの目標であるSDGsはどれぐらい達成されているのでしょうか。2021年の日本の達成度を見てみましょう。
1貧困をなくそう | ● | 10人の国の不平等をなくそう | ● |
2飢餓をゼロに | ● | 11住み続けられるまちづくりを | ● |
3すべての人に健康と福祉を | ● | 12つくる責任つかう責任 | ● |
4質の高い教育をみんなに | ● | 13気候変動に具体的な対策を | ● |
5ジェンダー平等を実現しよう | ● | 14海の豊かさを守ろう | ● |
6安全な水とトイレを世界中に | ● | 15陸の豊かさも守ろう | ● |
7エネルギーをみんなにそしてクリーンに | ● | 16平和と公正をすべての人に | ● |
8働きがいも経済成長も | ● | 17パートナーシップで目標を達成しよう | ● |
9産業と技術革新の基盤をつくろう | ● |
●:達成に近づいている ●:課題が残っている
●:重要な課題が残っている ●: 大きな課題が残っている
この表から、ジェンダー平等の実現、気候変動対策、陸・海の生態系の保護、パートナーシップでの目標達成において大きな課題が残っていることが分かります。
特に気候変動対策と生物多様性の保護に向けて、さらなる努力が必要です。日本を含めた先進国は、貿易と消費を通じて国境外で環境負荷を拡大しているため、SDGsを達成しようと努力する他の国の努力を妨げています。経済成長による環境への悪影響を減らす取り組みが不可欠です。
さらに、「達成に近づいている」と評価された「貧困削減」や「健康と福祉」の分野でも、新型コロナウイルスによって新たな課題が生じています。
例えば、物価高騰による低所得者への思い経済的な負担が挙げられます。また、休講やオンライン授業が増えたことにより、不登校や自殺者の増加など子どもたちの精神面への影響が表れています。新たな課題に対する解決策も求められています。
日本のスコア・順位の推移
次に2016年から2021にかけての日本のSDGsインデックススコアと順位の推移を見てみましょう。
2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | |
順位 | 18 | 11 | 15 | 15 | 17 | 18 |
スコア | 74.96 | 80.18 | 78.52 | 78.92 | 79.17 | 79.8 |
全ての年で20位以内に入っていますが、順位は2017年以降、少しずつ順位が下がっていることが分かります。スコアはおおむね横ばいです。
取り組みが遅れている目標とその原因
それでは、SDGs達成に向けて重点的な取り組みが必要な目標について詳しく見ていきます。取り組みが遅れている原因は何でしょうか。
h4 SDGs5「ジェンダー平等を実現しよう」
まず、特に取り組みが遅れている目標としてSDGs5「ジェンダー平等の実現」が挙げられます。Sustainable Development Report 2021で「大きな課題が残っている」と評価された目標の1つです。日本では、会社や組織、家庭など多くの場面で、依然として深刻な男女格差が存在します。
特に男女平等に関して、大きな課題が残っている分野が「政治」です。政治参加の指数で、日本は世界最低10位に入っています。日本では、女性の首相は誕生しておらず、女性議員の割合も10%と世界最低水準です。内閣官僚の女性の数も低下しています。
その要因の一つが、日本社会の根底にある「女は家庭で、男は仕事。特に政治の世界は男のもの」という意識が根強く残っていることです。また、土日も選挙区での活動があり子育て中の女性議員には限界があることや、女性には資金面や家族の反対などの壁が立ちはだかることも障害となっています。
子育て支援や介護といった問題は全て政治につながっているため、そのルールを決めている国会や地方議会には女性の視点が必要です。女性の声を政治に反映させるためにも、立候補を目指す女性のために立候補へのハードルを下げる取り組みが不可欠ではないでしょうか。
h4SDGs13「気候変動に具体的な対策を」
日本は目標13「気候変動に具体的な対策を」に関しても「大きな課題が残っている」という評価を受けました。2050年までに「カーボンニュートラル」を目指す日本。なぜ具体的な気候変動対策が進んでいないのでしょうか。
まず、エネルギー利用における大きな化石燃料依存度が問題視されています。多くの原発の稼働が止まった東日本大震災以降、日本の化石燃料依存度は高まっており、2018年度は85.5%でした。海外から輸入される石油・石炭・天然ガス(LNG)などに大きく頼っているのです。
化石燃料に頼り続ける理由は、3.11の原発事故後、国内の原子力発電所を稼働できなくなったことや、安価な化石燃料を使用してエネルギー価格を抑える狙いがあるからです。
気候変動対策の一環として政府も再生可能エネルギーの普及や火力発電の高効率化などへ積極的に取り組んでいますが、不十分であるという批判の声が高まっています。政府や企業が、再生可能エネルギーを軸としたエネルギー自給率の向上に積極的に取り組むことが求められています。
h4SDGs15「陸の豊かさも守ろう」
SDGs15「陸の豊かさも守ろう」に関しても「大きな課題が残る」という低評価を受けました。日本では国土の66%を森林が占めていますが、森林が放置されていることが問題視されているのです。
この原因の一つは林業の衰退です。国内の木材価格が安く、林業従事者が減っていることや、海外からの格安木材の増加が林業の衰退に大きく関係しています。
森林には土砂災害や土砂の流出を防止したり、土壌を保全する機能があります。この機能を発揮させるためには、森林が健全に保たれるように管理する必要があります。特にスギやヒノキなどの人工林は適切に管理しないと荒廃や病気の蔓延、倒木の原因となります。
このため、林業の活性化が日本の大きな課題の一つに位置付けられているのです。
日本の達成度を向上するためにできること
