ESG金融とは-金融機関にとってのメリットや課題、取り組み事例を解説

#ESG#持続可能#経済成長#金融 2021.12.16

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【更新日:2023年5月30日 by 田所莉沙

ESG金融」とは、E(Environment)・S(Social)・G(Governance)の3要素を考慮に入れて、投資活動を行うことです。ESGに積極的に取り組むことで、世界各国の問題の改善につながるだけではなく、経済の発展にも貢献します。

ではESG金融に取り組む際に直面する課題や、取り組むメリットとは一体何でしょうか。

この記事ではESG金融の概要から、ESG金融を行ううえで直面する課題点、実際に金融機関が取り組んでいる事例などを中心に解説していきます。

【この記事で分かること】

 

ESG金融とは|わかりやすく解説

まずはESGやESG金融について、詳しく説明をしていきます。

ESGとは|環境・社会・ガバナンスの観点から企業を評価する指標

ESG」とはE(Environment)・S(Social)・G(Governance)の3つの単語のうち、頭文字を組み合わせた言葉です。ESGは地球温暖化や気候変動など、世界各国が直面している社会問題の解決に貢献する取り組みとして、近年注目されています。

そもそもESGは、2006年に国際連合によって発足された「責任投資原則(PRI)」がきっかけとなっています。「責任投資原則(PRI)」は投資における項目に、環境・社会・ガバナンスの観点も組み込むよう、投資原則を定めたものです。「責任投資原則」では、効率のよい持続可能な国際金融システムの構築を目指しており、2021年の段階で4,000以上もの機関が賛同しています。

企業がESGに取り組むメリットは、環境問題や労働問題などが改善され、企業が長期的な発展をすることです。これらの取り組みはSDGs目標7や目標8、目標15などの達成にも貢献します。したがってESGに取り組むことは、結果的にSDGsの目標達成となり、持続可能な社会の実現につながります。

ESG金融とは|ESGを踏まえた投資や融資

ESG金融」とは、利益率のような企業の財務情報だけではなく、「非財政情報」も考慮したうえで、企業への投資を行う取り組みです。企業の非財務情報としては、E(Environment)・S(Social)・G(Governance)の3要素が含まれています。

「ESG金融」を行うには、一定額の資金が必要となります。そのため地方では、なかなか取り組みを行うことが難しいかもしれません。しかし地方でも「ESG」に対して考慮することで、ESG投資などの機会が得られます。

一方で資金に余裕があっても、ESGを考慮していなければ、消費者や投資家から評価されなくなります。これにより積極的な投資を受けにくくなり、資金も集めにくくなります。さまざまな社会問題に直面している現代では、「ESG」も必要不可欠な要素です。

ESG金融が注目される理由

近年ESG金融が注目される理由の1つとしては、経済へ与える影響力が挙げられます。

2019年に世界各国で蔓延した新型コロナウイルスにより、さまざまな地域で経済が停滞していきました。地方でも例外ではなく、著しく経済活動が停滞しています。さらに地方では高齢化や地方人口の減少などの問題も抱えています。これらの原因として挙げられるのが、若者による都市部への移住です。とくに地方ではなかなか働き場所が見つからないため、都市部へ移り住む人が多く存在します。

そのほかにも地方では、さまざまな問題を抱えています。「ESG金融」では地方の問題を解決しつつ、持続可能な社会へと変えていきます。ESGの取り組みと地域の復興を同時に進めることで、住み続けられるまちが形成されるだけではなく、脱炭素化など環境に考慮した社会の実現にもつながります。

金融機関がESG金融を実践するうえでのポイント3選

ここまでESG金融が注目され始めた理由について、まとめていきました。

続いてESG金融を実施するうえで、金融機関が気をつけるべきポイントを3つ説明していきます。

企業・事業価値を向上させること

まず金融機関が抑えておくべきポイントは、企業や取り組む事業の価値を向上させることです。とくに地方では、企業が展開する事業の価値が、見出されていないことがあります。ESG金融は、企業が取り組む事業の中で、持続可能な社会の実現に貢献する取り組みを、積極的に支援していきます。

