ビジネスとして社会課題を解決する |ニューロン 西井が語るSDGsとソーシャル・ビジネス

#SDGs目標8#女性#持続可能 2021.06.16

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

ソーシャルビジネスとは、社会問題解決を目的とした事業のことである。最大の特徴は、寄付金などの外部資金に頼らず自社で事業収益を上げることで継続的な社会支援を可能にしている点である。

今回は、学生時代にNEWRON株式会社を起業し、人々の健康を守るために生活習慣病の予防に挑戦するソーシャルビジネスを行いながら、近畿大学の非常勤講師として学生にソーシャルビジネスの作り方を教える西井香織氏を取材し、ソーシャルビジネスとSDGsの関連性を伺った。

正直、社会問題に興味はなかった。大学6年で休学、休学2年目に立ち上げたNEWRON

ーーまずは自己紹介をお願いします。

西井:西井香織です。NEWRON(以下ニューロン)株式会社のCEOを務めています。近畿大学薬学部6年生の時に休学をして上京し、休学2年目でニューロンを立ち上げ、復学後薬剤師国家試験に合格して卒業しました。

ニューロンの主な事業はマーケティングです。商品やサービス開発をするときには消費者を巻き込み、アイディアソンなどの企画運営をしています。

ソーシャルサイトビジネスの領域では、生活習慣病の予防に取り組んでいます。ヘルシーなお菓子の開発や、健康的な食べ物の広め方などに挑戦しています。

また、近畿大学の経営学部で非常勤講師をしていて、そこで教えているのが社会起業家育成講座です。そこではソーシャルビジネスのつくりかたを学生に教えています。

ーーニューロンを立ち上げた頃から、ソーシャルビジネスを考えていたのですか?

西井:いいえ。実は、社会課題に全く興味がなかったんです(笑)

起業家には3つのタイプがあると思います。社会課題を解決したいタイプ、経営者になって稼ぎたいタイプ、自由な働き方や好きなことをしたいタイプです。

私は3つ目ですが、いわゆる社会不適合者で、普通の会社に属しても力を発揮できない、使いものにならないというのを就活を通して感じました。

0から1を生み出すような仕事にわくわくするのですが、なかなかそういう会社はないと就活で感じたのもあります。自分のしたいことをできるようにしよう、と起業しました。

ーーなぜ大学で非常勤講師をすることになったのですか?

西井:休学中に大学で見つけて応募した経営学部主催のビジコンがきっかけです。教授がたまたま私のことを知ってくれていて、審査員で来てくださいと言ってくれたんです。

そこで接点を持った経営学部の教授に、学生での起業は思った以上に大変で、将来はそういうことを教える側にいきたいと話していたら、教育側にも興味があると覚えていてくれて、講師の空きが出たタイミングで声をかけてくださいました。

ーーソーシャルビジネスとの接点もそこからですか?

西井:はい。非常勤講師としてソーシャルビジネスの授業を受けもつことになってからです。

過去にソーシャルビジネスに取り組んでいたわけではなかったのですが、たまたま社会起業家の枠が空き、ソーシャルビジネスを教えることになったんです(笑)

自分の事業はソーシャルビジネスではないなと思っていましたが、授業をしながら見直してみると、マーケティングとか教育の領域でソーシャルビジネスのようなことをやっていたことに気づきました。

大学生と一緒に商品を作ったりもしますが、若者に教育格差をなくすとかやり方を伝えるという意味ではソーシャルビジネスだなと。

意図はしていなかったけど、結果的にソーシャルビジネスに取り組んでいた形になりましたね。

ーー売上を作ること自体、誰かの悩みを解決するとか希望を叶えるということなのでソーシャルビジネスとも考えられますよね。今はヘルスケア領域を行われているということでしたが、これは始める時からソーシャルビジネスを意識されていたのでしょうか?

西井:そうですね。そもそも社会課題やソーシャルビジネスに興味がなかったのは1事業家がそんな大きい課題解決なんてできるわけがないと思っていたことがありました。でも、ソーシャルビジネスを教える側になって、意外と小さなところから始められることに気づき、やってみようと思ったんです。

ソーシャルビジネス教える以上は自分が何かしら立ち上げて成功しなければというのもありました。

ヘルスケア領域に取り組んだのは、薬学部出身でもともと健康に興味があったからです。

社会課題の解決もまずは足元から。教える立場になって気づいたソーシャルビジネスの可能性

ーー実際にソーシャルビジネスを始めて、どのように感じられていますか?

西井:ニューロンでソーシャルビジネスをちゃんと始めたのは2020年からですが、とても面白く、ハマっています。

普通のビジネスは何かの課題を解決してお金を得るというのが基本ですが、ソーシャルビジネスは社会課題解決にも繋がるからです。

ーーソーシャルビジネスは改めてどういうものであると感じていますか?

