【更新日:2023年12月27日 by 俵谷龍佑】
器、和紙、染物など、日本国内にはその土地固有の伝統工芸が根付いています。このような美しい伝統工芸が現在に至るまで残っているのは、長い年月をかけて大切に受け継がれてきた先人の知恵や技術があってこそ。
しかしながら、少子高齢化によって後継者が不足し、やむなく廃業したというケースも少なくありません。このような社会課題の解決に向けて取り組んでいるのが「株式会社ニッポン手仕事図鑑」です。
今回は、代表取締役である大牧圭吾(おおまき・けいご)さんに「後継者インターンシップ」を中心に、同社の取り組みや今後の展望などについて話を伺いました。
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地域の風習や文化が薄れていることに危機感を覚えた
ーー大牧様のご経歴について教えてください。
元々スポーツをしていたこともあり、当初はスポーツ関連のライターを目指していたんですね。まず、フリーペーパーを取り扱う編集プロダクションに入社し、その後2社目と3社目ではコピーライターとして活動していました。
ーー元々は地方創生ではなくクリエイティブ系のお仕事をされていたんですね。
そうなんです。ただ、3社目のタイミングで地方創生の仕事をしたい想いが強くなってきました。ただ、当時いた環境だと叶えられなくて「どうしようかな」とキャリアに悩んでいたときに出会ったのがニッポン仕事図鑑の親会社である、ファストコムの代表でした。「うちの会社で、やってみたらどうですか?」と声をかけてくれて、2013年に転職を決意しました。その後、1年半くらいの準備期間を経て、2015年1月にニッポン手仕事図鑑を立ち上げ、2019年に法人化しました。
ーーどのようなことをきっかけに、地方創生に興味をもったのでしょうか?
私自身、日本という国が大好きで、その日本を構成する地域にもすごく興味を持っています。日本にはその土地によって独自の風習や文化、食べ物、方言などがあり、少し移動するだけでガラリと雰囲気が変わって、それがとてもユニークでおもしろいなと感じます。
私は長野県の安曇野市で生まれ、そのあと京都の南丹市、鎌倉市と移り住みました。そのため、長野や京都はご縁があるのですが、行くたびにその土地の文化や風習などが少しずつ薄れていることに危機感を覚えたんです。
そこから日本の文化や風習を残したいと強く想うようになりました。そこで、地域の文化や風習を作っている要因は何だろうと考えたときに、それはやはり「人」だということに気づきました。
その人たちに焦点を当てるような事業をしようと考えた末にできたのが、ニッポン手仕事図鑑だったんです。
ーー改めて、貴社の事業内容を教えてください。
ニッポン手仕事図鑑は「ニッポンの手仕事を残していくお手伝いがしたい」という想いから始動した動画メディアです。職人さんへのインタビュー等を通して日本の文化や伝統工芸の職人文化を発信しています。
その他にも取材や映像制作、イベント演出やクラウドファンディング支援など、日本が誇る手仕事を世の中に広めていく活動を行っています。そのなかで、現在特に注力している事業が2つあります。
1つ目は、伝統工芸の産地を対象としたインターンシップ事業です。例えば、産地に後継者を誕生させる「後継者インターンシップ」や新商品のアイデアを生み出す「商品開発インターンシップ」、関係人口を作ることを目的とした「仕事体験インターンシップ」などを開催しています。後継者インターンシップに関しては後ほど詳しくご説明します。
2つ目は、職人さん向けの講座の企画・開催です。職人さん自身が、自分の作品や活動内容を自発的に発信することも大切だと考えており、定期的にオンラインショップ制作や写真撮影、映像制作などを学べる講座を開催しています。
職人さんと後継者がマッチングできる環境がなかった
ーー後継者インターンシップは、どのようなきっかけで始められたのでしょうか?
