AIがSDGsに与えるプラスの影響とは?3社が語るSDGs達成のための技術活用|第1回 SDGs TECH CONNECTレポート

#SDGs目標13#SDGs目標14#技術#環境 2021.09.20

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【更新日:2021年9月20日 by おざけん

SDGs CONNECTとRecursiveは6月2日、オンラインイベント「SDGs TECH CONNECT」を開催した。

第1回目の開催となる今回のテーマは「SDGsに解決策を」。SDGsに注目が集まる今、テクノロジーによる具体的な取り組みについて検討した。

前半ではAIをはじめとした最先端テクノロジーをリードする知識人に「どんなテクノロジーを活用してSDGsに取り組んでいるのか」を紹介してもらい、後半では「先端テクノロジーとSDGs」と題したパネルディスカッションを実施。

この記事では、イベント当日の様子をレポートする。

登壇者

株式会社Recursive Co-founder and CEO ティアゴ・ラマル

ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンにて、理論/数理物理学 修士号、生物物理学 博士号を取得。卒業後、Google DeepMindに入社。シニアリサーチエンジニアとして、強化学習、予測モデル、自己管理型学習など、最先端プロジェクトに従事しNatureなどの国際雑誌に多数の論文を発表。その後、多国籍AIスタートアップ、コージェントラボにリードリサーチサイエンティストとして入社し、来日。情報検索&質問回答、デザイン生成モデル、OCR、NLP等、様々なプロジェクトを推進。2020年8月、株式会社Recursiveを共同創業し代表取締役に就任。

ウミトロン株式会社 Director / COO of Japan 斎藤 悠貴さん

現ウミトロン株式会社 取締役 最高執行責任者(COO of Japan)。新日本製鐵にて生産技術、新製造プロセス開発、住友金属との経営統合後の全社技術統括に従事。その後、リクルートにてHot Pepper Beautyの事業統括、営業推進、非営業チャネル 構築に従事。2018年にウミトロンへ参画し、水産養殖への技術実装、カスタマーサクセス、組織開発等に従事した後、現在は日本法人の業務執行を担う。早稲田大学(理工学部)卒業、グロービス経営大学院(MBA)修了。

株式会社Ridge-i Chief Research Officer 牛久 祥孝さん

2013年日本学術振興会特別研究員およびMicrosoft Research Redmond Intern。 2014年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了、NTTコミュニケーション科学基礎研究所入所。 2016年東京大学情報理工学系研究科講師。 2018年よりオムロンサイニックエックス株式会社 Principal Investigatorおよび2019年より株式会社Ridge-i Chief Research Officer、現在に至る。 主としてコンピュータビジョンや自然言語処理を対象として、機械学習によるクロスメディア理解に従事。 2011年ACM Multimedia Grand Challenge Special Prize、2017年ACM Multimedia Open Source Software Competition Honorable Mention、2017年および2018年NVIDIA Pioneering Research Awards、2021年ヤマト科学賞など受賞。

AIの研究開発およびSDGsに関連するソリューションの提供|Recursive ティアゴ・ラマル

イベントは、このイベントの共催であるRecursiveのCEO ティアゴのプレゼンテーションから始まった。「AI for sustainable innovation」を掲げるRecursiveが、テクノロジーでSDGsを実現させるためにどのようなことを行っているかについての説明だ。

まずはSDGsの背景の説明からプレゼンテーションは始まった。

「近年の経済発展による社会全体の富を増大させることができた代償として、環境条件や労働条件の悪化など、経済発展を加速させるためにさまざまな問題が社会に発生している。それらの問題を企業や個人が改善することや、これまでのダメージを打ち消すことを目的として、国連がSDGsを策定した」

しかし、経済発展とSDGs達成との間には根本的な矛盾があり、両方を達成するためには、人工知能などの技術が必要になると考えていると、ティアゴは述べる。

AIがSDGsに与えるプラスの影響

その流れで、AIがSDGsにプラスの影響を与えるというデータを論文のデータを紹介した。国際的な学術研究誌であるnature誌で、SDGs目標に対する人工知能のさまざまな影響を調べたところ、図のように、AIがほとんどのSDGs目標に、非常に強いプラスの影響を与えることがわかったという。

