”価格勝負からの脱却がSDGsにつながる”会社のインフラ化を目指すOWNDAYS 田中が語る持続的経営

#ESG#持続可能#経営 2021.08.06

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

国内外に400店舗以上を展開するメガネ製造販売チェーン、OWNDAYS。

代表取締役を務める田中氏は、巨額の債務超過に陥っていたOWNDAYSを買い取り、10年足らずで再建を導いただけでなく、さまざまな企業が展開するメガネ業界で、今もなお止まらぬ勢いで事業を伸ばし続けている。その成長の裏には、田中氏の経営に対する卓越した考えが反映されている。

ドラマ化にも至った書籍「破天荒フェニックス OWNDAYS再生物語」で話題になり、その破天荒さが注目されがちな田中氏だが、取材を通して見えてきたのは、破天荒なだけでなく、持続可能性の高い経営への考えだった。

新たなことに挑戦し続けるOWNDAYSは、会社をどのように捉え、SDGsにどのように向き合っているのか。

今回は、OWNDAYSの代表取締役 田中 修治氏のインタビューを通し、SDGsの考え方だけでなく、透明で持続的な経営のあり方について探る。

「生産すること自体が悪?」価格勝負から脱したOWNDAYSの戦略

ーーさまざまなメディアでも活躍する田中社長ですが、SDGsの重要性をどのように捉えているのでしょうか。

田中:SDGsとしてではありませんが、昔から(社会貢献に)力を入れていました。6年前にオランダに出店したことがきっかけです。

今は、撤退してしまいましたが、ヨーロッパに進出しようとして、オランダのデン・ハーグに出店したんです。当時、アジア圏ではファストファッションのメガネ版のような形で事業が成長していました。

OWNDAYSの売りはシンプルかつアフォーダブル(手ごろな価格)ですが、同じようなコンセプトのアイウェアブランドが欧米になかったので、上手くいくのではないかと思い、進出しました。

ですが、毎日お店に立ってお客さんの反応を見ていたら気づいたことがありました。アジア圏では、「値段の安さ」や「メイドインジャパンかどうか?」「どのくらいの早さでメガネができるのか?」などについてお客様から聞かれることが多かったのですが、ヨーロッパでは、そのような事を聞いてくるお客様はほとんどいませんでした。むしろ、「素材にアレルギー性物質が使われてるか?」や「製品・品質の保証」についてよく聞かれました。当時、私たちは日本の一般的な保証制度に留まり、素材のアレルギーに関しても細かい配慮にまで考えが行き届いていませんでした。

しかし、ヨーロッパのマーケットでは、大量消費・大量販売に消費者が飽きていて、「ただ安くて良い品」だけでは良い評価をしてもらえることができなかったのです。

ーーアジア圏よりも先行してエシカルな思想があったんですね。

田中:5千円のメガネを2年間で4回買うくらいなら、2万円のメガネを買って2年間使った方が自分だけでなく環境にも、社会的にも良い。何なら2万5千円の方が生産性も高くて良いという空気感がありました。

現在、OWNDAYSはメガネ業界で1番保証が手厚いブランドだと胸を張ってアピールできるようになりました。6年前から値段を下げず、その分、品質と保証を手厚くし始めたのですが、最初の2〜3年は価格の安い方にお客様は流れ、思ったより成果は出ませんでした。ですが、必ず欧米の考え方が日本にも来ると考えていました。最近になって、大量消費・大量生産を否定するSDGsの考え方が日本にも急速に浸透してきて、ようやくOWNDAYSの取り組んできたことも、市場のニーズとハマりはじめてきたように感じています。

SDGsというと環境に優しく、リサイクルをしたり、二酸化炭素を出さないことにフォーカスされますが、そもそも生産しない事が1番有効で、生産する事そのものが悪なんです。だから、なるべく生産しないことによって付加価値を上げ、1つの商品を継続的に使えるモノにすれば、買い替えサイクルそのものを長くする事に繋がり、結果として環境にも良いと思うんです。

小売業はモノが残るので、なるべく生産しないほうが正しいと思い、価格の勝負を6年前に止めました。価格を下げると、下げた分だけ数を売らなくてはいけなくなり、数を売るためには人をたくさん雇わないといけなくなり、労働時間も増やさなくてはいけなくなります。結果として、みんなで効率の悪い事をしているんです。だからこそ、価値が高いモノを作って生産性を高くしていくべきと思っています。ただ、価格を上げすぎるとダメなので、客数と単価の需要の曲線で、どこがベストなバランスなのかをずっと見ています。未だに日本や東南アジアでは、値段を下げて売ることで競争を仕掛けてくる会社が多いですが、独自の高い付加価値をいかに創造してお客様から評価、共感してもらえるかという、意識に変えていかないといけないと思います。

ーー実際に改革をした後のユーザーの反応や利益はどのように変わりましたか?

