【更新日:2023年10月20日 by 中安淳平】
日本は、少子高齢化による人口減少や、地方出身者が大学進学や就職を機に東京などの大都市に出て行ってしまう一極集中が加速しています。
そんな中、自治体や地域の企業が注目しているのが「シビックプライド」という概念です。
実は読売広告社(以下、「YOMIKO」)は「シビックプライド」の商標権を有しており、「シビックプライド」研究の老舗企業。2023年に入り、「CIVIC PRIDEポータルサイト(以下「シビックプライドポータル」)」の立ち上げや、「YOMIKO CIVIC PRIDE ACTION」というプロジェクトの始動など、新たな取り組みも実施されています。
今回はそんなYOMIKOの山下さん、小関さん、田中さんに「シビックプライド」に対する想いや可能性についてお話を伺いました。
読売広告社のシビックプライドに関する記事はこちらから↓
見出し
「シビックプライド」とは
ーー自己紹介をお願いいたします
山下:都市生活研究所 局長代理の山下 雅洋と申します。都市生活研究所は、「シビックプライド」の魅力を発信していくことはもちろん、自治体と共に「シビックプライド」を通した商品開発などを行っている部署となります。都市と生活者という両方の視点から見ていくことで、新しいインサイトが見つかるのではないかということで活動しています。
小関:都市生活研究所の小関 美南と申します。「シビックプライドポータル」の編集長もしています。取材を通して、実際に活動している地域の人々のお話を伺いながら、「シビックプライド」に関する発信に取り組んでいます。
田中:クリエイティブディレクターの田中 龍一と申します。日頃はCMなど広告の企画からアウトプットまでを一気通貫で行っています。このプロジェクトにおいては、ロゴ制作やプロダクトのデザインを担当しています。
ーーそもそも「シビックプライド」とはどういったものなのでしょうか
小関:当社が運営する「シビックプライドポータル」では、「シビックプライド」とは、市民が都市(まち)や地域に対して持つ「誇り」や「愛着」を表現する概念であり、まちをより良い場所にするために関わっているという意識を伴う、ある種の当事者意識に基づく自負心のことと明記しています。しかし、「シビックプライド」の定義を一方的に押し付けないように、気を付けなければならないと思っています。
というのも、取材の中で実際に「『シビックプライド』を体現されている」と思う方々にお話を伺った際、ご本人たちは特に意識をされていないことがわかりました。そして、「この地域をもっと良くしたいとか、 良くしたいから自分にできることは何なのかを考えていく、そういう熱量や思いにあえて名前を付けるとしたら、それは『シビックプライド』という言葉になるかもしれません」とおっしゃっていたのです。
まさにその通りだなと思いました。
「CIVIC PRIDE ACTION」を発信する「シビックプライドポータル」
ーーYOMIKOとしていつ頃から「シビックプライド」の醸成に取り組まれているのでしょうか
山下:2006年に「シビックプライド」がYOMIKOの登録商標となったタイミングから本格始動しました。「シビックプライド研究会」という名称で、東京理科大学の伊藤 香織教授を中心に研究を進めています。
近年は、これまでの研究で得た知見をもとに世の中に実装していくことに力を入れています。
ーー世の中への実装とは具体的にどのようなことを行っているのでしょうか
小関: 2023年春に、全国各地を対象とした「シビックプライド」に関する調査結果や事例など様々な情報を発信する「シビックプライドポータル」を開設しました。
「シビックプライド」をテーマに掲げていなくても、まちへの“誇り”や“愛着”を、生み、育てている取り組みはたくさんあります。そのような活動を「CIVIC PRIDE ACTION」ととらえて取材し、このサイトで紹介することでどんどん広めていきたいという思いから立ち上げました。
ーー「CIVIC PRIDE ACTION」のロゴを作るうえで意識したところはどこですか
田中:「CIVIC」という綴りはシンメトリーで、真ん中の Vがハートにも見えます。また、下に線を引くことによって、土地から芽生えた双葉にも見えるようなデザインにしました。それがすごくシンボリックなデザインになったなと感じています。
また、世界的にも有名なニューヨークの「I ♥ NY」やアムステルダムの「I amsterdam」でも、ハートや赤文字が使われており、「シビックプライド」との親和性があると感じています。
小関:私たちもこのロゴを最初に見たときに、ハートに見えるところだけでなく、芽が出ているように見えるところがいいなと思いました。
今はまだ広くは知られていない活動も、「CIVIC PRIDE ACTION」の芽として取り上げることができます。
山下:「シビックプライド」を誰もが親しみを持てるものにしたいので、ゆくゆくは、このロゴが日本各地の色々なところに、「シビックプライド」の認証マークのように広まっていくといいなと考えています。
YOMIKO自身がアクションを起こす意義とは
ーー2023年6月には「YOMIKO CIVIC PRIDE ACTION」を始動されたとのことですが、先ほどの「CIVIC PRIDE ACTION」とどのような違いがあるのでしょうか
小関:「YOMIKO CIVIC PRIDE ACTION」は、住民が愛着や誇りを感じている地域の文化や伝統を「シビックプライド」醸成のための「資産」ととらえ、それらを活用したプロダクトをつくるプロジェクトです。先ほどお話しした「シビックプライドポータル」で発信している「CIVIC PRIDE ACTION」は、全国各地の事例を取材して発信していく活動ですが、当社自身が起こすアクションを「YOMIKO CIVIC PRIDE ACTION」と名付けて始動しました。