西井:大学で教える時は、「社会課題を持続可能なビジネスで解決すること」と定義しています。

ビジネスという限りは、利益を出し続けないと続けられません。ビジネスとして解決するということを強調して伝えています。

ーー社会課題を起点に売れるか、というのが重要なのでしょうか。

西井:そうですね。社会課題を解決するのは、今までボランティアの役目でした。でもボランティアは経済的に豊かな方々だから無償で提供できているのであって、ビジネスに比べるとやはり継続性が低いです。

社会課題に継続して取り組むためにも、持続可能なビジネスでというのが大事になると思っています。

ーーソーシャルビジネスってSDGsとかもありますし求められているものだと思っているんですが、今のソーシャルビジネスについてどうお考えですか?

西井:今の生活は、とても豊かで、欲しいものは何でも手に入ってしまいます。

つまり、個人の問題を解決するようなサービスは飽和しきっているんです。顧客起点での課題解決で事業をつくりましょうというワークショップは昔からとてもたくさんあって、アイディアを出してもどこかで聞いたようなものばかり、調べてみたら既にそういうビジネスがあったりする。

どう付加価値つけるの?となり、結局つけられなくて淘汰されるというのをよく見てきました。

今まで解決されてきていなくて社会課題として残っているものを起点に考える必要があって、今まで解決されてこなかったからこそ解決案を考えるのは大変ですが、ソーシャルビジネスは豊かな国だからこそのビジネスチャンスだと思います。

ーー豊かな国だからこそのビジネスチャンスというのは?

西井:例えば発展途上国だと、インフラが整ってなかったり等、そもそも足りないものや日常での不便さがまだまだ多いじゃないですか。なので発展途上国で事業を始めるとなるとまずそこの課題解決からかなと思うので、社会課題に目を向けて解決するサービスを考えようと動けるのは豊かな国だからこそだなと感じています。

あと、知財から事業を考えるというメディアに携わって事業開発のお手伝いをしているんですが、知財から考えるということは日本があまりやってこなかった領域です。

顧客ニーズ起点で考える以外のビジネス手法なので、ソーシャルビジネスもそのひとつですし、新しいやり方かなと感じています。

ーーその意味でのソーシャルビジネスがとても実現している会社って何かありますか?

西井:例えば、おてつたびお手伝いと旅をかけた地方創生のサービスです。

人手不足で産業衰退している地方で、農業とか漁業とか旅館とかに、都心に住んでいる若者が旅行ついでにお手伝いしにいくというサービスです。

旅費も出してくれてバイトにもなります。ただの旅行ではなく現地で働くサービスなんですが、秀逸でいいなと思います。

今ちょうどそれの医療版をやろうと思っています。薬剤師が地方に行って人手不足のところで働く「旅する薬剤師」という名前のサービスです。今後はもっと起業家として力をつけてゆき、そういう社会課題にアプローチする事業をどんどん作っていきたい思っています。

ーー課題を1つだけでなく、2~3個解決することで、ネットワークに関係するステークホルダーの利益をしっかりと生んでいくところがいいですね。Win-Winというか、Win-Win-Winというか。しかし、その設計をすることが難しいのかなとも思います。ソーシャルビジネスをはじめるときにこういうことを心がけるといい点はありますか?

西井:私もそうでしたが、いきなり生活習慣病予防とか医療費負担を安くしようとか、環境問題を、発展途上国を、水質を、とか大きすぎる問題を扱うとハードルが高すぎて「自分には無理だ」と諦めやすくなってしまいます。

だからこそ、まずは身近なことから、自分や周りのひとが困っているけどそれって実は社会課題だよねというものを見つけていくのがいいと思います。

その社会課題がうまれたのはなぜか分析して、ステークホルダーとかそれを生み出している事業者や実際に困っているひととかを調べて、どうすれば社会課題を解決しながらマネタイズできるのかを考えてビジネスモデルを検証していく。

あと、すぐに仮説検証できるように、小さいサービス(MVP)としてリリースするのが大事ですね。

ーーソーシャルビジネスってスタートアップだけに感じられますが、大企業とつなげるのも大事ですよね。大企業にもソーシャルビジネスは求められていると思いますか?

西井:そう思います。ソーシャルビジネスをすると、企業の価値も上がりますし、広報費用としてやるのもありますね。それで儲からなくても、社会にいいことしているということで株価が上がります。

ーー常にいるクライアントとユーザーのなかで、どんな価値を生み出すの?というのは大事ですよね。

西井:大手企業の方だと、スーツにカラフルなSDGsのバッジをつけているじゃないですか。

だからSDGsに詳しいのかなと思いきや、ただ言われてつけているだけで何のものか分かっていないということもある。

SDGsが流行語になってしまっているだけで、アピールのためだけ感もありますね。

ーー中身が大事ですよね。あとは、大企業は小さく計上するのが苦手ということもありますか?

