LGBTとは様々な性的マイノリティのうち、代表的な「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」の4つの頭文字をとった総称です。実はLGBTの割合は国内で11人に1人といわれており、性の多様性が増していく中、LGBTの方は職場で多くの問題を抱えています。
LGBTの当事者は職場でどのような困り事に直面しているのでしょうか。また企業ができるLGBTに配慮した取り組みとは何でしょうか。
この記事では、職場や就職活動時にLGBTの方が困っていることや、職場におけるLGBTに配慮した取り組みについて紹介していきます。
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LGBTに関する調査|LGBT当事者が職場で困っていること
皆さんは、どのくらいLGBT当事者の職場での生活についてどのくらい知っていますか。
まずは、LGBT当事者が職場で困っていることについて紹介します。
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職場でプライベートの話をしづらい
最近ではLGBTという言葉が広く知られるようになりましたが、LGBTへの考えは人それぞれで、受け止めるのに時間がかかる人もいます。
しかし、忘年会などの親睦を深める機会ではプライベートな会話に比較的なりやすく、LGBT当事者であるがゆえに異性恋愛の話題に入りにくかったり、話を合わせるために異性愛者を演じてストレスを感じてしまうこともあります。
このグラフは、令和2年3月に作成された三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和元年度職場におけるダイバーシティ推進事業(労働者アンケート調査)」の中の「働く上 でセクシュアル・マイノリティであることを理由に困っていること」のグラフです。全体的にプライベートについての話をしづらいと感じるLGBT当事者が多くいるといえます。
異性愛者として振舞わなければならない
プライベートな会話の中で、恋愛の話題になることも少なくありません。恋愛話が出てきてしまうとカミングアウトしている人はそのまま事実を話せばよいですが、できていない人は周りの目を気にしてしまい異性愛者として振舞わなければならない可能性もあります。
こちらのグラフからは、トランスジェンダーの方が周りに気を使って異性愛者として振舞っていることが多いと分かります。
相談先がない
職場で働く上で、同僚や上司などは相手がLGBT当事者とは知らず接しているためカミングアウトしたら今後どうなってしまうのか考えてしまい、今の関係を壊したくないという思いから相談ができなくなってしまいます。
他にも、会社に個別相談の窓口が無かったりあったとしても秘密が漏れてしまうかもしれないというような不安もあります。
社内制度や職場の慣行が、異性愛が前提となっている
LGBT当事者が福利厚生制度を利用しにくいということがないように、見直しを行っている企業もありますが、異性愛を前提として結婚祝い金や休暇、家賃補助などの対象とする企業のほうが多いのが現状です。
グラフを見ると、この問題について気になっているLGBT当事者が一定数いることが読み取れます。
職場でハラスメントを見聞きした経験がある
性的指向および性自認に関するハラスメントである「SOGIハラ」が問題視されています。
「ホモ」や「レズ」、性的思考を批判する言い回しなどが欠けたりする行為があげられます。
また、LGBTというのを第三者に公表するアウティング行為も、LGBT当事者にとって不利益につながる可能性があるためSOGIハラの1つです。
性別に応じた服装規定がある
このグラフから、LGBTの中でも特にトランスジェンダーの方が、性別に応じた服装規定に対して悩みを抱えていることがわかります。
トランスジェンダーとは、「性自認と身体的性が異なる」状態のことを指します。性自認と異なったスーツ、スカートを着用したり、男女の性別で分けられた服装に違和感を感じていたり、服装規定があることで困るLGBT当事者が多くいます。
関連記事:自民党が「LGBT法案」了承見送り|「性差別」表現めぐって
LGBT当事者が就職活動で困っていること
ここまでは、LGBT当事者が職場で困っていることについて紹介してきました。実は、職場を選ぶ就職活動時に、悩みを感じるLGBTの方も少なくありません。
続いて、LGBT当事者が就職活動で困っていることについて紹介します。
採用説明会で、LGBTに関する取り組みについて質問しにくい
