教員の働き方改革とは-背景や原因から取り組み事例まで網羅的に紹介

#SDGs目標8#働きがい#持続可能 2023.07.24

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教員の働き方改革について、みなさんはどのくらい知っていますでしょうか。

教員の多忙な労働についてニュースで話題になることが増えており、深刻な問題となっています。そして、早急に解決することが求められています。

今回は教員の働き方改革が求められている背景や長時間労働の原因に加えて、全国各地の学校での取り組み事例について網羅的に解説します。

【この記事でわかること】

教員に求められる働き方改革とは

日本は少子高齢化による生産年齢人口の減少や共働き世帯の増加など、一昔前とは労働環境が変わっています。このような状況の中、生産性を落とすことなく、雇用機会の拡大や能力を発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

働き方改革は、これらの課題を解決するために多様な働き方を選択できる社会を実現し、全ての労働者がいきいきと働ける環境を整えることを目指しています。

大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日から「働き方改革関連法」が施行され、残業時間を原則として月45時間・年360時間に収めなければいけないことなどが明記されました。

しかし、教育現場の働き方は改善されておらず、教員の長時間労働は大きな問題となっています。

▼参考
雇用・労働「働き方改革」の実現に向けて
「働き方改革関連法」の概要

教員の働き方改革が求められている背景3選

教員の働き方改革が求められている背景を3つ紹介します。

多忙な労働環境

1つ目に紹介する背景は多忙な労働環境です。

教員の仕事は授業を教えるだけではありません。その他にも毎日多くの仕事があります。

  • 授業準備
  • 担当クラスのホームルーム
  • お便りの作成
  • 事務処理

さらに、保護者から連絡があった際にはその対応に追われ、運動会や修学旅行などの学校行事の際はその準備にも追われます。

また、2016年に文部科学省が小学校教員8,951名と中学校教員10,687名を対象に労働環境に関する調査を行いました。その結果、教員の1日あたりの勤務時間は平均で11時間を超えていました。

▼関連記事
SDGs目標8の取り組み事例10選-現状や企業・個人にできることも紹介

基準を超えた長時間労働

2つ目に紹介する背景は過労死ラインを超える残業です。

労働基準法で定められている労働時間は、原則として1日8時間・週40時間です。また、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけないとされています。

しかし、先ほど紹介した表からもわかるように、教員1人あたりの平均労働時間は11時間を超えています。つまり、1週間の労働時間は平日だけでも55時間を超えています。

さらに、教員が日中に休む時間はあまりありません。お昼休みはクラスの面倒を見たり、授業がない時間は授業準備をしたりと業務が山積みなのです。

▼参考
労働時間・休日に関する主な制度

教員志望者の減少

3つ目に紹介する背景は教員志望者の減少です。

文部科学省は、平成30年度に公立学校教員採用選考試験の実施状況を調査しました。その結果は上のグラフのようになります。

グラフからわかるように、20代の教員の数は他の年代の教員の数と比べて少ない傾向にあります。この理由として、教員の労働環境が厳しく、教員を目指す人が少なくなっていることが挙げられます。

また、50 歳以上の教員が占める割合が高く、多数の教員が定年退職期を迎える状況が続くことが予想されます。すると、教員1人あたりの仕事量はますます増加し、教員の労働環境は悪化してしまいます。

長時間労働の原因3選

教員の仕事内容は会社員の仕事内容と大きく異なっており、多くのことをこなさなければなりません。

教員の長時間労働の原因となっているものを3つ紹介します。

部活動での指導

1つ目の原因は部活動での指導です。

2016年に文部科学省が小学校教員と中学校教員を対象に行った調査によると、中学校の教員が部活動に費やした時間は平日が41分で土日は2時間9分でした。

部活は生徒と密に関わることができる時間でやりがいがある一方で、拘束される時間が多く、教員にとって大きな負担になっています。さらに、試合や合宿がある部活の担当になってしまうと、より多くの仕事をしなければいけなくなってしまいます。

教員の負担を減らすために、専門的な知識や技術を持つ外部の人に部活動を任せるなどの対策が求められます。

▼関連記事
デュアルキャリアとは-企業の考え方やメリット、採用する企業例を紹介

▼参考
教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)

負担の大きな事務作業

2つ目の原因は負担の大きな事務作業です。

「生徒にわかりやすく授業をしたい」「生徒の成長をサポートしたい」などの理由で教員になったとしても、他にもやるべき仕事は多くあります。

例えば、授業の前には授業準備をしなければなりません。教科書を一通り読むだけで準備できることもありますが、中には模造紙を使って授業資料を作成したり、小テストを作成したりすることもあります。

また、生徒の宿題を確認したり、成績をつけたりと、事務作業に終わりが見えない現状があります。

▼関連記事
SDGs達成のための日本の取り組み|政府・自治体・企業の3つにわけて紹介

時間外労働が把握しにくい

3つ目の原因は時間外労働が把握しにくいことです。

教員は残業しても時間外手当が支給されません。そのため、時間外にどのくらい労働したかを正確に把握しようとする人は少ない傾向にあります。

また、授業準備時間などの必ずしも働く時間が決められていない業務があります。そのため、人によって労働時間が異なってしまうのです。

これらの理由から、実際にどのくらいの時間外労働が発生しているか分からないという問題が発生してしまいます。

必要とされる取り組み3選-SDGs達成にも繋がる取り組み

教員の働き方を改革することでSDGs達成にも大きく前進することができます。中でも、SDGs目標8の「働きがいも経済成長も」の達成に大きく貢献することができます。

例えば、教員の労働環境を整えて負担を減らすことで教員の精神的・身体的健康を守り、働きがいを感じてもらうことができます。そして、教員の労働環境が改善することで教員になりたいと思う人が増え、ますます働きやすい環境が整っていくことが予想されます。

