どちらかが上ではない、事業を共創するパートナーだ|JICAが進める国際協力

2022.02.08

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

開発途上国の課題解決は、SDGsの達成のための重要な取り組みだ。

SDGsの達成のためには、開発途上国の課題解決を国際的なパートナーシップのもと、進めていく必要がある。JICA(独立行政法人 国際協力機構)は「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を行い、民間企業と連携しながら、世界各国で事業を共創している。

今回は、JICAとスペシャルティチョコレート専門店「Minimal-Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」を経営する株式会社βaseの取り組みについてインタビューを行った。

ニカラグアの農家とのビジネスを、開発途上国の課題解決というアプローチで展開している株式会社βase。その鍵は、SDGsのキーワードでもあるパートナーシップをJICAと組むことだった。

JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業【提供】JICA(独立行政法人国際協力機構)

開発途上国はパートナー|ポテンシャルを見つめる重要性

ーーお2人の自己紹介をお願いします。

名井:JICAの名井と申します。ニカラグアには2021年まで5年間滞在し、後半はニカラグア事務所の所長をしていました。今日はよろしくお願いします。

JICAとニカラグアとの事業の繋がりは2021年で30年目になりました。ニカラグアでは、JICAの全事業の総責任者としてのマネジメントの他、ニカラグアに関心を持つ企業に、ニカラグアの概要を伝えるだけでなく、JICAとの連携の形を模索するなど、現地のJICAならではの提案や情報提供もしていました。

山下:株式会社βase代表の山下と申します。

2014年にスペシャルティチョコレート専門店「Minimal」を立ち上げました。チョコレートの製造は基本的には生産地・工場・パティシエが分業しているのですが「Minimal」ではカカオ豆からチョコレートまで同じ工房で全て手仕事で仕上げるBean to Barスタイルのハンドクラフトで製造を行っています。

質の良いカカオ豆を探すことを大切にしており、2016年にカカオ豆の買い付けに初めてニカラグアを訪問した際に、ポテンシャルを感じました。2019年にJICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業の案件化調査事業に採択され、JICAの力を借りながら、どのようにすればよいバリューチェーンを作っていけるのかを調査し、できることを一緒に模索してきました。

Bean to Bar:カカオ豆からチョコレートバーになるまで一貫して製造を行うこと。
Minimalのチョコレート

Minimalのチョコレート

ーーニカラグアについて魅力や課題などについてお聞かせください。

名井:その質問をいただくことは多いのですが、1番に言うことは決まっています。ニカラグアの良さは人だと思います。

ニカラグアの人は素朴で、ずるさがなく、真面目なので、仕事のパートナーとしてとてもやりやすいんです。一所懸命に頑張ってくれる印象が強いです。

ニカラグアの課題は資源国ではない中、産業化ができていないことです。企業誘致を頑張っても、単純で安い賃金をあてにした労働が多いです。農牧業は多くの雇用も支えている主要産業ですが、生産物にどのように付加価値をつけていくかが大きなテーマになっています。

ニカラグアの風景

山下:南米はヨーロッパの人が入ってきて開発が進むのですが、良くも悪くもニカラグアは未開拓な土地です。

本当に良い豆を探している私たちにとって、量産品種に植え替えられない、ニカラグアの豆の土着の素晴らしい品種は魅力的でした。

一方、効率が悪いというデメリットもあります。奥地の豆を港に持ってくるだけで、ニカラグアから太平洋を超えて日本に輸送するほどのコストがかかってしまいます。輸送コストが単純に2倍になってしまいます。

また、名井さんがおっしゃっていたように素朴で真面目な一面があり、頼んだ仕事をしっかりとやってくれます。中南米だとなかなか珍しい国だと思います。(笑)

 

ーーβaseはJICAの案件化調査を活用されたとのことでしたが、どのようなことをされたんですか?

中小企業・SDGsビジネス支援事業案件化調査・・・途上国の課題解決に貢献し得る技術・製品・ノウハウなどを活用したビジネスアイデアやODA事業に活用する可能性を検討し、ビジネスモデルの策定をJICAが支援する。詳しくはこちら

山下:コモディティの価格で売るのではなく、付加価値をつけて売れるカカオ豆をどのように作っていくか、そのためのポテンシャルはあるのか、サプライチェーン上の問題はなんなのかというバリユーチェーン全体を調査しました。

全土の100~200の農家を束ねる組合に訪問して現状を調査し、100サンプル程度のカカオ豆集め、チョコレートにして品質評価とフィードバックをする取り組みも行いました。

その間に、農業施設や豆の管理方法、物流網のパートナーなどもヒアリングし、ニカラグアの平均値を明らかにする取り組みを行いました。

その上で、やはりビジネスをはじめることが重要だと考え、ニカラグアの農家のみなさんに利益を落とすために、JICAとの取り組みとは関係なく、実際にカカオ豆を購入し、そこから取引を継続しています。

コモディティ:付加価値で差別化されていない一般的な商品

付加価値の共創|想いを汲み取る重要性

ーー開発途上国とビジネスを共創していく上で、何が重要でしょうか?