就職活動で参加する採用説明会では、最後の方に会社側に質問をする機会が設けられている場合が多いです。その際、LGBT当事者にとって働く上で非常に重要となってくる内容である質問ですが、この質問をする事によってカミングアウトのような状況になってしまう可能性もあります。
そのため、会社の方でアンケート方式で質問をしてもらうなどの秘匿性の高い対応をすることが必要です。
スーツの着用や履歴書の性別欄など、片方の性別を選ばなければいけない
グラフから、LGBTの中でもトランスジェンダーの割合が20.8%と多いことが分かります。トランスジェンダーは「性自認と身体的性が異なる」ため性別を記載するときに2択しかないため悩みを抱える場合が少なくありません。
近年は企業や就活サイト「任意記入」や「その他」欄が設けられていたりされてはきていますが、このような配慮がない場合もあるためLGBT当事者の立場に立った対応が必要です。
面接でカミングアウトすべきか迷う
LGBTの方は、面接の中でカミングアウトすることによって採用に影響を与えてしまうのではないか、どんな反応をされてしまうのかなど不安に思うことが多々あります。その一方で、カミングアウトする事で採用されたときに働きやすかったりと良い側面もあるため迷うことが少なくありません。
企業側の対策としては、LGBTに対する理解を深めていたり、性的マイノリティではないことを前提とした質問などを改善していくことが大切です。
関連記事:LGBTの人が抱えている悩みとは?-お悩み例や相談先も網羅
企業がLGBTに配慮した取り組みを行う目的
ここまで、LGBT当事者が就職活動で困っていることについて紹介しました。
次に、LGBTに配慮した取り組みを行う目的について3つ説明していきます。
①多様な人材が活躍できる職場環境を整備するため
多様な人材が活躍できる職場環境の整備の一環として、性的指向や性自認の問題に積極的に取り組むことは、性的マイノリティのみならず、企業にとっても組織の活性化や人材の確保につながり、多くのメリットがあるといえます。
②性的マイノリティの当事者が働きやすい職場を作るため
性的マイノリティの当事者が働きやすい職場を作ることも目的の一つです。近年、性的指向や性自認に関して、会社や上司、同僚に相談をし、それを機に、企業が性的指向や性自認に関する取り組みを始めるケースも増えてきています。
相談には、職場での具体的な困りごとへの対応を求めるものもあれば、性的マイノリティであることを知ってもらいたいというものもあります。
③性的指向・性自認に関する社会的気運へ対応するため
性的指向や性自認について取り組む企業は、必ずしも当事者からの相談を受けて取り組みを始めた企業ばかりではありません。社会的な認知の高まりをみて取り組むべきと判断した企業が多く存在しています。
職場におけるLGBTに配慮した取り組み6選
ここまで企業がLGBTに配慮した取り組みを行う目的について、まとめていきました。
ここからは、職場におけるLGBTに配慮した取り組みを6つ紹介していきます。
性的マイノリティに関する企業方針を策定し、周知する
企業として「性的指向や性自認にかかわらず、多様な人材が活躍できる職場環境を作る」という方針を策定することで、当事者を含めて従業員は企業の姿勢を信頼することができます。
福岡県のサービス業の企業では、性的指向や性自認について取り組むことを決め、まず、企業行動憲章の改定を行いました。そして条文を追加し、性的指向・性自認にもとづく差別をしないということを示しています。
研修や周知啓発などを行う
性的マイノリティの当事者が働きやすい職場環境を作るためには社員一人一人のLGBTに対する理解が必要になります。そのため、定期的な研修の場を設けたり、講師として外部の有識者を活用していくことで理解を促すことができます。
北海道の宿泊業、飲食サービス業の企業では、札幌市が公開している資料を活用した勉強会や責任者会議では、LGBTについての各回20分程度の研修会を数回にわたって実施しています。その後、責任者は、受けた研修の内容を朝礼や昼礼で展開しています。
相談窓口や支援ネットワークを作る
性的マイノリティの当事者が会社に相談したい場合があります。例えば、知ってもらいたいということや、職場でいやがらせを受けた、休暇や福利厚生制度などで困り事があるといった場合に相談窓口などがあれば安心して働くことができます。
東京都の運輸業、郵便業の企業では、ハラスメント窓口とは別に、性的指向・性自認に関する相談窓口を新設し、担当者の性別に希望がある場合に備え男女3名体制で対応しています。また、社内ポスターとして周知しておりこれまでに実際に相談を受けています。
性的マイノリティを排除しない採用・雇用管理を行う
採用にあたっては、公正な採用基準に基づき採用活動を行い、性的マイノリティの当事者など特定の個人を排除しない採用活動を行うことが求められます。
