「平等」と「公平」は違う|女性の体に対するリテラシーを高めるために

#ダイバーシティ#公平 2022.08.08

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女性の身体や女性を取り巻く社会課題を、テクノロジーやポップカルチャーが融合したアート作品を通して発信してきたスプツニ子!氏。

これまでにマサチューセッツ工科大学の助教授、東京大学特任准教授、東京藝術大学デザイン科准教授を務め、テクノロジーや芸術といった幅広い分野で活躍してきた。

代表作に、男性も生理を体験できる装置「生理マシーン、タカシの場合」や、2018年に発覚した東京医大の女性受験者の一律減点問題から派生した、問題提起型の作品「東京減点女子医大」などがある。

2022年6月現在も、日経新聞で『ダイバーシティ進化論』を連載中であり、メディアでも活躍しているアーティストだ。

そんなスプツニ子!氏が代表を務める株式会社Cradleが、2022年4月1日より企業のダイバーシティ&インクルージョン推進(以下、D&I推進)を支援する法人向けサービス「Cradle(クレードル)」を提供開始した。

これまでアーティストとして多岐にわたり活躍してきたスプツニ子!氏が、事業としてD&Iを推進していく理由や、Cradleが目指すこれからの企業の姿について伺う。

女性の健康を軸に、企業のD&Iを推進する

ーー自己紹介をお願いします。

スプツニ子!:アーティストのスプツニ子!です。

イギリス人の母と日本人の父の間に生まれ、日本、イギリス、アメリカとそれぞれ文化の異なる土地で過ごしてきました。

3つの文化圏で生活する中で気づいたことは、日本の女性たちは優秀であるにも関わらず、海外と比較して活躍する機会があまり与えられていないことです。

性別に対して固定観念が根強く残る日本社会の中で、社会の「当たり前」に問いを投げかけたくて、作品を作りメディアで発信してきました。

ーーこれまでアーティストとして活躍してきたスプツニ子さんですが、なぜこのタイミングで事業としてD&I推進に取り組もうと思ったんですか?

スプツニ子!:作品を作り発信する、これまでの活動の延長線上にCradle(クレードル)があります。

Cradleは特に女性の健康に軸を置いた企業向けのD&I推進を支援するサービスです。

従業員向けオンラインセミナーの開催や、ヘルスケアサポートの提供によって、D&Iや女性特有の身体の悩みについてリテラシー向上を図り、女性のキャリア支援へつなげることを目的としています。

アート作品を作るというのも私にとって大切なことですが、サービスを提供することで多くの人の生き方や働き方を大きく変えるきっかけを作れます。

最近、フェムテックという言葉が日本でも浸透し始めたように、女性の健康課題を解決するようなプロダクトやサービスを提案するスタートアップ企業が活躍の場を広げています。

アイデアをベースに新しいプロダクトやサービスを始めることが以前よりも身近になったことで、私もこれまでアーティストとして発信してきたことを起業につなげられるタイミングだと感じ、Cradleに着手しました。

女性の体に関するリテラシーを高めたい

ーー日本の女性の健康課題について、スプツニ子!さんが課題に感じているものを教えてください。

スプツニ子!:女性には、毎月の生理に加え、妊娠、出産、更年期とさまざまな局面で自身の体に変化が訪れます。

それぞれのタイミングに合わせた適切な医療ケアがあるにも関わらず、日本では対処法が広まっていないことに問題意識を持っています。

例えば、更年期に対する治療はHRTホルモン補充療法(HRT)*が一般的ですが、日本では閉経後の女性のうちの1.7%しかHRTを受けていないというデータがあります。

オーストラリアでは女性の50%以上がHRTを受けているそうなので、その差は明らかです。

更年期の心身の不調によって、昇進の時期にあたる40代・50代の女性が、重要なタイミングで、キャリアを諦めるケースが多いというデータもあります。

HRTホルモン補充療法(HRT):女性ホルモンのエストロゲンを補うことで、更年期障害(ほてり、のぼせ、発汗など)を改善する治療法のこと。

ーー日本とオーストラリアでは、HRTの治療数に約30倍もの開きがあるんですね。

スプツニ子!:生理痛への対処法1つとっても、日本と他の国では大きく違いがあると感じます。

私の実体験として、10代の頃に日本の婦人科で「痛み止めを飲んで乗り越えなさい」と言われるだけだったのに対して、イギリスではピルを無料で処方してもらえたことに驚きました。

ピルには女性が主体的に避妊する以外にも、PMSを緩和する、生理痛を和らげるといった効果があり、女性にとって重要な薬です。

アメリカやヨーロッパが60年代・70年代にピルを承認していたのに対して、日本でのピルの承認は世界で1番遅い、1999年でした。

生理は女性に毎月起こることで、体調に大きな影響を与えます。生理に関する悩みを解消すれば、仕事や勉強、プライベートのQOL(質)が上がって、効率も上がります。自分の体をよく知り適切に対処することは、結果的に自分の人生の選択肢を広げることに繋がると気づきました。

