【更新日:2022年4月11日 by 三浦莉奈】
SDG Impact Japanは2021年に設立した会社で、SDGsにフォーカスした投資ファンドの組成推進、金融機関や企業向けサステナビリティ評価ツール「RIMM」の提供、インパクトファイナンスのアドバイザリーを主な業務としている。
欧州のESG開示規制(SFDR)9条に対応した日本企業のESGファンドを組成しようとしているSDG Impact Japanでは、今後のESGをどのように展望しているのか。
今回はSDG Impact Japan Co-CEOの小木曽麻里氏を取材した。海外と日本のESGの現状を比較しつつ、実現したい未来について伺った。
「意思のあるお金」|SDG Impact Japanの理念
ーー自己紹介をお願いします。
小木曽:小木曽です。よろしくお願いいたします。
初めは日本の銀行に就職し、その後、国際機関の世界銀行に10年ほど勤めました。
その際、民間企業がいかに開発課題に貢献できるのかといったボトム・オブ・ピラミッドビジネス(BOP)やインクルーシブビジネスに関する仕事、具体的には、ベトナムで浄水装置を作ったり、インドネシアでトイレを作ったりする仕事に携わっていました。
その中で、技術やパッション、人もいるのにお金が流れないことによって解決できない社会課題が多いことに気づき、10年ほど前からインパクト投資に関する仕事をはじめました。
世界銀行を退社後は、インパクト投資とともに日本の大きな課題であるジェンダーに着目し、財団に就職しました。特に、金融機関では、ワシントンD.C.で働いていた時と比較して女性の数の少なさに驚きました。そこから、ジェンダー投資を財団ではじめ、2017年くらいにアジア女性インパクトファンドを立ち上げました。
アジア女性インパクトファンドは、当時のジェンダービジネスの定義であった女性起業家、女性のウェルビーイングをあげるようなビジネス、女性ジェンダー平等を推進しているビジネスに投資するインパクトファンドです。
その後、ファーストリテイリンググループのD&Iのグローバルヘッドをしていました。
そんな中、インパクトファイナンスが世の中で動きはじめたため、それを機にSDG Impact Japanを立ち上げました。
ーージェンダーに関しては、ジェンダーギャップ指数の問題がよく聞かれますが、海外から戻ってきた時のインパクトはやはり大きかったのでしょうか。
小木曽:そうですね。世界銀行ではジェンダーのバランスが悪いと個人の評価が悪くなるというシステムが構築されていたため、ジェンダーに対する意識がありました。
日本では、同じ会議の中で人種もジェンダーも偏る傾向にあり、このことに対する問題意識もなかったので、違和感がとても大きかったです。
ーーSDG Impact Japanを立ち上げたきっかけは何ですか。
小木曽:2008年にロックフェラー財団がイタリアのべラジオで会議を開いた時に初めてインパクト投資という言葉が使われ、それまでの収益を生むことが金融だという考え方から、収益以外にも目標を達成するための金融を定義づけようという動きが生まれました。
しかし、意識は高まったもののはじめは全く浸透しませんでした。2017年に日本の金融機関の調査をしましたが、日本の金融機関ではインパクト投資を理解している人はほとんどいないという結果を目の当たりにし、8年ほどインパクト投資に携わってきましたが、あまり変わっていないことに衝撃を受けました。
そんな中、コロナの影響や、Z世代の消費者が増えてきたこと、気候変動を肌で感じるような状況が続いたことで、急激にSDGsとESGが注目されるようになり、実際の動きが作れるのではないかというタイミングであったため、SDG Impact Japanを立ち上げました。
ーーWebページにもある「意思のあるお金」とはどのような意味なのでしょうか。
小木曽:私も個人的にそうでしたが、投資する時はあまりお金の影響を考えずに投資をしてしまうと思います。貯金も消費もそうですが、「お金は自分が使ったら必ず社会に影響を与える」と会議に出席した際に言われ、少しハッとしました。
この影響にはポジティブなこともネガティブなこともあって、ニュートラルなお金の使い方はなく、だからこそ、自分が使ったお金は必ずプラスかマイナスになっていると言われ、マイナスの影響について考えたことがなかったと意識したときに、お金に色がないと言われていることを思い出しました。
