【更新日:2021年9月15日 by 三浦莉奈】
独立行政法人 国際協力機構(以下、Japan International Cooperation Agencyの略称、JICA)は開発途上国の経済成長や社会発展を支援し、国際協力の促進を目的としたODAの機関です。青年海外協力隊などのボランティア団体の派遣が有名な活動です。
JICAは、海外拠点96カ所・国内拠点14カ所を有しています。また、援助対象は150もの国と地域と幅広く、途上国とともにさまざまな課題の解決に取り組み、人と人との繋がりを重視した支援を行っています。
JICAは既存の開発援助などの事業に加えて、質の高い安全を平等に手に入れられるようにするため、持続可能な社会づくりを重要視しています。
国際協力を事業の軸にしているJICAのSDGs戦略とはどのようなものでしょうか。
このページでは、JICAの事業内容をはじめ、SDGs戦略や活動、外部からの評価まで、幅広く紹介していきます。
見出し
JICAのビジョン/事業
JICAの概要
JICAは、1954年に日本海外協会連合会として設立されました。その後に設立された、海外技術事業団、海外移住事業団、海外農業開発財団、海外貿易開発協会の4つの団体を統合し、外務省所管の特殊法人として1974年にJICAが設立されました。
JICAの目的は、開発途上地域の経済力の向上や社会の開発・復興・経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進や国際経済社会への発展に投資することです。
JICAのシンボルデザインは2008年10月1日に新たなデザインに改定されました。
その理由は日本の国際協力を包括的に実施する機関として2008年が転機の年となったからです。
これを機に新たな体制と組織文化の創造のため、シンボルデザインを従来のデザインを活かしながら、新しく要素を加えて作られました。
設立年 | 2003年10月1日 |
従業員数 | 1,942名 |
資本金 | 8兆2,715億円 |
事業 | ①技術協力事業
②有償資金協力事業 ③無償資金協力事業 |
*2020年7月現在
【引用】https://www.jica.go.jp/about/vision/index.html#symbol
JICAの主な事業
JICAの主な事業は、①技術協力事業 ②有償資金協力事業 ③無償資金協力事業にわけられます。
技術協力事業
技術協力事業では、開発途上国の課題解決能力と主体性の向上と促進を目指しています。具体的には、専門家の派遣、必要な機材の供与、人材の日本での研修などを通じて、開発途上国の経済・社会の発展に必要な人材育成、研究開発、技術普及、制度構築を支援する取り組みです。
開発途上国のニーズは、従来の農業開発や保健医療の改善、給水などの社会基盤の整備に加え、最近は気候変動への対応、市場経済化や法整備に対する支援などが求められています。
その他にも、アフガニスタンやスーダンなどにみられる平和構築・復興支援など従来にも増して、多様化・多面化しています。
JICAはこのような支援の多角化に応えるためさまざまな協力を行っています。
技術協力の種類としては、以下の種類があります。
専門家派遣 | 開発途上国の協力の現場に日本人専門家を派遣して、相手国の行政官や技術者に必要な技術や知識を伝える。 |
研修員受け入れ | 主に当該分野の開発の中核を担う人材を研修員に対して、それぞれの国が必要とする知識や技術に関する研修を行う。 |
技術協力プロジェクト | 専門家派遣、研修員受入れ、機材の供与という3つの協力手段を組み合わせ、一つのプロジェクトとして一定の期間に実施される。 |
開発計画調査型技術協力 | 開発途上国の政策立案や公共事業計画の策定などを支援しながら、相手国のカウンターパートに対し、調査・分析手法や計画の策定手法などの技術移転を行う。 |
【引用】https://www.jica.go.jp/activities/schemes/tech_pro/summary.html
事業事例:小規模農家コメ生産向上プロジェクト
JICAは2021年5月からリベリアにおいて小規模農家コメ生産向上プロジェクトを実施しています。コメはリベリアにおける主食であり、一人当たりの年間消費量が120kgと世界最大規模となっています。
