【更新日:2023年3月15日 by 中安淳平】
皆さんは今の仕事に「働きがい」を感じてますか?
日本の社会を支える経済活動は、さまざまな仕事によって成り立っています。
今後の経済成長をより促進し、発展した未来を描くためには一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、働きがいを感じられるようになることが大切です。
しかし、現在の日本には「嫌でも働かなくてはならない人」「働きたくても働けない人」など、労働に対してさまざまな負の感情を持つ人が混在しています。
今回は、SDGsの視点から日本の労働問題を見つめ、「働きがい」のある労働の在り方が経済成長にどう関わっていくのかを解説していきます。
見出し
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の内容
SDGsの目標8には「働きがいも経済成長も」という目標が設定されています。
ここでは継続的・包括的で持続可能な経済成長と完全雇用、ディーセントワークの推進が定められています。
ディーセントワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」のことを表し、労働者の人権が尊重されたうえで、労働により生活が安定し、また人間としての尊厳を保つことができるようになることを目標としています。
さらに長期的な経済成長を続けていくためには、生産性の高い産業を拡大が不可欠です。
それと同時に、労働者の獲得する収入や健康、教育、就業機会を平等にすること、著しく不利な立場に置かれる人をなくすこと、そして人々が適切で継続的に営める生活を送れる環境を作ることが重要です。
SDGsの目標8はこれらを実現し、持続可能な経済成長を可能にするために設定された目標なのです。
(参照:ディーセントワークとは SDGsとの関係と日本が抱える課題|エレミニスト)
SDGs 8 について詳しくはこちら▼
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の日本の現状
働きがいや経済成長について日本では多くの課題が残っています。
ここでは、日本が抱える課題について整理し、現状を把握していきましょう。
日本にも存在する児童労働
「児童労働」と聞くと、発展途上国で家族の生活のために働く子どもを想像する方が多いのではないでしょうか?
実際、児童労働は世界の中でも特にアフリカ・アジア太平洋地域に多く、この2つの地域だけで児童労働者は1億人を超えています。
このことから、児童労働は日本に暮らす私たちにとって遠い世界の話と思われがちですが、実は日本にも児童労働は存在しているのです。
そもそも児童労働とは、義務教育を妨げる5歳未満の労働や、法律で禁止される18歳未満の有害で危険を伴う労働のことです。
日本では国連の児童労働に関する条約批准しているため、「労働基準法」や「児童買春・児童ポルノ禁止法」などさまざまな法律で、子どもたちの権利を守っています。
しかし警視庁よると、児童買春や淫行などの有害労働で検挙された件数は2020年で約800件もありました。
また、2017年には15歳の少女が危険労働にあたる太陽光パネルの点検・清掃作業を行っている最中に転落死する事件があり、児童労働に対する啓発が求められました。
将来的な経済活動の担い手を潰してしまいかねない児童労働は、経済の持続可能性を閉ざし、子どもの人権問題にも影響するため、早急な現状把握と対策が必要とされています。
(参照:児童労働の現状とは?原因から私たちにできることを考えよう|なるほどSDGs)
男女・雇用形態で収入格差
日本は、先進国の中で最も男女平等から遠い国と言われています。
その理由の一つとして挙げられるのが、男女の収入格差です。
以下のグラフでは一般労働者の給与で、男女の賃金格差がどれほどあるのかが示されています。
昭和から平成にかけて男女ともに賃金は上昇し、賃金格差も縮小傾向にありますが、令和元年の調査でも女性の賃金は男性の74%程に止まっています。
この原因としては、出産・結婚により女性の勤続年数が短いことや、女性管理職の少なさが影響していると考えられており、女性が経済活動に活発に取り組める環境が整備されていない現状を意味するものです。
また、収入格差の課題には男女間のものだけでなく、正規職員と非正規職員の間におこる格差も存在します。厚生労働省が調査した「雇用体系別に見た賃金」の結果によると、雇用形態間賃金格差は非常に大きく、非正規職員の賃金は正職員の65%程に止まっていることがわかります。
同じ仕事量で、正社員と同等の働きがいが感じられていても、生活を守るために充分な収入が得られなければディーセントワークとは言えません。
このような不平等の是正も、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に求められるものの一つです。
(参照:令和元年賃金構造基本統計調査 雇用形態別にみた賃金|厚生労働省)
(参照:08.働きがいも経済成長も|SDGs one by one)
隠された長時間労働問題
働きがいのある仕事とは、充実した私生活の下に成り立つものです。
日本は長時間労働大国として国内外のメディアによく取り上げられ、長時間労働の解消が課題となっています。
日本は経済協力開発機構(OECD)が発表した世界の労働時間ランキングでは、日本は22位となっており、平均労働時間は1644時間となっています。
世界平均が1726時間であるため、日本の労働時間は長くないと思えるでしょう。
しかし、このランキングでは日本特有の「サービス残業」は含まれていません。
定時に強制的にタイムカードを切らされ、その後も会社に残って時間外労働をしなくてはならない人や、定時に帰宅しても仕事を持ち帰ってカウントされない労働を行う人がいまだに多くいるといわれています。
