畜産を仕組み化し、産業の6次化を|KIRISHIMA RANCHの和牛ビジネス

#経営#農業 2022.02.17

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

アミューズメント事業やリゾートホテル事業を展開する平川商事は2016年に牧場の運営を行う「KIRISHIMA RANCH」を設立した。宮崎県の豊かな自然で安心安全を第一に、和牛の繁殖から肥育までを一貫して管理している。

平川商事は、畜産事業を通してどのような切り口で持続可能な社会を目指しているのか。

今回は代表取締役の末次氏を取材した。畜産事業の持続可能な社会への責任とはどのようなものか、具体的なSDGsへの施策を伺った。

「KIRISHIMA RANCH」の繁殖経営で健康な牛を提供。

ーーまず、自己紹介をお願いします。

末次:KIRISHIMA RANCH株式会社の末次と申します。

5年ほど前に宮崎県の都城市で「キリシマランチ」という牧場を立ち上げ経営しています。

また、昨年の4月から宮崎市内に自社牧場で生産した黒毛和牛を中心に提供する薪焼レストラン「ザ テラス」、食品加工場を併設した黒毛和牛を一般小売する精肉店「霧島精肉店」をスタートさせました。

ーー「KIRISHIMA RANCH」の事業内容を教えて下さい。

末次:黒毛和牛の牧場の運営を行っています。

和牛の牧場には大きくわけて2つあり、1つが繁殖経営、もうひとつが肥育経営です。

繁殖経営は、母牛に子牛を産ませ、約10ヶ月育ててセリに出荷します。出荷された子牛は、肉牛を育てる農家が買って帰り、肉牛として約20ヶ月育てられます。子牛を肥育して肉牛として販売することを肥育経営と言います。

繁殖経営をしている農家は小規模なところが多いのですが、KIRISHIMA RANCH では約450頭の牛を育てており、繁殖から肥育まで全てを行う、一貫経営といわれる牧場となります。

素人がいきなり農業を始めたため、当初はうまくいかないことも多かったのですが、5年間牧場運営を行い、私たちの牧場のある都城市内で、1番高値で子牛が取引されるようにもなってきました。

まだ体の弱い子牛を育てることから、繁殖はとくに難しいと言われています。私たちが引き継いだ牧場が繁殖牧場であったため、まずは繁殖から始め、子牛出荷数が増えるのに合わせて、肉牛を育てる肥育まで行うようになりました。

一貫経営であれば、子牛をセリに出荷することもできますし、出荷せずに、自社ブランドの肉牛として育て、肉として出荷することも可能になります。

【提供】KIRISHIMA RANCH

ーー牛を育てる際に意識していることはありますか?

末次:子牛や母牛など、それぞれのステージに適した健康な牛を育てるということを重視しています。

セリに出荷する子牛の価格は、血統とその牛がしっかりと大きくなっているかによってかわってきます。良血統の母牛に血統のよい父牛の子供を産ませることで、改良を重ねていきます。生まれた子牛は、病気にならないようしっかりと管理し、健康に大きく育てます。大きくといっても、ただぶくぶくと太らせるのでは意味がありません。健康な体や胃袋をつくり、しっかりと大きく育てていくように取り組んでいます。

母牛は、健康な子供を産むことができるのに適した体になるように育てていきます。こちらは逆に太りすぎは要注意なんです。

牛のステージごとに適した餌や飼養方法を変え、どの牛も健康に育つように取り組んでいます。

1×2×3=6次化産業へ。日本の農業を変えていく。

ーーKIRISHIMA RANCHでは持続的な農業を目指していると伺っています。持続可能な農業の確立のためにどのようなことをしていますか?

末次:実際に農業に携わってみて、初めて気が付いたのは、農業は、他の産業と違って、自分で生産したものの値段を自分で決めにくい産業だということです。

ほとんどの畜産農家は、市場に出荷します。そこでセリにかけられ、牛の取引が成立します。この仕組みですと、非常にこだわった育て方をした牛もそうでない牛もあまり価格差が生まれません。1頭当たりの粗利益額が小さいのはこのあたりに原因があるように感じています。この場合、いかに効率よく育てるかが事業成立のポイントになります。これでは、私達のように、規模が小さい農家は、勝ち目がありません。

そこで私達は、直接エンドユーザーに売るところを作ることにしました。

昨年4月に宮崎市内でレストランと精肉店をオープンさせ、通販もスタートさせました。現在は、東京や大阪の一流のホテルやレストランを中心に営業して、直接卸すことに力を入れています。

私達は、本当に自分たちの子供に安心して食べさせられるように、ホルモン剤やモネンシンといった抗生剤を使用せず、厳選したエサで、極力牛にストレスを与えないように大切に育てています。

私達の思想や育て方に同調頂き、実際に牧場を見学頂いて、ご試食頂いて、納得頂いた上で、10万円でも20万円でも市場価格より少しでも高く買って頂く、事業継続可能な粗利益を得る。これしか小規模農家が生き残る道はないように思います。

