日本は、「2050年カーボンニュートラル宣言」をおこなって以来、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としてさまざまな取り組みをおこなっています。
しかし、そもそもカーボンニュートラルとはどのようなことなのか、日本の現状や取り組みをきちんと説明できる方はそれほど多くないのではないでしょうか。
そこで今回は、カーボンニュートラルの実現に向けた日本の現状と取り組みを徹底解説します。
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2050年に日本が目指すカーボンニュートラルとは?
そもそもカーボンニュートラルとは?|脱炭素社会との違い
「カーボンニュートラル」とはCO2出量を実質ゼロにすることを指します。
似たような言葉として「脱炭素社会」がありますが、脱炭素社会とはCO2排出量ゼロを実現した社会のことを意味します。
しかし、CO2排出量を完全にゼロにするのはかなり難しいことです。
そこで出てきた考え方がカーボンニュートラルです。
実質ゼロとは、プラスマイナスゼロの状態のことで、人間が排出したCO2量と植物が吸収したCO2量がプラスマイナスゼロになる状態を目指すものです。
CO2排出量を減らすこともカーボンニュートラルの取り組みですが、削減しきれなかったCO2を森林などに吸収してもらうために、森林保全や植林活動を行うのもカーボンニュートラルの大事な取り組みです。
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なぜカーボンニュートラルが求められるのか
CO2は気候変動の原因となっている温室効果ガスの1つです。
近年、国内外でさまざまな気象災害が発生しています。このまま温室効果ガスを排出し続けると、豪雨や猛暑のリスクがさらに高まり、農林水産業、水資源、自然災害、経済活動への影響も出ると予想されています。
そのような被害を避け、持続可能な社会を目指すためにカーボンニュートラルという概念が必要なのです。
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日本は2050年カーボンニュートラルを目指すための新たな「エネルギー基本計画」を発表
菅内閣総理大臣は2020年10月26日の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。加えて、2021年4月、地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。
また、日本は2050年カーボンニュートラルを目指すために「エネルギー基本計画」を発表しています。「エネルギー基本計画」とは、エネルギー政策の基本的な方向性を示すために政府が策定するものです。
2021年10月、新たに「第6次エネルギー基本計画」が発表されました。
エネルギー基本計画は以下の3つのパートから構成されています。
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今回は2.の「2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」について少し紹介します。
「2050年カーボンニュートラル」の実現には、温室効果ガス排出量を8割も占めるエネルギー分野への取り組みが不可欠です。
電力部門では、再生可能エネルギーや原子力などの実用段階にある脱炭素技術を活用するとともに、水素・アンモニアを使った発電やCCS(CO2を集めて埋めて役立てる技術)などの新しい技術を追求していきます。
この高い目標に向けては、産業界、消費者、政府など国民各層が総力を挙げて取り組むことが必要です。
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日本は遅れている?カーボンニュートラルを目指す日本の3つの現状
日本の温室効果ガス排出量は世界5位|依然として化石燃料に依存
日本の温室効果ガスの排出量は世界5位であり、世界全体の3.2%を占めています。
また、その内訳を見てみると、エネルギー転換が全体の約39%を占めており、その中でも電力からの排出が約9割を占めています。
電力発電で多くのCO2が排出される理由は、日本は化石燃料への依存度が高いからです。
東日本大震災以前も日本の化石燃料への依存度は81.2%(2010年)と高い状態でしたが、震災後は85.5%(2018年)と依存にさらに拍車がかかっています。
原子力発電は、温室効果ガスを排出しないのでカーボンニュートラル対策のひとつとなります。しかし、福島第一原発の事故が起きた日本では、原子力発電の積極的な利用が依然として望まれていません。
また、再生可能エネルギーの導入があまり進んでいないことも問題視されています。
日本の発電電力量に占める再生可能エネルギー比率は18%であり、これはドイツやイギリスなどの上位国と比べると約半分の割合です。
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日本は不名誉な賞「化石賞」を受賞
