デジタル捺染でアパレル変革を狙う|エプソンのサステナビリティ

2023.10.13

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昨今、洋服の大量生産・大量廃棄が問題となっています。デジタルを活用したECなどのチャネルが一般化し、洋服の販売経路は広がっている一方で、生産体制は従来のままの部分が多く、需要と供給の変動に対応できなくなっているところがあります。

そんなアパレル業界を変えることのできるのがデジタル捺染です。今回はデジタル捺染業界をリードするセイコーエプソン株式会社のC&Iプリンター営業部部長の奥苑一臣氏にデジタル捺染の基礎から現状、将来の可能性について伺いました。

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プリンター業界でのデジタル変革

ーー自己紹介をおねがいいたします

セイコーエプソン株式会社C&Iプリンター営業部部長の奥苑一臣です。私自身は、産業用の印刷機器やデジタル印刷機、アナログ印刷機など印刷に関わる仕事をやってきておりまして、エプソンに入社したのは4年ほど前になります。

ーー奥苑さんは印刷業界に長年携わられていると思いますが、近年の印刷業界の動きをどう見ていますか

アナログからデジタルへの変革がここ20年間でかなり進んでいます。アナログ印刷は新聞や雑誌の印刷に使われており、版を用いて印刷をするため、大量に同じものを印刷するのには向いていますが、大量に違うものを印刷するには向いていません。

近年は新聞をとる家庭も減り、商業印刷自体が減っている中で、顧客情報などのデータをもとに顧客の特徴にあったチラシなどを一枚一枚デジタル印刷機で印刷する「バリアブル印刷」の需要が高まっていると感じています。

ーーエプソンのデジタル印刷機における強みはどこですか

印刷物の画質が良いというのが大きな強みです。デジタル印刷機にはインクジェットプリンターとレーザープリンターがあり、エプソンは主にインクジェットプリンターを扱っています。レーザーは、トナーパウダーという粉を用紙にのせ、加熱して溶かし圧着することで色を定着させます。印刷スピードが速く滲みにくいという特徴がある半面、加熱するため熱に弱い素材には使用できないのがデメリットです。

一方インクジェットは、インクを吹きつけて印刷します。エプソンはインクジェットの「プリントヘッド」というインクを噴射する部品を自社で作っており、その技術力により高画質を実現させています。また、インクジェットはレーザーに比べ、消費電力量やCO2排出量が大幅に少ないという点も魅力となっています。

アパレル業界を変える可能性を秘めたデジタル捺染

ーーデジタル捺染機がどのようなものなのか教えてください

布地に色模様をプリントすることを「捺染(なっせん)」と言い、デジタル捺染は従来のアナログ捺染と比較して生産工程を大幅に短縮できるため、多品種の商品を少量・短納期で効率よく生産をすることが可能となります。

さらに、エプソンのインクジェットデジタル捺染は、独自のインクジェットテクノロジーにより精細なグラデーションや微妙な色調の再現が可能であるため、デザインの可能性を広げます。

弊社では2015年から取り組んでおり、世界に先駆けて捺染のデジタル化が進んでいたイタリアのコモ地域にある2つの会社にプリントヘッドとインクを提供していたという関係から、デジタル捺染のポテンシャルを感じ、2015~2016年にかけて2社を子会社化し、開発や販売に力を入れていくようになりました。

具体的に説明すると、従来のアナログ捺染では版を使うため、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックしか色を使用できず、その他の特別な色を作るには熟練職人の技が必要であり、また版の洗うために大量の水や排水処理、さらに版を保管するスペースも必要です。しかし、デジタル捺染機では補色を使えるため、より簡単により鮮やかに印刷することができます。また、顔料インクをつかうことで、生地の種類によっては表面の手触りなどの違いがチャレンジですが、印刷後に蒸したり洗ったりする必要もなくすことができ、染料で必須の印刷後に生地を蒸したり洗ったりするプロセスが必要なくなります。

環境面でいうと、前述のようにアナログ捺染では、大量に水を使うので排水も多く出ますし、インクを練ったり、いろいろな色を混ぜて特色を作るのでやはり職人技になってきます。 ですが、大量の水を使うことで工場が非常に蒸し暑く、インクなどのケミカル臭も強いもので、労働環境に関してもデジタル捺染機を導入すれば、劇的な改善が期待できます。

以上のようにたくさんのメリットがあるため、現在デジタル化が進んでいます。

ーーデジタル捺染はどれほど普及しているのでしょうか

アパレル向けの捺染機のデジタル化率がまだ10%ぐらいで 90%がまだアナログで印刷されています。今アパレル業界で問題になっているのは、アナログ捺染で版を作り、大量に同じものを印刷し大量に作って、需要に満たなかった場合は廃棄しているという「大量生産・大量廃棄」前提のサプライチェーンです。

