日本企業は60点、気候変動問題のために求められる企業の構造変容

#ESG#SDGs#脱炭素(カーボンニュートラル) 2022.06.27

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現在、世界中に目を向けると、地球温暖化、海洋汚染、水質汚染、大気汚染、森林破壊など、実にさまざまな環境問題が起こっており、私たちの生活を脅かしている。

そんな中、茨城県つくば市にある国立環境研究所の江守正多先生は「脱炭素化技術の日本での開発/普及推進戦略におけるELSI の確立(JST/RISTEX)」などをテーマに研究し、現在気候変動をテーマに積極的に発信活動を展開しています。

今回は、同研究所で気候問題について研究されている江守正多先生を取材した。

カーボンニュートラルの必要性が社会で注目されているなか、企業はどのような取り組みができるのか、社会的・技術的な現状を交えつつ、お話を伺う。

脱炭素へ向けた技術の進歩|江守先生の考える未来の社会

ーー自己紹介と研究所のご紹介をお願いします。

江守:茨城県つくば市にある国立環境研究所に20年ほど勤めており、大学の卒論で扱ってから現在まで30年ほど、気候変動の問題について研究をしています。

気候変動の問題に興味を持ったのは、大学3年生のときでした。卒論のテーマを探すため、さまざまな本を読んでいたら、『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)* 第1次評価報告書』に出会い、興味を持ちました。

国立環境研究所はもともと、国立公害研究所という環境庁(現:環境省)の部局として設立されました。当時は、公害であった大気汚染や水質汚染、自然保護などについて研究していましたが、現在は、気候変動や生物多様性の問題から廃棄物問題など、あらゆる環境問題について網羅的に研究しています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)*:世界気象機関(WMO)・国連環境計画(UNEP)によって、1988年に設立された政府間組織のこと。世界中の科学者が協力しながら、定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供している。

ーー気候変動に関して、当初はどのような研究に取り組まれていたのですか。

江守:2021年にノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎さんが切り開かれた、「気候モデル」を研究分野としていました。

気候モデルは、真鍋さんが1960年代に作った数値シミュレーションのことです。CO2濃度が変化すると温度がどのように変化するのかなど、コンピュータの中に物理法則で地球を再現し、そこでさまざまな実験をするという研究です。

ーー近年では研究だけでなく、発信もかなり強化されていますよね。

江守:そうですね。現在は世の中的に、SDGsの中でも気候変動の話が挙がるようになりましたが、それ以前に気候変動の話が盛り上がったのは2007〜2008年だったと思います。

この次期は、2006年にアル・ゴア元アメリカ副大統領が環境問題への警鐘を鳴らしたドキュメンタリー映画『不都合な真実』という映画が公開され、2007年にアル・ゴア氏と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がノーベル平和賞を受賞しました。また、2008年に京都議定書第一約束期間という実際に削減を行う期間が始まったり、同年に北海道洞爺湖サミットがあったりと、温暖化の話題がよく取り上げられるようになりました。

こうしたときに、いろいろな場所で気候変動の問題を解説するようになったことがきっかけで、発信の仕事が増えていきました。

ーー当時は現在ほどカーボンニュートラルや気候変動に対して、企業などが取り組みを行っていなかったように思うのですが、いかがでしょうか。

江守:現在とはまったく違うと思います。

こうした背景には、京都議定書で目指していたのは「低炭素」であり、CO2を日本で6%減らしましょうという目標でしたが、現在は、ただ減らすことが目標ではなく、ゼロにすることが目標になっていることが挙げられます。

当時は、企業の取り組みといっても、省エネ設備の導入など今行っているビジネスを継続しながらCO2をどれくらい減らすことができるかに焦点が当たっていました。しかし現在は、CO2をゼロにすることが目標なので、ビジネスの内容自体が問われますし、結果的に、経営の軸に気候変動の問題に関する議論が入ってきたのではないかと考えています。

ーーカーボンニュートラルや気候変動といった環境問題に対する温度感も日本だけでなく、海外も含めて上がっていますよね。

江守:海外が変わった結果、日本はその外圧で変わっているように感じます。

特に金融関係の動きが早いので、脱炭素の計画を立てていないと融資しない、投資をしないなど、金融とサプライチェーンのプレッシャーによって、日本も動いているようなところが非常にあるように見えます。