日本の隠れた長時間労働は、個人の私生活充実を妨げ、「ワーク・ライフ・バランス」を崩してしまう物です。
「働き方改革」などの取り組みは行われていますがより一層の対策が求められています。
(参照:なぜ日本の長時間労働はなくならない?現状や原因、改善策も|SDGs目標8「働きがいも経済成長も」|WEELS)
日本女性が抱える産後の社会復帰問題
女性が働くうえで、結婚・出産・育児のライフイベントは今後の仕事にどのように取り組むかを考えなければいけないタイミングとなります。しかし、本来はこのように考えること自体をやめ、男女共に乗り越えていくために企業側が対策を行う必要があります。
近年は少子高齢化の観点から、「男性の育児取得を増やそう」という取り組みを多く耳にしますが、女性の6人に1人は育休を取得せずそのまま退職してしまったり、産休を取得するだけで育休を取らないまま仕事に復帰したりする人が多くいます。
誰もが「働きがいのある人間らしい仕事」を実現するためには、出産や育児という「家族に関する営み」と仕事を両立できる環境が不可欠です。国や事業はそのための対策を講じることが大切です。
SDGs目標8達成のための日本の取り組み事例 3選
日本では、今までにあげたような問題を解決するために多くの団体や企業、国によって取り組みが進められています。
事例①特定非営利活動法人 ACE
特定非営利活動法人ACEは、「世界の子どもを児童労働から守る」という理念のもとに、子どもが子どもらしく生きて夢を実現できるようにサポートを行っています。
ACEは、日本の児童労働の実態調査や啓発活動に取り組んでいます。
実態を把握して調査結果を発信することで、児童労働問題の存在を多くの人に知ってもらい、問題解決のための活動計画に活かしています。
ACEの児童労働啓発活動では、中高生を対象として「働く人を守るルール」について知るためのハンドブック・リーフレットを作成・配布しています。働いている子どもやこれから働こうと考えている子どもが有害労働や児童労働、ブラックバイトから身を守るための知識を得るサポートをしています。
ハンドブックには大人向けのものもあり、年少者(18歳以下)の労働環境を守れているのかを顧みて、児童労働の予防・改善を目指しています。
▼ACEの日本児童労働調査結果はこちら
日本にも存在する児童労働~その形態と事例~
(参照:特定非営利活動法人ACE ホームページ)
事例②株式会社ピコナ
日本の長時間労働問題を解決するためには、隠れた労働時間である「サービス残業」をいかに減らすかが課題です。
その中で残業を減らしつつ、生産性の高めている企業の一つが今回紹介する株式会社ピコナです。
ピコナは3DやCGを取り扱う会社で、アニメーション業界の平均残業時間は月平均100時間とも言われています。しかし、ピコナは「残業チケット」という制度を取り入れたことで残業時間を20時間までに縮小させることに成功しました。
「残業チケット」よは残業を申請するチケットであり、月初めにひとり10枚配布されますが、6枚以上使うとペナルティがあり、1枚使用するごとに「ピコナポイント」が5ポイント引かれてしまいます。
ピコナポイントとは、福利厚生の一環で、ポイント数により豪華景品が当たるさいころを振ることができるというシステムのことです。ピコナポイントは出勤1回につき1ポイントたまる仕組みのため、残業チケット1枚で一週間分のポイントを失ってしまいます。
残業チケットの導入により、働き方にメリハリが生まれて社員全員に帰る意識が根付き、残業の大幅な削減を実現しました。
(参照:残業80%減! これが業界の常識を覆した「残業チケット」|日経×woman)
事例③厚生労働省のマザーズハローワーク
厚生労働省は子育てをしながら「働きたい」お母さん・お父さんの支援するために設置された、子ども連れでも安心して仕事探しができる場所を提供しています。
それが「マザーズハローワーク」です。
マザーズハローワークでは、子どもが遊んで待てるキッズコーナーやチャイルドシートを置ける相談スペースが設置されています。他にも担当者性の就職支援により、子育てと両立しやすい仕事の斡旋や、保育所などの子育て支援サービスの情報の提供、就職支援セミナーも行っています。
妊娠・出産を期に仕事を離れてしまった人がブランクや子育てとの両立に不安を抱えている中で、新たなスタートを切るサポートをすることが、働きがい・生きがいのある生活と一人ひとりの経済活動による経済成長に繋がっていくのです。
(参照:マザーズハローワーク|厚生労働省)
まとめ
今回はSDGsの目標8「働きがいも経済成長も」について、日本の抱える課題や取り組みについて紹介しました。
「働く」ということは国全体の経済的成長のためだけでなく、個人の生きがいや尊厳を守る役割を果たしています。
誰もが働きがいを感じ、ワークライフバランスを保ちながら働いていくために、まずは私たち自身の労働環境から見つめていく必要がありそうです。
この記事が皆さんの労働環境をよりよくするきっかけになれば幸いです。
SDGsとは
SDGsは「Sustainable Development Goals (持続可能な開発目標)」の略称です。
2015年に国連サミットで採択され、2016年から2030年の間に達成すべき17の目標と169のターゲットが定められました。
SDGsには世界中が共通で抱える環境問題、社会問題を解決するための目標が定められています。労働問題もその一つであり、日本の労働問題にはジェンダーや貧困などさまざまな問題が関わり合っています。
SDGs CONNECTでは、SDGsの知識を深められる記事をたくさん掲載していますので、気になる方はこちらからご覧ください。
▼SDGsについて詳しくはこちら!