「SOGIハラスメント」という言葉を聞いたことはありますか。LGBTが性的マイノリティの人たちを指すのに対し、SOGIは、全ての人が持つ性的指向・性自認を表す言葉です。
性的指向や性自認は人それぞれですが、何気ない一言でLGBT当事者を傷つけてしまう場合があります。2020年に改正された「パワーハラスメント防止法」では、SOGIハラなどがパワーバランスの一つに含まれました。LGBTの当事者は、職場で悩みや困り事を抱える場合が多く、誰もが働きやすい職場環境作りに取り組むことが必要です。
この記事では、SOGIハラスメントの概要や、SOGIハラスメントの例、SOGIハラスメントを防止するために企業ができることを分かりやすく紹介します。
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LGBTとは
皆さんはLGBTの意味についてどのくらい知っていますか。LGBTとはセクシュア ル・マイノリティ(性的少数者)の総称です。LGBTの他に、LGBTQという言葉もあります。
まず、最初にLGBTの意味についてまとめます。LGBTとは以下の4つの意味があります。
L=レズビアン(女性同性愛者)
G=ゲイ(男性同性愛者) B=バイセクシュアル(両性愛者) T=トランスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人) |
LGBTにQを加えて、LGBTQという言葉もあります。この追加されたQとはクィア、またはクエスチョニングを表しています。「クィア」とは、規範的な性のあり方以外を包括する言葉として使われており、「クエスチョニング」は、自らの性のあり方について、特定の枠に属さない人、わからない人などを意味します。
▼LGBTQについて詳しくはこちら
SOGIハラスメントとは|ジェンダーハラスメントとの違い
続いて、SOGIハラスメントとは何かについて解説していきます。
SOGIハラスメントという言葉をご存じでしょうか。まずSOGI(ソジ)とは、性的指向と性自認の頭文字をとった総称です。
- SO(Sexual Orientation):性的指向
性的指向とは、自分はどのような性別の人を好きになるのかということです。
- GI(Gender Identity):性自認
性自認とは、自分を男性と認識するのか、女性と認識するのか、はっきり分からないのか、どちらでもないのかなど、どういう性だと認識しているかということです。
他にもジェンダーハラスメントという言葉があります。SOGIハラスメントとの違いは何なのでしょうか。
SOGIハラスメントとは、性的指向や性自認に関連した差別的な嫌がらせのことです。例えば、職場や学校で性的指向や性自認が理由の強制異動や解雇など不利な待遇を強いられ、差別を受けることにより不利益が生じることなどです。
一方で、ジェンダーハラスメントとは、性別によって役割が決まっているという固定化された概念による差別的な嫌がらせのことです。たとえば、「男性だから家事ができない」「女性なのに上品にできない」など性別によって決められてしまうことなどが挙げられます。
SOGIハラは性的マイノリティの40%が経験|厚生労働省による委託調査
続いて、何パーセントの性的マイノリティがSOGIハラを経験しているのかについて紹介します。
上記の厚生労働省による委託調査によると、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの約4割、トランスジェンダーの約5割が職場で困りごとを抱えていることが分かります。
SOGIハラスメントの例5選
ここまで性的マイノリティの何割がSOGIハラスメントを経験した事があるのか紹介していきました。
続いて、SOGIハラスメントの例を5つ紹介していきます。
SOGIに対して侮蔑・差別的な言動や呼び方をする
SOGIハラスメントの一つが、職場や学校で、SOGIに対して差別的な呼称(ホモやレズなど)や言動をすることです。
たとえ、「ホモ」や「レズ」という言葉に何とも思っていなくても、それを聞いた人の中で、不快な思いをした人がいれば、SOGIハラスメントになります。
異性愛者を前提とした会話をする
SOGIに対して異性愛者を前提とした会話をすることもSOGIハラスメントです。異性愛者を前提とした会話として、例えば、
女性に対して、「どんな男性と付き合っているの?」
男性に対して、「どんな女性がタイプなの?」
相手がどのような性的指向なのか知らないにもかかわらず、むやみに異性愛者と決めつけた質問によって、不快な思いをするLGBT当事者も少なくありません。そのため、「彼氏」や「彼女」などと異性で呼ぶのではなく、「恋人」という伝え方をする方が良い場合もあります
LGBTの性的指向や性自認に関する情報を暴露する(アウティング)
LGBTの性的指向や性自認に関する情報を暴露するアウティング行為もSOGIハラスメントに含まれます。
SOGIからカミングアウトされた後に、
「ホモらしいよ」 「まじか、やば」
「レズらしいよ」 「え、ほんと?」
など勇気を出してカミングアウトしても、内容を勝手に言いふらされてしまうことが「アウティング」です。LGBT当事者は、カミングアウトした相手にだけ知ってほしかったことを勝手に言いふらされることで、不快な思いをしてしまいます。
SOGIを理由にいじめや暴力を行う
SOGIハラスメントの一種として、SOGIを理由にいじめや暴力を行うことです。
例えば、「あいつホモだって、気持ち悪いから近づかないようにしよ」という言葉もSOGIハラスメントになります。
相手が、自分と違う性的指向を持っているからといっていじめをして良い理由にはなりません。どのような状況にあったとしても、LGBT当事者に対するもの以外にもいじめや暴力は決してしてはいけません。
SOGIを理由に不当な扱いをする
SOGIを理由に職場や学校で不当な扱いをする事も、SOGIハラスメントです。