ーー先生の今までの研究の中で、パリ協定* は非常に重要なターニングポイントになっていたと感じるのですが、いかがでしょうか。

江守:まったくその通りです。パリ協定で視界が開けた感じがしました。

私は2013年に『異常気象と人類の選択』という書籍を出したのですが、当時は温暖化を止めるために、経済を犠牲にするか、原発を増やすかなど、何かリスクを取らないと気候変動のリスクは減らせないという暗い考え方しかできませんでした。

しかし、パリ協定で世界は前向きだとわかったんです。世界のリーダー達は、社会を良くしながら温暖化を止めようとメッセージを出していて、自分の中で希望が湧いてきました。

パリ協定*:京都議定書の後継となる、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み。京都議定書では一部の先進国に限定して温室効果ガス排出削減が課せられていたが、パリ協定では途上国を含む全ての参加国に、排出削減の努力が求められた。

新たな議論の仕組みを作り、さまざまな方向から光を当てたい

ーーここからは企業の視点での今後について伺いたいと思います。企業が今のペースで脱炭素への取り組みを進めれば、明るい未来は見えてくるのでしょうか。

江守:ペースは世界的に足りていないと感じています。

業界によって、カーボンニュートラルにしやすい業種、そうでない業種があります。どの業種が鍵になるのか見極めた上で、取り組みを見ていく必要があるのではないかと考えています。

ーー日本企業の評価について100点満点でいうとどのような評価になりますか。

江守:主観ですが、押し並べて60点ほどだと思います。

これは日本が世界的に見て遅れているところもありますが、世界的にも目標や取り組みがまだまだ足りていないので、日本がどんなに良い取り組みをしても100点にはならない、このくらいの点数にしかならないということです。

例えば、脱炭素について考えてみましょう。

脱炭素は、大まかには「脱化石燃料」と言い換えができ、脱化石燃料を推進するとき、同時にエネルギー使用における課題が出てきます。脱化石燃料のための基本的な主力技術は、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーですが、日本の製造業はこうした発電技術では儲からないのだと思います。つまり、太陽光パネルを販売しても、中国などの安く作る企業に世界のシェアをとられてしまうため、再生可能エネルギーを増やしていくことに対して、日本の製造業が前向きになれていないということです。電力を使用するサービス産業や流通などは、使用する電気を早く再生可能エネルギーにしたいのですが、大事な再生可能エネルギーを生み出す方があまり盛り上がっていないのです。

だからこそ日本が世界で勝てる産業を見出していかなければならないという考えがはたらき、水素やCCU(CO2回収有効利用)などの技術のイノベーションに話題がいきがちになっています。この考え自体は正しいと思うのですが、再生可能エネルギーの問題をないがしろにして、新技術の話ばかりしてしまっている印象があるところが日本の評価に繋がっています。

ーー企業が残りの40点を埋めるには、さらにどのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。

江守:素人の目ではありますが、大きな事業転換が必要ではないかと思います。

例えば航空会社で考えると、当然脱炭素を目指すので、SAF*などのCO2を出さない燃料で飛ぶことが目標になっています。現在、SAFは、航空業界の燃料消費量において0.1%ほどの割合で使用されているようですが、最終的には100%にしなくてはいけません。航空需要をさらに増やしながら、すべてSAFでまかなうのは現実的ではないと思います。

私は、今後の航空需要はオンラインで代替されていき、例えば、オンラインのバーチャル海外経験のプラットフォームのようなサービスに変えていかなければいけないと考えています。

企業の本質を問い、大量生産大量販売によって儲かるというビジネスモデルからの脱却が起きなくてはいけないと思います。

便利なものをなくせというわけではありませんが、過剰に消費してるところを、構造的に変える考え方がより必要だと考えます。

SAF* :Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)の略。植物や廃油などから作ったバイオ燃料で、従来の原油からつくる燃料に比べ、CO2の排出量を80%程度減らせると言われている。

ーープラスチック袋の有料化やプラスチックを使用したストローの廃止など、社会は環境問題に向き合う流れが加速化しています。一方でその取り組みは十分ではないという見方もあります。今後はどのような取り組みが必要になると思われますか?

