国内でも、企業によってLGBTの人が働きやすいような取り組みが進みつつあります。LGBTフレンドリーな職場の環境を整備する上で避けて通れないのが「トイレ」の課題です。
LGBTの中でも特にトランスジェンダーの方が、トイレに関する悩みや困り事を多く抱えている現状です。
今回は、LGBT当事者がトイレで感じる悩みや困り事、トイレ問題の解決策、オールジェンダートイレの導入事例などを紹介します。
【この記事で分かること】 |
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LGBTがトイレで感じる悩みや困りごと|約65%の人がトイレ利用でストレスを感じている
LGBTの中でもトランスジェンダー¹の方がトイレに関して悩みを抱える理由の多くは、社会的な偏見や差別によるものです。男性用トイレと女性用トイレが明確に区別されていることが多く、トランスジェンダーの方が自分自身にとって適切なトイレを利用することは、しばしば難しい状況に直面します。
トランスジェンダーの方がトイレに関して直面する問題は、以下のようなものがあります。
- トイレの性別区分によってトイレの利用が制限されることがある
多くの公共の場所や職場、学校などでは、男女用トイレが分かれていることが多く、トランスジェンダーの方がどちらのトイレを利用するかによって、利用を制限されることがあります。
- トイレでの嫌がらせや差別に直面することがある
自分自身にとって適切なトイレを利用することによって、差別や嫌がらせを受けることがあります。トイレでの嫌がらせや差別は、トランスジェンダーの方にとって非常に苦痛な経験であり、心理的な負担になります。
- トイレの利用に関して、周囲の人々から不快感を抱かれることがある
自分自身にとって適切なトイレを利用することによって、周囲の人々から不快感を抱かれることがあります。このような状況は、トランスジェンダーの方にとって非常に居心地が悪く、ストレスや不安を引き起こす可能性があります。
トランスジェンダーの方がトイレを利用する際に生じる問題を解決するために、法的な保護や啓蒙活動が行われています。しかし、これらの取り組みにもかかわらず、トランスジェンダーの方がトイレに関して直面する問題は依然として多く残っている現状です。
¹トランスジェンダー:自分自身のジェンダー(性自認)が生まれつきの生物学的性別と異なる人たちのこと
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LGBTのトイレ問題の解決策|オールジェンダートイレ(男女共用お手洗い)
オールジェンダートイレは、男女問わず誰でも利用可能で、個室や手洗い場があり、性別による利用制限がないトイレです。
トランスジェンダーの人々が直面する問題の一つは、トイレの性別区分があることです。この問題を解決するためには、性別に関係なく利用可能なジェンダーニュートラルなトイレの設置が注目されています。このオールジェンダートイレは男女が共有するため、性別による差別や嫌がらせがなくなる可能性があります。
しかし、一部の人々はオールジェンダートイレを利用することに対して、不快感や懸念を抱くことがあります。例えば、女性が男性と一緒にトイレを利用することに不安を感じたり、トイレ内でのプライバシーが保たれるかどうかといった問題に懸念を抱いています
オールジェンダートイレが採用されるかどうかは、社会的な文化や規制によって異なります。しかし、性別によってトイレの利用を制限することが、トランスジェンダーの方やその他のLGBTQ+の人々にとって問題を引き起こす場合があるため、オールジェンダートイレを含む多様な選択肢が必要であると考えられています。
導入背景|従来の多目的トイレの弊害から
オールジェンダートイレの導入背景には、従来の多目的トイレの弊害が関係しています。多目的トイレとは、車椅子の方や子育て中の親子、介護が必要な方など、様々な人が利用するためのトイレですが、トランスジェンダーの人々が悩みを感じることも少なくありません。
例えば、多目的トイレは、男性・女性・車椅子の方用のトイレがあることが多く、トランスジェンダーの方がどちらのトイレを利用するべきか迷うことがあります。また、多目的トイレは、設置場所が限られていたり、トイレの数が少なかったりするため、トランスジェンダーの人々が必要な場合に適切なトイレを利用することができないことがあります。
このような背景から、オールジェンダートイレが注目されるようになりました。オールジェンダートイレは、男女を問わず、誰でも利用できるトイレであるため、トランスジェンダーの人々が自分自身にとって適切なトイレを利用することができます。
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オールジェンダートイレ(男女共用お手洗い)の利用者