愛知県の運輸業、郵便業の企業では、オリジナルの履歴書を作成し性別欄をなくすとともに、配偶者の有無の項目では、「配偶者」と「パートナー」の文言を併記しています。
性的マイノリティの当事者が利用しやすい福利厚生制度を作る
結婚祝い金や休暇、家賃補助等の福利厚生制度を性的マイノリティの当事者が利用しにくいことが無いような対応が求められます。
東京都のサービス業の企業では、婚姻同などの関係にある同性カップルや、異性間・同性間問わず事実婚をした社員に対して、「結婚休暇」の付与、「結婚祝金」の贈呈、「出産祝金」の贈呈を認めています。
トランスジェンダーの社員が働きやすい職場環境を整備する
トランスジェンダーの方について、自認する容姿や服装での勤務を行うことであったり、更衣室やトイレといった施設が自認する性で利用ができたりするように配慮することが必要です。
東京都のサービス業の企業では、トイレは性別のトイレを使用することができるようになっており、社員からの理解もあります。また、名刺も当事者が希望する通称名で作成することも認めています。
関連記事:LGBTのトイレのマークについて考える-オールジェンダートイレの提案や導入事例も紹介
関連記事:企業によるLGBT支援の取り組み7選-日本と海外の企業事例も紹介
LGBTに配慮した企業の取り組み事例4選
ここまでは、職場におけるLGBTに配慮した取り組みについて紹介してきました。
最後にLGBTに配慮した企業の取り組み事例を4つ紹介します。
KDDI|服装規定の見直し
KDDIは、2019年9月に社員の服装基準を廃止し、10月から服装に関する新しい規則を適用しました。最低限度のマナーを守っていれば、服装は社員が自分で決められることに変更したのです。
元々の基準では、男性はスーツ・ネクタイ、女性はTPOに合わせた服装と規定されていました。しかし、情報通信業という企業柄、取引先がビジネスカジュアルというケースも少なくありませんでした。このような観点も含めて会社と議論した結果、より働きやすい環境をつくるために服装基準が見直されました。
株式会社サニーサイドアップ|パートナーシップ制度
従業員の多様性を認め合い、尊重するダイバーシティの理念に基づいた新しい時代の就業規則。同性婚・事実婚の場合でも、結婚出産祝金、結婚休暇を認めています。
また、「LGBT」の社会的啓発と融和のためのPR活動を、CSR活動の一環として2014年から実施しています。
引用:32 BENEFITS
引用:“LGBT” 性の多様性を国内外に発信 アジア最大級のLGBT関連イベント「TOKYO RAINBOW PRIDE」
日本電気株式会社|ALLY¹の見える化
採用面談マニュアルの中に、LGBTに対する記載事項を加え、
- 人権の観点から差別や個人の尊厳を傷つけるような面談を絶対に行わないこと
- 面接時などにカミングアウトした場合でも LGBT に関する質問に終始しないこと
- 本人の能力および業務適性のみで判断すること
を徹底しています。
また、REBITや外部企業で働く当事者、就活学生などを講師に迎え、NECの人事・総務部門、人権ホットライン相談窓口、健康管理部門、および NECグループの人事総務部門メンバーなど約120名が3 回に分けてLGBTに対する勉強会を行っています。
¹ALLY:LGBTでは無いけれどLGBTの人たちの活動を支持し、支援している人
株式会社メルカリ|LGBT+コミュニティ
LGBT+とそのALLYによるコミュニティ「Pride@Mercari」を2018年に設立し、LGBT+に関する理解を促進するための社内勉強会やイベントを展開しています。また、コミュニティ活動を通じて、社内相談窓口「LGBT+ Help Desk」を2020年から設けるなど、社内の人事施策の改善にも取り組んでいます。
他にも、社員全員を対象にしたLGBT+に関する社内理解を深めることを目的としたオンライン研修の実施など様々な取り組みを行っています。
引用:メルカリ、LGBT+に関する企業評価指標 「PRIDE指標2021」にて「ゴールド」を受賞
まとめ
就職活動、職場でのLGBT当事者が困っていること、取り組みを紹介してきました。民間団体の調査によると日本におけるLGBTは、人口の8%〜10%前後になり、10から13人に1人いるとされています。
LGBT当事者は、職場での容姿や服装、トイレや更衣室などの施設においても周りの人の理解不足や規則によって困っています。このような悩みを解消していくためには、周囲の人の理解を深めたり、会社の規則を柔軟に変更したりすることが不可欠です。
一人一人が相手の個性を尊重し合い理解し、全ての人が過ごしやすい社会になれるように意識しましょう。