日本の課題を掘り下げる中で、ジェンダー平等の実現、気候変動対策、生物多様性の保護の観点における課題が特に山積していることが分かりました。それでは日本の達成度を上げるためにできることは何でしょうか。企業や個人単位でできることを見ていきましょう。
企業にできること
日本が直面する大きな課題の一つが気候変動対策です。温室効果ガスを減らすために、企業は工場やオフィス、輸送時において、節電や省エネ、再生可能エネルギーの活用を進めることが求められています。
現在は、大企業を中心に省エネのシフトや再生可能エネルギーの利用が進んでいますが、今後は中小企業も含む全国でエネルギー利用を見直していく必要があります。
政府による気候変動対策の強化は、企業のコストが膨らむリスクがある一方、ESG投資の呼び込みやクレジット取引ビジネスという機会も生み出します。政府方針を自社の成長につなげてみてはいかがでしょうか。
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私たちにできること
国内の森林保護は、私たちが取り組むべき重要な課題の一つです。木材価格は、輸入材の影響を大きく受けているため、林業の活性化や、土壌と森林の保全が不可欠です。そこで私たちにできることは、スギやヒノキ、カラマツなどの日本の木から作られた製品を積極的に選択、購入、利用することです。
住宅を建てる際に、国産の木材で建てることで大きく貢献します。森林を整備するための資金が山に還元されるからです。また、収穫期を迎えた森林を伐採し、木材として利用したり、伐採地に苗を植えたりすると、若い木がCO2を吸収して地球温暖化の防止につながります。
引用:山地被害と林業の衰退
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日本のSDGsへの取り組み3選
ここまで企業や個人単位での取り組みを見てきました。個人単位での取り組みは、一定の効果は見られるものの、なかなか大規模な対策が難しい現状です。
そこで、日本のSDGs課題について多角的なアプローチを始めたのが政府です。企業への働きかけや新しい制度作りによって、社会を根本から変えていく姿勢が見られます。具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。
森林整備事業
まず、森林の機能維持や林業の成長を目的に、林野庁は森林整備に対する支援をしています。国土の保全や水源の涵養、地球温暖化の防止、木材など森林のさまざまな機能を守るための取り組みです。
具体的には、植付け、下刈り、間伐などの作業に対して補助金の交付をしています。
また、条件不利地(中山間地域)や気象害などの被害森林に対しては、重要インフラ施設周辺の森林の整備や、被害森林の復旧などを支援しています。
一方で、手入れが進んでいる人工林に対しては森林経営計画の作成や鳥獣害防止対策への支援を通して、事業の低コスト化や適切な森林整備を進めています。
引用:森林整備事業:林野庁
関連記事:《SDGs基礎》目標15「陸の豊かさも守ろう」を徹底解説
イクメンプロジェクト
厚生労働省主導の「イクメンプロジェクト」は、働く男性の育児へのより積極的な参加や、育児休業取得に関する社会の機運を高めることを目的としたプロジェクトです。「イクメンとは、子育てを楽しみ、自分自身も成長する男のこと」をコンセプトに、男性の育児休業取得や仕事と育児の両立を後押ししています。
2020年度の男性の育児休業取得率は12.65%に止まっていますが、育児休業の取得希望がありながら取得できなかった男性社員の割合は29.95%となっており、希望が十分に叶っていない現状です。また、日本の男性が家事・育児する時間も、先進国の中で最低水準です。これは子どもを持つことや女性の就業継続に対する障害となっています。
2022年10月からは、イクメンプロジェクトの一つの成果である「産後パパ育休(出生時育児休業)」が始まります。これまで以上に男性が育児休業を取りやすくなることが期待されています。
引用:イクメンプロジェクト趣旨
関連記事:《SDGs基礎》目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を徹底解説
FIP制度
2022年から再生可能エネルギー(以下、再エネ)の割合を増やし、主力の電源とするために、FIP制度が始まります。FIP制度とは再エネ発電事業者が発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で売電をした場合に、基準価格(FIP価格)と市場価格の差額をプレミアム額として交付する制度です。
再エネ発電事業者にとっては、プレミアムをもらい、再エネの投資を増やすことで収益を拡大できるというメリットがあります。また、FIP制度は再エネの自立化へのステップとしてさまざまな手当も考慮されているため、新たなビジネスの創出や再エネ導入が進むことも期待されています。
今後は、蓄電池の積極的な活用や発電予測精度の向上などの取り組みが進み、再エネが電力市場に統合されていくと考えられます。
引用:再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート
関連記事:《SDGS基礎》目標13「気候変動に具体的な対策を」を徹底解説
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まとめ
今回は日本のSDGs達成度や課題について詳しく学んできました。
先進国といえども、ジェンダー平等や気候変動対策、海・陸における生態系や資源の保護といった課題は山積みです。
「目標達成に近づいている」と評価されるSDGs目標についても、新型コロナウイルスの影響で貧困や福祉の面で新たな課題が生じています。
国の取り組みも行われていますが、まだまだ浸透していない現状です。私たち一人ひとりがSDGsの課題に対して当事者意識を持ち、草の根レベルでの行動を積み重ねていきましょう。