企業が円滑な運営をするために、人的資本経営への取り組みが必要とされています。
人的資本経営とは社内で働く「人」を大切にする経営方法です。「売り手市場」が進む現在、個人の能力やスキルをいかに高めるかが企業にとって大切になっています。
今回は、人的資本経営に取り組むためのステップやポイント、成功した企業事例を紹介します。
【この記事でわかること】 |
人的資本経営とは-わかりやすく解説
まず、人的資本経営とは何かわかりやすく解説します。
人的資本経営と従来の経営との違い
人的資本経営と従来の経営は、その対象が大きく異なります。
従来の経営では、物的資本、すなわち設備投資や技術革新等の経済的な側面が重視され、人材はそれを活用する手段とされてきました。
しかし、急速な技術進化や働き方改革といった影響により、従来のような経営手法では対応しきれない課題が増えてきました。その中で注目されているのが「人的資本経営」です。
人的資本経営とは、従業員一人ひとりの能力や才能、知識などの「人的資本」を最大限に活用することで組織の成長を図る経営手法です。そのため、人材への投資や育成が重視されます。
従来の経営 | 人的資本経営 | |
対象 | 物的資本(設備投資、技術革新等) | 人材(能力、モチベーション等) |
目標 | 経済的な成果 | 企業全体のパフォーマンス向上 |
これからの時代は、「人的資本経営」への理解と取り組みが企業の競争力を左右する鍵となるでしょう。
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人材版伊藤レポート2.0の3P・5Fモデルとは
人材版伊藤レポート2.0は、日本企業の人的資本経営への取り組みを評価する指標となる3P・5Fモデルを提唱しています。
3Pは「Purpose(目的)」、「Plan(計画)」、「Process(プロセス)」の3つを指します。企業が人的資本経営に向けて設定する目的、それを達成するための計画、そしてその計画を実行するためのプロセス・手順を明確にすることが求められます。
次に、5Fは「Find(発見)」、「Foster(育成)」、「Flow(流動)」、「Fit(適合)」、「Future(未来)」の5つを指す要素です。これらは、人材の発見から育成、配置、適合性の確認、そして将来像までを考慮に入れた人材戦略の構築が必要であることを示しています。
3P・5Fモデルを理解し活用することで、企業は人的資本経営へとステップアップできる基盤を築くことができるようになります。
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企業が人的資本経営に取り組むポイント3選
企業が人的資本経営に取り組む際に気をつけるべきポイントを3つ紹介します。
組織の目指す姿を明らかにする
企業が人的資本経営に取り組むためには、まず「組織の目指す姿」を明確にすることが重要です。企業のビジョンやミッションと直結し、全ての従業員が共通の目標に向かって進むことができるようになります。
目指す姿を具体的に描くためには、以下の3つの視点が参考になります。
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これらを明確にすることで、組織全体が一体となって目指す方向性がはっきりし、人材開発や組織運営の方針を立てやすくなります。
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人的資本経営に関する本を読む
「人的資本経営に取り組む」ためには、まずその概念や具体的な方法について理解を深めることが重要です。その一つの手段として本を読むことが大切です。本を読むことで人的資本経営の基礎知識を身につけ、自社の人的資本経営を強化するためのヒントを得ることができます。
ここでは、人的資本経営に関するおすすめの本を3冊ご紹介します。
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これらの書籍を読むことにより、人的資本経営の基礎知識を身につけるだけでなく、具体的な取り組み方や企業の成功事例も学ぶことができます。
CHROの設置を検討する
人的資本経営の推進には、上位経営陣が直接関与することが重要です。その一環として、CHRO(Chief Human Resource Officer)の設置が有効です。
CHROは企業の最上位層であるC-Suite(企業の経営を担う幹部クラスのさまざまな役職(Chief)の総称)の一員として、人材戦略の策定や推進に専念する役割を担います。その活動範囲は、個々の人事制度の見直しから、組織全体の文化改革まで広範にわたります。
CHROを設置することで、以下の3つのメリットが得られます。
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CHROを設置する際にはCHROの役割や責任を明確に定義したり、CHROに適した人材を採用したりすることが重要です。
人的資本経営に取り組む3ステップ
人的資本経営に取り組むための3つのステップを紹介します。
経営戦略と人材戦略を結びつける
経営戦略と人材戦略を結びつけるためには、まず自社のビジョンとミッションを明確にする必要があります。これらの明確化により、企業がどのような組織であり、どのような人材が必要なのかを定義することができます。
次に、ビジョンとミッションを実現するためには、どのような組織像を目指すのかを考えなければなりません。例えば、どのような事業を展開するのか、どのような価値を創造するのか、どのような顧客や社会に貢献したいのかを定義します。
また、求める人材像を設定することも大切です。それに伴って、人材の採用や育成、配置や評価などの施策を検討します。
最後に、策定した人材戦略が、自社の経営戦略とリンクしているかを定期的に確認する必要があります。経営戦略の変更に伴い、人材戦略も適宜見直すことで、経営戦略と人材戦略の一致を図ることができます。
