【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
スパイスやハーブを中心に、カレーや香辛調味料、レトルト食品などを幅広く取り扱うエスビー食品。1923年に創業後、「食卓に、自然としあわせを。」という企業理念のもと、日本の食卓においしさを届けてきた。
その一方で、「地の恵み」であるスパイスやハーブを扱う企業として持続可能な社会を実現するための取組みも積極的に行っている。
2021年4月には新たにサステナビリティ委員会を立ち上げたというエスビー食品はどのような想いでSDGs推進を目指しているのか。
今回は、サステナビリティ委員会の事務局を担う中島氏を取材した。入社してからさまざまな仕事に携わってきた中島氏の具体的なサステナビリティ推進の施策を伺う。
サステナビリティの実現は「超長期財務」につながる
ーー最初に、自己紹介をお願いいたします。
中島:広報・IR室長の中島です。サステナビリティ委員会という部門横断型組織の事務局も兼任しています。入社してもう18年で、営業、研究開発、商品企画を経て、広報やIR業務には4年ほど携わっています。
エスビー食品の香辛料は国内の60%を占める高いシェアを誇っています。また、スパイスやハーブの他にも、シーズニングやレトルト食品などを幅広く展開し、順調に売上を拡大していますが、このコロナ禍での内食需要の高まりにより、さらにその傾向が増しています。
ーー創業から目指しているビジョンはありますか。
中島:創業理念に「美味求真」という言葉があります。本当に美味しいものを追求し作り続けることがエスビー食品の創業理念であり、ビジョンとしては「『地の恵み スパイス&ハーブ』の可能性を追求し、おいしく、健やかで、明るい未来をカタチにします。」を掲げ、日々事業活動を行っています。
例えば、カレー粉は苦労の末、日本で最初にスパイスから調合し、製造に成功しました。おいしさを追求した結果、日本にカレー文化をもたらしたと言っても過言ではありません。
ーー広報やIRに携わってきた4年間で、SDGsの重要性の変化について、どのように感じていますか。
中島:4年前はSDGsをほとんどの人が良く理解していない状態でした。当時はESGやSDGs、CSR、CSVが混同されていたと思います。しかし、メディアでの取り上げや政府のSDGs対策本部の設置などでようやく浸透してきたと思います。この4年間での変化のスピードは著しかったです。
日本ではCSRという言葉から浸透が始まりましたが、社会的責任があるからといって企業の外でボランティア活動をしても長続きしない場合が多いです。CSRも大切な考え方ですが、同じように大切ことは本業の中でいかに責任を果たしながら価値を創出するかということ、つまりCSVなんです。
企業が開示する重要な情報は、よく「財務情報」と「非財務情報」と区別されますが、「非財務情報」は、突き詰めて考えると「超長期財務情報」だと思うんです。非財務というと、お金勘定など関係ないように見えますが、実のところは遠い将来の財務に大きく影響することになるんですよね。
大切なのは世界の問題を自分事化すること
--エスビー食品の具体的なSDGsへの取組みを教えて下さい。
中島:持続可能な調達に関して、サプライヤー教育のプログラムを継続して行っています。
例えば、キー原料となる7つの香辛料について、持続可能な原料調達ができているのかを調査するためサプライヤーに対してアンケートの協力をお願いしています。そこでは環境に配慮した生産を行っているか、そこで児童労働や強制労働などの人権侵害が起こっていないかを細かくチェックします。そしてもし、ウィークポイントがあった場合にはエスビー食品として改善案を提案して一緒に問題を解決していくことを大切にしています。
ーー世界中にサプライヤーがいる中で、大変なことはありましたか。
中島:スパイスは発展途上国で栽培されるものも多いので、地震や津波などの自然災害があった際は過酷な環境になっていないかを調査したくても困難な場合も想定されますし、現状はコロナ禍で渡航も制限されますので現地に赴くこともできず、コミュニケーションには工夫が必要です。また、カカオやコーヒー、スパイスには人種差別などの人権問題が絡む歴史的背景があります。私たちはこれらの問題を乗り越えるために「パートナーと取り組む」意識を忘れないようにしなければなりません。
さらに、コーヒーの50年問題と言って、地球の気温上昇が2050年まで続くと、今の栽培地ではアラビカ種が採れなくなるという可能性があるそうです。コーヒーやスパイスは産地が近しいこともありますので、決して他人事ではなくこの先温暖化が続くと原料調達が困難になる可能性があります。