もちろんAIによる負の影響の可能性もあるが、それは正の影響に勝るというのが論文のデータだ。つまり、AIの導入に注意を払えば、負の影響を緩和し、SDGsの達成に向けてポジティブな貢献をすることができるということである。

AIが社会に貢献できる4つのトピック

Recursiveは、AIを利用してSDGsや社会に貢献できる4つの主なトピックがあるという結論に達したという。それは以下の4つだ。

トピック1「イノベーションの加速」

AIモデルを使って新しい分子を提案し、病気の新薬候補としてテストしたり、ターゲットとなる可能性のある患者をより迅速に特定して臨床試験を加速することが可能。トピック2「生産性の向上」

ロボットを使って害虫を自動的に駆除し、環境中の農薬の必要性を減らし、農作物の栽培における汚染を軽減することが可能。トピック3「より良い教育と仕事を可能にすること」

工場の組み立てラインを最適化し、同じ製品をより少ない時間や人手、原材料で生産できるようにすることが可能。トピック4「気候変動が大きな問題になるにつれ、頻繁に起こる可能性がある自然災害の予防と緩和」

災害が発生した際、衛星画像とビジョンアルゴリズムを使用して、被害状況を評価し、必要なリソースを振り向けて、必要な対応を行うことが可能。

このように、さまざまな観点でAIがSDGs達成に貢献できることを説明し、締め括った。

>> 詳細が書かれたホワイトペーパーはこちら

「実社会にデータが存在しない産業」に変革を|ウミトロン 斎藤悠貴さん

水産養殖にデータサイエンスを取り込みたい

「install Sustainable Aquaculture on Earth」というビジョンを掲げ、持続可能な水産養殖の実装に取り組むウミトロン株式会社でDirector / COO of Japanを務める斎藤悠貴さんは、まず水産養殖を取り巻く状況について解説した。

天然魚の漁獲量が減少しているのに対し、水産養殖による漁獲量は年々増加している。齋藤さんは、この状況の背景として、アジアを中心とした人口や中間所得者層の増加による動物性タンパク質の需要拡大を挙げた。

ウミトロンは、30数名の社員のうち3分の2をエンジニアが占めるテック企業。全くの異業種から水産養殖に挑戦するメンバーがほとんどという中、生産性でアメリカに約40倍の差をつけられている日本の農林水産業界にデータ分析の仕組みを取り込もうとしている。

齋藤さんは、WebサイトやSNSなどの「ネットで完結する産業」、広告や不動産などの「実社会にデータがある産業」と比べ、農林水産の分野は実社会にデータ自体が存在していないことを指摘。テクノロジーでサステナビリティを実現するために、水産養殖のあらゆるデータを取得できる環境を整備する必要性を訴えた。

水産養殖の課題とその解決方法とは

齋藤さんは、水産養殖が抱える課題を3つに分けて紹介した。

  1. 飼料や種苗、減価償却などにかかる「コスト」
  2. 赤潮をはじめとした海洋環境の変化という「リスク」
  3. 市場価格の変動などに大きく左右される「売上」

ウミトロンは、上記の課題を解決するためにさまざまなプロダクトやアルゴリズムを開発し、提供している。

この日に紹介されたのは、AIで魚への餌やりを管理する餌やり装置「UMITRON CELL(ウミトロンセル)」。内臓されているカメラでリアルタイムのモニタリングができるほか、遠隔で操作できるので、常に魚の近くにいなくても餌を与えることが可能だそうだ。

ここで蓄積された動画データは、魚の食欲(FAI)を判定したり、魚の大きさを自動で測定するアルゴリズムの開発に活用されている。餌やりのタイミングや量を最適化することにより、海洋環境の汚染を防ぎつつ、魚の効率的な生育を実現できる

変温動物である魚は、水温が0.5℃変わるだけでも餌をまったく食べなくなったりすることもあるという。ウミトロンは海の環境変化にすぐに対応できる体制を整えるべく、海水温の変化、酸素やプランクトンの量を可視化できる仕組みも自社で開発している。

「うみとさち」で持続可能な水産養殖について考える

ウミトロンは、水産に関わるサプライチェーン全体で持続可能な水産業の実現を目指すシーフードアクション「うみとさち」にも参加している。

齋藤さんは、「魚を売るだけじゃなくて、どんなふうに育ったかという体験を伝えたり、料理でしっかりとこの魚を消費していただくために、現場で見てきたことをしっかりと消費者の方々に伝えたい」と語った。

