誰から見ても100%エシカルなものは無い|「想い」を持って一次情報を知る大切さ

#持続可能#環境#開発途上国 2021.12.10

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

近年、ファッションの分野でも環境問題が注目され、さまざまなブランドからサステナブルな製品や取り組みが発表されている。

今回はカナダのモントリオールに移住し、環境に配慮した素材を使用したニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」のデザイナーを務める寺本恭子さんにお話を伺った。

お話を伺い見えてきたのは、素材の背景に隠されたストーリーの大切さだった。寺本さんが考える良い素材の定義とは何なのか、探っていく。

ラグジュアリーを追求して見つけた、良い素材の定義

ーーまずはじめに、自己紹介をお願いします。

寺本::ニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」のデザイナーをしております、寺本恭子です。

慶応大学の商学部を卒業後、好きだった洋裁を極めるために服飾デザインの専門学校に入り、デザインを学びました。専門学校卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナーの松居エリさんのもとで学ばせていただきましたが、1997年に父が亡くなったことをきっかけに、祖父が営んでいた老舗の国産ニット帽子メーカーである吉川帽子株式会社を引き継ぎました。従来は、他社ブランドの製品の製造、いわゆるOEM生産をメインで行っていましたが、2004年に自分のブランドであるami-tsumuliを立ち上げ、フランスのパリでデビューしました。

もともとラグジュアリーな世界が好きだったので、その想いをニット帽子に込めていたのですが、2013年にエシカルラインであるami-tsumuli white labelを立ち上げて、素材の背景のストーリーを意識したものづくりをするようになり、現在にいたります。私生活では2014年に東京からカナダのモントリオールに移住しています。

ーー専門学校卒業後は具体的にどのようなことをしていたのですか?

寺本:「自分のブランドを作りたい」という夢があったので、デザイナーのアトリエで働いていた27歳くらいのときに「自分の時間を大切にする」をコンセプトとしたオーガニックコットンの部屋着のブランドを考えました。

20代のときから、人が見るところにお金を使うよりも、誰も見ていない自分だけの空間にお金を使ったり、自分だけの時間を大切にすることが好きだったんです。当時はすでにバブルが弾けていましたが、世の中的にはまだ外に贅沢を求める風潮があったので、周りの人に伝えたら、「変わってるね」「自分の時間にお金を使う人なんていないよ、家ではボロボロのジャージでしょ」と言われました。ですが、師事していた先生が「やりたいなら一度作ってごらん」と仰ってくださり、自分のポケットマネーでコレクションを作り、ギャラリーで展示した経験があります。

ーー現在はモントリオールで生活されてるとおっしゃっていましたが、モントリオールと日本の生活の違いなどはあるのでしょうか?

寺本:私は日本が大好きですし、自分が日本人であることに非常に誇りを持っていますが、モントリオールに移住してからはとても開放されてる感じがありますし、日本にいたときは無意識に無理してたのかなと感じるときもあります。

私自身、見た目は割と普通ですが、話してみると変わっていると言われることが多く、そこを隠していた部分もあったんです。変わっている部分を見せると、面倒くさくなるので普通に合わせていたこともあったのですが、モントリオールでは個性を出しても皆さん一人ひとりの個性が強いので、その他大勢の個性として捉えられるんです。個性を出せば出すほど、自分に合った人が寄ってくるので、日本でのお友達の数よりは少ないですが、その分ディープなところで繋がっている友達が何人もできました。

ーー製品を作る上で、何か一貫して大切にしている考え方などはお持ちですか?

寺本:エシカルという言葉が最近出てきましたが、もしそういった言葉を使うのであれば、いつもエシカルなものづくりをしようとは自然に思っています。

自分だけにとって一番良いことや、自分の会社が儲かることよりも、社会全体が良くなるために今自分がどのような選択をしていくかを昔から大切にしています。

ーー2004年にami-tsumuliを立ち上げたときから、環境に配慮した素材を意識してニット帽を作っていらしたのですか?

寺本: 2004年のときはまだエシカルという言葉も浸透しておらず、私もエシカルという概念を意識していませんでした。

もともとラグジュアリーな洋服の世界が好きで、いつかそういったデザイナーになりたいと思っていて、当時はその想いをニット帽に託していたという感じです。お洋服は平面のものを貼り合わせて立体的にするので、ニット帽も平面に編むのがこれまでの常識でした。ですが、私は洋裁のテクニックをニット帽に応用し、編むときに立体的に編んでいくんです。ニット帽なのにエレガントでハイヒールなどにも合わせられるような繊細で立体的なデザインで、現在も「モードへのオマージュ」をベースのコンセプトとして製作しています。

ーー2013年にエシカルラインであるami-tsumuli white labelを立ち上げたとのことですが、エシカルや環境のことを考えるきっかけとかはあったんですか?

寺本: 小さい時から、母の影響で自然食やエコフレンドリーのものなどに馴染みはありました。小学生のときの遠足のおやつが自然食のような無着色のお菓子だったり、中学生のときは私だけ玄米のお弁当だったりということもありました。

吉川帽子を引き継ぎ、クライアントの商品を作る際には、「価格をいくら以内で」「本当はこうした方が綺麗だけどコストがかかるからここを省こう」などのコスト制限がありました。そのため、ami-tsumuliは何も考えずに使いたいものを使い、やりたい技術を使ったらどうなるかを確認する実験の場でもありました。

そうした中で、素材の裏側を全く考えていなかったことにだんだん気がつきました。本当のラグジュアリーを追求しているブランドだと思っていましたが、使用している素材の裏側には悲しいストーリーが隠されていたと知り、心の底から喜べず、楽しめないファッションになってしまっていたんです。そこで、とても贅沢で良い気分になる、本当のラグジュアリーを追求したらどうなるかということで、良い素材の定義を探し直し、素材も選び直しました。

ーー「良い素材の定義」、とても素敵な言葉だと思いました。具体的にはどのように変えられたのですか?

