【更新日:2024年4月26日 by 俵谷龍佑】
20年以上前に「造船」から離れ、現在では環境事業や機械・インフラ事業など多岐にわたって私たちの生活を支えている日立造船株式会社。同社は、1965年に日本で初めてごみ焼却発電施設を建設したことでも知られています。
今回は、同社の経営企画部 広報・IRグループの松本様と木戸様に、ごみ焼却発電とバイオガスプラントの取り組みについてお話を伺いました。
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自社事業を捉え直し、新たに「サステナブルビジョン」を策定
──まずは自己紹介をお願いします。
松本:2017年に日立造船へ入社し、5年ほど食品機械の営業に従事したのち、2021年の夏から広報・IRグループに所属しています。現在は、決算情報開示や統合報告書の作成、ESG格付け対応などを主な業務としています。
木戸:松本と同じく広報・IRグループに所属しています。2021年6月に入社し、統合報告書の作成をメインに、同じくIR関連の業務を担当しています。
──貴社の事業内容について教えていただけますか?
松本:当社は、大きく3つの分野で事業を展開しています。そのなかでも代表的な事業がごみ焼却発電施設などの「環境事業」で、当社グループ売上高全体の7割ほどを占めています。次が精密機械や橋梁や水門など「機械・インフラ事業」で約2割、そして、風力発電やPower to Gas関連などの「脱炭素化事業」が約1割という構成になっています。
現在、環境事業のなかでも特に拡大しているのが、海外でのごみ焼却発電事業とヨーロッパでのバイオガスの2つになります。
──いつからどのような体制でSDGsを推進していますか?
松本:2021年10月にサステナビリティ推進室を設立し、2022年3月には持続的な事業成長を目指すべく、「サステナブルビジョン」を策定いたしました。策定にあたっては「サステナビリティ推進プロジェクト」を立ち上げ、事業本部長やグループ会社の取締役など多くのメンバーで構成する委員会で検討を進めました。
現在はサステナブルビジョン実現に向けて各部門が取り組みを進めながら、サステナビリティ推進委員会が定期的にフォローしています。
そもそも、SDGsの概念が広まる以前から、当社グループは、廃棄物問題やエネルギー問題などの重要課題の解決に貢献できる事業に取り組んでおり、事業そのものを推進することがSDGsの目標達成につながると考えています。
木戸:私たちが所属する広報・IR部門のグループ長がサステナビリティ推進室のメンバーも兼務をしており(※取材当時)、オフィスではサステナビリティ推進室と隣どうしなんです。普段から密に連携を図りながら、SDGsに関する情報発信も行っています。
日本で初めて、ごみ焼却発電施設を手掛けた「日立造船」
──ごみ焼却発電施設事業に参入した背景を教えてください。
木戸:当社は、1965年に国内初の本格的なごみ焼却発電施設を大阪市に納入しました。当時は、高度経済成長期の真っ只中で、家庭ごみを含むさまざまな廃棄物が増加し、それらの衛生的な処理が追い付かない状況にありました。
このような状態を打開すべく、大阪市は当時スイスの企業(※現在は日立造船子会社のHitachi Zosen Inova AG)が持っていたごみの焼却技術を、日本にも導入しようとしていました。そこで、地元の企業かつプラント建設の実績があった当社にお声がかかり、プロジェクトがスタートしました。
──ごみ焼却発電施設の主な市場はヨーロッパと日本でしたが、近年は中東や東南アジアなどにもニーズが拡大していますね。
松本:そうですね。東南アジアやインドでも、日本の高度経済成長期と同じような状況が起こっています。経済発展とともに排出されるごみの量が増加すると、その処理の重要性も高まります。埋め立て方式では容量や衛生面の問題が発生することから、衛生的に大量のごみを処理できる焼却処理方式に移行しつつあるのです。
一方、中東では環境意識が高まり、持続可能な廃棄物の管理や化石燃料ではない代替エネルギーの開発を重要政策に掲げる国もあります。ごみ焼却で生み出すエネルギーの一部は再生可能エネルギーに分類できるため、現在、中東でもいくつかのごみ焼却発電プロジェクトが進んでいます。アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ首長国では、当社グループなどが世界最大級のプラントを建設中です。
──ごみ焼却発電施設については、どのようなサービス提供や研究をされていますか?
松本:国内では、ごみ焼却発電施設は行き渡っておりますが、今後は老朽化した既存施設の建て替えが必要です。更新する施設についても、これまでと同じように設計や機器調達、建設、完成後の運営・保守などを一括して請け負いますが、それだけでなく高効率発電や新技術など付加価値が大切になってくると考えています。
例えば、ごみ焼却をするとCO2が排出されてしまうため、CO2を回収・貯留して再利用する技術開発に力を入れているのもその一例です。
木戸:さらに新しい処理技術として、現在の焼却ではない方法で廃棄物からエネルギーを生み出す「ポスト・コンバッション(燃焼)」の開発も行っています。
また、当社の大阪本社には「Hitz先端情報技術センターA.I/TEC(エイアイテック)」という施設があり、遠く離れたプラントでもここから遠隔監視や運転支援ができるほか、AIを活用して、ごみの燃焼具合を安定化――ひいては発電効率を安定化する技術もあります。こうした技術によって、効率化・作業員の省力化が可能になり、人手不足や災害時の作業員不足などにも対応できると考えています。
──環境省のデータによると2022年度末で、国内のごみ焼却施設の数は1,016と世界でもトップクラスです。そのなかで発電設備も有するごみ焼却施設はどのくらいあるのでしょうか?
