ESG経営に取り組んでいる企業について、みなさんはどのくらい知っていますでしょうか。
ESGとは企業が長期的に成長するために必要な3つの要素を表しており、ESG経営とは社会にも社員にも優しい経営のことを指します。そして近年、多くの人からの注目を集めています。
今回はESG経営に取り組むメリットや注意点に加え、企業事例を6個紹介します。
【この記事でわかること】 |
見出し
ESGの意味や現状について紹介
最初に「ESG」の意味や現状について紹介します。
ESGの定義
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。企業が長期的な成長をしていくには、これら3つに配慮した経営を行っていくことが重要だという認識が広がっています。
「環境」「社会」「ガバナンス」それぞれが表しているものについて詳しく紹介します。
環境 私たちの生活は豊かになった一方で、地球温暖化や環境汚染が進んでいます。このような現状を食い止めるために、環境に配慮した経営が求められます。具体的に取り組むべきこととして、次のような問題が挙げられます。
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社会 企業や個人が利益や利便性を追求することによって、不利益を被る人が出てきてしまうことがあります。
これらの問題を解決し、繰り返さないための取り組みが企業に求められています。 |
ガバナンス 不祥事を行い、社会全体に悪影響を及ぼす企業も存在しています。企業がしっかりとした管理体制を整えることで、社会にも会社にも良い影響をもたらします。
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▼参考
ESGとは|簡単解説
ESGとSDGsの関係とは
ESGとSDGsの関係について紹介します。
ESGもSDGsもどちらも国際連合で作られた言葉です。どちらも環境や社会への配慮という点で似ています。しかし、この2つは根本的に大きな目的の違いがあります。
ESGは、企業の長期的な利益が最優先されており、投資家へのアピールポイントにもなります。一方で、SDGsは企業の利益よりも持続可能性が優先されます。
SDGsが掲げる目標を企業の経営戦略に取り入れることで、持続的に企業価値を高められると考えられているのです。
SDGs SDGsとは、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標の事を指しており、2015年に行なわれた国連サミットで採択されました。17個のゴールと169個のターゲットから構成されており、地球上の「誰一人として取り残さない」ことを誓っています。 |
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ESGと企業の社会的責任(CSR)の違い
ESGと企業の社会的責任(CSR)の違いを紹介します。
「企業の社会的責任」を全うするためには、社会問題の解決につながる事業の促進や従業員によるボランティア活動などを行なう必要があります。つまり、利益を社会に還元することが求められています。
一方で、ESGは企業の長期的な利益が優先されており、利益を内部にとどめようという考え方が根底にあります。
つまり、ESGとCSRは、利益を企業内部に留めておくか社会に還元するかという点において違うと言えます。
企業の社会的責任(CSR) CSRは「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」という意味です。国際標準化機構によって「ISO26000」という規定が定められています。 |
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日本のESG投資の認知度
日本におけるESG投資の認知度について紹介します。
フィデリティ投信が2022年に行なった調査によると、ESG投資の認知度は男性が40%、女性が28%でした。
2021年に行なった同じ調査では男性が31%、女性が21%だったため、この1年間で認知度が上昇したことがわかります。
しかし、いまだに過半数を占める人がESG投資を認知していません。
▼参考
ESG投資の認知度向上=実際の行動はリスク・リターン重視-フィデリティ投信
ESG経営を行っている企業の割合
ESG経営を行っている企業の割合について紹介します。
商工中金は2022年に「中小企業のESG(環境・社会・企業統治)取組状況についての調査」を行ないました。この調査は全国の中小企業を対象に行なわれたものです。
調査結果によると、「残業時間削減の進め方と労働時間管理」を行なっていると答えた企業の割合は87.5%でした。一方で、「従業員満足度調査」に取り組んでいる企業は26.8%しかありません。
このことから、従業員に対する取り組みは十分とは言い切れないことがわかります。
しかし、1つも取り組んでいないと回答した企業はわずか2.8%しかおらず、多くの企業でESG経営への注目度が高まっていることがわかります。
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中小企業のESGへの取組状況に関する調査 (2022年7月)
企業がESG経営を取り入れるメリット3選
企業がESG経営に取り組むメリットを3つ紹介します。
投資家からの評価が高まる
1つ目に紹介するメリットは、投資家からの評価が高まるということです。
ESGに取り組むことで、投資家からESG経営に積極的に取り組む企業であると判断されます。投資家は、投資する企業の将来的な企業価値を確認しているため、長期的な成長を目指すESG経営と相性が良いのです。
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SDGs達成に貢献できる
2つ目に紹介するメリットは、SDGs達成に貢献できるということです。
ESGは企業の長期的な利益が優先されていて、SDGsは企業の利益よりも持続可能性が優先されていると紹介しましたが、この2つは全くの別物というわけではありません。ESGはSDGsを達成するための手段と言えます。
例えば、「企業内の男女差別をなくす」という目標を立て、様々な取り組みを行ったとします。これによって、ESGの「S(社会)」を達成することができますが、同時にSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」も達成することができます。
ステークホルダーとの関係を強化できる
3つ目に紹介するメリットは、ステークホルダーとの関係を強化できるということです。
例えば、環境に優しい商品を扱っていると聞いて顧客はどのようなことを感じるでしょうか?
