畜産からも温室効果ガスは発生する?-発生原因から対策・取組事例も徹底解説

#排泄#気候変動#物流#農業#食品#飢餓 2022.09.01

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温室効果ガス発生の一つに畜産からの排出が挙げられます。特に牛のゲップに含まれるメタンガスの温室効果はCO2のおよそ25倍とも言われています。

脱炭素社会が注目される中、世界では「地球温暖化防止のために牛肉や乳製品を食べることを控える」という運動が広がっています。

そこで今回は、温室効果ガスと畜産の関係性について、原因から解決法や取組事例まで徹底解説します。

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ウシのゲップで温暖化は進むのか!?

温室効果ガスと言えば工業からの排気ガスなどがイメージされやすいかもしれませんが、実は畜産も発生源の1つなのです。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガスの総排出量のうち、畜産業だけで14%を占めると報告されています。

ウシのゲップに含まれるメタンガスは温室効果ガスの1種であり、CO2の約25倍の温室効果を持ちます。

また、畜産からの温室効果ガスの発生はゲップだけではありません。エサの生産や飼育、輸送、排せつ物処理など、畜産業のあらゆる過程で温室効果ガスが発生しています。

畜産から出る温室効果ガスをガソリンに置き換えると!?

農林水産省の食料需給表によると、2018年度の国内での肉の年間消費量は、1人当たり精肉の重さで、牛肉が6kg、豚肉が12kg、鶏肉が13kgでした。

それぞれをどの程度の温室効果ガスの排出につながるかを調べるため、ガソリンの使用量に換算しました。結果は、牛肉は約60L分、豚肉は40L分、鶏肉は20L分となりました。

ただ、この換算には小売店などへの流通の家庭で出る排出量は省いています。よって実際の肉の消費による排出量はさらに多いといえます。

畜産から排出される温室効果ガスとは

ここからは畜産から排出される温室効果ガスの種類とそのおもな原因は以下の通りです。

  • ウシのゲップから排出されるメタン
  • 家畜排せつ物から排出される一酸化二窒素
  • 原料調達から輸送の際に排出されるCO2

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ウシのゲップから排出されるメタン

世界には約15億頭のウシが存在しており、1分に1回ゲップします。吐き出されるメタンの温室効果は強力で、世界で排出される温室効果ガスの4%を占めます。

ウシのゲップにメタンが含まれる理由は、消化管内で微生物による発酵が起きているためです。

消化管内発酵とは、主に牛などの反芻動物は複数の胃を持っており、第一胃のルーメンと呼ばれる場所でメタン発生古細菌が飼料を分解するために嫌気的発酵を行うことです。その際にメタンガスが発生します。

世界の分野別メタン発生源のうち農業が占める割合は30.8%ですが、さらにメタン発生農業分野の内訳をみると消化管内発酵が77.7%を占めています。

メタン排出量全体に対するウシのゲップの割合を換算してみると約23.7%となり、重さにすると年間756万tです。
これは全国のバス、タクシーから出るメタンの総量(658万t)より多いという恐るべき数字です。

家畜排せつ物処理から排出される一酸化二窒素

CO2の約300倍の温室効果をもつ一酸化二窒素の人為的発生源は、主に農業です。なかでも最大の原因は家畜排せつ物管理であり、世界で発生する一酸化二窒素の65%を占めると言われています。

家畜排せつ物の堆肥化の過程で、一酸化二窒素の生成の直接的な原因物質である亜硝酸イオンが長期間・高濃度に蓄積する場合があり、これが一酸化二窒素の発生を増大させている原因であると考えられています。

