企業がSDGsやサステナビリティを意識することが当たり前になってきていますが、その取り組みをビジネスに繋げ、成功されている企業はそれほど多くはありません。
今回は従来のごみ袋との比較で約20%のCO₂を削減するごみ袋「nocoo(ノクー)」を販売し、従来品と遜色のない品質・価格を実現させた日本サニパック株式会社の皆さんに、どうすればサステナビリティをビジネスに繋げられるのかや地域貢献活動についてお話を伺いました。
SDGsはボランティアではなく、ビジネスチャンスになる
ーー自己紹介をお願いいたします
井上:日本サニパック株式会社 代表取締役社長の井上充治と申します。弊社の親会社である伊藤忠商事の出身でして、化学品、合成樹脂の販売に加え、DVDソフトの販売、北欧家具、高級通販など生活消費関連の事業経営を経験してきました。また、イギリスに6年とドイツに3年の駐在経験を経て、2015年より弊社にて代表取締役社長を務めています。
日高:経営企画本部でSDGsオフィサーを務めております日高真由美と申します。1995年に受注課に入社し、2021年に経営企画本部に異動となり、2022年にSDGsオフィサーに任命していただきました。SDGsオフィサーになってからは、マテリアリティの策定や重要会議などにおいてサステナビリティ観点で評価をするなど、当社としてどんなサステナビリティができるかを日々考えています。
小塩:営業本部 ごみ袋相談デスクの小塩勝男と申します。私は長年バックオフィスで総務や経営企画などをやってきましたが、昨年(2023年)にごみ袋を自治体に対して展開していきたいという会社の方針にあわせ設置された「ごみ袋相談デスク」というごみ袋を自治体に向け紹介する専門委員を務めております。
ーーいつ頃から、どのような体制でSDGs(サステナビリティ)を推進されているんですか
井上:2018年頃からヨーロッパなどで話題となっていた「プラスチックは良くないのではないか」という大きなうねりが、プラスチックを主原料として製品を作っている会社としてどうあるべきなのかを考え直すきっかけとなりました。
2020年から具体的にSDGsに力をいれていこうとなり、まず始めに外部のコンサルタントとして田瀬和夫さんをお迎えし、年に4回の全社員向けの講習をスタートさせました。その講習で「SDGsはボランティアではなく、ビジネスチャンスになる」という言葉を受け、SDGsの考え方を経営に取り入れていくことが重要だと感じ、2021年に事業内容や商品開発に至るところまで、未来を見据えたSDGs経営を掲げ、2030年までにプラスチック使用量を50%、CO₂排出量を40%削減することを目標として設定しました。また、この目標を実現させるべく環境配慮型ごみ袋「nocoo(ノクー)」の製造・販売を開始させました。
日高:2022年の4月に私がSDGsオフィサーに任命されるわけですが、まずはマテリアリティの策定を行いました。多くの会社は経営層やコンサルタントが策定し、トップダウンしていくと思うのですが、当社では全社員の意見を聴取しまとめ、決定前にも全社員に確認したうえで策定しました。
そして2023年以降は、マテリアリティに対してのアクションプランを定めております。こちらは各部署から代表メンバーを1人ずつ選定し、各部署のメンバーから意見を吸い上げて、全員の意見が含まれたアクションプランを作っています。
環境に優しいだけでは買ってもらえない
ーー環境配慮型商品「nocoo(ノクー)」のコンセプトを教えてください
井上:nocooは「NO CO₂」を意味しています。焼却時、またLCAベースで従来のごみ袋との比較で約20%のCO₂削減を実現させています。同時に約20%のプラスチック使用量の削減を実現することにより、環境を守ろうとするものです。
nocooの商品企画段階で環境問題に関する消費者調査を実施したところ、当初コンセプトとしようとしていたプラスチック削減は5位でした。では何が1位だったかというと、CO₂(温室効果ガス)削減だったんです。この結果からコンセプトをプラスチック削減ではなく、消費者にとってより需要があるCO₂削減にしました。