従来はアナログ捺染で行っており、版を作って色合わせをおこなうのに時間がかかり、デザインの構想から発売まで時間がかかり、同じデザインの服を大量に販売して、売れ残ったらアウトレットなどでセールをし、それでも売れ残ったものは廃棄していました。

しかし、デジタル捺染であれば、デザイン構想から販売までの期間が短くできるとともに、小ロットで生産できるため、大量生産・大量廃棄問題を解決できると考えています。アナログ捺染では約1.5~2ヶ月ほどかかっていたものを、デジタル捺染では3日から約2週間ほどに短縮捺染でき、工程も半分ほどで抑えられるため、日々変わっていくファッション界の流行に柔軟かつ早急に対応できるのです。

ーーデジタル捺染が普及するためには何が必要だとお考えですか

捺染の市場はアナログもデジタルも伸びていて、今後も伸び続けると予想していますが、やはりコスト面での壁が大きいようです。ただ、廃棄であったり物流や在庫コストなどのコストまで入れると生産するロットによってはアナログ捺染とそこまで変わらないということを素材メーカーさんとブランドオーナーさんの両面にも知ってもらうことがとても大切です。またバリューチェーンの観点で見ても優れており、コスト面以外での環境負荷低減や労働環境改善面での大きな価値を知っていただければ、確実に広がっていくだろうと個人的には考えています。

デジタル捺染では無地のデザインよりも、色物や柄物の方がデジタル捺染機が持つ色彩の美しさや細やかなデザインが活きやすくなっています。海外では日本よりも鮮やかな色の服や柄物の服が多いこともあって、特にイタリアでは高級シルク素材にブランド独自のデザインを弊社のデジタル捺染機を使って捺染していただいています。

デジタル捺染機を使えば、前述のようにデザイナーの思い描いたデザインの反映がより手軽に、よりスピーディーにできるようになるため、少量多品種のデザインが服となって世の中に流通し、より気軽に多くの個性豊かなファッションを楽しめるようになるとおもいます。

長野の自然を守りたい

ーー現在はどのような体制でサステナビリティを推進されていますか

社長直轄の組織として「サステナビリティ推進室」を設置し、その責任者には代表取締役専務執行役員が任命されています。このサステナビリティ推進室が事務局となり、「サステナビリティ戦略会議」と「サステナビリティ推進会議」という二つの会議体を四半期に一回ほどのペースで開催し、サステナビリティ活動に関する協議や検討を行っています。

ーー貴社は早くから環境に対しての取り組みを始められていたと思いますが、何か貴社ならではの特徴などがあるのでしょうか

本社と製造部門の事業所がほとんど長野県内にありまして、国内ですと1万3000人ぐらいの規模の会社ですが、9割は長野県で働いています。長野は非常に自然豊かな環境にありますが、諏訪湖が最近凍らなくなってしまうなど、温暖化がすごく進んでるということを実感しやすい環境にいることが大きいのかなと感じています。そういった環境の中でものづくりをしている以上、 環境に対して真摯に取り組むというのは、我々企業としての責任だと思っています。

ーー最後に今後の展望や戦略についてお聞かせください

やはりどれだけデジタル捺染機の普及率をあげられるかだと考えています。フランスにあるプチ・バトーという子供服メーカー様の工場でエプソンのデジタル捺染機を導入していただき、電気消費量50%、水の消費量30%削減や品質はそのままに納期短縮し、追加生産の納期に関しては約10週間から約10日に短縮しており、その変化をSNSで発信することによってブランドコミュニケーションにも活用しています。また、デジタルによる色管理で追加生産の納期を大幅に短縮できたことで売れる数だけ作れば済むようになり、利益率も向上していると聞いています。このような事例を日本でも早く作っていければと思っています。

さいごに

今回のインタビューまで私もデジタル捺染のことについてほとんど知りませんでしたが、話を聞いていく中で、品質面・環境面・納期面などにおいて優れており、多様化する消費者ニーズに対応するために今後必ず普及していくのだろうなと感じました。

また、意外にも奥苑さんはあまり服に興味がなかったとのことですが、ケニアにデジタル捺染で作られた服を持って訪れた際に、その服を着て喜ぶ子どもたちの姿を見て「服は人を笑顔にすることができる」ということを実感したとおっしゃっているのが印象に残っています。デジタル捺染の技術によって、今よりも服が自由に、気軽に作れる世界になることが期待できるインタビューでした。

 

 

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