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施策を考察する
施策を考察する際は、まず自社の人材戦略の現状を把握することが重要です。具体的には、以下の項目を検討しましょう。
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例えば、人材育成のための研修制度が充実していない場合、社員のスキルや能力の向上が進まず、企業の競争力強化につながりません。また、社員のモチベーション向上のための取り組みが不十分な場合、社員の働きがいや帰属意識が低下し、離職率の増加につながる可能性があるのです。
モニタリングを行い、改善する
人的資本経営は、一度取り組みを始めたからといってすぐに結果が出るものではありません。常に現状の把握と進捗のモニタリングが必要です。具体的には、次のようなステップを踏みます。
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このプロセスを繰り返すことで、人的資本経営を実現できるようになります。
企業での人的資本経営の成功事例5選-中小企業の事例も紹介
人的資本経営の成功した企業事例を5つ紹介します。
旭化成株式会社
旭化成株式会社は、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上を目指す中期経営計画において、人的資本経営を重要なテーマの一つに掲げています。その一環として、高度専門人財の育成に力を入れており、その人数をKPI化しています。
高度専門人財とは、高い専門性を持ち、部門を問わず活躍が期待される人財です。旭化成では、高度専門人財を「高度専門職」として位置付け、その人数を毎年増加させています。そして、その状況は毎年モニタリングされます。
また、旭化成では、ビジネスモデル変革や価値創造のために全社的にDXを推進しています。そのため、高度なDX人財の育成にも力を入れています。DX人財はレベル1~レベル5まで定義されており、レベル4、5を高度なデジタル化を推進するデジタルプロフェッショナル人財と位置付けています。
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株式会社日立製作所
日立製作所は、社会イノベーション事業の成長を支える人財の確保・育成を重要な経営課題と位置付けています。そのため、グループ・グローバル共通の人財マネジメント基盤を10年以上かけて拡充しています。
また、日立製作所では、経営リーダー候補の早期選抜・育成プログラム「Future50」の運用を開始しました。これは、グループ・グローバルで活躍が期待される社員の中から50名を選抜して、将来の経営者候補として重点的に育成するプログラムです。
ロート製薬株式会社
ロート製薬株式会社は、持続可能な社会の実現を目指す企業として、「Connect for Well-being」という目標を定めています。この目標を実現するために多様な人財を採用し、会社と社員の考えの一致を重視しています。
例えば、新卒採用では会社のパーパスへの考え方や自らのパーパスについて語る動画を応募要件とし、個人と会社のパーパスのマッチングを図っています。
また、新規事業推進のために高度専門人財の採用を強化したり、大学院との共同研究を推進したりしています。
ソニーグループ株式会社
ソニーは「Special You, Diverse Sony」を人事フィロソフィーとし、多様な人材の成長を促すことで企業全体の成長を図っています。その人事戦略は、「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」の3つの軸で構成されています。
「個を求む」とは、多様な人材を採用し、社内に迎え入れることです。ソニーでは、コース別新卒採用や社内募集制度などを通じて、多様な人材の採用に取り組んでいます。
「個を伸ばす」とは、社員ひとりひとりの能力やスキルを伸ばすことです。ソニーでは、次世代リーダー育成や技術戦略コミッティによる優秀な技術者の育成・輩出などを通じて、社員の成長を支援しています。技術戦略コミッティは、ソニーグループの技術戦略を策定・推進する組織です。
「個を活かす」とは、社員の個性を活かして活躍できる環境を整えることです。ソニーでは、新規事業支援による社員のアイデア実現や、社員同士の交流スペースの設置などを通して社員の活躍を後押ししています。
株式会社山田製作所
山田製作所は、「何の強みもない会社」の特徴づくりとして3S活動を20年にわたって継続し、企業文化として定着させました。3S活動で養われた「全員で守ることを決め、全員で決めたことを守る」の精神は、残業時間削減施策にも活かされています。
残業時間削減施策では、半期ごとにKPIを設定しています。3S活動で培った徹底力で、もう少しで終わる作業であっても残業をしないことを徹底しました。また、仕事が時間内に終わらなかった場合には、なぜ終わらなかったのかを考える習慣を身に付けさせています。
さらに、新人との技術の差を埋めるためにベテラン従業員による指導を徹底しました。その結果、新人の仕事の効率が良くなり、残業時間のKPIをクリアする機会が増えました。
まとめ
人的資本経営の取り組みは、企業の経営戦略にとって重要な役割を果たします。今回はそのポイントやステップをわかりやすく紹介しました。様々な企業の事例も紹介しましたが、目指す姿を明確にし、経営戦略と人材戦略を結びつけることが重要です。
また、具体的な施策を考察して定期的にモニタリングを行うことで、企業全体としての成長を実現します。特に、CHROの設置は、企業が一丸となって人的資本経営を推進する上で大切な取り組みです。
人的資本の価値を最大限に引き出すことで、企業の競争力が向上したり、持続可能性が向上したりします。積極的に人的資本経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。
大学では国際デザイン経営学科に所属し、解決が困難な問題をあらゆる角度から解決できるようにするため、日々勉学に努めている。