企業がESGに積極的である姿勢が取引先の会社や、消費者に認められることで、企業のイメージ向上につながります。イメージの向上は、企業が行う事業の拡大にもつながり、多くの人から支持を得やすくなります

そのほかにも企業が直面する可能性のあるリスクに備えるような、中・長期的な取り組みを促進させることも、企業の価値向上となります。地方の経済を好循環にするためにも、企業のブランド力向上は必要不可欠です。

持続可能なバリューチェーン構築へ繋げること

バリューチェーン」とは、製品の製造から販売、製品の開発や労務管理などといった活動を、価値の連鎖として捉える考え方です。企業が取り組む事業の中で、製品やサービスにどのような価値が加わっているのかを表します。そのため「バリューチェーン」を可視化することで、各プロセスで加わっている価値を見いだせます。

持続可能な「バリューチェーン」を構築するには、製品をつくるために使用する原材料を持続可能なものにしたり、消費するエネルギーを天然由来のエネルギーに転換したりなどがあります。

これらの取り組みを行い、バリューチェーンを構築することは消費者やほかの企業からの印象を向上させるだけではなく、取引先の会社にもいい影響を与えます。

関連記事:《徹底解説》今、注目を集める再生可能エネルギーとは|SDGsとの関係性も解説

地域の環境・社会・経済へポジティブな影響を与えること

ESG金融は企業の価値を向上させ、バリューチェーンを構築させるだけではありません。その地域の経済をよくしたり、景気のいい社会など、地域へのよい影響を与えることも考慮に入れることが必要です。

ESG金融によって企業の価値が向上したり、バリューチェーンが構築されたりしても、その地域にいい影響が及ばなければ、経済は停滞し、悪循環になっていきます。地域の環境・社会・経済を好循環にするためにも、その地域の課題や固有の資源を見極めることが重要となります。

その地域の経済がよくなることで、税収や雇用が安定していきます。とくに税収が確保されると、地域での施策を実施するための予算となったり、公共サービスの資金となったりと、さまざまなメリットがあります。これにより地方で抱えている高齢化や人口の減少などの改善に貢献します。

ESG地域金融を行う金融機関にとってのメリット

ここまでESG金融が踏まえておくべきポイントについて、まとめていきました。

では地方金融機関にとって、ESG金融に取り組むメリットとは何でしょうか。

金融機関にとっても、ESGに取り組むことは新しいビジネスの創出につながります。近年では、地球温暖化や気候変動など、さまざまな社会問題があります。環境に関する問題だけではなく、都市化による地方の少子高齢化やデジタル格差など、経済・社会的な側面においても問題が多い現状です。

これらの問題を解決せず放置してしまうと、企業が従来の事業を行えなくなったり、エネルギー不足に陥ったりと、さまざまな支障をきたしてしまいます。企業がESGに取り組むことが必要不可欠となった現代において、それぞれの地域や企業の可能性を見出すことが金融機関のメリットです

ESG金融の6つの課題|環境省のアンケートを元に解説

ここまで金融機関がESG金融に取り組むメリットについて、まとめていきました。

つぎにESG金融に取り組むうえで直面する6つの課題点を、説明していきます。

①ESGへの理解を促進すること

まず金融機関が直面する課題として、きちんとESGについて理解をし、理解を促進させることが挙げられます。近年ではESGは世界各国で注目されており、理解度も高まっています。金融機関においても理解度は深まっており、2021年において金融機関のうちの93%がESGの重要度を認識しています。この数値は、2020年と比べても、4%向上しています

ESGは環境・社会・経済に好影響を与えるものであり、持続可能な社会の実現に貢献する取り組みでもあります。ESG金融に取り組む際は、金融機関に携わるすべての人々がESGについて、きちんと理解することが大切です。

②地域資源や課題を特定すること

ESG金融を行ううえで、その地域における固有の資源や直面する課題を見出すことも、課題の一つです。そのためESG金融を行う前に、その地域ではどんな方針で、なにを改善していくのか、しっかり定める必要があります。