2021年11月、イギリスで開かれたCOP26(第26解国連気候変動枠組条約締約国会議)において、日本は「化石賞」という不名誉な賞を受賞しました。
化石賞とは、気候変動対策に対し、消極的な姿勢を受けている国や地域などに皮肉を込めて贈られる賞です。
日本がこの賞を受賞した理由は、首脳級会合に登壇した岸田内閣総理大臣が、水素やアンモニアを利用した「火力発電のゼロエミッション化」の名の下に、石炭火力の必要性を主張したためです。
COP26参加国の首脳の多くは、石炭火力の廃止を進めるべきだと主張しており、温室効果ガス排出量世界5位の日本が世界から厳しい目を向けられることは当然のことです。
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日本のCO2排出量の推移|5年連続で減少
2018年度における日本のCO2排出量は11億3,800万トンで、一人当たりに換算すると約9トンでした。これを2013年度と比較すると13.6%の減少、一人あたりの排出量でも12.9%の減少となっています。
排出量減少の要因としては省エネや、再生可能エネルギーの拡大、原子力再稼働などによるとみられます。
CO2排出量は2014年度以降5年連続で減少しており、排出量を算定している1990年度以降、前年度に続き最少を更新しています。
しかし、2050年カーボンニュートラルを目指すためにはこのままのペースでは間に合わないのではないでしょうか。
カーボンニュートラル実現に向けた日本の取り組み事例9選
日本政府の取り組み
日本は「2050年カーボンニュートラル宣言」の対策として「グリーン成長戦略」を掲げています。グリーン成長戦略とは企業の温暖化への挑戦を後押しする産業政策です。
この戦略で民間企業の大胆な技術革新を促し、日本の「経済と環境の好循環」をつくっていくことが目的です。
企業の技術革新の大胆な投資を後押しするには企業のニーズにあった支援策が必要です。研究開発、実証、導入拡大、自立商用といった段階を意識して、それぞれの段階に最適な政策がきめ細かく措置されています。具体的な5つの主要政策ツールがありますが、今回はそのうちの3つを以下で紹介します。
予算:「グリーンイノベーション基金」創設
日本政府は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設し、企業を今後10年間、継続して支援していきます。この2兆円の基金を呼び水として、約15兆円とも予想される、民間企業の野心的なイノベーション投資を引き起こすことが狙いです。
税制:脱炭素化の効果が高い製品の投資を優遇
企業の脱炭素化投資を後押しする大胆な税制措置をし、10年間で約1.7億円の民間投資創出効果を目指して行きます。
具体的には、「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」をつくります。例えば、脱炭素化に向けた製品をつくるための生産設備を導入した場合、一定の税の優遇を受けられるようになります。また、苦しい状況でも積極的な研究開発投資を行う企業については、「研究開発税制」で認められている税の控除上限を引き上げることで、企業の投資意欲を引き出していきます。
規制改革・標準化:新技術が普及するように規制緩和・強化を実施
脱炭素化技術の需要を拡大し、量産化を目指すために、新技術の導入が進むよう規制を強化し、導入を阻むような不合理な規制については緩和します。また、日本の新技術が世界にも拡大するように国際標準化にも取り組みます。たとえば、水素を国際輸送する際の関連機器の標準化や自動車の電動化を推進するための燃料規制の活用などです。
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カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”
日本企業の取り組み
日本製鉄・ゼロカーボン・スチールへの挑戦
日本製鉄は脱炭素社会に向けた取り組みにおいて、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050〜ゼロカーボン・スチールへの挑戦〜」を掲げています。
まずは現行の高炉・転炉プロセスでのCOURSE50(水素活用還元プロセス技術)の実用化、既存プロセスの低炭素化、効率生産体制構築などによって、2013年比で30%のCO2削減をターゲットとしています。
下図は日本製鉄の2050カーボンニュートラルのシナリオです。
2050年ビジョンのためには3つの超革新技術が必要です。
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日本製鉄の公式ページではこれらの技術の課題と必要な外部条件がリストアップされています。気になる方は確認してみてください。
▼日本製鉄の公式ページはこちら
日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050 | 気候変動への対応
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東芝・エネルギー分野で技術を提供