一方で、国内のコメ生産性は低く、コメ栽培適地の約3分の2が未活用といった状況であり、コメ消費の6割を輸入に頼っているという現状があります。
国内でコメの生産性を上げるため、リベリアのボン州において稲作技術の改善、改良稲作技術の普及、参加農家グループの活動強化、農業省のモニタリング・評価能力強化を行いました。
このプロジェクト開始から1年以内に詳細計画を策定し、それ以降に本格活動を実施する予定です。
JICAボランティア派遣事業
JICAボランティア派遣事業では、国際協力の意志を持った方々を開発途上国に派遣し、現地の人々とともに生活し、異なる文化や習慣に触れて、途上国が抱える課題の解決に貢献する事業です。
JICAのボランティア活動の特徴としては、途上国の政府や政府機関、あるいは公益性を追求する非政府機関の活動となる点などが挙げられます。
下記が派遣の主な目的です。
1. 開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与。 2.異文化社会における相互理解の深化と共生。 3.ボランティア経験の社会還元。 |
途上国支援に加えて、途上国との友好関係づくりやボランティア経験の社会還元が加わっているため「国民参加型」事業と呼ばれています。
【引用】https://www.jica.go.jp/activities/schemes/volunteer/index.html
事業事例:世界にヒロシマ・ナガサキを伝える。JICA海外協力隊による「原爆展」
JICAボランティアの「原爆展」は、広島出身の青年海外協力隊4名が派遣先のニカラグアにて2004年に開催したのが始まりです。
世界の平和と安定に貢献するJICAボランティアの多くが原爆展の趣旨に賛同し、これまでに62ヵ国で127回開催されました。
この「原爆展」を通じて、JICAボランティアは「被爆国が発信することの意味」に気付くことができます。
そして、内戦や紛争を経験した人々は被爆者の生きざまや被爆した日本に希望を見出し、復興する未来へと繋がります。
科学技術協力
科学技術協力においては、環境・エネルギー、生物資源、防災および感染症等の地球規模課題の解決を目指しています。
これらの諸課題の改善のためには、課題解決に繋がる新たな知見を獲得し、さらに将来的な社会実装を目指し、開発途上国の社会的ニーズを敏感に読み取ることが重要です。
JICAの研究機関と開発途上国の研究機関が協力して技術協力プロジェクトの枠組みにより国際共同研究を推進する事業です。
科学技術協力における目的は以下のとおりです。
1.日本と開発途上国との国際科学技術協力の強化 2.地球規模課題の解決と科学技術水準の向上につながる新たな知見や技術の獲得、これらを通じたイノベーションの創出 3.キャパシティ・ディベロップメント |
【引用】https://www.jica.go.jp/activities/schemes/science/index.html
JICAの経営理念
JICAはより良い組織であり続けるために以下のミッションを掲げています。
ミッション:JICAは、開発協力大綱の下、人間の安全保障と質の高い成長を実現します。 ビジョン:信頼で世界をつなぐ |
さらに、安全保障と質の高い成長の実現を目標としたミッションをより確実なものにするためにビジョンに「信頼で世界をつなぐ」を掲げています。
【引用】https://www.jica.go.jp/activities/schemes/tech_pro/approach.html
JICAとSDGs
直接関係するSDGs
JICAはSDGsの17の目標に寄与した取り組みを行っています。
その中でもJICAが重要としているSDGsを紹介します。
3.すべての人に健康と福祉を | 開発途上国では、所得水準の向上により、病気の中でも特に生活習慣病の増加が問題となっています。
そこで、AIなどの技術を活用し、貧困層も誰でも受診のしやすい環境づくりを目指しています。 目標3番についての詳しい記事はこちら▼ |
10.人や国の不平等をなくそう | 人々には言語、年齢、性差、宗教などそれぞれに大きな文化の違いがあります。
これらを超えて平等に生活するために、スポーツなどの文化面や医療などの衛生面、他にも様々なサポートによって平等から始まる平和を目指しています。 目標10番についての詳しい記事はこちら▼ |