ーーこのプロジェクトを始動させるきっかけは何だったのでしょうか
山下:概念ではなく実装させていくことが重要だと思ったからです。
当社では、これまでに千葉県柏市、神奈川県平塚市、茨城県ひたちなか市で「まちづくり」を行ってきました。その経験から言えることは、まちづくりはハードを作ってもなかなか成長していかないということです。つまり、コミュニティなどのソフト面も同時に作っていく必要があるのです。
そこで、まちに住む人々が交流できるイベントやキャンペーンの企画、地元アーティストの方の協力を得て、フォトジェニックスポットを作ってもらったり、市民の方に向けてロゴやスローガンの募集をしたりしました。
コミュニケーションを作っている広告会社として、「シビックプライド」をきっかけに一緒にできることを自治体へ提案していき、実装していくことで、より多くの人に実感してもらうことができます。「シビックプライド」の商標権を有している当社だからこそ、より一層取り組んでいきます。
ーー具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか
小関:「YOMIKO CIVIC PRIDE ACTION」の第一弾として、青森の竹浪比呂央ねぶた研究所の協力を得て「シビックプライド名刺入れ」を制作しました。
この名刺入れは、実際に運行された青森のねぶたの彩色和紙の希少な端切れ、「ねぶたのかけら」をアップサイクルして制作しています。
山下:ねぶたはお祭り終了後には解体され、産業廃棄物として捨てられてしまうことを知り、それを青森の「シビックプライド資産」として捉えなおして、名刺入れへとアップサイクルできるのではないかという話になりました。そこで、サステナブルなパッケージサービスを展開する株式会社ポックと協業してプロダクト制作を行うことになりました。
ーーなぜアップサイクルして制作するプロダクトとして名刺入れを選んだのでしょうか
田中:名刺入れは初対面の人に対し、自己紹介をするときに出しますよね。その際に、地元について話すきっかけにもなります。また、ねぶたや名刺入れが褒められることで、青森出身であることを誇らしく思えるのではないかと考えました。それが「シビックプライド」に繋がると思ったのです。
小関:ねぶたをモチーフにしたお土産やグッズはたくさんありますが、今回の名刺入れは観光客用ではなく、地元の方に向けて作りました。
地元の方々から「私たちにとって、ねぶたは市民の魂そのものであり、地域の心の支えです」というお話を伺っていたので、この名刺入れを見ることでその熱量が蘇るようにしたいと強く思いました。
地元の方に向けて作るからこそ意味があるのではないかと思っています。
YOMIKOが描く「シビックプライド」の醸成
ーー人々が「シビックプライド」を持つ意義、そして広告会社が「シビックプライド」の醸成に取り組む意義とはなんでしょうか
小関:私自身、最初は自分の生まれ故郷や居住地域にプライドを持つということが、どういうことなのかわかりませんでした。
しかし、今回の取り組みで様々な方の話を聞く中で、自分たちのまちをよりよくするために、また社会問題や地域の問題を解決するために奔走されている自治体の方や個人で活動されている方が本当にたくさんいることに改めて気づきました。
だからこそ、まちのために熱量を持って取り組んでいる方々が作ったものを「CIVIC PRIDE ACTION」という形として発信することによって、「自分のまちには、まちのことを誇りに思ってここまでできる人たちがいるんだ」ということに気づきやすくなると思います。
それが「シビックプライド」の醸成に繋がりますし、そのような人が増えれば「シビックプライド」の熱量のある地域が増えていき、引いては日本社会全体が活性化していくのではないかと考えています。
田中:誰しもなかなか自分の住む場所やルーツのある場所の魅力を意識する機会は少ないと思います。
私たちの取り組みを通して、自分のルーツや今いる場所に魅力があることを実感できれば、それだけでも意味のあることだと感じています。
山下:「シビックプライド」に関して何かやりたいけれど、どうやればよいのかわからないという企業や自治体は増えてきています。
私たち広告会社はワクワクをデザインすることや動機付けが得意なので、その点で「シビックプライド」の推進に寄与する意義があると思っています。「どう活動すればよいかがわからない」といった企業や自治体のサポートをしていきながら、さらに多くの方に「シビックプライド」の魅力を発信していきたいです。
ーー今後の展望をお聞かせください
田中:第一弾の青森県のねぶたをきっかけとする活動に続き、今後は第二弾、第三弾を実施していきます。
土地や地域、まちも人も変われば、プライドとなるべきものは変わります。そうなれば当然、名刺入れ以外の表現も出てくるかもしれません。その土地にあったものを今後も考えていきます。
小関:青森の「シビックプライド名刺入れ」は、「青森シビックプライドリレー」という企画で今も進行中です。(特設サイトはこちら)
リレー形式で「シビックプライド名刺入れ」を贈り・つないでいきながら、「シビックプライド」のエネルギーをより大きなものに育てていきたいと思っています。まだまだリレーは続いていくので、ぜひ注目していただけたらうれしいです。
※「シビックプライド/Civic Pride」は、株式会社読売広告社の登録商標です。
最後に
YOMIKOが推進する「シビックプライド」の醸成は、広告会社として携わることによって、まちと人がつながって形となり、意味を成すものだと感じました。
今後も日本各地で「CIVIC PRIDE ACTION」が広まり、日本中に「シビックプライド」の芽が出る時がとても楽しみになるインタビューでした。
SDGs connectディレクター。企業のSDGsを通した素敵な取り組みを分かりやすく発信していきたいと思います!