東芝グループは2030年度の目標を以下のとおりに設定しています。
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東芝は脱炭素関連の事業として、水力・地熱・太陽光・風力などの再生可能エネルギー、直流送電などを始めとした系統技術開発や、水素・CO2分離回収技術の適用などを進めています。
また、発電時にCO2を「排出しない・抑制する」、「回収・活用」する、エネルギーを「調製する」ことを目的に、エネルギーに関するあらゆる分野で幅広く製品・技術を提供しています。
例えば、東芝は水力発電のシステム一式を作っています。
東芝は水力発電の実績やレベルの面で、世界のトップクラスです。また、海外の水力発電プラントにおいては、水車や発電機など主要な機器を設計、制作し納入するのみでなく、発電所として必要な多くの機器を納入し、調達・据付から試験調製までトータルなエンジニアリングサービスを提供しています。
日産・車のライフサイクルでのカーボンニュートラル実現
日産自動車株式会社は、2050年までに事業活動を含む車のライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を発表しました。その目標の達成に向け、2030年代早期より、主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とすることを目指します。
そのための具体的なイノベーションを下に紹介します。
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日産はこの新しい取り組みにより、2050年のカーボンニュートラルに向けたグローバルな活動に貢献していきます。
参照:日産自動車、2050年カーボンニュートラルの目標を設定
国や企業だけではない日本国民ができる取り組み
これまで日本の政府や企業のカーボンニュートラルへの取り組みを紹介してきましたが、ここでは個人の取り組み例を紹介します。
家庭からのCO2排出量は全体の約15%を占めます。ひとりひとりの取り組みが2050年カーボンニュートラルの達成を左右すると言っても過言ではありません。
家庭からのCO2排出量の内訳は、照明・家電製品などからが約31%、自動車からが約26%、暖房からが約16%、給湯からが約14%となっています。
具体的な取り組み例を以下で紹介します。
電気をこまめに消す
自宅や会社で電気をこまめに消すことは省エネにつながります。
例えば蛍光ランプの点灯時間を1日1時間短縮した場合、年間で4.38kWh節電、1.8kg-CO2削減となり、また約100円の節約にもなります。
他にも以下のようなことに注意することで省エネを達成できます。
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自宅や会社の電気を再生可能エネルギーに変える
自家発電設備を導入すれば、個人で再生可能エネルギーを作り、消費し、地球温暖化対策にもなります。
自家発電設備には太陽光発電システムやエネファームなどがあります。
エネファームとは自宅で電気をつくり、お湯も同時に作り出す家庭用燃料電池のことです。
「エネルギー」と「ファーム=農場」を組み合わせて名づけられています。
自家発電は地球にやさしいというだけでなく
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などのメリットがあります。
一方で
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などのデメリットもあります。
日本では法人や自治体向けの補助金が出されています。補助金を利用し、クリーンなエネルギーを使ってはいかがでしょうか。
食品ロスを減らす
食品ロスをへらすことはカーボンニュートラルと関係がないように思えるかもしれません。しかし、食品ロスを減らすということは、無駄な食材を生産しない、無駄な食品を流通刺せない、廃棄処分の際の焼却による無断なエネルギーを使用しない、ということにつながります。
食品ロスのを減らすためにできることを以下にまとめました。
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まとめ
今回は日本のカーボンニュートラルの現状と政府、企業、そして個人の取り組み事例を紹介しました。
カーボンニュートラルとはどのようなことか理解していただけたでしょうか。
2050年カーボンニュートラル実現のためには、日本がどのような現状なのか、そしてどのような取り組みが行われているのかを知るのは重要です。加えてひとりひとりのカーボンニュートラルへの取り組みも実現にむけて貢献していくことも確実です。
SDGs CONNECT ディレクター。ポイ捨ては許さない。ポイ捨てを持ち帰る少年だった。
現在はCO2の約300倍もの温室効果をもつと言われている一酸化二窒素(N2O)を削減できる微生物について研究。将来は環境×ITの第一人者になりたい
▶https://www.instagram.com/reireireijinjin6