江守:CO2の話でいえば小さな変化ですが、消費のあり方として考えると、レジ袋が有料化し、ひとつのシステムチェンジが起こったといえるのではないかなと思います。

今までは、レジ袋は無料であり、マイバッグ持参を「心がけてもらう」段階だったため、多くの人にとっては、レジ袋は不要であってももらうのが当たり前でした。しかし、有料化し、むしろ、レジ袋をもらわないことが当たり前になり、必要な場合は自分で言わなければならなくなりました。ここにはひとつのシステムチェンジが起こったと考えられます。

また、身近なLEDの照明でも同じような現象が起こっていると考えます。

現在は、電球を買いに行くとほぼLEDしか売っていない状態です。エコのためにLEDを選ぶように声をかけているだけで、みんな白熱電球を買ってたかもしれないですが、LEDが安く、性能が良くなった影響も相まって、LEDしか売っていない状態になり、関心がなくてもLEDを買う状況になりました。

このように、個人に選択を委ねるのではなく、選択が限られる状況になればいいと思います。どんなに関心がない人でも、サステナブルなものを購入するようになるのがシステムチェンジの一部ではないですかね。

ーー技術に関して、現在であればどのような技術にご注目されてるなど何かあったりしますか。

江守:脱炭素の技術が、どのように選ばれていくかに興味があります。

先ほども述べたように、再生可能エネルギー、特に太陽光発電や風力発電が日本でも主力電源化するといわれているので、増やしていかなくてはなりません。ここまでは多くの人
の意見が一致していますが、ここからさらに、ほぼ100%の割合で太陽光、風力発電を使用していこうという人たちもいます。一方で、原発や火力発電も残すべきだという人もいます。

こうしたさまざまな意見がある中で、どのような根拠で選定するのかに興味があり、JST/
RISTEX(国立研究開発法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター)の研究プロジェクトに従事しております。

エネルギーの技術選択の話をするとき、大抵、コストやCO2、安定供給、安全性という点に着目しがちです。元来、そのような観点が判断基準でしたが、他にも倫理的な観点など別の基準があるのではないかということを、私の研究では考えています。

今まで見落とされていたような観点、つまり、今までその点について議論されていないけれども、こんな考え方も大事ですよねというないがしろにされがちだった観点に、常に光が当たるような議論の仕組みを開発していきたいですね。

現在、そのような観点を整理して示すマトリクスを実際に作っており、ある技術が導入されたときにどのようなインパクトがあるのか、それに対し、どのような基準で評価するのかを組み合わせて考えています。このマス目は議論済みだが、このマス目は議論してませんねというように、指摘ができるような、議論の仕組みを作りたいと考えています。

あまりに複雑になると、見てもらえなくなる可能性が高いので、かなり単純化し、似ている観点は一緒にまとめています。また、定量化を目指すと定量できないものが抜け落ちてしまうのが課題と考えており、定性的なものを見落とさないようにすることに力点があります。

【技術インパクト評価枠組マトリクス】提供:JST-RISTEX

ーーマトリクスによって評価される対象はどのような対象がありますか。

江守:現在は国の戦略を対象として考えています。

国が脱炭素をするというシナリオを検討する際に、シナリオの選択について議論ができるかどうかという点について実践しているところです。

ーー最後に、江守先生ご自身のこれからの展望を教えてください。

江守:今年度から東京大学の教養学部で客員教授を務めており、学生と一緒に勉強しつつ、何か新しい取り組みをやっていこうと思っています。

その中で、気候変動のメディアでの報じられ方の研究もこれからやっていきたいなと思っています。

さいごに

ここ数年でさらに加速したカーボンニュートラルに対する企業の取り組み。しかし、現状では世界規模で不十分であり、解決すべき課題も多くある。

より良い社会へ向けて、研究が進み、技術も向上していく一方で、その技術を効果的に使用しつつ、社会を構成している私たち一人ひとりがどのような考え方で捉えていくのかが重要になってくると思う。

明るい未来の展望へ向けて、企業を中心にどのような取り組みができるのか考えていくことが大切になると感じた。

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