漁師との共存共栄、素材の100%活用、フードロス削減の徹底|全社で海洋資源を守るくら寿司

#持続可能#環境#食品ロス 2021.11.15

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

「安心・美味しい・安い」をコンセプトに、創業当時から四大添加物無添加にこだわった新鮮な寿司を提供しているくら寿司。鮮度と衛生面を保つ「抗菌寿司カバー」の採用や、食べ終わったお皿を利用して景品が当たる「ビッくらポン!」の設置など、独自のシステムで新たな価値観を生み出してきた。

その一方で、くら寿司は同社の事業継続に重要な海洋資源を守り、漁業創生のための支援活動を行うほか、食品ロスの削減に対しての取り組みを積極的に行っている。

いつでも先進的な技術やサービスを発案し続けてきたくら寿司は、どのような切り口で持続可能な社会を目指しているのか。

今回はくら寿司の取締役で広報・マーケティング本部長の岡本氏と、国内の店舗営業責任者で執行役員 営業本部長の藪内氏を取材した。回転寿司が担う持続可能な社会への責任とは何なのか、具体的なSDGsへの取り組みを伺う。

創業当初から変わらない安心・安全へのこだわり

岡本:くら寿司は現在全国に489店舗(※10月末時点)を展開する回転寿司チェーンです。1番のこだわりは1皿110円を原則とした非常にリーズナブルな価格でお寿司を提供させていただくことです。「自分の家族に食べさせたくないものはお店では提供しない」という信念のもと、いわゆる四大添加物を使わない体にやさしい商品を提供しています。

近年ではアメリカや台湾にも74店舗(※10月末時点)を展開しています。将来的には日本文化の代表とも言える回転寿司を世界中で食べていただきたいという大きな夢を持って事業を展開している会社です。

ーーくら寿司の企業理念について詳しく教えて下さい。

岡本:くら寿司は「食の戦前回帰」を掲げています。戦前の食事というのは米・野菜・魚を中心とした添加物を含まない食生活でした。添加物に頼らない安心・安全な食事を胸を張ってお客様に提供する飲食店を目指し、創業当時からすべての食材において四大添加物を使用していません。

ーーくら寿司といえば流れるお寿司の「カバー」ですよね。常に新しい仕組みづくりに率先して取り組まれている印象があります。

藪内:流れる寿司にカバーを取り付ける仕組みは、空気中の菌やウイルスからお寿司を守るためにはじめました。また同時に、食材の鮮度も守っています。くら寿司では、カバーによって食材の鮮度と衛生面を守ることで、どんなお客様にも安心して食べていただけるお寿司を提供しています。

回転寿司は日本発祥ですが、世界ではカバーなしでは営業許可がおりません。くら寿司はカバーがあることによって、アメリカや台湾への海外進出にも成功しました。

また、カバーがあることによって、コロナ禍でもお寿司が回っているワクワク感を損なわずに安心・安全に回転寿司を楽しんでいただけています。「抗菌寿司カバー」の技術を駆使してさらなる世界進出を果たしたいと考えています。

データをもとにしたフードロス削減|「もったいない」を全ての従業員へ

ーーSDGsに取り組む重要性をどのように考えていらっしゃいますか。またくら寿司のSDGsの取り組みの全体感を教えてください。

岡本:SDGsが何かという問いに対して単に「持続的目標」と言ってもわかりにくいですよね。企業の事業と直結したものでなければ絶対続かないと思っています。

事業と関係のないCSRに取り組むだけでは、業績が苦しくなったときに継続できない可能性があります。SDGsの幅広い17の目標から、事業に直結したものに対して真剣に取り組むことで、結果として長期的にSDGsに取り組むことが可能だと考えています。

その中で、くら寿司はSDGs目標12「つくる責任つかう責任」、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の2つに重点的に取り組んでいます。

「つくる責任つかう責任」の観点からは、食品ロスの削減に意欲的に取り組んでいます。「海の豊かさを守ろう」では、海洋資源を供給していただいている漁師さんとくら寿司、そして漁師さんと海洋資源との共存共栄を目指しています。

ーー回転寿司チェーンだからこそ、鮮度が重要で、他の食品チェーンに比べて食品ロスをへらすのは困難だと思います。食品ロスの削減を目指す中で、課題はありましたか。

藪内:くら寿司は四大添加物無添加にこだわっているからこそ、食品の保存期間が短く在庫管理が難しいという課題があります。そこで、現在はビッグデータを用いた在庫システムを構築し活用しています。