オールジェンダートイレは、様々な背景を持った人々が利用しています。以下は一例です。
- トランスジェンダーの人々
自分自身にとって適切なトイレを利用することができるため、オールジェンダートイレが重要になっています。
- ジェンダーノンコンフォーミング²の人々
自分のジェンダーに合ったトイレを利用することができない場合があるため、オールジェンダートイレを利用しています。
- 家族連れ
男女別のトイレだと、親が異性の子供を連れていく場合に利用するトイレが限られてしまうため、オールジェンダートイレを利用しています。
- ケアが必要な人々
介護が必要な人や身体的に不自由な人など、特定の性別のトイレを利用することが難しい場合があるため、オールジェンダートイレを利用しています。
- 性別に関する差別や暴力の被害者
男女別のトイレで性別による差別や暴力の被害を受けた経験がある人が、オールジェンダートイレを利用することがあります。
²ジェンダーノンコンフォーミング:自身の生物学的な性別や社会的な性別に対して、自己のジェンダー認識がそれらと一致せず、その違和感や不快感を感じる人々のこと
オールジェンダートイレ(男女共用お手洗い)を整備する上での課題
ここまでLGBTのトイレ問題の解決策について紹介していきました。
続いて、オールジェンダートイレを整備する上での課題について紹介していきます。
プライバシーを守ること
オールジェンダートイレの整備において、プライバシーを守ることは非常に重要な課題の一つです。男女が共用するため、プライバシーに関する懸念が生じることがあります。以下に、プライバシーを守るための具体的な取り組みをいくつか紹介します。
- 個室の設置
オールジェンダートイレには、個室を設置することが必要です。個室には、扉や壁、ロック機構などを設けることで、プライバシーを確保することができます。
- 女性専用のスペースの設置
女性がトイレを利用する場合、専用の個室に化粧台や鏡、生理用品の販売機などを備えることで、女性が快適に利用することができます。
- 監視カメラの設置
プライバシーを守るためには、適切な監視カメラを設置しなければなりません。ただし、カメラの設置場所や角度、録画期間などは法令を遵守し、プライバシーの保護に配慮する必要があります。
- 適切な使用マナーの啓蒙
オールジェンダートイレを利用する際には、適切な使用マナーが求められます。例えば、トイレの使用後には必ずフタを閉める、汚れたトイレットペーパーを流さない、個室内でのスマートフォンの使用は控えるなどです。これらのマナーについて、周知や啓蒙活動を行うことが必要です。
以上のように、プライバシーを守るためには、個室の設置や監視カメラの設置など、様々な取り組みが必要になります。また、利用者に対して適切な使用マナーを周知することも重要です。
利用者を正確に把握し、整備すること
オールジェンダートイレを整備する上で、利用者を正確に把握することが非常に重要です。以下に、利用者を正確に把握するための取り組みをいくつか紹介します。
- 性別の区別を明確にする
オールジェンダートイレは男女共用のため、性別を明確に区別することが必要です。例えば、男女用のトイレットペーパーや手洗い場を設置することで、性別に応じて利用しやすくなります。
- 利用者調査の実施
利用者調査を実施することで、どのような利用者がオールジェンダートイレを利用しているのかを把握することができます。調査項目としては、性別、年齢、障害の有無などが挙げられます。
- ユニバーサルデザインの導入
ユニバーサルデザインを導入することで、利用者の多様性に対応したトイレ環境を整備することが可能になります。例えば、バリアフリー対応の個室や手すりの設置、高齢者や障害者に配慮した便座の高さ調節機能などが挙げられます。
- 利用者からのフィードバックの収集
オールジェンダートイレの利用者の声を把握するために、利用者からのフィードバックを収集することが有益です。具体的には、利用者に対してアンケートを実施する、トイレ内にアンケートボックスを設置するなどの手段を活用することで、利用者のニーズや要望を把握し、オールジェンダートイレの改善や充実につながることが期待されます。
ただし、アンケートや意見箱を設置しても、利用者からの回答が得られない場合もあるので、利用者にとってアクセスしやすい場所に設置することが大切です。
以上のように、オールジェンダートイレを整備する上で、利用者を正確に把握することが重要です。性別の区別を明確にし、利用者調査を実施し、ユニバーサルデザインを導入することで、利用者の多様性に対応したトイレ環境の整備につながります。また、利用者からのフィードバックを収集することで、トイレの改善点を把握し改善することができます。
オールジェンダートイレに対する反対の声・感じるデメリット