特に私達は繁殖農家なので、経産牛* に力を入れています。経産牛は、一般的に安く取引される傾向にあります。きちんと再肥育された経産牛の肉の良さや適した料理をわかっていただき、経産牛にもっとスポットが当たり、今以上の価格で取引されることで、繁殖農家の収入が増え、それが和牛畜産の持続につながると考えています。

経産牛*:出産を経験した牛。従来は、出産にエネルギーを使ってしまい、牛の肉が痩せ細ってしまって、食肉としての価値が出ないと言われていた。

ーー畜産事業での課題を教えて下さい。

末次:畜産業でとても難しい問題は堆肥処理なんです。処理をしっかりしないと環境問題にも発展しかねません。

KIRISHIMA RANCH では、地域のワイナリーや野菜農家さんなどに堆肥を使ってもらい、そこでできた野菜、米、ワインなどを当社直営レストランや通販商品などで使用することで循環を創り出し、堆肥を有効活用しています。農業にはこうしたつながりがとても大切なんです。

年末に売り出した、宮崎の野菜やきのこと当社の肉をセットにしたクレソン鍋セットなどは非常に好評でした。

地域の農産物を活用して商品をつくり、それを販売することで、自然と村おこしのような地域貢献ができればと考えています。

ーー自給率向上や自然との共存にも繋がりますね。KIRISHIMA RANCHが掲げる産業の6次化についても教えて下さい。

末次:一次産業と加工の二次産業、そしてサービス業である三次産業をかけて六次化と呼んでいます。一次産業の人たちが最終的にサービス業のところまで踏み込んで、エンドユーザーに自分たちで提供をしています。流通も携わる訳なので、1×2×3で6という仕組みです。六次化まで担えると利益率が1番高くなります。

「KIRISHIMA RANCH」が描くこれからの農業。

ーー「KIRISHIMA RANCH」のビジョンを教えて下さい。

末次:創業時から誰でもできる農業にしたいと、IoTの活用や、マニュアル化などにも取り組んできました。そのため、未経験者でも当社では数か月で、皆と同じ仕事ができるようになってきます。

宮崎へUターンやIターンをお考えでお仕事を探している方や、サーフィンがしたいから宮崎に移住を考えている方で仕事がなくてそれがかなわない方も大勢いると聞いています。私達は、例えば、ご夫婦2人で出来る繁殖ビジネスを提案して、宮崎に仕事を作り、人が戻ってくるようにしたいと思ってます。

ご夫婦で繁殖ビジネスをはじめると、牛が病気になった時にどうするのか、気軽に相談できるところがない、長期休暇をとって旅行に行けないなどの悩みもあると思います。そこは私達が連携してサポートしていきたいと考えています。

ーー別の場所でもノウハウを活用することができますね。

末次:農業は経験や知識が必要で、確かにいきなり始めるのは難しいと思います。我々が取り組んできたことやノウハウで、その垣根を少しだけでも下げることができたらなと考えています。

全国で同じようなことを考えている皆さんと一緒になってやることができたら、新しい人達がどんどん農業に参入して、それが全国の地方を盛り上げていくようになるのではないかと思っています。

【提供】KIRISHIMA RANCH

ーー今後の展望について教えて下さい。

末次:食料自給率を向上させる国の方針の中で考えた時に、やはり日本国内で育つ牛をしっかり育てて行くことも重要になってきます。

そういう意味では日本の基準で考えた時に、豚や鳥や牛などの食用肉の産業を細らせるわけにはいかないと思うんですよ。

私達はそれに携わっているので、最近牛のゲップが環境破壊に繋がっていると言われていている状況の中で、黒毛和牛の産業自体がどのように見られているかわからないですし、いろんな考え方があるとは思いますが、食料自給率の向上という視点だけとっても、それは未来永劫続けていくべきではないかなと思っています。

「代用肉を買ってきたらどうか」などと、いろいろな話がありますが、その時に無くなるなら無くなったでしょうがない話かもしれないですけど。

その前に、産業としてしっかり確立して、脈々とできる仕組みに落とし込んであげたら、今の農業自体もう少し上手くいくと思うんですよね。

仕組化して利益を出し、粗利をしっかり取れていないから先細りで、繁殖農家はすごい勢いでやめているんです。子牛が育たなかったら今度は肥育農家が成り立ちません。

しまいには、どんどん値段が高くなって市場価格が乖離する話になってしまいます。

企業で働いている人たちが農業に入ってきたら仕組化をせざるを得ません。しっかり仕組化して、食料自給率など日本がかかえる問題解決の糸口になるよう、KIRISHIMA RANCH の事業を更に拡大していきたいと考えています。

さいごに

今回の取材で初めて産業の6次化という言葉を知り、産業を分けて考えるのではなく繋げることで循環型社会への第一歩となることがわかった。

畜産、農業だけではなく宮崎県との地域共生を目指す「KIRISHIMA RANCH」には畜産業界のパイオニアとして活躍してほしい。

SDGsの軸である「誰ひとり取り残さない社会」のためには、さまざまな産業が循環しあうことが重要であると考えさせられた。

挑戦を続ける「KIRISHIMA RANCH」の未来に注目である。

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