SDGs達成のためのデータサイエンスの重要性

#サーキュラーエコノミー#循環型経済 2022.01.07

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

SDGsに注目が集まる中、社会の中で資源やエネルギーの好循環を生み出すことで持続的な社会を作ろうとする動きが広がっている。そんな中、注目が集まっているのがサーキュラーエコノミー(循環型経済)の存在だ。

サーキュラーエコノミーは、従来のように資源を採取し、作って捨てるというリニア(直線)な経済システムではなく、活用されることなく廃棄されていた製品や原材料を、新たな資源として活用し、循環させる経済の仕組みのことだ。

SDGs CONNECTでも、サーキュラーエコノミーを解説するだけでなく、アクセンチュアの海老原氏へのインタビュー記事も公開している。あわせてご覧頂きたい。

この記事では、重要性が高まるデータサイエンスを活用し、循環型の経済を目指すサーキュラーエコノミー推進機構 専任理事の宮内氏を取材した。循環型の社会をつくるために、なぜデータが重要なのか、データサイエンスの可能性や現代社会の課題まで幅広く解説していく。

SDGsで掲げられた17の目標の中でも、特に注目が集まっているのが、廃棄の問題だ。例えば、食料の廃棄はフードロスとして大きく課題視され、廃棄前の食料を活用するフードドライブなどの動きが広がっている。

また、アパレル分野でも大量廃棄が問題視されている。そこで、2020年12月にオープンした無印良品 東京有明では自治体と連携して衣服を回収し、リユース・リサイクルするという取り組みを実施している。このようにアパレル分野では廃棄を減らす取り組みが加速している。

他にも多くの分野で廃棄を減らす取組が加速しているが、依然として廃棄は0になっている状態ではない。

そこで重要になってくるのがデータサイエンスの存在だ。例えば、小売分野の多くの企業では、データサイエンスを活用し、自社の売上や需要を予測し、大きく廃棄を減らしている。

例えば、大手回転寿司チェーン「スシロー」は、需要予測システムを導入。誰がどの寿司をいつ食べたのか、いつ、寿司は廃棄されやすいのか、過去のデータを解析し「回転すし総合管理システム」を導入。1分後と15分後に必要な寿司の数を常に予測し、タイムリーな寿司の提供を可能にしている。スシローは、このシステムにより廃棄率を75%削減することに成功している。

このようにデータサイエンスを活用することで人の勘や経験に頼らずに需要にあった供給が可能になり、企業にとっては機会損失が減るだけでなく、廃棄も減ることで、社会問題も解決に向かう。近年では、需要予測が簡単に行えるプラットフォームなども多く生まれて来ており、今後も需要予測の動きはさらに進んでいくだろう。

データサイエンスの活用法は、廃棄だけではない。多くのデータを分析することで、流通網を効率化したり、廃棄される製品を求めている人をマッチングさせるなど、活用の幅は広い。

宮内氏もデータを活用する重要性を以下のように語っている。

宮内氏:SDGsには、17の目標がありますが、データを活用することによって、社会のさまざまな面で、 サステナブルな形を作る新しい仕組みを作ることが可能になると思います。

新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、感染が拡大したこともあり、さらに加速化されていくと思います。

データサイエンスの可能性に注目が集まっている中、一方でデータサイエンスを担う人材不足が問題視されている。特にデータサイエンティストは、データを分析し、新たな価値を生み出していく上で重要な人材だが、圧倒的に人口が足りていない状況にある。

宮内:データが重要な今、データを分析するスキルを学べる環境が重要です。以前より大学でもデータサイエンスをテー マにしたコースや学部をつくらなければいけないと考えていましたが、なかなかスピード感をもって体制を築くのは難しいものです。

しかし、すべての産業を横断して、データがビジネスを変えていく中で、真のデータサイエンティストの育成が進まないとなると、日本の産業界の危機になると思い、どのようにすべきかを考えました。

データサイエンスの教育現場では、なかなかリアルデータを使える機会がないのが実情です。真のデータサイエンティストを育てるには、リアルデータを分析して実践に近い経験が必要です。そこで、大学と企業と連携して、優秀なデー タサイエンティストを育成する基盤を構築することとしました。

学生の方々に将来、素晴らしい成長を遂げてもらうにはどのようにしたらいいのかを検討し始めたのが2014年頃で、2018年にサーキュラーエコノミー推進機構が立ち上がりました。

サーキュラーエコノミー推進機構は、データホルダーである企業と連携してCEOプログラム(データサイエンティスト育成プログラム)を学生に対して提供している。さらに学生の個性にあわせて、参画する企業とマッチングを行い、リアルデータを使いながら実践的な学びを得られる仕組みになっている。元経済産業事務次官の望月晴文氏が理事長を務め、2015年にノーベル物理学賞受賞した梶田隆章氏が顧問を務めるなど、各分野のエキスパートが役員 / 顧問として参画していることもポイントだ。あわせて、アクセンチュア、日立製作所、ドコモ、ヤマトホールディングス、中外製薬など、日本を代表する企業が理事会員として名を連ねている。

引用:サーキュラーエコノミー推進機構 公式サイト

日本を支える企業群のしっかりとしたコミットのためにはトップの理解が重要だと宮内氏は語る。

宮内:「サーキュラーエコノミー推進機構を立ち上げた際に、日経新聞の1面で取り上げていただきまし た。それとともに、多くのお問い合わせが殺到しました。
ただ、なんとなくデータサイエンティストを育成したい企業よりも、責任を持って引き受けて育成ができるような企業でないと難しいと感じていました。サーキュラーエコノミー推進機構の取り組みは新しく、企業トップがデータサイエンスの重要性をいかに理解しているかが重要です。