寺本: 私たちがファッションや贅沢を楽しんでいる裏で誰かが泣いている。その状況を目にしたときに、それでも私は楽しめるかを考えた上で、背景を知っても楽しめる素材を探しました。

現在は、例えばオーガニックコットンを使用し、植物で染めるということをしていますが、このことが100%エシカルかどうかは、賛否両論だと思っています。人によって感じ方も考え方も違うので、まずは自分の目で確かめようと思ってオーガニックコットンの産地へ行ったりもしました。アメリカのテキサスやインドの南部を訪問し、オーガニックではない場合はどのような問題があるのかを自分の目で見て探したこともあります。

オーガニックならすべて良いという訳ではないですし、必ず問題点はあると思っています。エシカルの定義は時代によって変化し、人間の考えた道徳や倫理であって、時代、地域、人によって価値観の善し悪しが変わるため、誰から見ても100%エシカルなものは無いと思っています。そのため、今は自分自身で一次情報を見て良いなと思ったものを使うようにしています。

【提供】ami-tsumuli

「想い」を大切に、ファッションのスピリットにエシカルを加えていきたい

ーーファッションの分野では環境に配慮した取り組みがある一方で、大量生産・大量廃棄などの問題もあります。環境に配慮した取り組みの重要性の変化についてどのようにお考えですか。

寺本: 私は日本を離れてしまったので、日本での変化があまり分からないですが、周りの方々の意識は変わってきていると思います。

エシカルラインを立ち上げたのは2013年で、考え始めたのは10年ほど前ですが、当時はエシカルという言葉はあったものの、バイヤーの方々には知られていませんでした。

エシカルコレクションを作り、展示会で発表してもバイヤーさんがそこまで興味を示してくれませんでした。業界の方にも、「そんなこと考えていたら仕事にならないよ」「ファッションは環境を無駄にしてこそ贅沢だ」などと言われることもあり、当時は私の自己満足だと思っていました。ですが、最近では私が昔から行っていたことに対して共感してくださる方が多く、声をかけていただくことも増えていて、周りの方々の反応の変化には驚いています。

環境のことを考えることは良いことだとは思いますが、今は行き過ぎているとも感じています。ファッションの問題では、ファストファッションとエシカルファッションを比べられがちですが、これらに加えてオートクチュールなどの丁寧なものづくりの世界もあります。これらは、ただ人に自慢するためのステータスといった服ではなく、本当にエネルギーが詰まっているものだと思うんです。ココ・シャネルがどのような想いで初めてミニスカートを作ったとか、戦後で世界が落ち込んでいるときにクリスチャン・ディオールの服がどれだけ人々を幸せにしたか、などの想いがファッションの原点だと思っています。今は、贅沢品を楽しむ時代ではないのかもしれませんが、こうしたスピリットまで失ってしまうのは非常にもったいないと思っています。これまでのファッション全てを否定して新しくエシカルファッションを、というよりもファッションの原点にエシカルなストーリーをプラスしながら発展することを願っています。

ーー今後の展望を教えてください。

寺本: 環境に配慮すべきということを気にしてから20年ほど経ちますが、初めは「もっと環境に良いものを」「こんなことをしていたら環境が…」などと思っていましたが、やっていくうちにエシカルの境界線や定義が曖昧ですし、答えがないことに気づきました。

また、環境と自分には境目がないことにも気づきました。どうしても、環境に配慮したものづくりというと、初めは環境を汚さないように、縮こまりながら気をつけるイメージがありましたが今はそう思いません。例えば、そこに生えている草は環境ですが食べたら自分になりますし、自分の髪の毛も切ったら最終的には環境になります。そのため、自分が良くなれば環境も良くなり、環境全体がよくなれば自分もよくなる相互作用が働いて、常にエネルギーレベルで影響し合ってると思っています。

私が作る帽子もエネルギーを運ぶ媒体だと思っていますし、帽子だけでなく全てのものにはエネルギーがのっているのかなと思っています。おにぎり1つとっても私のことを大好きなお母さんが心を込めて作ったおにぎりと、私のことを嫌いと思っている人が作ったおにぎりと、ロボットが作ったおにぎりではそれぞれ違うと思うんです。何が違うかを明確に言葉で表現することは難しいですが、こうした「想い」の部分を大切にしていきたいです。

環境に配慮した素材も「想い」の1つの形であって、農薬の量が少ないから良いというわけではなく、農薬を少なくしようと思った育てる人の想いがのっている。だからこそ素材だけではなく、職人さんとのコミュニケーションも非常に大切にしています。「こんな仕事やってられないな」と思いながら縫われるのと、「ami-tsumuliのために」と縫ってもらうのでは違いますよね。そうして、いろいろなエネルギーが一体となって、私の作った帽子を必要としてくれる人、想いに共感してくれる人に届けて、その方々の幸せをサポートできるようになったら嬉しいです。

さいごに

ファッションの分野では大量生産・大量廃棄が問題となっているが、モノの背景を知り、ストーリーを大事にすることが持続可能な未来に結果的に繋がっていくと感じた。

これから全てのものをエシカルにしていくことはおそらく限界がある。そうしたときにファッションのスピリットは失わず、エシカルなストーリーを足していくといった寺本さんの考え方がこれからの時代に求められていることだと感じた。

心地よくモノを身に付けられる未来を目指す、寺本さんのこれからの活動に注目していきたい。

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