「アフリカは開発途上という認識は古い」アフリカの現状と課題解決を通じたビジネスの可能性

2021.11.17

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国際協力をテーマにした日本最大級のイベント「グローバルフェスタJAPAN2021」が10月9日(土)、10日(日)に開催された。

「グローバルフェスタJAPAN2021」のテーマは、「多様性あふれる世界 〜思い描く未来を語ろう〜」。国際協力にかかわる政府機関、NGO、企業などがさまざまな取り組みを紹介した。

共催のJICA(独立行政法人 国際協力機構)は、途上国の食や栄養、ジェンダー平等と女性・女の子のエンパワーメントなどをテーマにイベントを実施した。

今回はその中の1つ「イノベーションで世界の課題を解決! Z世代と考える途上国の可能性」の様子をレポートする。

登壇者

株式会社ユニコーンファーム代表取締役社長 田所雅之さん


これまで日本で4社、シリコンバレーで1社起業をした連続起業家。2017年発売以降115週連続でAmazon経営書売上1位になった「起業の科学 スタートアップサイエンス」の著者。
2014年から2017年までシリコンバレーのVCのパートナーとしてグローバルの投資を行い、現在は、スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援するUnicorn FarmのCEOを務める。

株式会社SKYAH CEO / ガーナNGO法人MYDREAM.org共同代表 原ゆかりさん

外務省・三井物産・アフリカ企業勤務を経て、株式会社SKYAHを設立し、日本企業のアフリカ事業開発支援、及びアフリカの高品質商品をキュレート・発信。並行して2012年より、10カ年計画で寄付からの卒業を目指すガーナNGO法人MY DREAM. orgを運営。

JICAアフリカ部次長 若林基治さん

農学研究科修了後1997年JICA入構。 農林水産省出向、 セネガル、 マリ(クーデターで短期で異動)、 モロッコに駐在、アフリカ部アフリカ 第四課長を経て現在アフリカ部次長。 アフリカ部では、デジタル技術の活用や イノベーティブな案件の立ち上げに関与、 現在、政策研究大学院大学科学技術 イノベーション政策コースで修士課程履修中。

SDGs CONNECT 編集長 小澤健祐

人材サービス総合商社であるディップ㈱において、AI専門メディア「AINOW」とSDGsと社会を繋ぐ専門メディア「SDGs CONNECT」編集長を務める。
他にも、日本大学文理学部大沢研究室のPRチームリーダーとしても活躍中。
これまでAI関連記事を1,000本以上執筆し、フォトグラファーとしても活動中。

途上国のポテンシャル・可能性

セッションの最初のテーマは途上国のポテンシャルや可能性についてだ。アフリカを中心とした開発途上国は、一般的にインフラなどの整備が遅れているイメージが先行しており、ビジネスのポテンシャルを感じている人はそう多くないだろう。セッション内では、JICAでアフリカ部次長の若林さんから、途上国のポテンシャルや可能性が語られた。

アフリカの経済・市場の現状

若林さんからは、まずアフリカの経済や市場の現状について解説された。注目すべきはアフリカの人口の増加だ。アフリカの人口は毎年増加傾向にある。

【提供:JICA】サブサハラ及び、その他の地域の2050年までの人口推計。真ん中の赤い点線がアフリカの人口増の推計を表す。

サブサハラでは、2050年にかけて2020年比2倍ほどに人口が増加していくと予測されている。

それに伴い労働人口も増加し、経済発展の加速などの影響により市場の魅力が高まっているという。

この経済発展を担うのが「デジタル化の促進」である。アフリカのインターネット経済は1800億ドルにまで成長すると言われ、また、インターネットの接続が10%改善することで、GDPは2.5%増加すると予測されている。

また、アフリカではモバイルユーザーの増加が続いており、2025年までにアフリカのモバイルユーザーは87%にまで増えると予測され、2020年代には世界全体のインターネットユーザーの16%をアフリカのユーザーが占めるようになると見込まれている。

これに合わせ、新しい経済を担うスタートアップ投資もアフリカでは増加している。

一方で地域間、ジェンダー間の情報格差が発生し、取り残されるデジタルデバイドに苦しむ人も増加するという危惧もあり、SDGsの視点で公平で平等な社会を目指していくことが重要になっている。

デジタル・デバイドによって情報格差が拡大するだけでなく、教育機会や就労機会の格差が助長されるだけでなく、さらには都市部と農村部、先進国と途上国など地理的な分断も生まれてしまう。

若林さんの説明を受け、実際にイベント開催直前までガーナに滞在していた原さんは現地のモバイル普及の現状について以下のように述べた。

原さん:この10年の変化だけを見ても、内陸の農村部でもスマートフォンの所持率が伸びていると感じています。村の人のやり取りもWhatsAppが主流になっていて、例えば、私の姪っ子がこの農村部のピーナッツを美味しそうに食べている様子を動画で送ると、即座に返信がくるくらい、距離感が縮まっていると感じています。