先進的な取り組みをしている
自分もこの商品を購入することで問題解決に役立てる
このように「プラス」に考える人が多いのではないでしょうか。
カーボンニュートラルが重要視されているなかで、環境に優しい商品を扱っている会社はより良い印象を与えることができます。
ステークホルダー ステークホルダーとは、株主・経営者・従業員・顧客・金融機関・行政機関など、企業の利害にかかわるあらゆる人や団体を表した言葉です。 |
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ESG経営を取り入れる注意点2選
ESG経営に取り組むメリットを3つ紹介しましたが、いくつか注意点もあります。
企業がESG経営を取り入れる注意点を2つ紹介します。
長期的な視点を持つ
1つ目の注意点は、長期的な視点を持つということです。
ESG経営は企業の長期的な利益を優先しているため、結果が出るまでに長い期間を必要とします。
例えば、「製品を製造する工程でカーボンニュートラルを達成する」という目標を立てたとします。この目標を達成するためには、多くの過程を経ることが必要です。
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つまり、目標を立てたからといって、すぐに達成できるわけではないのです。そのため、短期的な利益上昇率などの指標では評価することができません。
カーボンニュートラル カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量をゼロにすることを意味しています。しかし、二酸化炭素を全く出さないわけではなく、人によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスから植物などがCO2を吸収する量を差引ひいて実施的にゼロにする試みを意味しています。 |
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経営費用が増加する
2つ目の注意点は、経営費用が増加するということです。
例えば、先ほど紹介した「製品を製造する工程でカーボンニュートラルを達成する」という目標を立てた場合、「カーボンゼロのための工場を建設する」ことが必要になると仮定します。
その場合、工場を建設するための資金が必要になり、経営費用が増加してしまうのです。
ただやみくもにESGの達成を目指すのではなく、自社のお金の流れを意識した上でESG経営を取り入れることが求められます。
ESG経営に取り組む日本企業3選
ESG経営に取り組む日本企業を3つ紹介します。
キヤノンの取り組み
1つ目に紹介する企業はキヤノンです。
キヤノンは「豊かな生活と地球環境が両立する社会」の実現を目指し、製品ライフサイクル全体で資源を最大限活用することを目指しています。
「環境」「社会」「ガバナンス」について取り組んでいることを3つに分けて紹介します。
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社会 キヤノングループは事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権を尊重しています。例えば2021年に、キヤノンは人権を守るために5つのことに取り組みました。
これら5つの取り組みは、イギリスのサステナビリティコンサルタント会社の「Sancroft International社」との話し合いを経て決定されました。 また、キヤノンは労働状況の改善にも積極的に取り組んでいます。過重労働のリスクが高い海外の生産拠点において、従業員の労働時間を正しく把握・管理する仕組みを構築しました。 この取り組みの結果は、キヤノンの人事部門に毎年報告されます。 |
ガバナンス キヤノングループがガバナンスで取り組んでいることは主に3つあります。 コーポレート・ガバナンス 取締役会や監査役会だけでなく、「経営戦略会議」「リスクマネジメント委員会」「開示情報委員会」を設置してクリアな経営を心がけています。 リスクマネジメント リスクマネジメント委員会は「財務リスク分科会」「コンプライアンス分科会」「事業リスク分科会」の3つの分科会を設置し、キヤノンの経営の中で発生するリスクを減らすために尽力しています。 知的財産マネジメント キヤノンは、研究開発の成果は製品と知的財産であると考えています。そのため、知的財産を守るために、知的財産の取り扱いに関する役割や活動方針などを明らかにし、グローバルマネジメントルールを策定しました。 |
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トヨタ自動車株式会社の取り組み
2つ目に紹介する企業はトヨタ自動車株式会社です。
トヨタ自動車株式会社は、全ての事業活動を通じて環境負荷を減らし、社会や地球の持続可能な発展に貢献することを大きな目標にしています。「環境」「社会」「ガバナンス」の3つの中で、特に「環境」への取り組みに力を入れていることが特徴的です。
トヨタ地球環境憲章
1つ目に紹介する取り組みは「トヨタ地球環境憲章」の制定です。この憲章は1992年に策定され、今も環境への取り組みを推進しています。
豊かな21世紀社会に貢献するために、「生産」「使用」「廃棄」の全ての段階でゼロエミッションを達成することを目標にしています。具体的な取り組みとして以下のものが挙げられます。
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トヨタ環境チャレンジ2050
2つ目に紹介する取り組みは「トヨタ環境チャレンジ2050」の制定です。