ーーnocooを企画・開発していくにあたって苦労した点はどこですか
小塩:プラスチックの使用量を抑えるために、天然のライムストーン(石灰石)や再生ストレッチフィルムをリサイクルしたものを使用しているので、100%のプラスチック(ポリエチレン)で製造されている従来のごみ袋よりも強度が弱くなることや、コストがかさんでしまうことが問題点としてありました。
しかし、環境に配慮した商品だからといって性能やコストの面で従来品に劣っていたら、買ってもらえないというのはわかっていました。従来品と同じ価格・品質でなおかつCO₂が削減できる商品にするため試行錯誤を繰り返したところが苦労した点です。
井上:マーケットリサーチを行うと小塩が言ったように、環境に優しい商品にお金を払うかと言われたら、それだけでは払わないことがわかりました。また、環境に配慮した商品にすると機能面がどうしても劣りやすいのですが、消費者からすると「環境に優しいことはわかるけど、機能面が劣っているなら安くていいじゃない」となるんですよね。一方でコスト面は環境に優しいものにしようとすると新しい素材を使うことが多いので高くなりやすい。そうすると売り手と消費者のギャップが大きくなるので、どこで折り合いをつけるかというのが今回の課題でした。
そこで我々は仮説として「従来品と同じ品質とコストであれば売れるのではないか」と考えました。結果的にnocooは従来品と変わらぬ価格でありながら、使用者の約9割(※)の方が強度に満足し、さらに環境にも優しいという三拍子そろった商品となりました。
※「株式会社アスマーク調べ 期間:2020年10月1日(木)~10月23日(金) n=148」
ーー実際に販売していくうえで、意識したことや力を入れた点はどこでしたか
井上:外部のマーケティングの専門家の方とも議論することがあったのですが、商品の価値というのは「機能的価値・情緒的価値・社会的価値」という順番で成り立っているとおっしゃっていました。今回のnocooは社会的価値を売りにした商品になり、機能的価値は従来品と変わらないものを目指しましたが、ごみ袋にはブランドなどを意識することはあまりないので情緒的価値はさほど関係なく、マーケティングが難しい商品だと言われました。
情緒的価値をどこで出すか考え、出した答えが「ごみ袋のデザイン」です。例えば、子どもたちがデザインしたものや自治体ごとに西宮市であれば市の花であるサクラを、芦屋市であれば芦屋の街並みをデザインするなどがあります。東京オリンピックの年には、渋谷の長谷部区長のアイデアで、渋谷のごみステーションをお花畑にしたいというプロジェクトとして、ごみ袋をお花のデザインにもしました。また、弊社の応援団長として2020年にバーチャルタレントの「キズナアイ」、2022年からは「シナモロール」が就任しており、こちらもファンの方々からしたら情緒的な価値となっているのかなと思います。
小塩:また、自治体に対してのアプローチも力を入れています。自治体の数は全国に約1,800ありますが、それらを指定状況によって指定袋なし(半透明袋の自由販売)、単純指定袋制(認定制)、有料指定袋制(入札制)の3つに分類し、nocooを使っていただけそうな単純指定袋制の自治体にあたっていき、西宮市や芦屋市で自治体指定袋に採用していただきました。
3つのすごいが実現させた商品化
ーー渋谷区の臨川小学校で課外授業をされたそうですが、概要について教えてください
井上:渋谷区には「シブヤ未来科」という探求学習の授業が設けられているのですが、その一環として今回課外授業をさせていただきました。2023年の11月にも第一回目として授業を行っていまして、今回は2回目でした。
前回の授業では当社が行っている環境への取り組みを紹介した後に、児童にごみ袋のデザインをしてもらいました。そして今回は、児童のデザインをあしらったごみ袋を商品化し、サプライズでお披露目を行いました。
ーー今回の取り組みはどのような経緯でやることになったのでしょうか
