SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」を達成するために、私たちができることはどのような取り組みがあるでしょうか。
私たち人間は陸地に住んでいますが、地球の面積の約7割を占めるのは海であり、私たちは海から多くの恵みを受けています。
しかし、近年の私たちの生活により生命の源である海が汚染され続け、その豊かさが失われています。海洋ゴミや水産資源の減少など、海ではさまざまな問題に陥っています。
そこでこの記事ではSDGs14「海の豊かさを守ろう」の目標達成のために私たちができる具体例をSDGs14の概要や世界や日本の取り組みとともに紹介します。
見出し
目標14「海の豊かさを守ろう」とは
目標14「海の豊かさを守ろう」の内容
目標14では、海洋・沿岸生態系の保全と持続可能な利用を推進しています。海洋汚染を予防し、海洋資源の持続可能な利用によって小島嶼開発途上国(太平洋・西インド諸島・インド洋などにある、領土が狭く、低地の島国)と後発開発途上国の経済利益を増大させようとするものです。
私たちにとって海は欠かせないものです。魚などの食糧源や石油などのエネルギー源となっているだけでなく、大きな酸素源でもあります。
しかし、現代において海は汚染され続け、海洋生物の多様性も減少しています。海の豊かさが失われれば、私たちの持続可能な社会も実現しません。
目標14「海の豊かさを守ろう」のターゲット
目標14「海の豊かさを守ろう」は、「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」というテーマのもと、10個のターゲットから構成されています。
14.1 | 2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減す る。 |
14.2 | 2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的 な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。 |
14.3 | あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し対処する。 |
14.4 | 水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復さ せるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了 し、科学的な管理計画を実施する。 |
14.5 | 2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセント を保全する。 |
14.6 | 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不 可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・ 無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する**。**現在進行中の世界貿易機関(WTO)交渉およびWTOドーハ開発アジェンダ、ならびに香港閣僚宣言のマンデートを考慮。 |
14.7 | 2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持 続的な利用による経済的便益を増大させる。 |
14.a | 海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に小島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上 のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研 究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う。 |
14.b | 小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。 |
14.c | 「我々の求める未来」のパラ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用のための法的枠組 みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保 全及び持続可能な利用を強化する。 |
参照:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/sdgs_target.html#goal_14
▼SDGs14について詳しくはこちら
目標14「海の豊かさを守ろう」5つの課題
海洋汚染とゴミの不法投棄
海洋汚染の原因は主に人間活動によるゴミや排水です。街から流れたものが海洋ゴミの8割を占めるとも言われています。
船やタンカーなどから漏れた油も海を汚します。過去の戦争も海を汚してきました。
湾岸戦争中の1991年1月、クウェート沖の原油積み出し施設から原油が流出し、約4万5千リットルの原油が海に流出しました。
海洋汚染はただ海が汚れるだけにとどまりません。
海洋生物のすみかがなくなったり、海洋汚染の影響を受けた海産物が人間の身体に入るなど、その影響はさまざまです。
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世界では毎年800万トンものプラスチックが海に流れている
世界では毎年800万トン以上のプラスチックゴミが海に流れ込んでいます。
800万トンを東京ドームで例えると約7杯分です。国連によると2050年にはプラスチックゴミの量が魚の量より多くなると予測されています。
一見、綺麗な海にもプラスチックゴミは存在します。
プラスチックは紫外線や海流などにより肉眼では見えないくらいまでに小さくなり、「マイクロプラスチック」と呼ばれる細かい破片になります。
このマイクロプラスチックはプランクトンや魚に食べられ体内に蓄積されます。その魚を鳥が食べます。マイクロプラスチックは私たちの体内で高度に濃縮され、いづれ人間にも被害が出る可能性があります。
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海洋の酸性化
人間活動による二酸化炭素の増加が海を酸性化させます。
海には二酸化炭素を吸収する働きがあり大気の二酸化炭素を減らしますが、一方本来アルカリ性である海水が中性に近づき「海洋酸性化」が起きます。
2013年のIPCCによると海面のpHは産業革命前と比べて約0.1低下していると報告されています。
海洋酸性化が進むと海から貝がいなくなるとも言われています。
海の酸性化は、貝類の主成分である炭酸カルシウム濃度の低下を引き起こすからです。炭酸カルシウム濃度の低下は貝類だけでなく、他の海洋生物の成長にも影響を及ぼします。
水産資源の減少
近畿大学の有路昌彦教授は「多くの魚種はあと5年ぐらいで枯渇する」と指摘しています。
1994年から水産資源は減少傾向にあり、その原因は主に地球温暖化と乱獲にあります。
海に住む魚の数は減っていますが、世界の漁獲量はここ数年約9000万前後と横ばい状況が続いています。
国連食糧農業機関(FAO)によると生物学的に持続できない乱獲・枯渇状態にある魚が世界全体の30%。これ以上捕ると資源が減少する魚が全体の60%を占めます。
現在では、カツオ、サンマ、シロザケ、スルメイカなどほとんどの主要魚類が枯渇状態に陥っています。
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サンゴ礁が絶滅の危機に瀕している
サンゴは観光資源としてだけではなく、多くの海の生き物のすみかであり海の生態系維持には欠かせない生物です。サンゴが絶滅すると多くの海の生物も絶滅すると言われています。
サンゴを絶滅の危機に追い込んでいる原因はさまざまです。
原因の1つ目は地球温暖化による海水温の上昇です。
海水温の上昇により、サンゴの白化が起きています。サンゴの白化とはサンゴの白い骨格が透けて見える現象です。白化した状態が続くとサンゴは死に至ります。
原因の2つ目は海洋汚染による地域的環境ストレスです。
富栄養化(窒素、リンなどの栄養塩類が増加すること)はサンゴの成長阻害を引き起こします。
また、驚くことに米国ボストン大学のRandi Rotjanらによると、サンゴはマイクロプラスチックを好んで食べるという研究結果が報告されています。これは私たちがジャンクフードを食べてしまうのと同じようなことかもしれません。好んでマイクロプラスチックを食べてもプラスチックに栄養はなく、栄養失調や消化管閉鎖、さらには病気を引き起こします。
他にもサンゴの絶滅危機には以下のような原因があります。
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海洋環境を放置するとどうなるのか?
