【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
かつて日本有数のカラオケチェーンとして国内に展開していたシダックスは現在、祖業のフードサービスに加え、車両運行サービス、社会サービス(公共施設、学童保育施設の受託運営等)にまで事業の幅を広げ、私たちの健康と暮らしを支えている。
一方で、新しい関係性を創造する企業コンソーシアム「SDGs研究所」を設立するなど、持続可能な社会を目指した取り組みも積極的に行っている。
実にさまざまな事業を展開するシダックスは、どのような考えでSDGsと向き合っているのか。
今回は、シダックス総合研究所の所長、高戸 良之氏のインタビューを通し、シダックス総合研究所はどのようなものなのか、実際にどのような取り組みを行っているかについて伺う。
協力することで生まれる、新たな価値
ーーまずはじめに、高戸さんの自己紹介をお願い致します。
高戸:シダックス総合研究所の所長を務めております、高戸良之です。
もともとは、食を中心とした研究活動をずっとしていました。スポーツと食事に関わることを入社の動機にしていたので、その分野から健康づくりや食育に広がっていった形です。
近年ではシダックス自体の事業が広がり、特に食を中心としながらも事業全体につながる活動を中心に行っています。当然、社会活動に繋がっていくことも軸にしており、結果的にESGやSDGsに繋がっています。従来からSDGsにつながる活動はシダックスも行っていますが、ここ1、2年はその動きが顕著になっています。
ーーシダックス総合研究所はどのような位置づけなのでしょうか。
高戸:シダックス総合研究所は、大きく2つの役割を担っています。
1つ目は、中長期にわたる企業価値向上を果たすために、社内外のいろいろな情報を集め、発信する活動です。従来は、主に健康づくりや食育などをテーマとして活動していましたが、現在は社内のESG、SDGsプロジェクトを預かりつつ、社内外へのSDGs経営の方針作成や社内啓発などを行う役割を担っています。
2つ目は、SDGs研究所の事務局としての活動です。SDGs研究所は、シダックスを含む多様なジャンルの企業がコンソーシアムを形成し、SDGsの目標達成に向けてさまざまな社会活動を行っている団体です。従来はウェルネス・ライフサイエンス研究所という名前で活動していましたが、2021年6月からSDGs研究所として衣替えを行いました。ウェルネス・ライフサイエンス研究所の時にもSDGsを軸に活動してきましたが、現在は、より鮮明にSDGsを軸にした活動、産官学連携での企業コンソーシアムとなっています。
それ以外にも研究所の活動は多岐にわたっており、海外事業や従来の活動、特に食と健康に関連する学会活動など、対外的な活動も行っています。
ーーウェルネス・ライフサイエンス研究所自体はいつ頃設立されたのでしょうか。
高戸:2013年からスタートしています。もともとは、企業コンソーシアムでシェアードバリューを生み出すための、マーケティングを中心とした研究会として立ち上がりました。
SDGsも2015年からスタートしていますので、ウェルネス・ライフサイエンス研究所のテーマも2015、2016年からはかなりSDGsを意識した活動をしてきましたね。
ーー立ち上げ当初はマーケティングを中心にとおっしゃっていましたが、最初はどのような取り組みをなさっていたのですか?
高戸:マーケティングの勉強会を行っていました。シダックスの事業内容をプラットフォームと考えて、会員企業と一緒にマーケティング活動の実践をし、その成果を参画されている企業とシェアすることを実験的にやろうというところからスタートしました。
ーーコンソーシアムというお話もありましたが、約10年前から社外を巻き込んでいく文化や姿勢がずっとあったんですね。当時も社会としてトレンドがあったんですか?
高戸:ウェルネス・ライフサイエンス研究所の時代から、この活動は、社長の志太がコミッショナーという形で続けておりますが、志太自身の「1つの企業、1つの団体でできることは限られているけど、力を合わせればより大きな課題の解決が可能になるのではないか」という想いからスタートしています。
そういった意味では、かなり先進的な活動であったと思いますし、この考え方は脈々と受け継ぐ形で残していきたいです。
先進的なシェアードバリューのかたち
ーーSDGs研究所の具体的な取組内容について教えてください。
高戸:活動には大きく3つの柱があります。
1つ目は、ソーシャルプロジェクトといった、コンソーシアムの会員企業と一緒に、シダックスグループをプラットフォームとした個別での活動です。具体的には、2020年度に、花王プロフェッショナル・サービス様(以下、KPS)と手洗いに関する活動をしています。シダックスが受託している1400カ所以上の学童保育施設などで、ブラックライトを使って手洗いがきちんとできたかどうかを、動画で子供たちに教えていくといったことをしました。
また、KPS様とは車の清掃マニュアルも共同で作りました。このマニュアル自体がシダックスの1つのマニュアルになりますし、KPSのノウハウにもなります。我々で試したものを彼らも他の事業と組み合わせ、得られた成果を広く展開して利用者の方々の安心安全に取り組んでいくことを、個別のプロジェクトを通して行っています。
2つ目は、ビジネスセミナーです。ベンチャー企業がプレゼンテーションする機会を年に数回ご用意させていただいて、SDGsに関わるさまざまな視点での彼らのノウハウや新しい考えを会員企業と共有し、タイミングが合えば企業ごとにビジネスマッチングができるような活動をしています。