原料調達や輸送の際に排出されるCO2

輸送トラック

畜産からの温室効果ガス発生は家畜動物によるものだけではありません。お肉が私たちの食卓までに届くまでのさまざまな過程でも温室効果ガスは発生していまするのです。

例えば日本の養豚のエサは、米国などから輸入するトウモロコシや小麦に頼っています。その栽培に使う重機や輸送の船の燃料、化学肥料などからCO2が発生しています。

また、食肉処理などの加工時や小売店での販売までの輸送でもCO2は排出されていまするのです。

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畜産からの温室効果ガスを削減する方法3選

「畜産から排出されるCO2、メタン、一酸化二窒素をどのように削減していくか」その具体的な解決方法を3例紹介します。

世界では畜産からの温室効果ガス削減のためにさまざまな研究が行われているのです。

ゲップからのメタン排出を抑制するエサに変える

紅藻

カゲキノリという赤い海藻を牛の飼料に混ぜることで、牛のゲップによるメタンガスの放出を85%も削減できると報告されています。

カゲキノリは全体の飼料の0.2%の量だけ振り掛ければ良いです。

さらにこの海藻を用いることで飼料の総量が少なくなることも分かっています。ゲップはエネルギーが消費される原因なので、ゲップを抑えることで飼料効率が良くなるのです。

現在、カゲキノリの養殖が進んでおり、商業化も見込まれています。世界では、カゲキノリ以外にも牛のゲップ削減に貢献する飼料の研究・開発が進んでいます。

農研機構はウシのメタン発生量の個体差に注目

農研機構ではウシの個体差に注目しており、同じ量のエサを食べてもメタンが多いウシと、それほど多くないウシがいることが分かってきています。

乳牛は生産性に関わる乳量や乳成分などを月に1度測定し、そのデータを使ってウシの品種改良が進められています。

同じように飼育現場でメタンを測定し、ビックデータになれば、「こういう遺伝子を持ったウシはメタンの発生が少ない」などが分かってきます。

品種改良をし、低メタンウシを生み出すための一歩としてメタン測定機器の開発が進められています。

農研機構は豚ぷん堆肥化技術で一酸化二窒素ガスの発生削減を目指す

農研機構は、豚ぷんを堆肥化する過程で発生する一酸化二窒素ガスを、完熟した堆肥中に存在する微生物(亜硝酸酸化細菌)の働きで大幅に削減する技術を開発しています。

堆肥化中の豚ぷんに完熟堆肥(わらや落ち葉などの有機質資材を完全に発酵させたもの。堆肥生産現場で容易に入手可能。)を加えることで一酸化二窒素ガスの発生原因である亜硝酸イオンを速やかに酸化し、一酸化二窒素の発生を平均で60%(最大で80%)削減することに成功しています。

今後は、実用化のための実規模に近い堆肥化試験や、他の畜種ふん堆肥への適応可能性の検討などを予定しています。

牛肉消費をへらすことは温室効果ガス削減につながるのか?

世界では肉を食べないベジタリアンやヴィーガンが増えています。

ベジタリアンやヴィーガンになる理由には指向の問題や動物愛護の観点、健康上や宗教上の理由などもあります。(ベジタリアンは、定義として卵製品と乳製品を食べるか食べなかは本人の判断にゆだねられているが、ヴィーガンは肉や魚介類の他、卵製品や乳製品、蜂蜜を含めた動物性食品を一切口にしない人のことを指す。)

しかし近年では、環境意識の高まりから「地球のために肉は食べない!」と考える人が増えています。現在、さまざまな意見が飛び交っていますが、その賛成意見と反対意見をまとめました。

賛成意見-肉をたべることは環境負荷が大きい

お肉を使わないハンバーガー

オックスフォード大学の研究によると、ヴィーガン食が世界に広まれば、2050年までに温室効果ガスを3分の2削減することができると報告されています。

オックスフォード大学は、4種類の「食料シナリオモデル」を作成しました。
現在の食料消費に基づくシナリオ
「適正」量の果物と野菜のガイドラインに基づくシナリオ
ベジタリアンのシナリオ
ヴィーガンのシナリオ

「適正」量の果物と野菜のガイドラインに基づくシナリオの場合、2050年までに食料関連の温室効果ガスを29%削減できます。この数字はベジタリアン食では63%、ヴィーガン食では70%となります。

また、ヴィーガン食の効果は温室効果ガス削減だけではありません。

ヴィーガン食が広まれば、2050年までに800万人以上の命が救えると報告されています。これは「家畜に与えているダイズなどの飼料をそのまま人間に与えれば多くの人が救える」という考え方に基づいています。

反対意見-動物性の肉を食べないと栄養不足になる

ハンバーガー

お肉などの動物性食品を摂らないことは健康になるとも言われていますが、一方で動物性食品を摂らないことで栄養不足に陥るという反対意見も存在します。

特に不足しやすいのが、鉄分、ビタミンD、必須アミノ酸です。

鉄分は肉のレバーや魚の赤身に多く含まれます。
そのため、ベジタリアンやヴィーガンを続けることで鉄分が不足する可能性があるのです。

特にヴィーガン実践中の貧血症状を抱えている人は注意が必要です。

ビタミンDも肉や魚に多く含まれています。その他のビタミンについては、野菜中心の生活で十分補えますが、ビタミンDは不足しがちです。

さらには、必須アミノ酸(アミノ酸は20種類あるが、全種が体内で合成されるわけではない。食物から摂取しなければならないアミノ酸を必須アミノ酸という。)が不足する可能性もあります。

