動画・音楽・食材・ITソフトウェア・衣類に自動車まで。近年サブスクリプション型のサービス(サブスク)が一般化し、様々なものを買うのではなく、定額で「利用」する人が増えています。従来は買うのが当たり前であった家具や家電をサブスクとして提供しているのが株式会社クラスです。
今回は株式会社クラスの戦略財務本部 本部長の原巧さんに家具・家電のサブスクというビジネスモデルの在り方や横浜銀行様との「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約締結についてお話を伺いました。
入社のきっかけはサステナビリティ
ーー自己紹介をお願いいたします
原:戦略財務本部 本部長の原巧です。経歴としては日本で大学を卒業した後にロンドンの大学院に進学し、外資系投資銀行の香港や日本の支店でインターンとして働き、新卒では投資ファンドに入社しました。その後はコンサルティング会社や事業会社のCFOを務め、2022年の4月にクラスへジョインしました。
ーー豊富な経験をお持ちだと思うのですが、どのような経緯でクラスへ入社したんですか
原:働く会社を決めるうえでの軸が2つありまして、1つが「ライフスタイルに携われる環境」であること、そして2つ目が「サステナビリティに力を入れている」ことです。
1つ目は私自身ライフスタイルに興味があるので、家具と家電を扱うクラスもその点で興味を持つきっかけとなりました。2つ目に関しては大学院時代にロンドンでボランティア活動やNGOでの活動を行っていたことや、授業の中でMDGsやSDGsについて学んでいたこともあり、サステナビリティやESGにフォーカスした企業で働きたいと考えていました。その2点をヘッドハンターに伝えたところ、クラスを紹介していただいたんです。
最終的な決め手は代表である久保の持つ考え方やビジョンに共感できたというところですが、きっかけは事業内容とサステナビリティにしっかりと取り組んでいたところでした。
ーー家具・家電のサブスクという形のビジネスモデルにしようとなったきっかけについて教えてください
原:代表の久保が会社を立ち上げる際のきっかけとなった出来事は2つあります。
1つは自身の引っ越しの時の体験です。2年ほど住んで引っ越そうとなるといくつかの家具はまだ使えるのに捨てなければならず、その事実に心を痛めたというのがあります。
2つ目は同じようなペインを感じてる人向けのサービスがあるのかを調べたところ、なかったことです。他のものはどんどんサブスクで買わなくてもいいような時代になってきていましたが、家具はサブスクで提供している会社はおらず、ならば自分でやろうとなったのが経緯になります。
ーー貴社は個人向けにも法人向けにもサービスを展開されていますが、それぞれどのようなニーズを持たれた方が多いのでしょうか
原:まず個人向けの顧客層としては、25〜40歳の単身の方が多いです。やはりこの層の方は、結婚などのライフイベントや収入面の安定により引っ越しをされる可能性が高いことと、サブスクという物自体を使い慣れている方が多いので、家具を買うのではなくサブスクで借りるという選択肢をとられる方が多いのかなと思います。
法人向けの方はというと、大手のデベロッパーさんが多いですね。我々が提供している商材は、オフィス向けもありますが、モデルルームの構築等もやらせていただいてますので、必然的に大手のデベロッパーさんやハウスメーカーさんに寄ってきているところはあります。
また、サステナビリティへの貢献ということで、オフィス家具を買うのではなく、サブスクで借りるという会社さんも増えてきているように感じています。弊社のサービスが他社のサステナビリティにも貢献できるというのはとても喜ばしいことです。
ーー貴社はメーカー商品のほかにプライベートブランド商品も扱われていますが、なぜプライベートブランド商品を作ろうと思われたのですか
原:弊社には経営陣に家具業界で長く勤め、役員を経験している者などもいるのですが、会社として「家具の循環」に関して課題を感じていました。その理由としては「既存の家具は分解して新たな家具として作り直すというオペレーションが難しい」ということがあります。
従来の使い終わったら捨てるという直線型経済のもと薄利多売で作られた家具は、例えばベットの場合、パーツが100種類以上あるんです。我々のサービスですと、サブスクで使われ返ってきた商品は綺麗に修理してまた貸し出すという流れになるのですが、パーツが100種類もあると修理したりばらして使えるパーツだけ残すといったことが難しくなります。
そういった課題を解決するために「自分達でプライベートブランド商品を作ろう」となりました。
プライベートブランド商品の企画も、社内にもともと工場とつながりがある者がいたので、創業から早い段階で実現することができました。
「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」とは
ーー横浜銀行様と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約を締結されましたが、ポジティブ・インパクト・ファイナンスとはどのようなものなんですか
原:「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」はSDGsの達成に向けた企業活動を審査・評価する仕組みの融資です。今回は横浜銀行様との取り組みになりますが、弊社と横浜銀行様の間だけで行ったわけではなく、間に浜銀総合研究所様というシンクタンクの会社がいらっしゃいます。