名井:ニカラグアは、飢餓に苦しむような国では無いのですが、世界レベルの競争に勝てるような産品や産業化ができていないので、次の発展段階に進むことがなかなかできず、知名度も上がりません。
ですので、日本の企業でニカラグアに関心を持ってくれる企業はほとんどありませんでした。

現地の人も、ビジネスと開発の共創を考えているというよりは、とりあえず売れるものをつくり、収入を得る方法をまだ模索している状態です。

ただ、JICAがSDGsを推進していくためには、民間企業との連携は重要だと思っていました。わたしたちとは異なる観点から、開発課題にアプローチしていくことが必要だと考えていた中、自身が儲けるだけでなく、相手国の人々の生活や能力の向上をも目指すという、明確なポリシーを持った山下さんが登場し、ぜひ、この会社と一緒にニカラグアで何かやってみたいと思いました。

山下:ビジネスはどのレイヤーでやるのかが重要で、規模を求めるなら質よりも量を重視してコモディティ豆を扱って規模を大きくやることが金額という面では1番いいと思います。しかし、新しい価値を届けるためには、規模は小さくとも、誰もやっていないことに挑戦することが重要です。

持続的にその国とフェアな取引を続けていくために、一緒に価値を共創するパートナーになることが重要だと思っています。フェアトレードが注目されていますが、仕入れる側が買う側として上の立場になったり、支援しているという気持ちだと商売としては長く続かないと思います。あくまで農家と対等な立場で、良い品質の豆を作ってもらえれば、高い価格で買うとフラットに提示することが重要です。

今までの産業構造からすると量を売ったほうが儲かる場合もあります。それだけではなく、質を求めていくことも重要です。ニカラグアの農家の中に、お金儲けをしたいモチベーションだけでなく、自分たちがつくっているものを消費者に届けたいという純粋な想いを持っている人はたくさんいます。

純粋に良いものをつくって収入を上げたいという方農家さんに出会い、10年〜20年とかけていいものを作っていくパートナーシップを構築することが重要です。

現状ニカラグアでは、ビジネス的には競合が少ないのも特徴です。ニカラグアに行くことは誰でもできますが、誰もやっていません。チャンスが広がっているのでそれを掴むことが成功のポイントですね。

また、日本と価値観が違うので、現地の人が何を求めているのかを理解することは重要です。

ーーJICAと連携してみていかがでしたか?

山下:私たちが集められる現地の情報はやはり限られています。JICAと連携すれば、現地の政府の方針だけでなく、現地の情報やネットワークも提供してくれます。

名井さんを含めてJICAの方々はものすごい熱意を持っています。ずっと昔から現地に根ざして事業を行っており、ビジネスの大小ではなく意義があるかどうかを重視してくれます。

また、JICAと連携することで明らかにビジネスの解像度が上がります。現地でどの機関、業者に会えばいいのか、どんなルートがあるのか、物流網の特徴などを教えていただけます。開発途上国では情報が命なので、生の情報を持っているのはとても強いと思います。これまでは行ってみて失敗することも多かったのですが、JICAのおかげでビジネスの効率が上がりました。

さらに情報の解像度が上がるだけでなく、日本の代表として昔から現地で活動を続けてらっしゃることを誇りに思いましたし、私も本気でなにかできることをやりたいと思えました。正直、ニカラグアに対するモチベーションがとても上がりました。

安心してこの国で商売を続けられると思いますし、他の国に進出する場合も含めJICAの事務所に連絡してから海外にいくようにしています。

ーーSDGsへの想いを聞かせてください。

名井:SDGsをどのような内容にするかについて世界で議論されている頃、JICAのSDGs担当でした。

SDGsは、その前段のMDGsと比べ認知度が全く違います。SDGsを通じてみんなが環境や開発の話に関心を寄せているのはすごいことだと思います。

JICAは教育や保健医療、インフラ整備などのベーシックな協力の歴史は長く強いのですが、実際に生活を営んでいる人にしてみれば、それらが満たされたら、次は稼いで、さらに生活水準を上げたいという要望が出てきます。そこに関しては企業のほうがプロだと思います。

ニカラグア政府もJICAもこの国のカカオ豆のポテンシャルは感じていたものの、具体的にどう踏み出せばいいのかを模索していました。そこにチョコレートのプロである山下さんたちが来てくれて、何をどうしていけばいいか具体的に導いてくれた。私もカカオについて随分教えてもらいましたし、今後この事業をどう展開していこうかと一緒に考えていくのはとても楽しかったです。こうしてJICAと企業がお互いの強みを生かし補完しあえるととても効果的だと思います。

山下:ビジネスの観点からすると、どのように利益につながるのかが重要です。ボランティアでは持続可能性がありません。

利益が上がることとSDGsを促進することの2つが二律背反して遠いものだと捉えられがちなのですが、実はそうではありません。

難しいのは、JICAの民間連携事業ではニカラグアの国全体の視点で、ある意味で底上げをできるかが求められますが、私たちはニカラグアの全ての農家と取引できません。全体最適と個別最適をどのようにバランスをとるかは難しい問題です。

SDGsのゴールは、誰もがやったほうがいいと言うと思うのですが、目の前の利益とつながらないように見えることが大きな課題だと思います。ただ、SDGsを考えることで、長期的に社会をどう良くしていくかという共通の目標を共有でき、その未来につながっているかという視点を持って取り組めることが良いところだと思います。その実現のためにJICAなどと連携して、民間が強みを発揮することは価値があることだと思っています。

おわりに

今回の取材では開発途上国の課題をビジネスの力で解決するアプローチについて話を伺った。成功のカギは開発途上国と企業が対等な立場で連携し、ビジネスモデル、そして、その価値を“共創”することだということが分かった。

これからSDGsに取り組もうと思っている企業は、世界の課題に目を向け、ビジネスを通して解決していくことが重要かもしれない。

JICAは世界各地に拠点を抱え、開発途上国の課題解決につながる日本企業のビジネス展開を支援し、日本、そして開発途上国の発展に寄与すべく取り組みを行っている。企業はSDGsの推進とビジネスを両立させるために、このような連携も視野に入れていてはどうか。

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