サークルプランニングでみんなに利益を|SIGNINGならではの考え方

2023.09.01

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【更新日:2023年9月1日 by 中安淳平

近年ESG情報の開示が求められるようになったことを背景に、ESGやSDGsに関する取り組みを行う企業が増えてきています。そんな中で、どのようにSDGsに関する取り組みを企画し、PRしていけばいいのか悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。

今回は、博報堂DYホールディングス傘下のソーシャルビジネススタジオ、株式会社SIGNINGの清水さんに、企業がSDGsやサステナビリティに関する企画やリリースをするときにどのような点を意識すればいいのかについてお話を伺いました。

社会課題とビジネス課題の双方をプランニング

ーー自己紹介と会社の紹介をお願いします

SIGNINGで執行役員とクリエイティブディレクターを務めています清水佑介と申します。2003年に博報堂に入社し、営業からマーケティングに異動しました。2012年からは博報堂ケトルという博報堂グループのクリエイティブブティックで8年ほどクリエイティブとして勤務して、2021年からSIGNINGに来ました。

SIGNINGは、自分達のことを「ソーシャルビジネススタジオ」というように呼称していまして、社会の課題とビジネスの課題を双方からプランニングすることによって、解決していくことを目指しています。 博報堂DYホールディングスのグループ会社という形になりますが、他のグループ会社が尖った広告キャンペーンをやるとか、Webクリエイティブに対して特殊な技能を持っているなど機能特化をしているのに対して、SIGNINGは少し違っています。広告会社は通常、クライアントのマーケティング課題を解決するためにやるものなんですけど、弊社はソーシャルビジネスを自分たちのフィールドとしてやっているので、活動の半分はクライアントというよりも社会がより良くなるための活動を実施しています。

ーー最初にソーシャルビジネスに取り組もうとされたきっかけは何でしたか

我々が持っているクリエイティブスキルやプランディングスキルというものが、社会課題という方向に振り切った時に、できることがたくさん残されているのではないかと感じたことがきっかけです。

そう感じた原体験は、SIGNINGができる前に現代表取締役の亀山と私がかかわっていた「プレミアムフライデー」という経産省さんとやらせていただいていたキャンペーンです。このキャンペーンが僕らが関わった仕事の中で、1番大きく社会を変える可能性があったものだと感じています。広告クリエイターが手がけるもので、制度が変わるかもしれなかったり、カレンダーに新しい日が生まれるところの寸前まで行ったのかなと思っています。

このプレミアムフライデーの経験により、広告クリエイティブの発想が、マーケティング課題を解決するとか、物を売るとか、そういうことを超えて、社会の新しい風景を作るとか、社会の盛り上げに活用できることを実感したというのが、1番のきっかけになるのかなと思います。

ーー他の広告会社とは異なるソーシャルビジネスというフィールドに立つことのメリットはどのあたりにあるとお考えですか

クライアント課題を解決することはone to oneになるんですけど、これから大きい注目が集まるかもしれないテーマを自分たちで立ててそこで活動しておくと、それが広がっていった時に、自然とクライアントさんが何社もそこに入ってきてくれ、ビジネスとしても拡張することができます。プレミアムフライデーはまさにそうで、 働き方改革と消費の活性化を大きなテーマとした時に、プレミアムフライデーというキャンペーンを通じていろんな会社さんがパートナーとして入ってきてくれました。他にも脱炭素もそうですし、防災や地方創生、未利用魚やAIといったテーマで自分達の領域を持っており、自分達で社会のムーブメントを作ろうとしているのは広告会社としてユニークな立ち位置にいるなと感じています。

サークルプランニングでアイデアを立体に

ーーSIGNING独自のフレームワーク「サークルプランニング」とはどのような考え方でしょうか

一言で言うと、ステークホルダーを多く設定し、設定した全員にとって利益のあるようなプランニングを目指すという考え方です。

従来のマーケティングコミュニケーションは、クライアントさんとその商品を受け取る生活者の2点を押さえておけばビジネスとして成立するというものでした。このやり方でもいいとは思いますが、想定していた顧客以外の層を巻き込んでの発展が期待できないんです。

そこで、サークルプランニングでは、クライアントだけではなく、従業員やその家族、会社や工場がある地域とそこに住む人々や自治体、そのエリアの自然環境などといったように、対象とするステークホルダーを多く設定し、自分達のアイデアがその人たち全員にとっていいことかどうかを考えています。そうすることによって、直線的だったアイデアが立体になると言いますか、多くの人を巻き込んだ「アクション」に変わっていくんです。

また、サークルプランニングでやるときに、多くのステークホルダーの視点に立ってアイデアを見つめていかなければいけない中で、例えばペルソナのような目に見えない人を想像し作り上げて考えるのではなく、実際に現地の人に会いに行くことをしています。特に、地域に寄り添ったソーシャルビジネスをやろうとすると、地域によって文化や風土、大事にしているものが変わってきます。インターネット上の情報だけで進めていくのと、実際に現地に伺い、話すことによって得られる情報量とでは全然違ってくるので、泥臭く足で情報を集めるようにしています。

