レゴジャパンが「遊びの力で」変えていく|子どもの深刻な貧困問題

#子ども#家庭#貧困 2022.11.16

この記事をSNSでシェア!

 

【更新日:2022年11月18日 by 三浦莉奈

厚生労働省によると、日本の子どもの貧困率は平成21年には15.7%、ひとり親家庭の貧困率は50.8%となっている。ひとり親家庭に関しては2人に1人が貧困である計算だ。

こうした子どもの深刻な貧困問題を変えるために、レゴジャパン株式会社と認定NPO法人 フローレンス が共同でプロジェクトに取り組んでいる。

今回は、レゴジャパンの中島氏とフローレンスの山崎氏に、それぞれのビジョンや事業内容、創りたい未来について詳しくお話を伺った。

わたしたちが遊んできたレゴ®ブロックの力で、どのように子どもの貧困問題を解決するのか迫る。

遊びながら学ぶことの価値を世界に広げたい

ーー自己紹介をお願いします。

中島:レゴジャパンの中島です。2018年から現職に就いています。

会社の持ってるリソースの管理を通じて、より多くの子供に遊びを通じて学ぶ体験を提供していく事が主な仕事です。

山崎:フローレンスの山崎です。2021年からの所属になります。

学生時代から仕事を通じて社会課題を解決したいと考えており、日本を代表する認定NPO法人であるフローレンスに入社しました。

ーーレゴジャパンのビジョンについて教えてください。

中島:レゴ®という言葉はデンマーク語で「よく遊べ」という意味があります。

レゴグループのビジョンは、「遊びながら学ぶ」という価値を世界に根ざしていくことです。私たちは、遊んでいるときに子供の「学び」が非常に活性化され、人の成長に繋がると考えています。そのため、遊びを通じて学ぶことを大切にしています。

また、私たちは、基本的にすべての子どもがどのような環境にいても平等に遊ぶ機会があるべきだと考えています。より多くの子どもたちに「遊びを通じて学ぶ」体験を広げていくということが私たちのビジョンであり使命です。

レゴ ブロックの良いところは、物理的に手足を動かす点、イメージしたものを思い出しながら作るために空間認識力が養われる点、作った作品を「すごいね」と褒めてもらえたり、「これ難しいね」と話したりするなどのコミュニケーションを通じた社会性が育まれる点などがあります。

現代社会はとても変化が激しく、複雑な世の中になってきています。その中でもレゴ ブロックを通して、自分の足で立てるライフスキルが身につくと信じています。

また、子どもだけではなく、大人でも引き続きレゴ ブロックを通じて、自分の考えを活性化していくことができると考えているので、対象年齢は0歳~99歳以上で考えています。その中でも、子供は特に未来を担っていく可能性が大きいと考えています。

ーーレゴジャパンの事業内容についても教えてください。

中島:基本的にはレゴ ブロックベースの事業展開をしています。

具体的には、レゴ ブロックのラインナップを増やしたり、ターゲットのオーディエンスを広げて、より多くの方に遊んでいただけるように努力しています。

また、レゴ ブロック以外の領域として、「レゴ エデュケーション」という教育機関で活用される教材やソリューションの提供も行っています。

レゴ エデュケーションは、ハンズオンの手を使ったブロック教材と、デジタルの融合で、子どもたちが創造力や論理的思考力、問題解決力を伸ばしていけるように工夫されたものです。近年では特にSTEAM教育* やプログラミングなど、テクノロジー分野に力を入れています。

STEAM教育*:科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語。
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)。アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。知る(探究)とつくる(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な学びのこと。
【引用:STEAM教育って?

ーーサステナビリティ推進への戦略や社内の動きはありますか?