13.気候変動に具体的な対策を | JICAは持続可能な世界のために、森林保全や大気汚染軽減に取り組んでいます。
環境を守りながらも、経済活動や社会的貢献についても重要視しています。 目標13番についての詳しい記事はこちら▼ |
17.パートナーシップで目標を達成しよう | 人と人との信頼が「つながり」となることを掲げているJICAは、常に国内外においてパートナーシップの意識を共有しています。
目標17番についての詳しい記事はこちら▼ |
【引用】https://www.jica.go.jp/publication/pamph/issues/ku57pq00002mx996-att/jica_sdgs.pdf
JICAのSDGs戦略
JICAは、ミッションとして「人間の安全保障」と「質の高い成長」の実現を目指しています。このミッションとSDGsが目標としている包摂的で、持続可能な世界の実現と高い親和性があります。
そのため、SDGsがJICAのミッションの実現を推進するものであると考えており、SDGsへの積極的な取り組みを目指しています。
さらに、SDGsでは17のターゲットが設定され、その中で相乗効果を生み出す取り組みが求められています。JICAは、国内外に多くの拠点を有し、開発途上国関係者との信頼とネットワークを駆使しながら事業を展開しています。JICAはこれらの強みを活かして、様々なパートナーシップを加速させ、よりイノベーティブな事業展開とSDGs達成を目標としています。
JICAのSDGs取り組み
一部ではありますが、JICAのSDGsの取り組みを紹介します。
取り組み事例:①【6月12日は児童労働反対世界デー】子どもの将来、世界の未来のために、できることを考える
対応するSDGs:目標8「働きがいも経済成長も 目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」 |
2002年、国際労働機関は、児童労働の撤廃に向けた取り組みの必要性を訴えるため、6月12日を「児童労働反対世界デー」と定めました。
児童労働とは、子どもが教育を受ける機会や、危険にさらされずに健全に成長する機会を奪います。つまり、子どもたちの将来と世界の未来を奪うような労働です。
しかし、2020年のデータでは、世界で児童労働に従事する子どもは未だに約1.6億人いるとされています。その数は、世界の5歳~17歳の子どもの約10人に1人に相当します。特に状況が深刻なサブサハラアフリカでは約4人に1人におよびます。
JICAは、このような状況を受けて、今まで取り組んできた児童労働の根本原因である教育や貧困の問題解決への取り組みだけではなく、さまざまなパートナーと連携し、新たな挑戦を始めています。
【引用】https://www.jica.go.jp/topics/2021/20210611_01.html
取り組み事例:②気候変動の影響を最も受ける水問題に取り組む
対応するSDGs:目標6「安全な水とトイレを世界中に」目標13「気候変動に具体的な対策を」 |
気候変動の影響を最も大きく受ける問題は水の問題であるとされ、世界共通の問題でもあります。気候変動を根本的に解決するために、JICAは特に水門題に対して「緩和策」と「適応策」の2つの対策をとっています。
「緩和策」では例えば、故障などによる給水量低下を未然に防ぎ、エネルギー効率化と運転コスト削減を実現することで水資源が枯渇している国に安定給水と気候変動緩和策に寄与することを目指すなどの対策をしています。
「適応策」は顕在化している気候変動による被害を回避、もしくは軽減させる対策で、貯水池などをつくる活動などをしています。
開発途上国で、持続可能な開発と気候変動対策の両立を図ることを重視しており、大きな課題でもあります。
【引用】https://www.jica.go.jp/topics/2021/20210616_02.html
おわりに
既存事業が非常に密接に関わっているJICAはSDGsとのつながりを大切にしています。
SDGsの目標や取り組み、そしてすべての物事が一つひとつ分離しているのではなく、必ずなにかにつながっているということに気付かされました。
パートナーシップを、どのように人生に活かすか、考えたくなります。