日本各地の伝統工芸品の産地では、深刻な後継者不足問題を抱えています。 職人さんは、後継者がいないことに対してどこか諦めてしまっているのが現状です。
しかし、職人を目指す若者が行く学校は、私たちがリストアップしているだけでも全国に140校以上あり、伝統工芸の職人になりたい若者は決して少なくないのです。
そのため1番の課題は、伝統工芸の産地・職人さんと若者が出会う機会が少ないことであると気づきました。そして、私たちはこの課題を解決するため、「後継者インターンシップ」の取り組みをスタートしました。
ーーなぜ、職人になりたい学生と職人さんが出会う機会がないのでしょうか。
シンプルに「新しい人が欲しい」という職人さんの声が届いていないからですね。後継者不足が問題視されているものの、現場で働く職人さんがその現状をうまく発信できておらず、学校側も求人情報をキャッチできていないんです。
この現状を何とか解決したいと始めたのが「後継者インターンシップ」です。Webサイトやアプリでマッチングするのではなく、実際に現場へ足を運び、職人さんと直接会ってもらうことを大切にしています。
ーー後継者インターンシップを始めてみて、反響はどうでしたか。
反響は大きかったですね。参加枠が6名のインターンシップに80名ほどから応募がきたこともあります。さらに、今年度も全国各地で後継者(内定者)が続々と誕生しており、現時点で16名の後継者が生まれています。この結果からも情報にたどり着けていなかっただけで、職人を目指したい方が多くいることが再確認できましたね。
ーー後継者インターンシップの運営で、大変なことはありますか。
後継者を受け入れる決心をしてもらうことですね。職人さんは伝統工芸の現場を熟知しています。新しい人材を受け入れても、本当に生計が立てられるか、事業を継続できるかという点を心配されることが多いです。
そのために、私たちは成功事例を提示して受け入れのイメージをより明確にし、時間をかけて職人さんの不安を払拭できるように努めています。小手先の説明では職人さんの心には響きません。私たちの本気度を示し、コミュニケーションを取ることが大切だと感じます。インターンシップ開催後は、「後継者を受け入れて本当に良かった」「伝統工芸の技術を教えられて良かった」と喜んでくださる職人さんが多いです。私たちとしても、そういった声をいただくことはうれしいですし、モチベーションにもつながりますね。
SDGsの本質は「無理をしない」こと
ーー本質的なSDGs活動・サステナビリティ活動とは、どのようなものだとお考えですか?
私たちの事業に通ずる部分でお話しさせてもらうと、職人を目指す方と職人さん、双方が無理をしないこと。これに尽きると思います。
私たちは、双方に無理がないように後継者が働き始められる方法をご提案しています。
例えば、職人一本ではなく兼業型を取り入れるといった方法です。最低限生活ができるお金を確保しつつ、週3日は職人さんのもとで働くといったスタイルです。この場合、最初は兼業型でスタートしますが、その先には専業があり、そこに向けて進めていきます。
知らない土地に移住し兼業で働くのは、一見大変そうに思えますが、実はメリットが多いんです。専業だと工場や窯元など職場と家の行き来になってしまって、移住先で知り合いを作れずに孤独を感じる方も少なくありません。その点兼業をしていると、職場以外の人間関係を構築できます。
反対に職人さんが正社員と同水準のお給料を支払う余裕がない場合でも、週3日分のお給料なら払えるかもしれません。また、後継者が誕生することで良い刺激となり、全体の売り上げが向上するといった相乗効果も生まれています。双方にとって無理のない体制を整えるのも、私たちの重要な役割だと考えています。
「ものを作って売る」以外の価値を生み出し、伝統産業や文化の発展につなげたい
ーー貴社の今後の展望をお聞かせください。
今後、当社が行っていきたいことは2つあります。1つは、当社が掲げる「年間100人の後継者を産地に」というミッションの実現です。これは、先ほどもお話ししたように職人になりたい人にその産地で働き、生活するイメージを持たせることや、職人さんの不安を取り除くといったことを地道に行った先で達成するものだと思っています。
もう1つは、職人さんのものづくり以外の収入源を増やすプロジェクトを立ち上げることですね。職人さんというと、「もの」を作って販売することにフォーカスが当たりがちですが、他にも提供できる価値があると思っています。
その1つが知識やスキルの共有ですね。例えば、職人さん自身が講師となるオンラインスクールを考えています。職人さんだからこそわかる経営術やブランディングなどは、これから職人になりたい人はもちろん、現在職人として働いている人にも刺さる内容でしょう。
マーケティングやSNSなどの専門家が職人さんに講座を開催しても、やはり共感を得にくいんですよね。一方で、現場を熟知して経験もある職人さんから聞いた内容は腹落ちしやすく、共感も得られやすいです。
ーー最後に読者へメッセージをお願いします。
伝統工芸品の価格は決して安くはなく、頻繁に買えるものでもありません。なかには、継続して伝統工芸品を購入することにハードルが高いと感じている方も多いでしょう。
ただ、「定期的に購入する」「技術を継承する」ことができなかったとしても、購入した伝統工芸品の良さを身近な人に伝えることも立派な「後継者」としての活動です。購入した伝統工芸品や、職人さんの想いが少しでも良いなと感じたら、ぜひ友人や家族など身近な方にシェアしてみてください。それが日本の伝統工芸の未来を変える一歩になるかもしれませんから。
ライティングオフィス「FUNNARY」代表。新卒で広告代理店に入社後、広告運用業務に従事。2015年4月にライターとして独立。現在は、小規模事業者のECサイトのSEO対策、BtoBの領域を中心としたメディアのディレクションや立ち上げ業務など、記事コンテンツ制作にまつわる業務全般を担う。ベンチャーから大手まで1000本以上の執筆実績あり。