【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
食べ放題の焼き立てパンが有名なベーカリーレストランであるバケット、「チョコクロ」で有名なサンマルクカフェ、窯焼きドリアを提供する神戸元町ドリア、和風パスタを提供する鎌倉パスタなど、さまざまなブランドを展開し、私たちの食事に彩りを与えるサンマルクホールディングス。
同社は2021年1月にフードテック技術の開発・導入、SDGs目標達成への積極的な取り組みを目的とした株式会社サンマルクイノベーションズを立ち上げ、新たな事業に乗り出した。
サンマルクホールディングスは、常に変化し続ける環境の中でどのようにSDGsに取り組み、新しい価値を創造していくのか。
今回は株式会社バケットの代表取締役社長を歴任し、現在は株式会社サンマルクホールディングス執行役員 経営企画室 業務革新担当を兼務されている株式会社サンマルクイノベーションズ代表取締役社長 江下健一様を取材した。江下様が描く未来のレストランのあり方とは何なのか、具体的なSDGsの施策を伺う。
地域社会との協力が新しい価値を生み出す
ーー自己紹介をお願いします。
江下:株式会社サンマルクイノベーションズ代表取締役社長の江下健一です。
日本のレストランやアメリカ・中国でのレストラン経営を経て、サンマルクに入社しました。鎌倉パスタの社長を10年ほどしたのちに、2020年からバケットの社長を務めた後、2021年1月に新しく創設したサンマルクイノベーションズの社長を務めております。
ーーSDGsに取り組むようになったきっかけはありますか。
江下:SDGsについて深く考えるようになったきっかけはコロナ禍での厳しい運営状況でした。コロナ禍で全店休業した際に、今の店舗での運営の仕方では社員やアルバイトの雇用を守れないという危機感を覚えました。100年先も必要とされる企業は社会のためになるような企業であって、利益だけを追求する企業では決してない。そこで、SDGsとは何なのか、ESG的な観点も絡めつつ地域社会になんらかの形で貢献できないかを考えました。
本社のある岡山について調べていく中で着目したのが、県内でも1、2位を争う観光地である蒜山高原です。蒜山高原はジャージー牛の飼育頭数が日本一ということで、バケットとしてジャージー牛乳の生産者のみなさんを支援できないかを検討しました。
蒜山酪農協同組合の方とお話したところ、コロナ禍で提供先が激減し、希少なジャージー牛乳をホルスタイン牛乳と一緒に提供せざるを得ないということをお聞きしました。そこで、ジャージー牛乳の価値や魅力を発信するために、バケットの代名詞でもある「焼き立てパン」の生地にジャージー牛乳を取り入れたミルクパンを開発しました。この活動が当社のSDGsへの最初の取り組みです。
岡山や大阪の店舗ではドリンクバーでもジャージー牛乳を提供しています。多くのお客様にジャージー牛乳を飲んでいただき、蒜山ジャージーの名前とおいしさを全国に広めていきたいと考えています。2020年12月からは蒜山の酪農協同組合さんとの業務提携も始まり、商品開発や工場の展開を通して蒜山ジャージーの発信に力を入れています。
ーー地域や生産者さんにフォーカスした取り組みをされていますが、なにかきっかけはありますか。
江下:20代にバイヤーとして頻繁に生産者のもとへ足を運んでいた経験は大きいと思います。サンマルクグループの販売チャネルを使って、生産者と消費者をつなぎ日本の農業に貢献していきたいです。
ーー 今、感じている日本の飲食業界の課題はありますか。
江下:やはりフードロス問題です。チェーン店は大量生産、大量消費をせざるを得ません。バケットでも衛生上の観点から、どうしても廃棄してしまう日もありました。そこで、現在バケットでは余ってしまったパンをもう一度リメイクしてお客様に提供する「サステナブレッド」という商品の開発を進めています。
需要予測の面でも、今後はパン台にエアーカメラをつけてパンの流れをデータ化して、フードロス削減に繋げたいと考えています。
フードテック技術でフードロスを削減 | ゴーストキッチン ディネマ
ーー新しくオープンしたディネマについて聞かせてください。
江下:コロナ禍で席数や営業時間に制限が加わり、リアル店舗の限界を感じました。2019年の12月頃に、ゴーストキッチン業態と、オーダーから会計までLINEで完結するデリバリー・テイクアウト業態を立ち上げようと構想し、4月にオープンしたのがディネマです。現在、ローストビーフ、ハラミ弁当、とんかつ弁当とさまざまな種類の専門店を立ち上げています。
さまざまな映画を上映するシネマのように時間帯に応じて幅広いジャンルの商品を提供したいという想いから「ディネマ」と名付けました。
ーーディネマでこだわっているポイントも教えてください。
江下:ユニフォームは、衣料製造時に廃棄されてしまうデニムの生地クズを倉敷染めで再加工したものです。また、店内でも規格外の布を原料とするNUNOUSというアップサイクル素材を利用しています。容器や包材も紙や木から作られたものを採用しており、脱プラスチックに向けて実践的に取り組んでいます。
ーーこれからさらにSDGsの達成に向けて、新たな取り組みはありますか?