また、アフリカの経済発展について、これまでに東南アジア地域の経済発展を見てきた田所さんは、以下のように述べた。

田所さん:2014年から2017年まで東南アジアの投資を見ていたのですが、モバイルユーザーが増えていく中で、「車輪を再発明しない※」サービスが増加しています。

日本やヨーロッパ、アメリカなどで浸透しているモデルが参考にされていて、さらに東南アジアでは人口の中央値が26歳〜28歳くらいになっていて、スマホネイティブが多く、最初に持つデバイスはスマートフォンです。そこでリープフロッグ※が起きていると思います。

※車輪の再発明:「広く受け入れられ確立されている技術や解決法を(知らずに、または意図的に無視して)再び一から作ること」
※リープフロッグ:既存の社会インフラが整備されていない新興国で新しいサービスなどが、先進国の歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること

途上国の課題はビジネスチャンス?

次に若林さんが解説したのは途上国の可能性だ。途上国の多くは、先進国に比べ、医療や教育へのアクセスなど多くの課題を抱えている。しかし、これらは同時にビジネスチャンスでもある。特に田所さんが指摘したように、スマートフォンを通じたサービスによって一気に社会が発展するリープフロッグも起きやすい状態になっている。

若林さんがまず紹介したのはカカオ産業の事例だ。

コートジボワールはカカオの70%を産出する国だが、カカオ農家の子どもの2~3人に1人が児童労働に従事している現状になっている。この現状を消費者はわかっていない状態だ。

そこで、ブロックチェーン技術を活用し、カカオ豆がどのような経路で流通してきたのかを可視化し、適正な環境で育てられたカカオ豆がどれなのかをわかるようにし、児童労働を減らしていく取り組みが行われている。

このシステムでは、農園での児童労働の状況だけでなく、学校の出欠データや出荷データ、販売データなどをブロックチェーンで書き換えられない形で保存し、生産地の現状を把握可能になっている。これによって適切な生産地支援を可能にする他、適正な価格での買取が可能になるようになっている。

若林さんは、「先進国が実証しているようなシステムを使い人権問題など、社会課題解決に取り組み、ビジネスに落とし込むことが非常に重要である」という。

田所さん:日本にいるとインフラが発達しているので与信の仕組みなどは銀行が担保していますが、新興国ではトランザクション(取引)ベースのデータが重要になってきます。農家でも零細の方が多く、いかにボトムアップで支援していくかが重要になってきます。

生産者視点では儲かることが重要で、トレーサビリティを担保することで、ベンダー側もちゃんと仕入れることに繋がります。それにより、ベンダー側に対する投資家の投資も増加し、雇用の安定や、生活者の健康などにも繋がっていくことになると思います。

また、原さんからは開発途上国でビジネスをする上で重要な考え方を以下のように述べた。

原さん:アフリカで立ち上がる仕組みを理解することがとても大切です。外の人間から「こんなのやったらいいんじゃない?」と思うことはたくさんあります。既に起こっているビジネスをどのように成長させられるのか、現地のみなさんと対等な目線でパートナーシップを組んでいくことが重要だと思います。

途上国の課題解決はチャンス|テクノロジーで変動するビジネス環境

続いて、田所さんより企業の途上国ビジネスについて解説された。テクノロジーの発展によってビジネスの状況がどのように変動しているのか。

田所:2010年代、4Gやクラウド、スマートフォンやソーシャルなどのテクノロジーが成熟期に入ってきました。これにあわせ、小売やメディア、広告やコミュニケーション、ゲームやオフィスなどの分野のデジタル化が進みましたが、2010年代まではどちらかと言うとインターネットに閉じた世界になっていました。

田所さん:2020年は農業や製造など、リアルにデジタル技術が染み出すようになっています。この領域は大きい上に寡占しているプレイヤーがいない状態です。

それに加えて、SDGsのかけ合わせが重要だと思います。この考え方が2020年代に重要になってくると思います。

2020年代に突入するとテクノロジーは5GやAIなどがさらに発展をとげ、金融やエネルギーなど多岐にわたる分野でデジタル化が進行している。これにSDGsに配慮することで、17の目標が着目している社会課題の解決にもつなげることができる。

2010年代は世間や買い手、売り手などに向けてよいビジネスが「3方よし」として評価されていたが、現在は世間や地球環境、未来、買い手、作り手、売り手まで幅広いステークホルダーにとって良いビジネス「6方よし」として評価されるようになっている。

