LGBTに対する差別や偏見を是正する動きが進むなか、幅広い主体による対応が求められています。
性的指向や性自認にかかわらず、誰もが自分らしく生き、働ける社会を作るには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
この記事では、国内外の企業や学校、自治体のLGBTに対する取り組み事例について紹介します。
【この記事で分かること】 |
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LGBTとは
LGBTとはセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称です。またLGBTの他に、LGBTQという言葉もあります。
LGBTには具体的に4つの意味があります。
L=レズビアン(女性同性愛者)
G=ゲイ(男性同性愛者) B=バイセクシュアル(両性愛者) T=トランスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人) |
LGBTQという言葉の「Q」は、「クィア」または「クエスチョニング」を意味します。「クィア」は、従来の性的少数者の定義を超える性のあり方を含む広い範囲を表し、「クエスチョニング」は、自分自身の性的アイデンティティについて明確に分類できない人々も含まれ、性的アイデンティティについて疑問を持つ人々を指す用語として用いられます。
▼LGBTQについて詳しくはこちら
LGBTが生活や仕事の中で困っていること・悩み
LGBT当事者が生活や仕事の中で困っていることや悩みは、以下のようなものがあります。
- 同性愛や性自認に対する偏見や差別
LGBTの人々は、周囲の人々から同性愛や性自認に対する偏見や差別を受けることがあります。これにより、ストレスや不安を感じることがあり、自分自身を隠したり、偽りの自分を演じたりすることが少なくありません。
- セクシュアル・マイノリティであることを隠す必要性
LGBTの人々は、職場や社会で自分がセクシュアル・マイノリティであることを隠さざるを得ない状況に置かれることがあります。これによって、プライバシーや自由、そして自分自身を表現する自由が制限されることがあります。
- 同性パートナーとの関係を認められない
LGBTの人々は、同性愛婚や同性パートナーシップを法的に認められない国や地域に住んでいる場合、家族として認められず、様々な権利を得ることができないことがあるのです。そのため、財産分与や相続、医療上の決定など、様々な問題が生じる可能性があります。
- トランスジェンダーに対する理解不足
トランスジェンダーの人々は、自分の生まれつきの性別と自分自身の性別の不一致を経験することが少なくありません。このことで周囲から理解されずに苦しむことが多々あるのです。
関連記事:LGBTの人が抱えている悩みとは?-お悩み例や相談先も網羅
LGBTに対する日本企業の取り組み事例3選|LGBTフレンドリー企業の取り組み
ここまでLGBTが生活や仕事の中で困っていることや悩みについて解説していきました。
続いて、LGBTに対する日本企業の取り組みについて3つ紹介していきます。
関連記事:企業のLGBT取り組み事例3選-双方のメリットやLGBTフレンドリー企業も紹介
関連記事:企業によるLGBT支援の取り組み7選-日本と海外の企業事例も紹介
トヨタ自動車株式会社|LGBTフレンドリーな取り組みを実施
トヨタ自動車株式会社は、LGBTフレンドリーな企業として知られています。続いて、トヨタ自動車株式会社が実施しているLGBTフレンドリーな取り組みの例を複数紹介します。
- 福利厚生の充実
LGBTの社員やその家族に対する福利厚生を整備しています。例えば、同性パートナーが扶養する場合の手当の支給、LGBTカップルの婚姻に対する祝い金の支給などがあります。
- 社内理解促進
社員向けにLGBTに関する啓発活動を実施しています。具体的には、LGBTに関する基礎知識や差別のない職場作りについて学ぶことができるトレーニングを提供しています。また、社員にはLGBTに対する理解を深めるための書籍も配っています。
- 相談窓口の設置
LGBTに関する問題を相談できる窓口を設置しています。社員は、性的少数者に関する問題について、匿名で相談することができます。これらの取り組みによって、トヨタ自動車株式会社は、LGBTの社員やその家族に対する支援を提供し、多様性を尊重する企業文化を実現しています。
三菱電機株式会社|LGBTへ理解を深めるための取り組みを実施
三菱電機株式会社は、LGBTに対する理解を深めるための取り組みを進めています。具体的な取り組みとしては、以下のものが挙げられます。
- 研修の実施
社員向けにLGBTに関する研修を実施しており、LGBTに対する理解を深めるとともに、職場での差別やハラスメントの防止に取り組んでいます。
- 社外相談窓口の設置