回転寿司は流れているお寿司が誰にも食べられず廃棄されてしまうことが多いという印象を持つ方もいるかもしれません。また、直接注文される方が多い印象も抱かれるかもしれません。しかし、実はくら寿司では注文よりもレーンを流れるお寿司のほうが多く食べられているんです。

今まで蓄積してきたありとあらゆるデータから時間や時期ごとに何をどのくらいの量流したら良いかを割り出し、食品ロスが最低限で済むように管理しています。

ーーくら寿司のように全国展開をしているチェーンでは、ノウハウが偏ってしまうという課題も生まれそうですが、どのように対策しているのでしょうか。

藪内:季節や地域、天気によって、フードロスを削減する基準は代わりますが、チェーン展開をしていく上で、データベースを始めとしたマニュアルは全国で基本的に統一してあります。外国の方など、さまざまな従業員が活躍する中で、誰が見てもわかりやすいマニュアルづくりは欠かせません。

また、地域によって、魚の種類を変えるなどの取り組みも行っています。

従業員一人ひとりが在庫システムなどのマニュアルを理解しているからこそ、SDGsの取り組みを自然に行えると考えています。

ーーSDGsを現場にまで隅々浸透させるために、大切にしていることはありますか。

藪内:くら寿司では、20年以上も前から常に「もったいない」「活かせるものは活かす」という考えがありました。

現場において1番大事なことは、くら寿司の考え方を継承し、「もったいない」という意識をいかに従業員、アルバイト・パートの全員に教えていくかだと思います。くら寿司ではアルバイトやパートを採用した際に簡単な研修があります。

作業内容を教える単なる研修ではなく、くら寿司の取り組みの説明からはじめ、お客様の安心安全と、笑顔のためにいかにして、良い商品を提供できるかを考えてもらう機会を大切にしています。

限られた海洋資源を無駄にしないために、アルバイトやパートの方も含めて「もったいない」を実践していくことがSDGsに繋がると思います。

「海洋資源を守る」まずは漁師との共存共栄から、素材は100%活用

ーー海の豊かさを守る取り組みについても教えて下さい。

岡本:回転寿司は海の資源がなければ成り立ちません。そして、海の資源を提供していただく漁師のみなさん無くしてはくら寿司の事業は成り立たないのですが、高齢化と後継者不足によって漁師の数は減少し続けています。現在、漁師の方は全国で20万人ほどいらっしゃいますが、2050年には7万人ほどになると言われています。今後も安定して食材を仕入れるために、漁師さんとの共存共栄、Win-Winな関係構築は必要不可欠です。

その共存共栄の取り組みの1つが110を超える漁港・漁協のみなさんとの直接取引です。漁業は収入が少なく安定しないことの2つが人材不足の要因になっています。そこで、仲買人(卸)を介さずに漁港と直接取引をさせていただくことで、市場に卸すよりも高い価格での買い取りが可能になり漁師さんの収入も増加します。

くら寿司も新鮮な魚を直接運び入れることができるので、双方にメリットがある取り組みになっています。

ーー漁業創生の取り組みは他にもあるんですか。

岡本:船の網にかかった魚をすべて買い取る「一船買い」という取り組みも行っています。取引している漁港はまだ少ないですが、年間1キロいくらと決まっており、どんな魚でも一定の値段で買い取るため、魚さえ取れれば一定の収入にはなります。漁師さんの安定した収入に繋がります。収入が2倍になった漁師さんもいらっしゃいます。

高級魚など、全国に提供するだけの量が確保できない魚は貝塚に構える「くら天然魚市場」で販売しています。直接、魚を仕入れているので価格も安く、多くの人が朝早くから買いに訪れる人気ぶりです。

また、「一船買い」で捕れた真鯛やハマチの未成魚を集め、生け簀で育てる「天然魚 魚育プロジェクト」も行っています。1年から1年半ほどの時間をかけて寿司ネタに出来る大きさまで育て、付加価値を高めた状態で出荷しています。

ーー店舗で販売できない魚も多く捕れてしまいそうですが、販売できない魚はどのようにしているのでしょうか。

岡本:まず、魚全体のうち、寿司に使えるのは40%ほどです。あとの60%は寿司のネタになりません。

この60%のうち、20%分は食べられる部位なので、くら寿司の加工センターで丁寧に取り分けすり身にし、コロッケなどに加工しています。残りの40%も捨てるのではなく、魚粉にして養殖魚の餌の一部に活用しています。