特にダイズなどの豆類にはメチオニンが、米や小麦などの穀類にはリジンが不足気味です。

動物性の肉を摂取しないことは温室効果ガスの削減に繋がりますが、中には「環境のために自分が不健康になってよいのか」という反対意見も存在します。

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企業の取組事例3選

ここからは企業の畜産から排出される温室効果ガス削減の取組事例を3つ紹介します。

  • 出光興産株式会社は生産現場におけるメタン削減量の実測に強力
  • 伊藤忠商事とDOWAエコシステムはフィリピン養豚場でメタン回収
  • スウェーデンのスタートアップ企業が海藻でゲップから排出されるメタンを削減

それぞれについて詳しく解説していきます。

出光興産株式会社は生産現場におけるメタン削減量の実測に強力

出光興産株式会社(以下:出光)は、全国肉牛事業協同組合が推進する「肉用牛生産における温室効果ガス削減可視化システム構築事業」において、出光が開発したカシューナッツ殻液混合飼料の提供と、生産現場における温室効果ガス削減の実証評価に協力することを発表しました。

出光は本事業において、ウシのゲップ中メタンを抑える働きのある天然素材「カシューナッツ殻液」を配合した混合飼料を提供し、さらに生産現場でのウシのゲップ中メタン削減量の実測に協力します。

畜産業では生産現場からの温室効果ガス削減も重要ですが、温室効果ガス削減量がどの程度なのかが可視化されておらず、削減量の把握が課題となっています。

そこで出光は、排せつ物の早期好気性発酵促進など、生産現場での先進的な取組事例における温室効果ガス削減の実態を化学的に把握し、かつ理解しやすく可視化する取り組みを実施しました。
同取り組みは、温室効果ガス削減に対する明確な対応方策を肉用牛生産者へ提示する仕組みを構築することを目的としています。

伊藤忠商事とDOWAエコシステムはフィリピン養豚場でメタン回収

伊藤忠商事とDOWAエコシステムは、フィリピンで養豚場のメタンを回収し、温室効果ガスの排出権(CER)を創出するCDM事業(先進国が発展途上国が実施するCO2排出量削減への取組を資金や技術で支援し、達成した排出量削減分を両国で分配できる制度)を共同推進するため、現地事業会社(IDES)を設立すると発表しました。

フィリピンでは、養豚場のふん尿処理地で発酵したメタンが大気に多く放出されていることが問題視されています。

その問題を解決するために同事業では、まずマニラ周辺の養豚場と契約してふん尿池にメタン回収装置を設置し、メタンを効率的に回収・燃焼して大気放出を削減します。

2009年以降、年間15万t程度のCERを創出しています。

さらに、フィリピン国内での契約農家を拡大し、より多くのCER創出につなげるほか、アジアの他国にも事業を展開する予定です。

スウェーデンのスタートアップ企業が海藻でゲップから排出されるメタンを削減

2018年にスウェーデンのストックホルムで創業したスタートアップ「Volta Greentech」は「カゲキノリ」という赤い海藻でウシから排出されるメタンの削減を目指しています。

カゲキノリをウシの飼料に混ぜることで、ウシのゲップによるメタンガスの放出を85%も削減できます。

創業者の一人、Fredrik Åkermanは2016年にオーストラリアのジェームズクック大学が「カギケノリ」と呼ばれる海藻に含まれる「ブロモフォルム」というハロゲン化合物が、メタン細菌の働きを抑える効果があるという研究結果をReddit(ソーシャルブックマークサイト)で発見しました。

さらにFredrik Åkerman氏は、この海藻を牛が食べると牛に害を与えることなくメタンガスを削減させることに繋がることを知り、もう一人の創業者 Leo Wezeliusと共に同技術を活用して地球温暖問題を解決する事業の展開を開始しました。

彼らは、2022年に運用開始予定の工場「Volta Factory 01」で商業用「カギケノリ」の栽培を開始すべく準備を進めています。

工場は毎日12,500頭の牛に給餌できる分の製造能力を持っており、データが蓄積され、分析できるようになれば、将来的には同工場で10万頭の牛に対応できる生産能力に伸ばせると見込んでいます。

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まとめ

私たちの食生活を支えている畜産業からも温室効果ガスは発生しています。

そして世界の温室効果ガスの総排出量のうち畜産業からは14%を占めています。これは決して無視できる数値ではありません。

さらには、畜産業のあらゆる過程から排出される温室効果ガスはCO2だけでなく、メタンや一酸化二窒素が排出されています。

私たちが持続可能な生活を送るためには、畜産業における温室効果ガス削減対策をより真剣に考えていかなければなりません。

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