外部専門機関による「社外相談窓口」を設置しています。また、社内イントラネットやポスター掲示などで広く周知を行い、LGBT当事者や職場の管理者等からの各種問い合わせへの対応を行っています。
- 同性パートナーの福利厚生の充実
同性パートナーを抱える社員の福利厚生の充実に取り組んでいます。具体的には、同性パートナーに対して家族手当を支給したり、健康保険の適用範囲を拡大したりしています。
引用:三菱電機株式会社
ブリヂストン株式会社|LGBTフレンドリー企業宣言への署名
ブリヂストン株式会社はLGBTフレンドリーな企業として、以下の取り組みを行っています。
- 国内最大級のLGBTQ祭典への出展を通じた社内の取り組みの理解促進
Allyコミュニティメンバーが中心となって、国内最大級のLGBTQの祭典「東京レインボープライド2022」へ参加し、LGBTQに関する当社の様々な取り組みをパネル展示で広く紹介しました。
- 「LGBTフレンドリー企業宣言」の署名
2019年には、「LGBTフレンドリー企業宣言」に署名し、LGBT当事者の人権を尊重し、差別や偏見のない職場環境を実現することを公約しています。
- 福利厚生の充実
2021年に、すべての社員が等しく働ける環境を整えるため、同性パートナーも異性との婚姻の場合と等しく、育児休職や介護休職等の制度を利用できるよう一部の社内規程を改訂しました。同年9月には、育児・介護ガイドブックを改訂し、性別のある言葉(例:パパ、ママ)を削除しました。
引用:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の尊重
引用:LGBTQに関する取り組みを評価する「PRIDE指標」で5年連続最高評価の「ゴールド」を受賞
LGBTに対する世界の企業のLGBTの取り組み事例3選
ここまで、LGBTに対する日本企業の取り組みについて3つ紹介していきました。
続いて、LGBTに対する世界の企業のLGBTの取り組みを3つ紹介していきます。
Apple|同性パートナーシップ制度の導入
LGBTフレンドリーな企業として知られており、以下のような取り組みを行っています。
- 同性パートナーシップ制度の導入
同性パートナーの医療費や出産手当、パートナーの休暇などを福利厚生として提供しています。さらに、2013年には同性パートナーシップ制度を導入し、パートナーを健康保険の被扶養者として登録できるようにしました。
- プライドパレードへの参加
毎年6月に開催される世界中の都市で行われるLGBTQのプライドパレードに参加しています。2018年には、CEOのティム・クックがサンフランシスコのプライドパレードに参加し、LGBTQコミュニティへの支援を表明しました。
- 同性婚を支援
同性婚を支援する活動にも積極的に取り組んでいます。2015年には、同性婚が合法化されたアメリカ国内で、LGBTQコミュニティを祝福するための広告キャンペーンを展開しました。
- LGBTQコミュニティへの寄付
LGBTQコミュニティへの寄付も積極的に行っています。2012年には、同性婚の合法化を支援するために、1 millionドルの寄付を行いました。
IKEA|インクルーシブな環境
IKEAはLGBTに対してオープンでインクルーシブな環境を提供することに取り組んでいます。IKEAのLGBTフレンドリーの取り組みを紹介します。
- Inclusive & Affirming Culture
全ての従業員が安全で居心地の良い環境で働けるように、LGBTの人々を含む全ての人々を尊重し、支援する文化を作ることに取り組んでいます。また、差別を受けた場合には、適切な対応を行うようにしています。
- Diversity & Inclusion Training
全ての従業員に向けてダイバーシティとインクルージョンに関するトレーニングを行っています。これにより、LGBTを含む全ての従業員が安心して働ける環境が整備されることを目指しています。
- Gender-Neutral Restrooms
全ての店舗でジェンダーニュートラルのトイレを設置しています。これにより、LGBTの人々が性別に関する不快感を感じることなく利用できるようにしています。
- Advertising & Marketing
LGBTに対する広告やマーケティングを行っています。この取り組みにより、LGBTの人々がIKEAをより安心して利用できるようにしています。
Microsoft|多様性、包含性、尊重を重視した取り組み
MicrosoftはLGBTフレンドリーな企業の1つとして知られています。同社はLGBTの社員、パートナー、およびコミュニティに対して、多様性、包含性、尊重を重視した取り組みを行っています。
- パートナーの福利厚生
LGBTの社員と同様に、同性のパートナーにも健康保険やその他の福利厚生制度が適用されるようになっています。
- 社員のトレーニング
すべてのMicrosoft社員に、LGBTに関するトレーニングを提供しています。これにより、LGBTの社員や同盟者がより理解され、尊重されるようになりました。