そこで養殖した魚は、くら寿司が購入して販売するという循環を生んでいるんです。

漁師のみなさんから買った魚は100%無駄なく活用し、さらにより付加価値つけるために養殖しているんです。こうして養殖し成長した魚をくら寿司が購入・販売する「循環フィッシュ」が誕生しました。

くら寿司のプレスリリースより引用

他にもくら寿司は持続的な漁業の実現のために精力的に取り組んでいる。くら寿司は、海洋資源の保全と漁業の持続可能な発展に貢献すべく、子会社「KURAおさかなファーム株式会社」を2021年11月1日に設立することを発表した。

KURAおさかなファームは、漁業協同組合に加入し、漁業権取得を経て、高付加価値な魚を自社ファームで育てる取り組みを行う。国際的基準を満たしたオーガニック水産物として、日本で初めて認証取得した「オーガニックはまち」の生産を開始。国内での流通に加え、海外輸出も視野に入れるとともに、他魚種の生産についても検討している。

また、人手不足と労働環境改善を目指し、AIやIoTを活用した「スマート養殖」も開始し、漁業のさらなる持続性向上に取り組んでいる。

関連ニュース:くら寿司100%出資のKURAおさかなファーム設立|「スマート養殖」で人手不足解決や、国内初のオーガニックフィッシュを生産

魚の魅力を引き出し、食料自給率の向上へ|くら寿司のこれから

ーー外食産業はSDGsの源泉になると言われています。近年のSDGsに対する認識の変化をどう捉えられていますか?

藪内:SDGsが世の中に浸透してくると、お客様の方が「SDGsに真摯に取り組んでいるお店を選びたい」という考えになると思います。

現状に満足してはいけないと思います。フードロス削減に取り組んでいても、まだ数%の廃棄は発生してしまっています。これを0にすることが我々の使命だと考えています。

現状に満足せず、従業員一人ひとりが自立的になにができるかを考えることで、お客様に選んでいただける企業でありたいと考えています。

ーー今後の展望について教えて下さい。

岡本:回転寿司という和食文化を世界に発信していきたいです。回転寿司はオーダーレーンや注文時のタッチパネルをいち早く取り入れた、世界の最先端をいくレストランです。
世界への進出を考える上で、誰もが満足する味と高いサービスはもちろん、それ以上の付加価値が求められていることは確かです。そこで、くら寿司は「ビッくらポン!」を含めたアメニティの強化を構想しています。

また、低利用魚と呼ばれる魚をおいしく食べる方法を開発し、国産の天然魚の普及と食料自給率の上昇に対しても貢献していきたいと考えています。

現在、1万種類以上の魚がいると言われていますが、そのうち流通している魚は500種類程度なんです。日本は海洋資源に恵まれていますが、取れる魚のうち流通する魚はごくわずかです。

中には海の厄介者として、増えすぎると好ましくない魚がいます。例えばニザダイは、魚の生活の場である海藻を食べすぎてしまい、磯焼けを引き起こします。また、身の部分に独特なにおいがあります。アイゴは匂いが独特なほか、ひれに毒針があり、双方の魚は漁師さんが収穫してもあまり市場で売れません。

しかし、くら寿司では、ニザダイにキャベツを与えくさみを消すことで商品化に成功しました。このように、デメリットをクリアすれば美味しく食べられます。こうした魚を美味しく食べられる工夫をして、日本の方々に食べてもらうことで、日本の食料自給率の向上にも寄与すると考えています。

日本の食料自給率を考えながら、国産の天然魚の魅力を世の中に発信していきたいです。

さいごに

自社の事業を中心として、海洋資源を有効活用するために、ありとあらゆる手を講じ、漁師との共存共栄も目指すくら寿司。今回の取材を通して、くら寿司は自社の事業に直結させながらSDGsの目標達成にも貢献する取り組みを行っていることがわかった。

豊かな海の恵みを届けてくれる漁業への支援は、くら寿司だけでなく今後の日本の食生活をも支える大きな意味をもった取り組みだ。海を守りたい、お客様の笑顔が見たい、回転寿司という素晴らしい文化をより多くの人に知ってもらいたいという想いを、仕組みとして体現できることがくら寿司の大きな強みだろう。

「最先端のレストラン」の、さらなる高みを目指して、くら寿司は今後もどのような取り組みを行っていくのか、期待が高まる。

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