2021年に、各地域で地域の資源に関する方針を定めている金融機関は全体の72%でした。またSDGsに関する方針を定めているのは全体の60%と、どちらも半分以上の金融機関が方針を策定しています。

一方で脱炭素化に関する方針は、ほとんどの金融機関が方針を定めていませんでした。多くが情報を収集している段階であり、実際に方針を定めているのは、全体のたった21%の機関しかありませんでした。まずは、持続可能な社会の実現に向けて取り組むべきことを明確にすることが重要です。

関連記事:《徹底解説》今注目の脱炭素社会(カーボンニュートラル)とは?|SDGsとの関係も解説

③自治体とのビジョンや長期目標を共有すること

金融機関が地域の問題解決に向けて方針を定めた後、地域の自治体と方針を共有したり、目標を共有することも大切です。

企業や金融機関だけが対策を行なっても、ESGの取り組みは成果が現れにくいからです。また短期間で成果は出ないため、長期的な目標を立てることも必要です。中期・長期的に政策を行うためには、企業や金融機関単独の政策ではなく、地域の公共サービスなどを提供する自治体などとも連携をとることが、ESG金融を行う鍵となります。

またある特定の地域内で政策を実施するのではなく、隣接する自治区とも協力し合うこともESG金融を実施するためには大切です。協力体制を整えることで、互いの地域に存在する課題の解決や、持続可能な社会の実現にも貢献します。

④ESG要素の評価方法を確立すること

ESG金融を行うためには、方針を定めて政策を実施するだけではなく、実際に取り組んだ政策が果たして効果のあるものなのか評価することも重要です。そのためにはESG要素を評価する基準をきちんと確立する必要があります

たとえばESG要素を評価する方法として、「ESGスコア」というものがあります。「ESGスコア」とは、第三者機関によって企業が、取り組んでいるESGの取り組みを算出したものです。第三者機関は、企業が公開している情報や、企業に対するアンケートを通じて、評価をします。

ESGへの取り組みが数値として評価されることで、企業が実施する取り組みが改善されていきます。これによりESGに関する取り組みがよりよいものとなり、持続可能な社会の実現にも近づきます。

⑤取引先の企業に対する支援を行うこと

ESG金融を行う際は、ある企業に対して支援を行うだけではなく、企業が取引しているほかの会社にも支援を行うことが大切です。ある企業だけではなく、企業と関わりのある会社にも支援を広げることで、地域経済へ良い影響を与えることができます。

多くの企業を支援するためには、その企業がどんな会社と取り引きをしているのか、把握しておく必要があります。また相手先の会社が、どんなバリューチェーンを構築しているか、そしてどんなESGに対する取り組みをしているか、情報を収集します。

ある企業と、取引している会社の現状を理解することで、どんな取り組みに対して支援すべきかが明確になります。その結果、地域の経済が発達するなど、好循環が生まれます。

⑥地域ステークホルダーと連携すること

ESG金融は、企業と企業同士だけで連携を取るのではなく、地域ステークホルダーとの連携も必要不可欠です。「地域ステークホルダー」とは、企業の活動に対して、利害関係をもつグループや個人のことを言います。ステークホルダーには、株主や従業員だけではなく、行政機関やNGO・NPO団体なども該当します。

ESG金融を行う際には、企業と地域ステークホルダーが取り組みを行ううえで目指す目標や、それぞれの意見を共有し合います。お互いに目標の達成を目指して方針を定めることで、その地域が直面している問題の解決にもつながります。

また意見を交換し合うときには、すべての人が自由に意見を言い合える環境が整っている必要があります。そのためESG金融を行う金融機関は、意見交換のための環境づくりも考慮することが必要です。