- イベントのサポート
LGBTのイベントをサポートすることで、LGBTのコミュニティとの協力を継続的に行っています。例えば、LGBTの祭典であるシアトルプライドフェスティバルに毎年参加しています。
引用:日本マイクロソフト、「ビジネスによる LGBT 平等サポート宣言」に賛同
LGBTに対する日本の学校の取り組み事例3選
続いて、LGBTに対する日本の学校の取り組みを3つ紹介していきます。
関連記事:LGBT教育に必要な取り組み5選-現在の問題点と海外の取り組みも紹介
関西学院大学|LGBTの学生や職員が安心して学べる環境を整える
関西学院大学は、LGBTに対する学校の取り組みを積極的に進めており、LGBTに対する理解を深めるとともに、LGBTの学生や職員が安心して学べる環境を整えています。その事例を紹介します。
- キャンパス内の啓蒙活動
キャンパス内での啓蒙活動も行われています。例えば、学生団体が自主的にLGBTに関するポスターを制作し、キャンパス内に掲示しています。
- カウンセリングサービスの提供
性的マイノリティに対するカウンセリングサービスを提供しています。学生は、カウンセラーにLGBTに関する相談をすることができます。
- プライバシーの保護
LGBTの学生や職員のプライバシーを守るための取り組みも進められています。例えば、名簿や出席表などの個人情報は、性的指向や性自認に関する項目を含まないように工夫されています。
中央大学|「中央大学ダイバーシティ宣言」を発表
中央大学では、LGBTに対して以下のような取り組みを行っています。
- 「中央大学ダイバーシティ宣言」の発表
2017年10月に「多様な背景をもつ人びとが、ともに学び、ともに働くことのできる環境」をつくるために「中央大学ダイバーシティ宣言」を発表し、SOGIに関しても重要なダイバーシティの要素として差別の予防に取り組み、セクシュアルマイノリティを含むすべての人が学びやすく働きやすい大学にするため、正しい知識と理解を持ち、実践することを目指しています。
- SOGIへの配慮
・性別によって、異なる役割を割り当てたり、性別で服装を指定したり、扱いを変えたりしないようにしています。
・呼称について、「さん」「くん」、「Mr.」「Ms.」と分けず、「苗字+さん」(英語の場合は本人に呼んでほしい名前を確認)に統一しています。
・性的指向や性自認について打ち明けられたときや、性に関する相談を受けたときには、先入観で意見を押し付けず丁寧に話を聞き、必要があれば専門家の助言を仰いでいます。ただし、第三者に不用意に情報を開示してしまう(アウティング)ことがないよう細心の注意を払い行われています。
広島大学|学生が安心して学べる環境を整備
広島大学は、LGBT当事者が安心して学べる環境を整備するため、以下のような取り組みを行っています。
- パンフレットの配布
LGBT当事者の学生が抱える悩みや問題について、キャンパス内にパンフレットを配布し、情報提供を行っています。
- 呼称の統一
広島大学では、LGBT当事者の学生の呼称を統一する取り組みが進められており、LGBT当事者の学生が希望する名前で呼ばれるようになっています。
LGBTに対する世界の学校の取り組み事例3選
ここまで、LGBTに対する日本の学校の取り組みを3つ紹介していきました。
続いて、LGBTに対する世界の学校の取り組みを3つ紹介していきます。
関連記事:海外のLGBT教育5選-フィンランド・スウェーデン他、日本との比較も紹介
トロント大学|LGBTコミュニティを支援するプライドマーチ
カナダのトロント大学はLGBTコミュニティを支援するための幅広い取り組みを行っています。以下にトロント大学のLGBT支援に関する取り組みの例をいくつか紹介します。
- University of Toronto Pride March
毎年6月に、トロント大学のLGBTコミュニティーの支援を目的としたプライドマーチを行っています。このマーチは、トロント市内のLGBTプライドパレードとは別に、トロント大学のキャンパス内で開催しています。
- University of Toronto Rainbow Self-Identification Project
LGBT当事者の学生や教職員が自己申告することで、大学がより正確なLGBT人口の統計情報を収集できるようにすることを目的としています。このプロジェクトにより、LGBT当事者の学生や教職員のニーズをより正確に把握することができ、大学がより適切な支援を提供しています
- University of Toronto GATE Program
トランスジェンダー学生が大学での学習や生活をよりスムーズに進められるように支援することを目的としています。プログラムには、トランスジェンダー学生のためのメンター制度や、トランスジェンダー学生向けのキャンパス内トイレの整備などが含まれています。
ブライトン大学|多様性と包括性に関する教育を実施
イギリスのブライトン大学は、LGBTの学生をサポートするための多くの取り組みを行っています。