「トヨタ環境チャレンジ2050」は、気候変動や資源の枯渇、生物多様性の損失といった問題に対し、自動車のマイナス要因を取り除いて社会にとってプラスをもたらすことを目指しています。主に6つの取り組みを行っています。
自動車のマイナス要素を取り除く活動として、「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」「新車CO2ゼロチャレンジ」「工場CO2ゼロチャレンジ」を行っています。二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにすることを目指しています。
また、社会にとってプラスをもたらすための活動として、「循環型社会・システム構築チャレンジ」「人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ」「水環境インパクト最小化チャレンジ」を行っています。これらの取り組みは「持続可能」をキーワードにした活動です。
▼参考
方針 | ESG(環境・社会・ガバナンス)に基づく取り組み
雪ヶ谷化学工業株式会社の取り組み
3つ目に紹介する企業は雪ヶ谷化学工業株式会社です。
雪ヶ谷化学工業株式会社は、合成ゴムの化粧品用スポンジを製造している中小企業です。「雪ヶ谷サステイナブルチャレンジ2030」という目標を掲げており、持続可能な社会を実現するために多くのことに取り組んでいます。
例えば、製品を製造する際に再生可能原料を50%以上使用するようにしています。
さらに、ESGのS(社会)を達成するために主に2つのことに取り組んでいます。
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フェアトレード フェアトレードとは、発展途上国の原料や製品を適正な価格で購入することにより、その地域の生産者や労働者の生活改善を目指す貿易の仕組みを表しています。また、原料の生産から製品が完成するまで国際フェアトレード基準が守られている商品には、「国際フェアトレード認証ラベル」が付与されます。 |
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フェアトレードとSDGsの関係とは?-企業や個人の取り組みも解説
▼参考
SDGs|雪ヶ谷化学工業株式会社
ESG経営に取り組む海外企業3選
海外にもESG経営に取り組んでいる企業は多く存在しています。
今回は、ESG経営に取り組む海外企業を3つ紹介します。
Appleの取り組み
1つ目に紹介する企業はAppleです。
AppleはESG経営に取り組んでおり、「環境」「社会」「ガバナンス」について多くのことに取り組んでいます。
例えば、Appleが提供しているiPhoneシリーズのスピーカーには、iPhone 6 から再生プラスチックを使用しています。また、ハードウェア設計の重要な要素である金は高価なものであり、再利用が求められています。そのため、iPhone13にはリサイクルした金を使用しています。
また、世界中のAppleの支社で女性のリーダーはおよそ47%を占めています。また、黒人の社員が13%、ヒスパニック系の社員が12%を占めており、性別や人種に関わらず誰もが活躍できる環境を提供しています。
▼関連記事
ESGランキングからみる企業の取り組み6選
▼参考
Environmental Social Governance – Apple
Patagoniaの取り組み
2つ目に紹介する企業はPatagoniaです。
Patagoniaはアメリカの登山用品やサーフィン用品、アウトドア用品や衣料品の製造販売を手掛けるメーカーです。ESG経営の中でも、「環境」と「社会」に関することを重点的に取り組んでいます。
例えば、製品の86%はフェアトレード認証された物から作られています。これは、衣料品の製造に従事する人の多くが長時間労働や低賃金を強いられている現状があり、この状況を解決することが求められているからです。
また、服に使用されているバージンコットンは100%有機栽培されており、原材料の生産においても環境を汚染しないように心がけています。
▼参考
Environmental & Social Footprint
BMW(ビー・エム・ダブリュー株式会社)の取り組み
3つ目に紹介する企業はBMWです。
BMW(ビー・エム・ダブリュー株式会社)は、ドイツに本社を置く、グローバルな自動車メーカーです。ESG経営の中でも、「環境」に関することを重点的に取り組んでいます。
BMWは総合的なサステイナビリティを追求しており、管理・購買・生産・流通の全ての工程で持続可能性を重要視しています。
例えば、排出される二酸化炭素の量を減らすために電気自動車の開発を進めており、2023年までに12種類の完全電気自動車を開発する計画を掲げています。電気自動車が市場に浸透して当たり前の存在になるために、電気自動車のラインナップを増やそうとしています。
まとめ
ESGに取り組んでいる企業の現状について新しく知ったことはありましたでしょうか。
ESGとSDGs、ESGとCSRとそれぞれ似ていますが、自社の長期的な利益を優先するかどうかにおいて違うことを紹介しました。
今回は6つの企業の取り組みを紹介しましたが、他にもESG経営に取り組んでいる企業は多く存在しています。一方で、その取り組みの多くは環境に焦点が当てられており、「社会」や「ガバナンス」に関するより一層の取り組みが求められています。
ESG経営をする企業が増えることで、環境にも私たちにも良いことがあるのです!
大学では国際デザイン経営学科に所属し、解決が困難な問題をあらゆる角度から解決できるようにするため、日々勉学に努めている。