西井:大手企業のなかの新規事業や協業を支援しようとする取り組みもしていますが、決裁権のあるひとに「本当に儲かるのか」「本当にうまくいくのか」という根拠を出さなければいけないので、成功できるビジネスモデルを明示してからしかスタートできないんです。

仮説検証して初めて修正してということが出来ないので、事業提案してもなかなか決済が通らずスタートできなくて困っている企業さんは多いですね。

ーー数打てばいいのにそもそもスタートせずノウハウもたまっていかない、というのも残念ですよね。

西井:お菓子の開発とか旅する薬剤師においても、いざサービスを始めてみると最初の仮説と実際のニーズが違って、進めていく中でサービス内容もガラッと変わったりもしました。

これもやってみなければ分からなかったことなので、まずは小さく始めて、仮説検証してブラッシュアップしていくのはとても大事だと思います。

でも、大手企業だとそれがしづらい。

ーーソーシャルビジネスの分野でいうと、本当にこれに共感してくれる人がいるのか?という仮説検証になりますよね。仮説検証して小さく進めていくのは重要ですよね。

西井:最近新しいこと思いついて出したりする時は、企画書ではなくLP(ランディングページ)を作って出したりします。企画書作ってもなんのプロトタイプにもならないので、LPを作って出して検証しています。

ーー先ほど起業家には3タイプとおっしゃいましたが、全てにおいてソーシャルビジネスの要素は重要になってきているのでしょうか。

西井:大手企業は投資家に向けてパフォーマンスしなければいけないというのはありますが、スタートアップや学生起業に関しては、そういうパフォーマンスもあった方がいいけれどどちらかというと売上重視になる。

かつ、今の若者って社会課題解決したくて起業するひとが多いけど、その気持ちが強すぎてビジネスモデルやマネタイズがうまくいかないということがあるので、バランスよく色々な要素を持っていることが重要だと思います。

ーー学生はどちらかに寄ってしまうということが多いんでしょうか。

西井:起点がどこによるのかによるかと。社会課題を解決したくて起業するのか、稼ぎたくて起業するのか。

ただ金儲けをしていたらお金が集まらないとか応援されないとか目新しさがないとかってことになるし、社会課題に関しては後付けでもやっていく企業が多いのかなとは思います。

SDGsは自分の関心事項と社会をつなげる手がかり。

ーーSDGsのメディアなので次の質問へ。SDGs自体は結構触れるんでしょうか?

西井:ソーシャルビジネスをつくるうえでSDGsについて最初に説明しています。ソーシャルビジネスを考える上で、どんな社会課題があるのか知るためにSDGsを使っています。

ーーSDGsって最近とてもメディアに出ていますが、どういう潮流があるとお考えでしょうか?

西井:SDGsが出たことで全世界的にやっていきましょうとなり資本力のある企業がソーシャルビジネスを創ろうと動いているのはいい潮流だと思いますが、さっきのバッジの件しかり、とりあえずSDGsと言っている企業やステークホルダーが多いように感じます。

社員ひとりひとりにきちんと伝えていけば社員がひとりの消費者になりますから、世の中に普及するのになあと思います。

ーー深く理解しようとする人は多くないのかもしれませんね。

西井:そうですね。食品ロスとかも、豊かなひとにとっては被害ないですし。

ーーSDGsとソーシャルビジネスの関係性については?

西井:一般的なひとたちって社会課題は身近じゃないし知らないことも多いから、分かりやすくまとめてくれているSDGsを知ることで世の中何が社会課題になっているのか分かる。
課題を知るということでは役立ちます。

ーー地球上の課題を169個にまとめられるわけがないというのもあって、上流にある目標やターゲットに紐づくものを自分で見つけて、それがどう世界と一致しているの?と考えていくのが合っているんですかね。

西井:2パターンあるんだろうなと思いますが、やりたいことはないけど事業をつくりたいというひとは17の課題を見て自分の関心と合うものを探して、自分事に落とし込んで身近なところでいうとこういうことかなと考えていくひともいれば、身近な課題感をみつけて、この課題って社会課題だよねと見つけていくというのがあります。

でもどちらにも共通しているのが、身近なもの、自分事にできるようにやっていくのがいいかなと思っていて、そうすると小さくサイクル回せるという意味でもいいと思います。

まとめ

社会課題に興味がなかった。そうはっきりおっしゃった西井さんの言葉は、どれもまっすぐで、まっすぐさゆえの説得力を感じた。

西井さんがソーシャルビジネスを教えている大学生、いわゆるZ世代は、社会課題に関心がある人が多いそうだ。「社会課題」と聞くと、ものすごく規模が大きく、遠く、ちっぽけな自分が手をつけられる問題ではない様に感じる。SDGsは国連が発表していて、世界全体の課題を17個にまとめているのだから、なおさらである。

しかし、社会課題の「破片」は日本にも、自分の住む地域にも、家族の中にも、自分の中にもあるのだ。

身近な問題を一つひとつ持続可能な形で解決する仕組みを作ることができれば、SDGsが目指す世界に近づくのではないだろうか。

目指すべき理想を現実的かつ持続可能に解決するソーシャルビジネスは、SDGs推進を進める企業の道しるべになりそうだ。

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