- ポリシーと規制の確立
LGBT当事者の学生の差別やハラスメントを防止するために、明確なポリシーと規制を設けています。この規制で、学生やスタッフに対する性的指向や性自認に基づくハラスメントや差別を禁止しています。
- サポートサービスの提供
LGBT当事者の学生が安心して学べるように、相談や支援のサービスを提供しています。LGBT当事者の学生のためのサポート担当者がいて、個人的な問題や不安を話すことができます。また、心理カウンセリングサービスもあります。
- 多様性と包括性に関する教育
多様性と包括性に関する教育を行い、学生やスタッフにLGBTの人々に対する理解を深めるよう促しています。このために、多くの講座やワークショップが開催しています。
コーネル大学|LGBTコミュニティに対して複数の取り組みを実施
アメリカのコーネル大学はLGBTコミュニティに対する取り組みが評価されています。
- 学生団体のサポート
LGBT当事者の学生のための学生団体である“Cornell Gay Straight Alliance”を支援しています。この団体は、LGBT当事者の学生のコミュニティを構築し、サポートを提供することを目的としています。
- ホスピタリティ
LGBT当事者の学生が受け入れられ、安心して学べるようにサポートしています。例えば、すべての学生が自分の性自認に従って部屋割りをすることができます。
- 教育
LGBT当事者の学生に関する教育を提供することで、理解を深めるよう取り組んでいます。LGBT当事者の学生に関するトピックスをカバーする講義、ワークショップ、およびトレーニングを提供しています。
- 支援プログラム
LGBT当事者の学生がカウンセリングを受けられるよう支援しています。また、学生は、学生同士のグループや専門家のサポートを求めることもできます。
LGBTに対する自治体の取り組み事例3選
最後にLGBTに対する自治体の取り組み事例を3つ紹介します。
関連記事:自治体のLGBTへの取り組み5選-日本のLGBTの現状や企業・学校の例も紹介
渋谷区|同性パートナーシップ証明制度
渋谷区は、同性カップルに対して、法的な婚姻が認められていない現状において、パートナーシップを証明する「パートナーシップ証明書」を発行しています。この証明書は、民間企業などでも受け入れが進んでおり、LGBTの人たちの社会的な認知度向上につながっています。
埼玉県|埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例
2022年7月7日、埼玉県議会は「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」を賛成多数で可決し、成立させました。
この条例には、LGBT差別の禁止、アウティングの禁止、カミングアウトの自由などが明記され、県に対してはLGBT施策の実施を求めるとともに、事業者には「性の多様性に配慮した取組み」や県の施策への協力を促す内容が含まれています。
引用:埼玉県で性的マイノリティに関する包括的な施策を盛り込んだ条例が可決・成立しました
沖縄県|LGBTQ差別禁止へ
沖縄県が制定を進めている人権条例案において、性的指向・性自認を理由にした差別的な取扱いが禁止される見通しとなりました。
琉球大学法科大学院の学生から提出された署名1万3927筆が、沖縄県に対して「沖縄県は差別禁止条例でLGBTQ+だけを軽く扱うのをやめてください」と求めたものであり、この影響が県を動かす結果となりました。
引用:沖縄県の人権条例でLGBTQ差別を禁止へ、1万3927筆の署名が県を動かしました
LGBTに対する日本の政府の取り組み事例|教育・政策分野
日本政府のLGBTに対する取り組みとして以下のようなものがあります。
- 教育現場におけるLGBTに関する取り組み
文部科学省は、2016年に、「性的指向、性自認に関する教育に関する研究会」を設置し、LGBTについての理解を深めるための教育プログラムの策定を進めています。2018年には、「性的マイノリティに対するいじめ防止対策の手引き」が公表され、学校でのLGBTへのいじめ防止に向けた取り組みを推進しています。
- 外交政策におけるLGBTに関する取り組み
日本政府はLGBTに対する差別を撤廃し、人権を保障するために、国際的な取り組みを行っています。例えば、2019年には、国連人権理事会での演説において、LGBTに対する人権保護の重要性を訴え、国際社会に働きかけを行いました。また、日本政府は、開発途上国においてLGBTに対する人権侵害が行われている場合には、支援を行うことを表明しています。
まとめ
国内外の企業や学校、自治体のLGBTに対する取り組み事例について紹介してきました。
LGBTを尊重する企業や学校、自治体が増えることにより、LGBT当事者にとって選択肢が広がり、過ごしやすくなります。これからもLGBT当事者が過ごしやすくなるために、企業や学校、自治体は対応を柔軟に行っていくことが大切です。