オールジェンダートイレに対する反対の声や感じるデメリットは以下のように挙げられます。
- プライバシーの欠如
男女が共用するため、プライバシーに対する不安があるという意見があります。また、トイレ内に個室を設置しても、壁が薄く声が聞こえる場合があるため、利用者が不快な思いをすることがあるという可能性も挙げられます。
- 性犯罪への懸念
性別に関わらず共用するため、性犯罪被害に遭うリスクがあるということが懸念されます。
- 利用者の不便さ
男女共用のトイレでは、女性にとっては男性が同じ空間にいることに抵抗がある場合があります。同様に、男性にとっても女性用トイレよりも利用がしにくい場合があると言われています。
以上のように、オールジェンダートイレに対しては、プライバシーの欠如や性犯罪への懸念、清掃の負担増加、利用者の不便さなどのデメリットや反対の声が見受けられます。
しかし、一方で性別や性自認に関わらず利用できる環境を整えることで、性差別を減らすことができます。オールジェンダートイレを整備する上で、これらのデメリットや反対の声にも配慮し、利用者の多様性に対応したトイレ環境を整備することが求められます。
オールジェンダートイレの表示マーク
オールジェンダートイレの表示マークの1例としては、従来よく知られている男性のマーク(♂)、女性のマーク(♀)に加えて、トランスジェンダーのマークを組み合わせたデザインが使用されています。このマークは、男女の区別をなくして、誰でも利用可能なトイレであることを示しています。
ただし、国や地域によっては、オールジェンダートイレに対する表示マークが統一されていない場合があります。たとえば、米国の一部の地域では、トイレマークの中に「All Gender」というテキストが入ったデザインが使われています。
また、一部の施設では、オールジェンダートイレの表示マークとして、男性用・女性用トイレと同じデザインのトイレマークを使用している場合があります。この場合は、トイレの入口や個室内に、オールジェンダーである旨を示す看板やステッカーが掲示されることがあります。オールジェンダートイレの表示マークは、国や地域によって異なる場合があるため、利用者がトイレを探す際には、周囲の看板や表示を確認してみてください。
関連記事:LGBTのトイレのマークについて考える-オールジェンダートイレの提案や導入事例も紹介
オールジェンダートイレの導入事例
ここまで、オールジェンダートイレの表示マークについて紹介していきました。
続いて、オールジェンダートイレの導入事例を紹介していきます。
MEGAドン・キホーテ渋谷本店|多様な顧客ニーズ
MEGAドン・キホーテ渋谷本店は、渋谷駅に近い場所にある巨大な複合商業施設で、オールジェンダートイレを導入しています。
男女別のトイレや多目的トイレと並び、店内のトイレとして利用でき、ウォシュレットなどの最新設備を備え、快適なトイレ空間を提供しています。
若者を中心に幅広い層から支持を得る商業施設であり、多様な顧客ニーズに対応するために、オールジェンダートイレの導入に積極的に取り組んでいます。この取り組みは、多くのメディアでも取り上げられ、注目を集めています。
成田国際空港第一ターミナルビル|快適なトイレ空間を提供
設置の目的は、性別によるトイレの利用制限をなくし、トランスジェンダーやジェンダーノンコンフォーミングなどの人々が快適に利用できる環境を整備することです。
このオールジェンダートイレは、男性用・女性用のトイレとしても利用可能であり、子供用のトイレや多機能トイレも併設されています。成田空港では、オールジェンダートイレの導入により、多様な性別や性自認を持つ人々が快適に過ごせる環境を提供することを目指しています。
渋谷ソラスタ|快適かつ安心な設備を設置
渋谷ソラスタは、東京都渋谷区にあるオフィスビルです。同施設では、男女共用のオールジェンダートイレを導入しています。
このトイレには、オストメイト対応の個室が設けられ、また、小さなお子様を連れた方や介護が必要な方が利用できるよう、ベビーカー用のスペースも備わっています。
さらに、トイレの入口には、利用にあたってのマナーやルールを記したポスターが掲示され、スタッフも常駐しているため、利用者が快適かつ安心して利用できます
関連記事:LGBTフレンドリーな企業の取り組み6選-業界別の取り組み事例も紹介
まとめ
今回は、LGBT当事者がトイレで感じる悩みや困り事、トイレ問題の解決策、オールジェンダートイレの導入事例などを紹介してきました。
オールジェンダートイレを整備するうえでの課題やデメリットがありますが、このオールジェンダートイレを必要としている人もいるため早期解決が大切です。
また、オールジェンダートイレが普及することによって、社会の性別に関する規範に捉われない環境を提供し、より包括的で受け入れられる社会の実現につながります。