ESG金融を実践する金融機関の取り組み事例4選

ここまで金融機関が、ESG金融を行う際に直面する課題点を6つまとめていきました。

最後に実際にESG金融に取り組んでいる金融機関を、紹介していきます。

脱炭素社会の実現|北都銀行

北都銀行は、秋田県に本店を置く地方銀行です。脱炭素社会の実現を目指して、再生可能エネルギーを中心とした地方創生を目標としています。秋田県ではとくに風力発電に力を入れており、沿岸部での洋上風力に積極的に取り組んでいます。これらの取り組みは今後も成長すると見込まれており、事業の展開が想定されます。

風力発電が発展し始めている一方で、県や自治体の中で明確なビジョンやロードマップが策定されておらず、地域間で共有されていませんでした。そのため風力発電をさらに発達させるためにロードマップを共有し、自治体や企業間の連携体制を整えています。

これらの取り組みを通じて北都銀行は、エネルギー消費による環境への悪影響を防いだり、洋上風力発電を産業化させたりするなどの結果を目指しています。

持続可能な農業の実現|八十二銀行

八十二銀行は、長野県に本社を置く地方銀行です。八十二銀行では、長野県の中でも重要な産業の一つである農業に力を入れています。持続可能な農業の実現のために課題としたのが、気候変動によるリスクです。

長野県では農業の中でもぶどうの生産や、生産したぶどうからワインを製造する事業が多く存在します。ぶどうの生産において、気温の高い環境は生産に適しているものの、急な気候変動が起こることで生産・製造に悪影響を与える可能性があります。

気候変動だけではなく自然への負担を低減し、持続可能な農業を実現させるために、八十二銀行では、まず企業の活動が自然環境へ与える影響を調べていきます。また農業と密接な関係にある自然を、いかに持続可能な形にできるか模索していきます。

ESG・SDGsの取り組み推進|京都銀行

京都銀行は、京都府に本社を置く地方銀行です。近年では、温室効果ガス排出量の削減を始め、ESGやSDGsなどの問題を解決するための対応が求められています。しかし一部の企業や事業者は、改善に向けた具体的な取り組みが進展していません

京都には先端技術や独自の経営スタイルを持つ上場メーカーがあり、「京都企業」として注目され始めています。しかしESGやSDGsに向けた取り組みを行わなければ、地域の経済や環境への悪影響が懸念されます。

さらに経済や環境へ悪影響を与えないためには、まず中小企業の脱炭素に向けた意識を高める必要があります。また経費削減をきっかけとして、省エネ設備の導入を促進することで、意識の向上に努めていきます。

自動車における新事業創出|広島銀行

広島銀行は、ひろぎんホールディングスが運営する、広島県に本社を置く地方銀行です。広島県は自動車の部品製造産業が主要産業となっています。そのため広島銀行が取引する事業者も、自動車部品の関連会社が多い状況です。自動車関連会社でも、脱炭素化に向けて取り組みが行われています。

しかし多くの企業が脱炭素化に向けてなにに取り組むべきか、具体的な検討ができていませんでした。今後EV化が進む中で、従来から製造していた部品の減少が、リスクにつながる恐れがあります。また銀行側においても新事業創出に向けた支援体制が整っていません

主要産業である部品製造産業が持続可能な形で発展できるよう支援体制を強化しています。また取引している企業が直面している課題の改善に向けて、連携をとっていきます。

まとめ

ESG金融」とは、金融機関が非財務情報も考慮しつつ企業へ投資を行うものです。新型コロナウイルスや、地球温暖化・気候変動などの社会問題により、経済が停滞しつつあります。ESG金融はこれらの問題の解決につながり、経済の発展にも貢献します。

とくに地方においては、企業の技術や製品の価値が見出されておらず、価値が見出されていません。ESG金融は、このように見出されていない企業の技術や製品を評価し、新たなビジネスを創出することにつながります

ESG金融を行うためには、ESGについて理解し、理解を深める必要があります。またESG金融に取り組む際は、金融機関と企業だけで取り組むのではなく地域の自治体とも連携をとるのが重要です。持続可能な社会の実現に向けて、ESG金融の取り組みに積極的に取り組んでいきましょう。

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