トップダウンでデータサイエンスの重要性を理解し、従業員にそれが伝わっている一気通貫した会社と連携を深めています。

現在、多くの企業では就活生の囲い込みを目的とした短期的なインターンシップが開催されている。AIやデータサイエンス分野でも、多くの企業がインターンシップを実施し、時には高額な報酬が支払われるケースも珍しくない。インターンシップとのサーキュラーエコノミー推進機構の取り組みの違いは、人材教育に重きが置かれ、徹底した仕組みが図られている点にある。

宮内:国内の大手企業では、何千人ものインターンを受け入れるので、どうしても教育という観点が薄くなってしまいます。サーキュラーエコノミー推進機構のCEOプログラムでは、参画いただいている企業にプログラムをしっかりと組んで頂き、どんな学生を受け入れたいのかをアドバイザリーボードの先生方との面談ではっきりとしていただきます。

その上で、先生方と学生が面談を行い、実際に企業の中で実践的に学び、企業の体質だけでなく人間関係など、さまざまなことを学びながら、実際のデータで研修を行います。学生も最終的には、相性 がよければ採用が内定する仕組みになっていますが、プログラム研修の最終プレゼンには、研修先の経営陣も同席し成果を見極めますので、CEOプログラム研修を通じて採用された学生さんたちへの期待は大変大きく、その結果も出てきています。

データサイエンティストの場合は、ヘッドハンティングなどにより企業を渡り歩く場合もあると聞きますが、このような流れで採用された人材は、定着率も高い傾向にあります。データサイエンスに関わる人材は人気なので、採用するのが困難ですが、CEOプログラムを通じて就職した人たちは、素晴らしい活躍をしています。

サーキュラーエコノミー推進機構では、データ分析ができる人材だけでなく、企業の中核を担い、データを起点としながらデザインや社内調整、意思決定、価値創造できる方を育成したいと思っています。さらにはビジネスを生み出していけるような人材が、ゆくゆくはCDO(チーフデータオフィサー) やCAO(チーフアナリティクスオフィサー)として活躍する人材に育ってくれればと思います。今や、企業にはCDO 、CAOが必要な時代となっています。

サーキュラーエコノミー推進機構は、独自の人材育成の枠組みを通して、データサイエンスだけでなく、実務的な周辺知識も得ることで、社会全体を変革する人材を生み出し、循環型の人材を育成していくことを目指している。

サーキュラーエコノミー推進機構は、今の取り組みの先に、どのように循環型の社会が実現すると考えているのか。

宮内:サーキュラーエコノミーをつくっていくには、ビジネスを考えながら逆算してデータを解析し、ス ピード感をもって意思決定ができることが、これからの必須条件だと考えています。

例えば中国の物流関係の会社に菜鳥網絡(ツァイニャオ)があります。自社でトラックを所有するので はなく、さまざまなデータを解析し、言語やシステムの違いを超えて、動的に最適なサプライチェーン、ロジスティックスを構築する仕組みをもっていて、どこにどのように配送すれば、1番効率よく配送ができるのかを指示する会社です。

そこで配送業者が配送し、不要なガソリンや人材、トラックを使わない仕組みができあがっています。

データを解析することによって業務を効率化するだけでなく省エネにも繋がり、無駄をなくすことが可能になります。

今までの世の中は、大量消費のために資源を多く活用する社会でしたが、これからは有限の資源をいかに効率よく、無駄をなくして活用していくかが、地球自体のサーキュラー(循環)につながってくると 思います。現在では、データやIoT、センサーネット、モバイル端末等の普及によってデータを活用する条件が 整ってきたと思います。

これからサーキュラーエコノミーを目指すためには、このデータをいかに活用するかが重要になっていると思います。

また、今後の展望については、宮内氏は「コミュニティ形成」の重要性を指摘し、コミュニケーションの中から新しい取り組みが生まれる仕組みづくりに取り組んでいくと強調している。

宮内:サーキュラーエコノミー推進機構の人材育成後には、認定証の授与式が開催されます。認定証を授与された人たちがネットワークを築き、情報を共有しながら日本のデータサイエンスを盛り上げてくれると思います。

現在、卒業した1期生、2期生、3期生でコミュニティをつくり、Zoomで講演会などを開いています。例えば2015 年にノーベル物理学賞を受賞した梶田先生や実業界で活躍の方などに講演していただいています。さらには経営者の方々の講演会や交流会などを開催し、さまざまなことに触れる機会をつくっていきます。
最近ではオンラインのコミュニティもつくり、 自分たちでさらに自己成長していただけるような環境をサポートしています。

私がコンセプトとして大切にしているのは、インフォメーション・コミュニケーション・コラボレーションで す。

情報をコミュニケーションによって共有し、コラボレーションすることによって、より良い共同創造に繋がることが、私が仕事をしていく上でのテーマとなっていて、自律的に育っていった人たちが自分たちでご縁を大切にして、そしてまたコラボレーションをしつつ、体質がどんどん良い形になっていけばと思っています。

認定証を出して終わりではなく、関係性を持ち、ときには企業同士でも一緒に何かをする中で、新しい ことが生み出されて行けばいいと思います。縦横自由自在にお互いに刺激しあってほしいと思います。

近年、AIやデータサイエンスをはじめとした技術革新によって社会の変革が進んでいる。さらにデータを活用してさまざまな分野の効率化が進んでいる。

SDGsが注目される今だからこそ、次世代社会をどのようにしたいか、多角的な視点を持って、技術革新を進めていく必要がある。

特にデータを扱い、そこから新たな取り組みを生み出せる人材はこれからの社会づくりの軸となる存在だ。

サーキュラーエコノミー推進機構の人材育成を経た人材が今度、どのように社会を変革していくのか、引き続き注目していきたい。

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