中島:未来の担い手を育成していくことが私たちの使命です。持続可能な社会を実現するために私たちが果たすべき役割を果たして、環境にも社会にも良い影響を与えることを大切にしています。

レゴグループには、プラネットプロミスと呼ばれる理念があり、その中で3つの柱を掲げています。3つの柱は、「子ども」「環境」「人」です。

「子ども」については、「遊びながら学ぶ」ことを根ざしていく事が持続可能な社会実現に直結していると考えています。さまざまなご家庭の事情によって、普段の遊びにレゴ ブロックが介入することが難しいご家庭もあるので、ボランティアベースでもきちんと繋がりを持っていきたいです。

具体的には、「レゴ®ファウンデーション」という団体のサポートを得ています。レゴ ファウンデーションでは、レゴグループ全体の25%の利益を利用し、未来の担い手を育成するためのさまざまな活動を行っています。例えば、現在の0歳から6歳の子どもたちは、直近のコロナの影響を大きく受けています。この課題を解決するための革新的なアイディアを募集するコンペを行い、過去最大の1億4300万ドルの助成金を支給することを発表しました。遊びをしてるときに一番学びは活性化されるという研究もレゴファウンデーションで行っています。

環境の面では、2030年までにレ ゴブロックの全てのパーツを持続可能な資源由来のプラスチックにしていくことをミッションとして掲げています。

直近の進捗では、サトウキビ由来のプラスチックを使った製品を既に発売したり、使用済みのペットボトルを再利用した製品の試作品も発表してます。また、プラスチックの袋にパーツが入っているのですが、この小袋を再生可能な紙袋に移行することを今年から始めています。

子どもを持つ家庭の苦しい現状を変えたい。

ーーフローレンスについて教えてください。

山崎:フローレンスは、2004年に設立した認定NPO法人です。活動自体は2005年にスタートしています。(※認定NPO法人取得は2012年)

ビジョンとしては、「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」を掲げています。

ーー設立のきっかけを教えてください。

山崎:フローレンスの代表理事である駒崎の母親がベビーシッターをしており、その母親との会話がきっかけでした。

ある日駒崎の母親は、いつもベビーシッターを利用していたお母さんから急に「明日から必要ありません」と言われました。そのお母さんには、双子の子どもがいたのですが、風邪を引いてしまい、1週間以上会社を休まなければならなくなったそうなんです。その結果、会社を事実上のクビになってしまい、ベビーシッターを利用しなくてもよくなったというのが理由でした。

母親との会話でこの出来事を聞いた駒崎は、当時IT企業の経営をしていましたが、そんな社会の体制に怒りを覚えて、社会を変え、悲しい現実を新しく塗り替えていくために、フローレンスを立ち上げました。

ーー具体的にどのような取り組みをされていますか?

山崎:病児保育や待機児童問題に対する取り組みなどさまざまなことに注力していますが、レゴジャパンさんとの取り組みは、こども宅食の利用家庭に対して行っています。

日本では、支援が必要な状況にも関わらず、役所に行ったり、支援機関と繋がっていない家庭が多くある現状があります。

困っている人から助けを求めに行くのではなく、周りから積極的に声掛けをして支援機関へ繋げていく、福祉のアウトリーチを目的としてこども宅食事業を行っています。

レゴジャパン×フローレンスで子どもたちの未来を明るく。

ーーレゴジャパンとフローレンスが共同で行っている取り組みについて教えてください。

中島:レゴ ブロックを提供し、遊びを通じて学びを広げる活動をしています。

おもちゃを通じて遊ぶことが難しいご家庭があることに課題を感じていました。そのため、ボランティアベースで遊ぶ価値、遊んでもらうことの良さをわかってもらうことを目指しています。

そこで、フローレンスが繋がっているご家庭との繋がりを持たせていただいてます。

ワークショップを始めてからは、大きめの6色のブロック1セットを、1家庭2セットお渡しして、体験していただいています。これまで全国で3000セット以上を寄付してきました。

例えば、6色のうち3つを使って私たちが組み合わせを作り、できたものを10秒見てもらった後、隠して、30秒で同じものを再現してみようといった遊びを紹介しています。これだけでも永遠に遊べますし、好きな動物を作ってみましょうという遊びなど、何を作ったのか、どのような特徴があるのか、どのようなものが好きかを教えてもらいながら、子どもたちとコミュニケーションを図っています。