田所さんは、上記のような「6方よし」のサービスに対するインパクト投資の増加に注目しているという。まさに新興国ではSDGsに取り組むことがビジネスにも直結するようになっている。

田所さん:新興国の零細企業などを支援することで生活をよくし、取引先の企業もよくなり、ユーザーにとっても品質の高いサービスを受けることができるようになると思います。

次に原さんから解説されたのは、実際にアフリカで進む、イノベーションによる社会課題解決についてだ。

原さん:アフリカの印象を伺うと「モノカルチャー経済」※という言葉が出てきます。一次産品輸出依存から脱却したい製造業の方が現地にたくさんいらっしゃいます。

ガーナ全土から素材を調達し、スキンケア商品を開発しているSKIN GOURMETという企業があります。ガーナ全土から素材を調達することはとても大変です。そこでSKIN GOURMETはIoTを活用しています。

例えば、シアバターの原材料はさまざまなプロセスを経てガーナ北部の女性たちが手作りしています。それを首都のアクラに持ってきて、他の材料と掛け合わせて瓶に入った材料にします。

ガーナ北部と首都のアクラは600kmほどの距離があり、東京と淡路島間の距離に匹敵します。車では10時間以上もかかってしまいます。実際にアクラに原材料を運んで決済をすることが今までは難しい現状がありました。

そこで今はモバイルマネーの活用が進んでいます。アフリカ大陸全体にネットワークが張り巡らされており、モバイルマネーの活用は日本よりも進んでいると思います。これにあわせてアフリカではロジテックの成長が進んでおり、膨大なサービスが生まれ、統合も始まっています。

SKIN GOURMETは、さらにデジタルマーケティングにも注力しています。商品の紹介だけではなく、どこで素材を調達したのか、どんな生産者なのかなど、顔の見えるデジタルマーケティングを行っています。既に4大陸17か国への輸出展開も行っています。

アフリカの開発を牽引する若手の活躍がめざましくなっています。アフリカというと援助先というイメージが先行しますが、それだけではないアフリカが目覚ましいなと思っています。投資もどんどん入ってきていて新規参入も目覚ましいです。

だからこそ、今求められるのはWin-Winなビジネスを通じて一緒に開発を担うパートナーシップなのかなと思っています。

※モノカルチャー経済:特定の作物だけを作るなど一次産業に偏った経済のこと

JICAが取り組む開発途上国に対する協力

JICAも開発途上国に対する協力を活発化させている。若林さんからJICAの取り組みがいくつか紹介された。

まず紹介されたのは高専オープンイノベーションチャレンジという取り組みだ。高専の学生の柔軟な発想と高い技術力を使って、開発途上国の社会課題解決に活かす取り組みで、あわせて開発協力の現場を経験してもらう教育の場としても機能している。

2020年度は、4校20チームが参加している。新型コロナウイルスの感染の影響で、プロトタイプを開発途上国の現地でテストすることは叶わなかったが、オンラインで交流も盛んだった。

以下が2020年のチャレンジの一覧だ。
また、JICAは「Next Innovation with Japan」を略してProject NINJAという取り組みも行っている。JICAの開発途上国におけるビジネス・イノベーション創出に向けた途上国の起業家支援活動として2020年1月に始動した。

途上国のデジタルエコノミーを今後担うであろうスタートアップ企業を支援するProject NINJAは、デジタル技術を活用した新しいビジネスを創造しつつ、社会課題の解決を日本と一緒に行い、持続的な社会をつくることを目的としている。

支援策の1つとしてビジネスコンテストも開催。2021年には8社の企業に特別賞を授与し、さらにビジネスを盛り上げるべく取り組んでいる。

具体的には現地の企業家のアイデアや技術と、日本の投資家・企業とのつながりを作り、ビジネスを通じた途上国の課題解決に取り組んでいる。

終わりに

アフリカは開発途上という認識はもう古いものになっている。

SDGsの注目が高まる今、日本だけでなく、国境を跨いだパートナーシップを活発化させ、それをビジネスに落とし込む重要性が増している。そんな今、大切なのは世界各地の現状を把握し、自分には何ができるのか、何をしたいのかを明確にしていくことだ。

今回は主にアフリカの現状や可能性をテーマに若林さん、原さん、田所さんのそれぞれの知見を伺った。読者の多くは、予想以上に発展するアフリカ社会について驚きを覚えたのではないだろうか。

原さんが述べていた中でも印象的なのは「単なる援助先ではない」というコメントだ。これからは、支援する相手というラベルを取り除き、パートナーとして新しい市場を共創していく心がけが重要だ。

なお、このセッションはJICAの公式YouTubeチャンネルでもアーカイブ公開されている。詳しい内容が気になった方はこちらの動画をご覧いただきたい。

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