一旦同じお金で同じお財布に入ってしまうと、同じ考え方をされてしまいますが、お金にはもっと多様な見方があるのではないかということを伝えたくて「意志のあるお金」と表現しました。
ーー世界の金融資産の数%でも社会投資のために投資されればSDGsを達成できるというのは本当ですか。
小木曽:達成できると言われています。
例えば、現在世界で使われている軍事費の数%でも社会課題の解決に向けられていれば、達成できることは多いのです。今後は政府や民間のお金を大きな規模で社会課題解決に振り向けることが、SDGsの目標を達成できるかどうかの鍵となると考えています。
ーーSDGs達成のためには技術への投資が特に重要だと個人的に認識しているのですが、小木曽さんはどのように考えていますか。
小木曽:私も技術が鍵だと思います。
例えば、今AIの解析がどんどん進んでいますが、ジェンダーのバイアスがすでにAIでアルゴリズムに入り込んでいます。どのように公正なシステムを盛り込むかがすごく重要であると思います。
また、思想以外のところでも、例えば、ドローンでも遠隔医療でも一人ひとりのコストが下がっていくため、途上国と先進国の格差をどのように解消していくのかが非常に重要になってきます。
私も長年開発をしてきましたが、そのような技術で開発機関でできなかったことが、できるようになるように、仕組みを変えられるのは技術だと思います。
ロジックモデル、パーパス経営を企業全体に落とし込んでいくことが必要
ーーSDGsに関して日本と諸外国、例えばアメリカやヨーロッパと比較した際、現状どのような違いがあるでしょうか。
小木曽:SDGsの考え方と認知度は日本はかなり高い方だと思います。
これほどたくさんの人がSDGsバッジをつけているのは日本だけだと思いますし、そういう意味では、みんながSDGsを知っていることは素晴らしいことだと思います。
しかし、各国、取り組む課題に濃淡がありますが、日本は人権とジェンダー、環境問題への対応が遅れており、SDGs目標17のパートナーシップも遅れているとの判断が下されています。こうした、ジェンダー、人権、環境問題、パートナーシップなどに関する取り組みを集中して進めていかなければならないと感じています。
ーーグリーンウォッシュのように日本は上辺だけで取り組んでいる形になってしまっているのでしょうか。
小木曽:日本は取り組みが全体的に遅れているとは言われていますが、グリーンウォッシュは日本だけでなく欧州でも多くあります。
しかし、日本ではここ数年で、特にクライメイトチェンジ(気候変動)関係の取り組みは遅れてしまっていると感じています。東日本大震災の影響で原発が停止してしまったこともあり、政策が気候変動に向いていなかったというのが一つの原因なのではないでしょうか。
欧州の気候変動の取り組みが進んだ背景には、非常に敏感な消費者の声が多くあったからだと考えます。こうした声に押されて、EUでは政府が気候変動対策を積極的に押し進めてきました。ESG投資分野で言うとSFDR*と言われる非財務情報開示の規制が進んだというのが大きく、SFDR導入以降は金融機関も気候変動への影響を明確な形で開示していくことが求められています。
SFDR*:欧州委員会により導入された、金融機関に対して、持続可能性に関する情報開示を求める規則のこと。
ーー日本の企業の情報開示は世界的に見て遅れているのでしょうか。
小木曽:残念ながら遅れていると思います。
世界では、企業が公開しているデータを整理して、評価するような形で格付けがされています。こうしたシステムでは、仮にきちんと取り組んでいたとしても、データを適切に公表していなければ、評価されないのです。
日本企業の場合、大企業でも情報開示が不十分であったり、分かりにくかったりするため、評価機関から十分なポイントがもらえないところが多いです。求められている形で開示しないと、きちんと取り組みをしていても、うまく評価されないこともあるんです。銘柄数を見ると日本の銘柄はアメリカの10分の1、欧州の5分の1にも満たない状態にあります。
良い言い方をすれば日本は伸びしろが大きいため、情報開示をしっかり行うことで今後世界的に認められるようになると思いますし、期待しています。