2019年からこの活動を行い、2020年は第1回のSDGsベンチャーアワードと題した年1回の表彰式を行いました。2021年は緊急事態宣言によって一時延期となりましたが、10月に開催しました。
3つ目は、SDGsユニバーシティという取り組みです。主に、産官学のシンポジウムやセミナーを行っています。これは入門編というよりも、事業の戦略になるような情報を専門家の方々からいただく活動です。2020年は4回のユニバーシティをやらせていただきました。
また、2021年3月にはシンポジウムも開催し、全体的にSDGsをどう取り組むべきか、今後の政策や経営に役立つトークセッションを行っています。
ーー実際にやってみて成果が出れば会員企業にもシェアしていくことが、すごく求められていることなのかなと思いました。続いて、SDGs研究所の組織について簡単に教えてください。
高戸:現在はコミッショナーを志太が担っておりますが、研究所の所長は笹谷秀光先生にお願いしています。約40社の会員企業がご参画いただいている状況です。
ーーどのような方が社外から運営に関わっているのでしょうか。
高戸:2か月に1回ほどの頻度で運営委員会を開催しています。組織自体は運営委員会の決定をもとにして進めており、2021年度は味の素様に委員長をお願いしつつ、笹谷所長、外部のアドバイザリースタッフの先生たちにも参加していただく形になっています。具体的なアドバイザーとしては笹谷所長、事業構想大学院大学の村山先生と、当社の社外取締役で多摩大学大学院の川井先生に、それぞれの領域からサポートいただいています。
ーー社会課題解決、シェアードバリューの2つが軸とありますが、こちらについて詳しく教えてください。
高戸:事業やサービスを通して社会課題を解決することがシダックスの企業理念でもありますし、企業がさまざまな活動をしていく中で利益はもちろんのこと、社会に還元できる活動を進めることで、社会課題の解決に繋がることがベースになっています。
実際に、さまざまなインフラがあり、さまざまなものを使わせてもらったり、私たちのサービスはお客様の場を貸していただいて成立するビジネスなので、1社では成立しない形であることは間違いないです。何か価値を生み出しても、お客様や共創パートナーと一緒に作りあげたものなので、得られた知見などは相互で持ち合うことがベースになります。
従来は、クライアントのみに還元されていた部分かもしれないのですが、共創パートナーにも還元していくことがシェアードバリューだと思いますし、この動きを広げる意味でもSDGs研究所は大きな役割を担っていると思います。
ーーシェアードバリューは2013年のウェルネス・ライフサイエンス研究所設立当時から追い求めてらっしゃたと思うのですが、その一方でSDGsは2015年に策定されました。はじめはどういった形でSDGsに取り組んでいったのでしょうか?
高戸:現在、SDGs研究所の所長を担っていただいている笹谷先生ですが、もともと当研究所の会員である伊藤園様がCSRを展開していく中で、同社のCSR推進担当役員としてシェアードバリューを強く意識して活動されていた方です。当時はアドバイザーとして研究所を支えてくださっていて、その中でSDGsを紹介いただきました。SDGsの理念や目標、考え方が私たちが目指していることと一致するということで、2016年ほどから本格的に活動を始めました。
シダックスグループでも、当時から少しずつSDGsの活動していましたが、2019年から社内プロジェクトとしてESG/SDGsプロジェクトを立ち上げ、現在は私が担当しています。
シダックスでは、2021年度からSDGs経営を行う中で、SDGsの基本方針を改めて議論をしています。従来のCSRの活動ではなく、本業をベースとした中でいかに差別化をしていくか、企業の価値向上に繋がるかなど、SDGsを羅針盤に、企業としてどう取り組むかをより明確にしようとしています。
ーー企業をまたいでSDGsに取り組む事例は、国内ではまだ少ない現状にあるかと思います。企業をまたぐ中で、難しかったことや課題などありますか?
高戸:笹谷所長は、あまり見たことがないとおっしゃっていました。私たちが全てを網羅できているかどうか分からないですが、あまりないのかもしれないですね。
企業は企業で事業活動をしているので、どのように価値を生み出すかというところが、皆さん手探りで、「共に創りあげる」というのをどこまで深掘りできるかについて課題に感じています。より深掘りしていくことが今後のテーマですね。
SDGs研究所が目指す未来
ーーこれからの展望、目指していきたいことをSDGs研究所の視点から教えていただけますか?
高戸:従来活動をSDGs研究所としてより明確にしてアウトプットする活動を充実させていきたいです。また、企業のみならず、より広く、大学、自治体などさまざまな分野の方にお声がけしたいと思っています。
2030年に向けて行動する10年の中で、SDGs研究所としても、参画された企業のいろいろな方々と価値を生み出す活動をしていきたいです。
さいごに
SDGsの目標17である「パートナーシップで目標を達成しよう」。シダックスを中心とした企業コンソーシアムは、この目標を達成するのに、ぴったりとハマる考え方だと感じた。
ただパートナーシップを築くだけでなく、新たな価値を創造し、その価値を共有する。一つの企業だけでは達成できないことも、力を合わせることで大きな課題の解決に繋がるといった、志太社長の考え方が、今こそ求められているのかもしれない。
新たな挑戦をし続ける、シダックスのこれからに目が離せない。