ーーサークルプランニングの実例について教えてください

「ZACO Project®︎」というものがまさにサークルプランニングの実施例にあたります。ZACOというのは水揚げされた中で規格外や量が少ない、過食部位が少ないとして流通されない「未利用魚/低利用魚」を指しています。

このプロジェクトを始めた背景としては、日本の漁獲量が下がってきていて近海から魚が消えている中で、3割もの魚が水揚げされるものの利用されずに廃棄されており、生産性がよくないという話を聞き、何とかできないかと思ったところがあります。このZACO Project®︎だけでも環境問題、労働生産性、フードロスという複数のテーマにまたがっています。そのテーマに対して、地域の漁港の漁師の収入源を確保すること、そして地域観光の目玉を作ること、その目玉を目的に観光客が集まるというようなところを目指しました。それができれば漁師の方、観光協会の人たち、地域の自治体、観光客にとっていいことであり、最終的に地球環境が良くなるというような、全てのステークホルダーにとっての利益を考えて企画を設計していきました。

実際には、最初に江ノ島の片瀬漁港にアプローチをし、「ZACOYAKI」というたい焼き型のフードを月に一度提供するところからはじめ、新江ノ島水族館での販売や代々木公園で行われた魚ジャパンフェスなどにも出店し、多くのお客様から好評いただきました。

ーーZACO Project®︎の企画段階でこだわったポイントはどこですか

「欲望」を刺激することです。そのイベントや商品がどんなに環境や社会にとっていいことでも、前面にそれを押し出していくと、興味がない人にとってはお説教にしか聞こえず、遠ざけてしまいます。人を動かそうと思ったら、「これが欲しい、これがやりたい」など、行動の原動力になる欲望を刺激しないといけません。どんなにピュアで志が高い活動でも、周りの人が動いてくれなかったら効果が出ないので、人を動かす欲望をちゃんと刺激していくことを意識しています。

今回の取り組みでは、未利用魚ではなく雑魚と呼び、漢字だと美味しくなさそうに思えるので、アルファベットにすることによって「なんだろう」という関心を引きやすくしています。また、たい焼き型にすることによって、魚を食べているということをわかりやすくするとともに、たい焼きは普段から食べるものというよりもお祭りなどのイベントの時に食べるイメージがあるので、特別感を感じてもらえるようにしました。

あくまでSDGsは競争軸の1つ

ーー清水さんから見て、企業がSDGsやサステナビリティに関する企画やリリースをするときにどのような点を意識すればいいとお考えですか

私個人としては、SDGsやサステナビリティはあくまで競争軸の1つにすぎず、マーケティングの一要素という風に捉えた方がいいと考えています。近年ではブランディングやマーケティングの中で、SDGsだけが特別取り出されて扱われがちだなと感じています。SDGsをやれば売れる売れないとかではなく、価格、スペック、デザインで迷った時に「こっちの方が二酸化炭素の排出量少ないから、これでいいね」といってもらえるような、競合と差別化するための材料の一つとして考えるといいんじゃないかなと思います。

また、これも私個人の考えですが、基本的にSDGsやサステナビリティはビジネスのためにやるべきで、例え持続的で地球環境に優しい取り組みをしても、ビジネスが絡んでないと結果的に持続可能ではなくなってしまいます。

逆に、ビジネスとして還元することを考えていくことで、その会社がやる意味やストーリーにも繋がります。今までしていた事業とは全く違うところでサステナブルな取り組みをしても、取り組むに至った背景などがよっぽど作りこまれたものでないと生活者はそこに共感できません。今までの歴史や事業に沿ったサステナブルな活動やサービスをすることで、生活者にとってもストーリーを感じることができ、共感してもらうことができます。そしてその商品やサービスにお金を払ってもらうことで、結果的にビジネスにもなっていきます。

ーー最後に今後の展望や目標について教えてください

ソーシャルビジネスとして社会に発信できるものをもっともっと増やしていきたいです。「Earth hacks」というプラットフォームを三井物産、博報堂、博報堂ケトルと共同で運営しており、今年会社としても設立されたんですが、そちらでは「デカボスコア」という二酸化炭素排出量を従来の「◯kg」という表記から、「◯% OFF」とする取り組みを行っています。この取り組みをさらに広げていき、社会のあり方を変えるような大きなアクションにしていきたいです。

あとは、最近だと関東圏だけでなく全国の自治体や企業とのお仕事も増えてきているので、それを点として担当するだけではなく、SIGNINGを通して繋いでいくことで各ステークホルダーたちが横でつながって、さらに大きな活動をしていくということにもチャレンジしていきたいなと考えています。

デカボスコアについて詳しくはこちらから

さいごに

今回はSIGNINGの清水さんに話を伺い、一番印象に残っているのは「環境や社会にいいことを前面に押し出しすぎると、興味のない人にとってはお説教に聞こえてしまう」という言葉です。環境問題や社会問題を解決したいという想いが強ければ強いほど、伝える際にそこを切り取ってしまいますが、かえってそれが興味のない人を遠ざけていることは「確かにな」とすごく納得してしまいました。

SDGs業界は横の繋がりが薄いので、SIGNINGのような会社が間に入って繋がっていけると、さらに大きなムーブメントにできるなと感じました。

SDGs CONNECTも横の繋がりを作る1つのきっかけを提供できたらと改めて感じたインタビューでした。

 

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