海洋環境が汚染されたまま放置すると未来はどうなってしまうのでしょうか。ここまで述べてきたものも含め、例を改めて下に整理してみました。
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持続可能な世界を目指していくうえで、海洋環境は放置できません。
世界の主な取り組み事例・企業にできること3つ
EUの取り組み・使い捨てプラスチック製品禁止法案を策定
EU理事会は2019年5月21日、使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する法案「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関する指令」を採択しました。
そしてこの指令の一部適用開始を前に、2021年5月31日に同指令の解釈や実施に関するガイドラインを発表しました。
法令により一部適用が開始されるのは、次の9種の使い捨てプラスチック製品とオキソ分解性プラスチック製の全製品の市場流通禁止措置です。(オキソ分解性プラスチックとは、太陽光の光や熱による酸化分解促進反応を利用し、自然環境での酸化崩壊と、微生物分解を加えて2段階で分解できるプラスチックの総称。)
なおこのガイドラインには法的拘束力がありません。
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またEU加盟国は以下の2つの目標達成を目指すことで合意しました。
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企業の取り組み・IKEA
スウェーデンの家具大手IKEAは、店舗やレストランで提供されるストローや使い捨てプラスチック製品7種類を全廃する計画を発表しました。
またホームファニッシング(キッチンから寝室、リビングまでの家庭用品全般を指して呼ぶ。「ホームファッション」に「家具」を含めたもの。)製品に使用するプラスチックを2030年までに再生可能な素材かリサイクル素材にするという目標を掲げています。
オーストラリアの取り組み・海洋ごみ回収装置
オーストラリア人のPete CeglinskiさんとAndrew Turtonさんは、海洋汚染を解決するために「seabin」という海のゴミ箱を開発しました。
彼らはヨットマンであり、いくら拾い集めてもきりがない海の浮遊ゴミに悩まされていました。二人は「陸にはごみ箱があるのに、海にごみ箱がないのはなぜ?」と考えており、クラウドファンディングで資金調達に成功しました。
「seabin」は直径約50cmのポンプの付いたポリバケツ状のものでできています。
水中ポンプと連動しフロート部分が上下して水流を作り出し、海に浮遊するごみを吸い寄せて、海水と共にごみを回収します。海水はろ過されて下部から海に戻される仕組みになっています。
既に52の国・地域で導入されており、約1000台が稼働しています。
日本でも、東京オリンピックのセーリング競技会場に「seabin」が数個設置されました。
日本の主な取り組み事例・企業にできること3つ
環境省の取り組み・「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」
環境省は2019年5月に開催された「海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係閣僚会議」において、日本は「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し、具体的な海洋プラスチックごみ対策を取りまとめました。
プラスチックの有効利用を前提としつつ、新たな海洋汚染を防ぐプランです。このプランでは取り組みを8つに分けています。
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NPOの取り組み・ウルシネクスト
NPO法人ウルシネクストは安全・安心・エコな天然素材である「漆」をプラスチックの代替素材として活用できるよう研究・開発をしています。
漆は海洋汚染を引き起こすプラスチックとは違い、海に流れ込んでも紫外線と海水で分解されます。
漆は乾燥するとガラスと同程度まで硬くなります。また樹木から採取でき、精製、塗り、乾燥というどの利用工程においても大量の水や電気をつかうこともなく、有害物質も出しません。
日本の分化である「漆」が海洋汚染の解決策になる可能性があります。
参考:環境問題を解決する脱プラ素材 – 自然素材の活用でSDGsに貢献
企業の取り組み・株式会社コーセー
株式会社コーセーは青く美しい地球を未来につなげるために、2009年から「SAVE the BLUE」プロジェクトをスタートしています。
プロジェクトの寄付金は代表的なスキンケアブランド「雪肌精」の売り上げの一部です。「あなたが美しくなると、地球もうつくしくなる」というキャッチコピーのもとこのプロジェクトは行われています。
「SAVE the BLUE」プロジェクトではサンゴの保全に協力しています。コーセーは2009年から2021年の13年間で19,005本のサンゴ移植費用を寄付しました。