Cradleのサービスを通して、男女問わず女性の体に関するリテラシーを高めて頂けたらと思っています。

日本企業のD&I推進を促進するサービス「Cradle」

【提供】株式会社Cradle

ーースプツニ子さんから見て、企業はどのような課題を抱えているのでしょうか。

スプツニ子!:女性のための施策をすること自体を「逆差別」だと捉える人が一定数いることが課題だと感じています。実際に女性の人事自身が逆差別だと思っていることもありました。

例えば、「女性のためだけの健康支援は不公平ではないか」と言う企業もあります。企業が健康支援することで、市場評価にも繋がるため、健康経営は多くの日本の企業が取り組む経営戦略です。

その中でも特にポピュラーなのがメタボ対策です。
しかし、20代の女性はほとんどメタボにならず、30代女性は男性の1/17、40代女性は男性の1/4の人数であるというデータがあります。メタボは圧倒的に男性に多い病気なんです。

社内の決定権を持つ管理職に男性が多いと、悪気なく無自覚に、自分たち男性の健康課題を「社会全体の課題だろう」と思い込んでしまうことがあります。

たとえ女性の9割が、生理、更年期、妊娠、出産といった悩みを抱えていても、「女性だけ」の健康課題だと一蹴してしまうことで、ジェンダーギャップが生まれるのです。

「平等」と「公平」は違うということにあまり理解がないことは課題だと感じました。

ーー政府は2020年までに「指導的地位に占める女性の割合30%」という目標を掲げていましたが、実際には目標は達成できませんでした。女性の管理職を一定数強制的に増やそうという流れもありますが、どのように考えていますか?

スプツニ子!:まず、日本社会に構造的差別がある事をもっと多くの人に認識してほしいと考えています。当人たちに差別する意識がなくても、社会や企業の構造によって特定の性別に不利な状況が生まれてしまうのです。

そもそも偏りのある社会構造を無視して「平等」に施策をするということは決して「公平」ではありません。

社会構造の偏りを解決する1番の近道は、組織に対して影響力のある管理職や役員に多様な視点を取り入れることです。

女性管理職3割を達成したとしてもまだ少数派であることには変わりありません。

多様な視点を取り入れることは、社会自体のデザインを早期に変えていくために大切なことだと思います。

ーー企業が抱える課題に対して、Cradleはどのようにアプローチしているのでしょうか。

スプツニ子!:まずはD&Iの重要性や女性の健康課題について、リテラシーを高めてもらうためにD&Iオンラインセミナーを提供しています。

Cradleを導入すると、専用サイトで社員全員がセミナーを視聴することができます。D&Iセミナーでは、キャリアやワークライフバランス、LGBTQなど、幅広くD&Iの理解を促せるようなセミナーを実施していて、ヘルスケアセミナーでは、更年期や生理などの女性の健康課題にフォーカスしたセミナーのほか、男性不妊などのセミナーも行なっています。

毎月2回ほど実施していて、過去のアーカイブも視聴可能です。

さらに、知識を得て何か行動を起こしたいときのサポートとして、Cradleは全国の50以上の婦人科や不妊治療クリニックと提携した診療サポートを提供しています。

主に婦人科に関する検診・検査、採卵と移植といった不妊治療、さらに卵子凍結や更年期のチェックテストや乳がん検診、子宮頸がん検診を提供しているクリニックもあります。

女性の体について知ること、それに対してアクションを起こすことのサポートを提供しています。

ーーHPに記載されている「D&I推進企業」のイメージ醸成とは、具体的にどんな取り組みをされるんでしょうか。

スプツニ子!:Cradleを導入していただいた企業は、D&I推進に積極的だという点をより多くの人に知ってもらいたいと考えている企業がほとんどです。

社内向けのD&I推進イベントや、社外向けのプレスリリース発信などをサポートしています。また、Cradleを導入したことをきっかけに各企業に取材が入ることもあり、導入企業とともにCradleの施策を発信していけたらと思っています。

ーー今後の展望を教えてください。

スプツニ子!:起業当時から、「女性への健康支援は当たり前」という社会を創るサポートをすることを目指してきました。

Cradleの企画が始まった3年前と比べても、社会全体が生理や更年期、出産といった女性の健康問題について、支援が重要だという認識が増えているように感じます。

今後はさらにCradle導入企業を増やしたり、提携クリニックを全国に展開したりするなど、企業の方々が利用しやすいと思えるサービスにしたいです。

Cradleがハブとなり、プラットフォームとして日本のD&I推進をサポートしていけたらと思います。

さいごに

今回のインタビューを通して印象的だったのは、本来の「当たり前」を社会に自ら浸透させたいというスプツニ子!氏の熱量だ。

日本では女性自身ですら女性の身体についてのリテラシーが低いという指摘には、これまでの日本の社会構造や教育にさまざまな課題があることを再認識させられた。

これまでの体験や経歴を活かし、日本の社会構造そのもののデザインを変革していこうとするスプツニ子!氏。

これからもCradleの取り組み、そしてスプツニ子!氏の活躍から目が離せない。

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