井上:きっかけは臨川小学校5年生の担任の先生の「環境問題について考え、考えたことを何らかの形で学校外に発信していきたい」という強い思いでした。
シブヤ未来科の授業をコーディネートするコーディネーターの方が各学校にはいるんですが、以前に別の小学校でごみ問題に関する授業をした際に知り合ったコーディネーターの方が臨川小学校のコーディネーターの方に我々のことを紹介してくださったんです。そこで実際に先生のお話を聞き、実現に至りました。
ーー小学校での課外授業を経て、気づいたことや印象に残っていることはありますか
井上:この取り組みは「先生の思い・渋谷区の体制やコーディネーターの方々の協力・子どもたちのデザイン力」の3つのすごいがあってこそ実現した企画でした。
実は企画当初は、商品化するところまでは考えておらず、コスト面なども考慮してサンプルの中に入れる小冊子のデザインになる予定でした。しかし、先生の思いや子どもたちの描く素晴らしいデザインを見て、そんなところで終わらせていたらもったいないと、コスト面は度外視で商品のデザインにする方向で話を進めていきました。
結果的には商品化もでき、渋谷区のドラッグストアなど5店舗で販売していただけました。子どもたちのデザイン、そして気持ちが多くの大人たちを動かし素晴らしいごみ袋を作ることができました。
ーーこれからの戦略・展望について教えてください。
日高:今までやってきた小中学校での環境問題に対する授業などの地域貢献やサステナブルな商品の展開のほか、今年度からは障がい者雇用にも取り組んでいきます。
40年ほど前から北九州にある障がい者施設にごみ袋を作る仕事を頼んでいたのですが、それは職業訓練という枠組みで行われていたため、低賃金で働いてもらっている状態でした。しかし、働いてもらっている以上、出口といいますか、何年間か訓練したらしっかりと賃金がもらえる制度にしようということで、今年度にまずは1名の方を雇用し、今後増やしていければと考えています。
井上:また、ビジネスモデルとしては、nocooなどの環境配慮型商品を日本のみならず、世界に向けて販売していこうと考えています。日本の人口がどんどん減っていく中で、人口が増えていっている東南アジアを中心に展開をしていきたいと思っており、まずはブルネイから販売を始めています。
ーー貴社にとってSDGsとはなんですか
井上:SDGsとはまさに経営そのものだと思います。具体的には経営者の考え方を映す鏡のように捉えています。
今の時代では、いくら利益や売上があるということだけではなく、社会に広く認められ、誰からも後ろ指を指されないビジネスモデルが必要なんじゃないかと思っています。
日高:SDGsとは「ほったらかしにしないこと」なんじゃないかと思います。どうしても環境問題やダイバーシティなどは話が大きすぎるので目をそらしてしまいがちになりますが、いつまでもほったらかしにしていたらいけない問題ですよね。それを企業として真剣に考えて、自分達にできることをやる。それを日本にある会社の一社一社がやっていけば、少しはいい未来が待っているのではないのでしょうか。
小塩:SDGsというと、最初はすごく難しいようなことのように感じていましたが、講習を受けたり、日々考えていく中で、自分達にできることを当たり前になるまで意識し、積み重ねていく。そこが全てなんじゃないかなと思っています。
さいごに
SDGsオフィサーという役職の設置やマテリアリティの策定など足元からサステナビリティへの理解を深めていき、商品を通じてビジネスに繋げているのは、本当の意味での「サステナビリティ」でした。
また、臨川小学校での課外授業の報告として渋谷区役所へも表敬訪問されており、サニパックさんとコーディネーターの方々、そしてシブヤ未来科を設置された長谷部区長がいてこそ今回の取り組みがなしえたのだと感じました。
今後もビジネスを通じてサステナビリティに貢献し、それを地域社会や環境に還元していく日本サニパックから目が離せません。
SDGs connectディレクター。企業のSDGsを通した素敵な取り組みを分かりやすく発信していきたいと思います!