松本:2022年度末時点で発電設備を有するごみ焼却施設は404で、全体の39.8%を占めます。ただ、発電施設はないものの、焼却時に発生する熱を温水プールや暖房に利用している施設もあるため、広い意味でCO2排出削減に貢献できる施設は7割にのぼります。
ヨーロッパでも普及が進んでいる「バイオガスプラント」
──続いて、もう1つの注力事業「バイオガスプラント」についてお聞きします。そもそも、バイオガスとはどのような仕組みなのでしょうか。
松本:バイオガスとは、し尿や生ごみといった有機性廃棄物を回収し、微生物によって分解・発酵させることで発生するガスのことです。このバイオガスを作るのが、バイオガスプラントです。
木戸:バイオガスの主成分であるメタンガスは、天然ガスの主成分でもあります。そのため、バイオガスをそのまま燃焼させて発電することはもちろん、さらにバイオガスを精製してメタンの純度を高めると車の燃料にもなるんです。実際に、スウェーデンにある当社グループのプラントはバイオガスを精製・圧縮したバイオCNG(圧縮天然ガス)を作っており、現地で走るバスやごみ収集車の燃料に活用されています。
──近年、バイオガスプラントがヨーロッパで増えているとのことですが、理由を教えてください。
松本:ロシア・ウクライナ情勢が緊迫化して以降、ヨーロッパでエネルギー確保に対する危機意識が高まったことが大きな理由として挙げられます。
2022年に欧州委員会は「リパワーEU」を発表しました。ロシア産の化石燃料への依存からの脱却を目指すという内容です。
それを実現させるには、再生可能エネルギーへの迅速な移行が不可欠で、2030年までにバイオメタンの生産能力をおよそ350億立方メートルに増強することが目標として盛り込まれています。バイオメタンを今までの何倍も生産する必要があるため、ヨーロッパ各地に新しいバイオガスプラントが数多く建設される可能性があります。
先端技術を駆使して、ごみを資源に
──今後の展望をお聞かせください。
木戸:今後も、当社グループではごみを廃棄物として捉えるのではなく、資源として捉えたいと考えています。ごみは、私たちの生活に欠かすことができないガスや電気を生み出す資源にもなり、また焼却後の灰から金属などの有価物が回収できます。大きな価値が眠っているんです。
松本:お伝えしたように、ヨーロッパでバイオガスプラントの建設が急拡大しているフェーズでもあり、当社も事業者として立地選定から施設運営、ガス供給まで一気通貫で関わりたいと考え、事業強化に取り組む方針です。
──最後に、SDGs CONNECTの読者に向けて、何かメッセージがあればお願いします。
木戸:当社は、造船が祖業であり日立造船という社名ですが、現在は造船は手掛けておらず、環境、機械・インフラ、脱炭素化の各事業を展開しています。
しかし、それも長年培ってきた造船技術やノウハウがあってこそ。船は、限られた空間の中で配管やボイラー設備、人が過ごす居室など複雑な構造で成り立っているため、広範かつ高度な専門技術が求められます。
その強みがあるからこそ、現在の事業があります。事業を通じて環境や社会に貢献できることが当社で働く誇りであり、大きなやりがいだと感じています。この想いはこれからも大切にしていきたいですね。
松本:当社は、6月下旬予定の定時株主総会で承認を頂いたうえで、2024年10月1日にカナデビア株式会社に社名変更する予定です。「Kanadevia(カナデビア)」とは、「奏でる」と、ラテン語で「道・方法」を意味する「Via(ビア)」を合わせた造語です。
当社には、「技術の力で人類と自然の調和に挑む」というブランドコンセプトがあります。新しい社名には、造船事業を基盤として培ってきたさまざまな技術で社会に価値提供をしながら、まるでオーケストラがハーモニーを奏でるように人類と自然に調和をもたらす新しい道を切り拓いていきたいという想いが込められています。新たなスタートを切る当社ですが、今回お話させていただいた事業内容をより多くの方々に知ってもらえたらうれしいです。
ライティングオフィス「FUNNARY」代表。新卒で広告代理店に入社後、広告運用業務に従事。2015年4月にライターとして独立。現在は、小規模事業者のECサイトのSEO対策、BtoBの領域を中心としたメディアのディレクションや立ち上げ業務など、記事コンテンツ制作にまつわる業務全般を担う。ベンチャーから大手まで1000本以上の執筆実績あり。