過去に、性同一性障害を持つ労働者に対して、女性の服装や容姿で出社しないよう命じる業務命令が出され、その命令に従わなかったことを理由に懲戒解雇が行われました。しかし、この懲戒解雇は権利濫用によるものであり、性的指向や性自認に関する裁判が行われ、無効とされました。
このように、SOGIを理由に不当に解雇したり昇進させてもらえないなど様々な不当な扱いが行われた事例もあります。
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改正パワハラ防止法|SOGIハラやアウティングをパワハラとする法律
2019年5月、改正労働施策総合推進法が成立し、企業などに職場でのパワーハラスメント防止を義務付けられました。また、パワーハラスメントには、SOGIハラやアウティングも含まれています。
2022年4月までに、中小企業は社内規程を整備し、相談窓口を設置して対応することが求められています。
SOGIハラスメントを防止するための企業の対策例2選
ここまで、SOGIハラやアウティングをパワハラとする法律について説明していきました。
次に、SOGIハラスメントを防止するための企業の対策例について2つ紹介していきます。
SOGIハラ対策について方針を作り、社内に周知する
企業は、SOGIハラ対策として以下のことを周知する事が必要です。
・SOGIハラについての概要 |
・SOGIハラを行ってはいけないという旨の方針 |
・SOGIハラを未然に防ぐためにはどうしたらよいか |
・SOGIハラを行った者に対する処罰について |
社内報やHPなど社員が気づきやすいように周知徹底を行っていきましょう。
相談窓口を設置する
企業は、SOGIハラに対する相談窓口を設置することで、「職場でいやがらせを受けた」「休暇や福利厚生制度などで困り事がある」といった場合に対応できます。それによりLGBTの懸念や困りごとを減らすことができます。
SOGIハラ対策で気をつけたいこと|プライバシーの保護に気を配る
万が一SOGIハラが起こってしまった場合、一番気を付けなければならないことは、プライバシーの保護です。相談するという行為は、とても勇気が必要です。相談を受けた際に情報が漏れないように対策をする必要があります。
SOGIハラに対する相談を受ける際は、本人に誰にどこまで話してよいかを確認したうえで対応しましょう。また、情報共有が必要な場面になった際も必ず本人に相談したうえで行うことが必要です。
また、SOGIハラを報告したことでSOGIハラを行った人物から報復や、嫌がらせが起こらないような対策も大切です。
SOGIハラスメント対策を行なっている企業事例3選
ここまでは、SOGIハラスメント対策で気をつけたいことについて解説してきました。
最後に対策を行なっている企業事例を3つ紹介します。
株式会社資生堂|社員向けのLGBT促進活動の実施
資生堂は、2017年から社員の同性パートナーを異性の配偶者と同じように福利厚生などが受けられるように就業規則で定めています。また、社員向けセミナーや、LGBTの学生を対象にした就職支援も行っています。
また、企業のLGBT支援を評価する「Work with PRIDE」では最高のゴールド認定を受けました。2020年には婚姻の平等キャンペーン「Business for Marriage Equality」に資生堂も賛同しています。
野村ホールディングス株式会社|差別解消への取り組み
野村ホールディングス株式会社は、2019年4月にLGBTQ+への支援の意を表明するため、2017年に国際連合より発表された「LGBTIの人々に対する差別解消への取り組み~企業のためのグローバル行動基準~」に、日本の金融・証券業界で初めて正式に署名しました。
他にも、下記のように、LGBTQ+への理解などについて情報を発信するイベントを開催するとともに、社内・社外交流を行っています。
- 当事者の話や職場での課題を考えるセミナーを開催
- マイノリティを理解し、支援する「アライ*になろう!」をスローガンとして、LGBTQ+関連のポスターを本社や支店のカフェテリアで展示するなど啓発活動を実施
- 東京レインボープライドへの協賛などコミュニティ活動への支援
*1 ALLY(アライ):LGBTでは無いけれどLGBTの人たちの活動を支持し、支援している人
サントリーホールディングス株式会社|ダイバーシティ経営
サントリーホールディングス株式会社は、従業員一人ひとりが多様な価値観を受け入れ、当事者に配慮した行動ができるよう、以下の取り組みを行っています。
- 社内規定の配偶者の定義に「同性パートナー」を加え、育児休暇や住宅施策などさまざまな手当を異性の配偶者同様に受けられるように改定
- LGBTに関する相談窓口の開設
- 性別に関係なく誰でも自由に使えるよう多目的トイレマークの表示切りかえ
- LGBTも含めたセクハラやパワハラなどのハラスメントに関するe-ラーニングの実施
- イントラネット上にて、LGBT Allyの為のハンドブックを掲載
- お客様を含めた社外の方へ企業スタンスの発信
ハンドブックでは、LGBTへの理解を深めるために、様々なケーススタディを掲載する工夫がなされています。
引用:ダイバーシティ経営の更なる加速へ、LGBTに関する活動を推進
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まとめ
職場などでのSOGIハラスメントの例や法律について紹介してきました。民間団体の調査によると日本におけるLGBTは、人口の8%〜10%前後になり、10から13人に1人いるとされています。
LGBT当事者は、職場でのSOGIハラによって悩んでいる場合もあります。そんな時に企業として配慮した取り組みを少しでも行うことにより、LGBT当事者にとって働きやすい職場になるのではないでしょうか。
全ての人が相手に配慮して生活することで、より良い社会に変わっていきます。まずは、自分自身ができることを見つけて新たな知見を広げてみましょう。