江下:2022年3月頃に蒜山高原にサステナブルレストランを開こうと準備をしています。2021年7月、蒜山高原にSDGsと関わりの深いCLT工法(建てたあと解体してもう一度組み立てることが可能な建築方法)で作られたパビリオンが移設されたことがきっかけになりました。
料理は日本サステナブル協会の三ツ星シェフに監修していただき、無駄のない食材の使い方や肥料への活用方法などを取り入れる予定です。
ーー 消費者との繋がりも重視されているのでしょうか。
江下:コロナでお客様とのアンケートを通したコミュニケーションが無くなってしまったことをきっかけに、「バケット広場」というオンラインコミュニティを設立しました。バケットのコアなファンの皆様とファンミーティングを開くなど、コミュニティの強化を図っています。
店舗がなくてもECサイトなどで商品を販売することで、どんな状況でもお客様との繋がりを絶やさず、どこでもバケットの味を楽しんでもらえる仕組みを重要視しています。
今の時代、どの商品もクオリティが高くて差がつきにくい。これからは商品やサービスがどんな過程を経て生み出されたかで判断される時代です。バケットは生産者の方にとことん寄り添うことで差別化を図っていきたい。
この先また店舗が営業できないような状況になっても異なる形態で営業を続け、従業員や生産者さんを守るためにもSDGsやESGの取り組みを通して生産者さんとつながることは大切だと考えています。
ーー消費者のSDGsへの関心は高まっていますか。
江下:高まっていると感じています。サンマルクカフェでは、2021年4⽉8⽇から“チョコっとECO”活動を開始していて、ブレットレスキューパックなどを販売しています。すぐ完売すると聞いておりますので、フードロスに対して消費者の方も敏感に反応していただいてるんじゃないかなと思います。
社会の課題解決に貢献する企業へ
ーー今後の展望について教えて下さい。
江下:社会的問題を解決できる企業になりたいです。ひとつは介護分野で医療の場でも美味しく低カロリーな料理を提供する事業にチャレンジしたいと考えています。
ユーザーも従業員も、関わる人全員が楽しく居心地の良いコミュニティを形成していくことが大きな目標です。個人営業の飲食店の支援も行っていきたいです。例えば、個人飲食店のレシピを参考にさせていただいて、期間限定メニューを販売し、その売り上げの何パーセントかをお店の方に給付する活動です。実現まではまだ時間がかかりそうですが、チェーン店という利点を生かした新しいモデル作りをしていければと思います。
さいごに
関わりの深い地域に企業規模で密着し、魅力の再発見と新たな価値の創出に携わるバケット。今回の取材を通して、バケットのSDGsへの取り組みは江下様の行動力と熱い想いが生んだ、バケットだからこそ実現できた事例だと実感した。
さらに、サンマルクイノベーションの立ち上げとその事業は、地域や環境に対する想いを具体的に実現させていくための大きな一歩であり、今後の強みになることは間違いない。
サステナブルレストランの完成も待ち遠しい中、最先端の技術で企業・生産者・消費者を繋いでいくサンマルクイノベーションズはどんな「未来のレストラン」を魅せてくれるのか。これからの取り組みに期待が高まる。