流れとしては、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が策定したポジティブ・インパクト金融原則にもとづき、浜銀総合研究所様が当社の企業活動やSDGsに関する取り組みを分析・評価したものを、第三者評価機関による意見書を取得することによって透明性を確保するといったものです。また、サステナビリティに貢献するために各項目で目標とKPIを立て、3年間にわたって毎年モニタリングしていただきます。融資して終わりではなく、その後も継続的にサステナビリティに意識して取り組んでいるかをチェックされるという形ですね。
ただ、融資の仕組みとしてはその他の融資と異なるわけではなく、通常の当座貸越という融資方法として出していただいて、サステナビリティの観点から実施する評価とそこに第三者意見書を加えてポジティブ・インパクト・ファイナンスとなる仕組みです。
ーーどのような点が評価されたのでしょうか
今回のポジティブ・インパクト・ファイナンスでは個人向けのサービスにフォーカスしたのですが、インパクトカテゴリーとして評価していただいた点は「住居」「雇用」「資源効率・安全性」「廃棄物」の4点になります。
インパクト 特定したインパクト ① 良質な住環境を提供することで顧客満足度の向上につなげる ポジティブインパクト「住居」 ② 従業員の生産性向上及び雇用創出・労務リスクの低減 ポジティブインパクト「雇用」 ネガティブインパクト「雇用」
③ 製品使用の 2 周目率の増加・平均継続月数の進捗管理 ポジティブインパクト「資源効率・安全性」 ④ 廃棄物排出量を測定する体制の構築 ネガティブインパクト「廃棄物」 この中でも特に力を入れて取り組んでいるのが③と④になります。③に関しては、社内で中古品のことを「循環型在庫」と呼んでおり、新品か中古品かではなく「循環していけるものかどうか」という視点で見ていく文化を根付かせたいと思っています。細かいところですが、普段口にする言葉を中古品というマイナスなイメージのある言葉ではなく循環在庫と呼ぶことで社員の意識を高めていくことを狙いとしています。
④に関しては、昨年レポートに出させていただいた環境省様との取り組みがあります。環境省様の効果実証事業において、脱炭素や資源循環の効果を既存の売り切りのビジネスと比較して、我々のビジネスがどれだけ環境に対してインパクトがあるのかというところを試算しました。その結果、CO2の削減量で言うと36パーセントでつまり3分の1は減少させることができるというデータが出ました。今後はCO2の排出量削減だけでなく、直接的に排気量を減らすことができているというデータもとっていければと思っています。
詳細は下記のレポートをご参照ください。
クラスの事業活動における、脱炭素・資源循環の貢献効果に関する調査結果
「やらなければいけないもの」から「やる意味のあるもの」へ
ーーこれからポジティブ・インパクト・ファイナンスなどのサステナビリティに関する融資を受けようと考えている企業様はどんなことを意識していけばいいのでしょうか
原:最近ではSDGsに力を入れていたり、サステナビリティな取り組みをしている企業は多くなっていますが、事業や取り組みの成果を「具体化」していくことが必要だと思います。
ポジティブ・インパクト・ファイナンスのような融資であったり、サステナビリティな取り組みをビジネスに繋げるには、数値化するなど目に見える形で表し、なおかつ自分達以外の第三者に評価してもらうことが大切になります。そこまでやるためには時間もお金もかかりますが、それをやることによって会社の中で意識が芽生え、「やらなければいけないもの」から「やる意味のあるもの」に変わると感じています。
また、行っていることや数値化したものをしっかりと発信していくということも大事です。社内では「サステナブルな取り組みを行っている」という認識でも、それを伝えないことにはやっていないことと同義になってしまいます。広報を通して発信していく段階で、数値化する必要性も感じられるので、サステナビリティに関する発信をすることは意味があると思います。
ーー貴社はサステナビリティなところの取り組みや発信などを積極的にされていますが、どのような体制で推進されているんですか
原:弊社は社員一人一人のサステナビリティに対する意識が高いので、いわゆるサステナビリティ推進室や委員会などがあるわけではなく、全社で取り組んでいます。
代表の久保がもともとサステナビリティへの意識が高いので、私もそうですが必然と同じようにサステナビリティに関心がある人が集まっているのもあるかと思います。
ーーこれからの戦略・展望について教えてください。
原:目標としては循環型在庫をためていってより多くの人に使っていただき、CO2の削減の割合をもっと増やしていくことです。
それと同時に弊社としてのサステナビリティへの貢献についてもより多くの面で可視化できればと考えています。
さいごに
今回の取材では融資に関するお話を伺いましたが、サステナビリティに関する取り組みが融資という目に見える形でプラスとなるということをより多くの方に知ってほしいなと感じる内容でした。
近年はSDGsやサステナビリティに力を入れられている企業さんも増えていると思いますが、それがビジネスに還元されている企業は中々ないと思うので、多くの企業にとってお手本になるのではないでしょうか。
今後も株式会社クラスの動向から目が離せません。
SDGs connectディレクター。企業のSDGsを通した素敵な取り組みを分かりやすく発信していきたいと思います!