ーー共同で行うことになったきっかけを教えてください。

山崎:2019年のクリスマス頃に、全国の「こども宅食」運営団体を通じてレゴ ブロックを配布させていただいたことがきっかけです。

遊ぶ機会自体が少ないご家庭に、製品を届けることで、少しでも貢献したいと考えました。

初めは製品の寄付だけでしたが、ただ物を渡しても、どのように遊んだら良いのか分からなかったり、同じような遊び方しかできなかったりするので、遊び方を知ってもらうために、オンラインワークショップ活動を広げています。

ーー日本の子どもたちの課題を教えてください。

山崎:日本では、7人に1人が相対的貧困という現状があります。

相対的貧困の特徴は、経済的な理由などで体験の機会が持ちづらいことだと考えています。

例えば旅行に行くこと、習い事に行くこと、遊ぶ物が買えること、そういった機会の格差があるのが現状です。

私たちはまだ、相対的貧困で悩んでいる2割の子どもたちとしか繋がれていないので、レゴジャパンさんと一緒に取り組みを広げていき、格差をできるだけ是正していきたいです。

中島:昔よりも時間がなく、忙しい子どもたちが増えていると感じています。

学校に行き、放課後は塾などの習い事に行くことがメジャーになっており、その中でも、試験を突破するための教育にフォーカスされがちになっているのが実情であると思います。

しかし、この社会で自分たちで立っていくためには、ライフスキルを伸ばしていくための時間の使い方も非常に重要だと考えています。長期的な面にも目を向けながら、思いっきり遊んで、すくすく育っていってほしいです。

バランスを取りながら楽しく生きていくことが、持続可能な社会に繋がり、未来を担う人材の育成にも繋がると考えています。

レゴ ブロックの遊びの力をたくさんの子どもたちに。

ーー実際に支援を受けた子どもの様子を見て、どのように感じましたか?

中島:実はレゴジャパンで働いてはいるものの子どもたちと直接接することはあまりないので、ワークショップを通じて、子どもたちと接することで原点回帰できていると感じています。

あまりレゴ ブロックに遊び慣れていない子どもたちでも、それをあまり感じさせないぐらい、楽しんでくれて、質問してくれたり、作ったものを見せてくれたりしました。

そうした子どもたちの姿を見て、全ての子どもに対して遊びが平等にあるべきだと痛感しましたし、遊びでいろいろな可能性が広がると感じました。そのため、今後もより多くのご家庭に笑顔を届けていきたいです。

さいごに

レゴジャパンの遊びを通して学びをつくるというビジョンと、フローレンスのすべての子どもたちに明るい未来を提供するというビジョンがマッチすることで、持続可能な社会の実現に大きな影響を与えていることがわかった。

少ないブロックから無限の遊びが広がるレゴ ブロックは、机に座って学ぶだけでは得られない力が込められている。

これからの未来を創る子どもたちが、自分の人生を自分の力で切り開いていくために、「遊び×学び」を提供する、レゴジャパンとフローレンスの取り組みに注目だ。

この記事をSNSでシェア!

  • ランキング

    「SDGsは胡散臭い」と言われる5つの理由【解説】|原因から解決法まで徹底解説

    《あなたは正解できる?》SDGsを目標別のクイズで学ぼう!SDGsクイズ

    日本のLGBTの割合は人口の約10%-高校生での割合や海外との比較も紹介

    新着記事

    省エネからSDGsへ|ブロンコビリーが取り組むサステナブルな取り組み

    SDGsの基礎知識

    食品ロスとは?原因や日本と世界の現状、家庭でできる対策を紹介

    もっとみる

    おすすめ

    ビジネスとして社会課題を解決する |ニューロン 西井が語るSDGsとソーシャル・ビジネス

    コミュニケーションで創るパートナーシップ|株式会社コングレの取り組み

    業界を巻き込みR&Rの推進へ|アクタスが目指す家具を廃棄しない世界

    どちらかが上ではない、事業を共創するパートナーだ|JICAが進める国際協力

    制度という箱の提供だけではなく、活用しやすい環境や風土が大事|森永乳業が推進する人的資本経営