中でも、特に教員の働き方改革に必要とされる取り組みを3つ紹介します。

▼SDGs8について詳しくはこちら

正確な労働時間の把握

1つ目に必要とされる取り組みは、正確な労働時間の把握です。

先ほども紹介した通り、教員は残業しても時間外手当が支給されないため、時間外にどのくらい労働したか把握しづらい傾向にあります。

そのため、勤怠システムを導入し、全ての教員の出勤時間と退勤時間を把握する必要があります。

文部科学省が令和2年度に実施した調査によると、ICカードやタイムカードなどの方法で勤務時間を把握している自治体は平均で72%でした。前年度の調査結果は48.2%だったため導入率は増加していますが、導入率を100%にするためには時間がかかりそうです。

▼関連記事
《必見》SDGs目標8と日本|現状から取り組み事例まで徹底解説

業務効率化

2つ目に必要とされる取り組みは業務効率化です。

多くの企業ではデジタル化が進んでおり、ペーパーレスやコンピューター上での業務効率化が推進されています。そのため、学校現場でIT技術を用いて業務効率化に取り組めば良いのです。

  • 成績表の電子化
  • 宿題のオンラインチェック
  • オンライン教材を用いた宿題

導入費用はかかってしまいますが、教員の負担を確実に減らすことができます。

業務の再検討

3つ目に必要とされる取り組みは業務の再検討です。

教員は多くの事務作業を行っていますが、中には教員でなくても対応できるものがあります。例えば、運動会や修学旅行などの準備は、事務職員や外部の専門業者で対応することができます。

学校に関することだからといって全ての仕事を教員が担当するのではなく、外部の人材を登用することも検討すべきです。

教員の働き方改革事例3選

多くの小中学校が教員の働き方改革に取り組んでいます。

今回は3つの取り組み事例を紹介します。

福岡県久留米市立篠山小学校-ICTと使用した教職員間の情報共有

1つ目に紹介する取り組みは、福岡県久留米市立篠山小学校の取り組みです。

篠山小学校はICTを活用して校務に関する働き方改革に取り組んでおり、ICTによって教職員間の情報共有の課題を解決しました。

以前は、児童の欠席連絡などの情報を職員室で保護者から電話を通じて受け取り、各教室に設置されたインターフォンを使って教師に伝達していました。しかし、「Google Workspace for Education」というICT技術を活用して、Googleチャットで連絡を受け取ることができるようになりました。

また、GoogleスプレッドシートやGoogleカレンダーも積極的に活用し、連絡事項は教職員の端末からいつでも見ることができるようになり、職員室にあるモニターにも表示されるようになりました。

ICT
ICTとは情報通信技術のことを表しています。以前はデジタルデータを利用する技術をITと呼んでいましたが、近年ではインターネットを通してデジタルデータの通信量が増えたため、ITに「通信(C)」を加えたICTと表現する場面が増えています。

▼関連記事
日本のSDGs達成度は18位|達成度からわかる日本の課題も解説

▼参考
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)
ICTとは?ITやIoTとの違いやICTの活用例を解説

千葉県千葉市立加曽利中学校-教員業務支援員の活用

2つ目に紹介する取り組みは、千葉県千葉市立加曽利中学校の取り組みです。

加曽利中学校は、千葉市の教育委員会から「教員業務支援員」の派遣を受けています。「教員業務支援員」とは、教師の業務を減らして生徒と向き合う時間を増やすために教師の業務を支援し、負担軽減を手助けするスタッフのことを指しています。

具体的には次のような取り組みを行っています。

印刷業務

  • 授業・指導の教材
  • 宿題・学習課題
  • 各種お便り
  • 献立表
  • 会議資料
仕分け業務

  • 印刷文書
  • 各種郵便
  • 各種行事
入力・事務業務

  • 各種アンケート
  • データ
  • 授業準備物調達
  • 掲示物管理
  • 文書等の回覧
コロナ対策

  • 消毒作業
  • 消毒ポンプの表示作成
  • 消毒用具管理
  • 消毒液補充

これらの業務は教員しかできない業務ではありません。教員の労働環境を改善するために、外部の業者に委託することも選択肢の1つとして考えることが重要です。

▼参考
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)

札幌大谷高等学校-模試の練習問題の自動採点化-

3つ目に紹介する取り組みは、札幌大谷高等学校の取り組みです。

札幌大谷高等学校は、Googleフォームを使用して、練習問題を配布しています。元々は、コロナ禍で休校していた間にプリント配布が難しく、どのように模試の練習問題を配布しようか試行錯誤する中で出てきたアイデアです。

練習問題の印刷には土日を丸々使うこともありましたが、Googleフォームを使用することで半日で作業を終えることができます。また、1回問題を作成することで使いまわすこともできるため、作業の量が大幅に減っています。

さらに、この取り組みは教員だけでなく生徒にとってもメリットがあります。例えば、問題の正解・不正解がすぐわかるため、気軽に問題に取り組むことができます。さらに、大量のプリントを持ち運ぶ必要がなくなり、コンピューターがあればどこでも勉強できるようになるのです。

▼参考
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)

まとめ

教員の働き方改革について新しく知ったことはありましたでしょうか。

教員の仕事は生徒に勉強を教えることだけではなく、多くの業務があることを紹介しました。しかし、その多くは教員以外でも取り組めることであり、外部に受託する選択肢を持つ重要性をお伝えしました。

また、IT技術を取り入れることで教員の負担を減らせることも紹介しました。また、教員にとっても生徒にとってもメリットがある取り組みも紹介しました。

近年は過労死や長時間労働が問題になっています。皆さんも身近な企業や学校の労働環境に注目してみてください!

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