実は国内にも問題はあります。それはワサビです。ワサビは標高の高い場所など涼しい沢で採れますが、ワサビの生息できる標高が少しずつ高くなっているように感じます。高い標高まで採りに行かなければならない一方で、ワサビ農家さんの高齢化は進行しているので持続可能性が危ぶまれます。
そこで、国内はもちろん世界中の現象に目を向け、自分事化して対処していくことが必要になります。
ーー社員の方に対するSDGsの普及活動はどのように行いましたか。
中島:4年ほど前から全社員に向けたe-learningを始め、Webでの学びの場を設けました。
当社が発行する「エスビー食品レポート」には地球環境に限らずダイバーシティや地域貢献活動についてなど、さまざまな事が書かれています。外部に向けて作っているものではありますが、社員にも読み込んでもらうために、このレポートから問題を出題しています。
スパイスやハーブは天産物なので、作ってくださる農家さんと自然環境が持続可能な状態にあることが最重要です。そこで、環境の情報を特にしっかりと発信するようにしています。
ーー社内の普及も大事にされているんですね。その流れでサステナビリティ委員会が立ち上がったんですか。
中島:そうですね。社員の学びの場や社内の認知普及に向けた活動をしていく中で、サステナビリティ委員会を4月頃に立ち上げました。
サステナビリティを企業の中で推進していくには、トップダウン型とボトムアップ型両方の取組みが必要です。
例えば、ある部署からボトムアップ型の提案が出たとしても、上司にコスト増だと言われると止まってしまいます。そこで、製造や物流、開発などの部門トップの人達を束ねる委員会を作るに至りました。各部門の責任者を積極的に巻き込み、サステナビリティに対する理解を深めることで正しいトップダウンの流れも構築できると考えています。
ーー委員会では具体的にどのような活動をしていますか。
中島:サステナビリティ委員会の中に「環境部会」や「サステナブル調達推進部会」、「サステナブル商品開発部会」といった複数の部会があり、部会ごとに月1回ミーティングをして各部会における課題を解決しています。
それぞれの部門の責任ある方々が集まっているので、課題解決までのスピードはとても早いです。
そして各部会での活動を半期に1回委員会に上げ、委員会から委員長を務める社長に報告するという流れを繰り返し行っています。
ーー委員会を立ち上げたことで変化したことはありますか。
中島:上層部の理解が深まったことで、ボトム側の意見も取り入れられやすくなったと思います。
また、各部門にとってのサステナブルな課題とは何なのか、自然と考える雰囲気も醸成できつつあると感じています。
対岸の火事だと思わず、自分事化する。腹落ちをしてもらう事が大事だと考えています。
重要なのはSDGsに対する“自然な姿勢”
ーーこれからの展望を教えて下さい。
中島:SDGsは国際的な共通言語だと思います。また企業経営における羅針盤のようにもなってきていると思います。一企業がSDGsの17のゴールと169のターゲットに合致する活動をすることは中々むずかしいと思いますが、SDGsをそこに無理やり嵌め込むのではなく、事業一つひとつの持続可能性を考えていけば、自然と成せるものだと考えています。
我々はスパイスとハーブをコアコンピタンスとする企業です。これらはどちらも植物なので、事業が盛んになれば植物がたくさん植えられることになります。そうすれば自然とCO2の吸収・固定につながります。
これからは自社の事業が地球環境に良い影響を与えているという側面を、更にたくさんの社員に知ってもらい、地球環境に配慮しながら事業を拡大していくことで、持続可能な企業と社会の実現に貢献していきたいと思います。
さいごに
今回の取材を通して、エスビー食品はスパイスとハーブの会社であることを基軸として事業内容に沿った取組みを自然と行っていることがわかった。
「非財務情報」は実は「超長期財務情報」であるという言葉が印象的で、長い目でこれからの行く末を俯瞰的に考えていることが伝わってきた。SDGsへの取組みは一見するとボランティアに近いものと捉えられがちだが、そうではない。持続可能な社会を目指すことは結果的に10年、20年先の財務資源に直結しているのだということに改めて気付かされた。
世界中のステークホルダーを相手に自然資源を扱うエスビー食品。これからの取組みにも期待が高まる。