ーー国内のESGに関する評価が高い企業でもファンドに組み入れられているのは米国に比べると10分の1に満たないのですね。
小木曽:ESGファンドの認知度が高まったという点では素晴らしいと思うのですが、今後はESGファンドにお金を入れると何が改善されるのか語られる必要があると思います。
現在のESG格付けは、ESGの評価は企業活動が世の中に対してどのくらいポジティブなインパクトをもたらすのかではなく、ESGファクターがいかに企業の財務状況に影響を与えるのかで評価されています。そのため、CO2を出し続けても企業のESG格付けが下がらないどころか上がってしまうこともあるのです。この場合、ESGファンドにお金を入れても社会的に良い影響は生まれません。それなのに多くのESGファンドにはより良い未来や社会のため、といった名前がついており、これが誤解を生んで一部ではグリーンウォッシュだと言われています。
ーーどのように社会へのインパクトを計測していくのかも議論のポイントになっているのでしょうか。
小木曽:もちろんそうです。今までのCSRのように世の中に良いことだけやりましょうというだけでなく、社会課題へのアプローチがどのように企業価値をあげることにつながるのかというロジックを構築する必要があります。
例えば、CO2を減らすビジネスをしている企業は、ビジネスが伸びればCO2も削減され企業価値が上がると言えます。しかし、それ以外の企業ではCO2に関する取り組みが企業価値にどのような影響を与えるのか、まだ明確ではないところがあります。
また、ジェンダーでも、ジェンダー・ダイバーシティに取り組んでいる企業の方が結果的には業績が良い企業が多いと証明されているものの、自社のロジックで見たときにESGファクターの改善が本当に企業価値の上昇につながるのか、議論が明確に行われている企業は少ないのではないかと思います。
やはり、筋道を立て、ロジックモデルやパーパス経営をもう少し企業全体の中に落とし込んでいくことが必要になると思います。
ーー新しいファンドについて教えてください。
小木曽:私たちが今後参画するファンドは、
ファンドの収益と同時に環境及び社会にポジティブなインパクトを生むことを目標としています。そのためE、S、Gそれぞれについて明確な目標値を立て、各企業へのエンゲージメントを通じてそれらの数字の達成を目指していこうとしています。
ーー小木曽さんが読者に伝えたいことはありますか?
小木曽:ESG投資がどのような変化を世の中にもたらすのかということを投資をする人もファンドを作る人ももっと真剣に考えなくてはいけない時代になったというところです。
ESGにお金を投資した場合、世の中がどのようにどれくらい良くなるのか、もっと明確に解る仕組みが作られる必要があると感じます。またその上で、株主や投資家が企業にESGの改善を求めていくESGアクティビズムやESGエンゲージメントは今後益々広がると思います。
今後も投資する際には、是非そのお金がどんな色なのか、つまりその投資がどのように環境や社会を変えるのか、考えて欲しいと思います。
さいごに
近年さまざまな市場で注目を集めるESG。
しかし、そこには多くの問題が潜んでおり、まだまだ議論を続けていくことが必要である。
私たちは、ESGというワードを鵜呑みにするのではなく、社会にとってポジティブなインパクトをもたらすような取り組みやお金の使い方をするべきだろう。
社会課題解決へ向けてお金にどのようなカラーをつけるかは自分次第である。
また、同社は欧州でESG投資のオピニオンリーダーであるサシャ・ベスリック氏を招き、ロシア・ウクライナ問題によるESG投資への影響について解説するセミナーを開催する。
欧州のESG投資の位置付けや投資家の今後のアクションを理解したい人にとっては必見の内容となるだろう。
気になる人はぜひ参加してみてほしい。
▼セミナー概要
「Russia’s War on Ukraine: Key ESG Lessons Learned」
日本語題:ロシアによるウクライナ侵攻 – ESG投資への示唆(オンライン、英語のみ) 主催:株式会社SDGインパクトジャパン 日時:2022年4月13日 16:00-17:00 参加登録はこちらから |
SDGs CONNECTライター。ESGに関する記事を中心に、よりよい社会の実現へ向けて情報をお伝えしていきます。