田中:平均価格は少しずつ上がっていますが、お客様の反応は悪くありませんし、売上、利益を毎年二桁成長で伸ばし続けていることができているのは、それだけ支持してくれるお客様が多いからだと思います。購入してくれた人がリピーターになって、新しい人に紹介してくれる確率も上がりました。

社会的に良いことや責任も重要ですが、会社が伸びるから(価格からの脱却を)やった方が良いと思います。これからの数年間は、SDGsがきっかけで、過去数十年間との転換期になっていて、消費の価値が移り変わる時なのではないかと思っています。この流れの中で、うまく価値観を転換できた会社やブランドはこの後、伸びていくと思います。過去20〜30年間やってきたやり方から抜け出せない企業は生き延びれなくなりますし、コロナも大きなキッカケの1つになってると思います。

「会社はインフラである」持続的な経営の裏に隠された考え

ーー持続的な経営について伺いたいと思います。昨今ではESGが注目され、企業の透明性の注目が高まっています。OWNDAYSは、透明性につながるさまざまな取り組みをしていますよね。

田中:OWNDAYSは、透明で宮古島の海のような会社です。それは良いこともあるし、悪いこともあるんです。さまざまなことを曝け出す事で衝突が起こるので、面倒くさいなと思う事はたくさんあります。

OWNDAYSでは、社長や取締役を筆頭に全社員の給料を社内で全て公開しています。すると、50や60歳の給料を多く貰っている人に対して、「なぜですか!?おかしくないですか!?」と特に若い人から声が上がるんです。ですが、給料は、その時の成果だけでな く、長い期間、会社に貢献してくれた功労者に対しての恩給的な意味合いも必要だったりします。完全な成果主義で、給料の配分を決めると、場合によって血も涙もない会社になってしまう可能性もあります。それだと年を重ねた時にパフォーマンスが落ちて給料をいきなりガクンと減らされてしまうリスクを考えると、安心感をもって長く働く事ができなくなってしまうので、ある程度の恩給的な処置が必要だったりもするんです。「成果をどのタイミングで切り取るか?」「給料の額面に込められた理由」それらを皆んなに理解してもらえるように説明を常に求められるのは、正直面倒くさいなと思うときもありますが、経営者の責任として説明しないといけないと思っています。それで納得してもらえる人もいるし、納得できない人もいます。

ーー結果として会社も信用され、従業員の会社への愛着も高まるのかなと思いますが、いかがでしょうか。

田中:信用されています。信用するも何も隠してないから。しかし、辞めてしまう人もいます。プレッシャーで辞める人もいます。「あの人はこれくらいの給料を貰っているんだ」と入社時から知ってしまうからです。

ーー衝突などのデメリットをカバーできるほどの給料情報の開示の取り組みの良さは何でしょうか?

田中:良さというか、私は「自分のためにやってる」と言った方がいいかなと思います。透明にしてしまえば会社を私物化できなくなるので、社長として楽なんです。

会社が大きくなると、自分が不都合なことを隠すために作った仕組みを利用してみんながそれぞれの不都合を隠し始めるので、結果、パンドラの箱を開けられなくなり、多くの社員 が、情報を公開しない会社に対して不信感を抱き、120%の能力を発揮しなくなる様子を散々見てきました。だから私は自分の会社は最初から全てをオープンにする仕組みを作って、まず最初に自分自身が会社を私物化できなくしたのです。

ーー「破天荒フェニックス」などの書籍で有名な田中社長ですが、不安定な社会の中、実は破天荒なだけでなく持続可能な経営を実践されていると感じました。仕組みを取り入れて解決してしまい持続性を高める経営を重視されているんですね。

田中:よく会社はどういう存在なのかを考えます。

私が考えた会社の結論は「インフラ」です。例えば、スターバックスやマクドナルド、ユニクロも、優れたインフラとして機能することで世界的なチェーン店として発展してきました。それは仕事をしたい人が、働くと安定した給料が貰え、さまざまなことが保証され、働きやすい。自分が働いてお金を得るのに優れたインフラであるんだと思います。

お客様にとっても、目が見えづらくなってメガネを買う時に、最もメガネを買いやすいインフラがOWNDAYSであればいいと思っています。OWNDAYSで買えば、自分の視力や処方のデータが残っているため、全国どこの店舗でもスムーズに保証が受けられますし、 面倒な検査を受けずとも、すぐに自分に合ったメガネを買うことができます。

「メガネを手に入れる」という一連の行動の中で、1番優れたインフラである会社が選ばれるのは当たり前のことです。

商品の材料を作っているメーカーさんも、店舗物件を貸す不動産屋さんも、OWNDAYSというインフラに乗っかって一緒にビジネスをするのが1番効率が良く、儲かるようにする。OWNDAYSがみんなにとって優れたインフラであれば、誰もダメにしようとはしません。そのインフラを使っている人たちは、インフラがもっと発展した方が、自分もそのインフラに乗っかっているから利益が増えていくわけです。

どんな業界でも「優れたインフラ」としてうまく機能することのできた会社が結果的に伸びているんだと思います。だから、私はOWNDAYSが世界中でさまざまな人が使いやすいインフラとして機能するにはどうしたらいいのかをいつも考えています。

ほとんどの経営者は会社を自分のためのインフラにしてしまいます。「自分がお金を稼ぎやすい」「自分が楽しやすい」「自分が良い格好をしやすい」と自分が使いやすいインフラとして使うから、他の人から見ると使いづらいインフラになってしまいます。私にとっては、OWNDAYSは社長が誰になっても何も変わらずに進んでいき、発展し続けていくのが理想で、そのための仕組みを今、頑張って作っている最中です。それが周りから見たら「透明性を持ってやっていますね」と言われているだけで、自分はそんな感覚でやっているわけではありません。

さいごに

SDGsへの注目の高まりとともに、社会の中での会社の捉え方が変動している。今までのように売上を拡大することだけではなく、社会の中でユーザや従業員、ときには投資家などさまざまな立場の人と関係性を構築していかなければならない。

その意味で、さまざまな人が乗っかりメリットを得ることができる「インフラとしての会社」という考え方は、SDGsの注目が高まる今、最も求められている。

今回の取材では、SDGsの考え方だけではなく、経営の本質を伺うことができた。

SDGsでも掲げられた持続的な社会を、先陣を切って作っていくのは、優れたインフラとして機能できる企業だ。

 

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