目標14「海の豊かさを守ろう」に対して私たちができること4選
MSC認証やASC認証の商品を購入する
これから紹介する2つの認証制度を理解する上で、まず「サステナブル・シーフード」という言葉の理解が必要になります。
「サステナブル・シーフード」とは、「水産資源や海の健全性が長期にわたって確保される方法をとっている漁業で獲られた水産物」のことです。
それでは2つの認証システムを見ていきましょう。
MSC「海のエコラベル」
MSC(海洋管理協議会)は「海のエコラベル」という認証システムを行っています。MSC「海のエコラベル」は、水産資源と環境に配慮し、適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物の証です。
MSC「海のエコラベル」はMSC漁業認証規格を満たした認証漁業で獲られたサステナブル・シーフードにのみ付けられます。
より多くの個人が買い物の際にこの「海のエコラベル」がついた水産物を購入することで、持続可能でない漁獲慣行が減るスピードは速くなるはずです。
▼MSCのサイトはこちら
MSC(海洋管理協議会)
ASC認証制度
ASC(水産養殖管理協議会)でも認証システムを導入しています。ASC認証制度とは、養殖水産物に関する世界的な基準を設け、それが守られるように管理していくための制度です。
天然の水産資源には限りがありますが、養殖業は非常に効率的に水産資源を供給できます。
養殖業は急激な成長を遂げていますが、利益を追求するあまり水質汚染や環境汚染が起きる場合もあります。その流れの中で生まれたのがASC認証です。
私たち消費者がASC認証マークのついた商品を選ぶことで、持続可能性や環境に配慮した養殖業界を応援できます。
▼ASCのサイトはこちら
ASC(水産養殖管理協議会)
この2つのマークによって認証されているサステナブル・シーフードを見かけたら、積極的に購入してはいかがでしょうか。
エコバッグを使用しプラスチック削減
海洋プラスチックゴミを削減するにはプラスチックの利用を減らすことが必要です。
個人ができる取り組みの第一歩としてエコバッグを取り入れてみてはどうでしょうか。
エコバッグを使用することでプラスチックのレジ袋の消費を減らせます。
日本では2020年の7月1日からレジ袋の有料化が始まりました。
レジ袋だけを削減しただけでは効果がないという意見もありますが、総務省は以下のように発表しています。
「レジ袋は我々の生活の中に深く浸透し、我々の生活の中にある使い捨てプラスチックを象徴するものであると言える。今般のレジ袋有料化の真の目的は、レジ袋を有料化することではなく、そのレジ袋の有料化をきっかけに(レジ袋以外のものも含めて)使い捨てプラスチックに頼った国民のライフスタイル変革を促していくことである。」
日常生活のあらゆる場面で数え切れないほどのプラスチックが消費されています。
ひとりひとりがプラスチックの利用を減らすことは着実に海洋汚染の改善につながります。
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《必見》SDGsとエコバッグの関係性|レジ袋有料化の背景とおすすめのエコバッグ
ビーチクリーンや河原清掃活動に参加
身の回りのゴミを拾うことは海の豊かさを守ることにつながります。
個人で清掃活動をするのも素晴らしいですが、ビーチクリーンや河原清掃活動に参加することもおすすめです。
日本で唯一の海岸美化専門団体である「かながわ海岸美化財団」では横須賀市走水海岸~湯河原町吉浜の間の自然海岸でビーチクリーンのボランティア活動を開催しています。
ゴミ袋の提供とゴミの回収は無償で行っており、初めてでもボランティアに参加しやすい環境が整っています。
▼ボランティアについてはこちら
公益財団法人 かながわ海岸美化財団
ポイ捨てをしない
ポイ捨てにより捨てられたゴミはやがて海洋ゴミとなります。
街へのポイ捨ては海洋ゴミとは関係ないと思う方が多いかもしれません。
しかし、ポイ捨てなどにより街に捨てられたゴミは雨と共に排水溝へと流れ、川をつたい、海へと流れていきます。
さまざまな対策以前にまず自分がポイ捨てをしないよう心がけましょう。
まとめ
ここまでSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」について私たちにできることを世界と日本の取り組みと共に紹介してきました。
海は私たち人類に多くの恵みを与え続けてくれました。しかし、ここ数100年の内に海に多大な負荷をかけてきました。これからも海の恵みは私にとって必要です。
ゴミ拾いやエコバッグの使用など海を救うためのことは簡単に取り組めます。
海洋汚染を防ぎ、改善するために小さな取り組みを初めてみませんか?
SDGs CONNECT ディレクター。ポイ捨ては許さない。ポイ捨てを持ち帰る少年だった。
現在はCO2の約300倍もの温室効果をもつと言われている一酸化二窒素(N2O)を削減できる微生物について研究。将来は環境×ITの第一人者になりたい
▶https://www.instagram.com/reireireijinjin6