これからは「育てた魚がどんなふうに消費されるか」といった、これまで誰も扱ってこなかったデータを蓄積し、より良い養殖魚の届け方を考えていくという。

2種類のモニタリングAIでSDGs達成の一歩目を踏み出す|Ridge-i 牛久祥孝さん

持続可能な開発を実現するためのファーストステップ

Ridge-i Chief Research Officerの牛久祥孝さんは、「SDGsを達成するためのRidge-iのモニタリングAI」と題し、テクノロジーでSDGsを達成するために必要な考え方を解説した。

同社は、AI・システムの専門知識と、ビジネスの深い知見を有するプロフェッショナルで構成された組織として、顧客に最適なソリューションを提供している。

牛久さんは、今回のイベントのテーマに触れつつ、SDGsとAIの親和性の高さに言及

その理由として、「ソリューションやプロダクトサービスを持続可能にするファーストステップとして、状況を人の目ではなくAIによってモニタリングをすることが非常に重要」と語った。

Ridge-iが提供する2種類のAI

Ridge-iの環境モニタリングAIは、衛星画像を用いた土砂崩れの検出やSAR・光学データによる圃場の作付種別分類などに活用されている。牛久さんは、環境モニタリングAIの一例として、全球変化検出サービス「GRASP EARTHを紹介した。

このサービスは、「GRASP EARTH SAR」と「GRASP EARTH COLOR」の2種類で展開されている。

  1. 「GRASP EARTH SAR」
    →金属に反応しやすい波長帯の電磁波を用い、「建物が建設された・撤去された」といった土地の利用状況を時系列順に記録する。
  2. 「GRASP EARTH COLOR」
    →検出した土地の利用状況の変化を可視光によって可視化する。

社会活動モニタリングAIは、衛星画像や航空写真を用いた駐車場スペース検知や駐車台数、輸出台数の計測などに活用されている。牛久さんは、炎のように状態が常に変化し、「正解の形がない」ものが対象でも、AIによる監視が可能だという。

Ridge-iが提供する「DeepFire」は、AIが24時間で燃焼状態を自動監視する異常検知システム。燃焼状態の異常度の定量化・分類により、異常への早期対処や原因分析を可能にしている。ごみ焼却施設などで不完全燃焼といった異常事態を防ぐために利用されている。

モニタリングAIの作り方とは

経済産業省による調査結果によると、AI開発プロジェクトのうち、プロダクトとして実際に成立するのは全体の3%程度。商品化に向けた壁を突破するキーポイントは「相談相手をいかに選ぶか」だという。

牛久さんは、「システムを構築する技術力や魅力的なプレゼンをする提案力など、強みがどれかに偏った状態だと、どこかのフェーズでプロジェクトが停滞してしまう。これが97%のプロジェクトが成功しない大きな原因」と語った。

また、プロジェクトの成功事例として、荏原環境プラント株式会社とゴミ焼却炉の運転手の目の代わりとなるAIを使った自動クレーンシステムを共同開発した経験を紹介した。

焼却炉への投入に適したゴミを選ぶ作業や、燃焼や機器に悪影響を与えるゴミを識別する作業など、これまで365日24時間、人の目によって行われてきた業務をディープラーニングによって自動化。50mプールくらいの大きさのピットの中にある多くのゴミの中から、たった1つの破れていないゴミ袋を見分けることができるという。

牛久さんは、SDGsを達成するためのモニタリングAIは「本質的な持続性の課題を踏まえた問題の定義」と「画像などのセンシングデータによるパターン認識」によって作られるべきだと締めくくった。

パネルディスカッション「先端テクノロジーとSDGs」

<モデレーター>

  • 小澤健祐(SDGs CONNECT 編集長)

<パネリスト>

  • 山田勝俊さん(Recursive Co-founder and COO)
  • 斎藤悠貴さん(ウミトロン Director / COO of Japan)
  • 牛久祥孝さん(Ridge-i Chief Research Officer)

イベント後半では、「先端テクノロジーとSDGs」をメインテーマとしたパネルディスカッションが行われた。AIをはじめとしたテクノロジーを用いてSDGsの解決に取り組む企業が抱える課題感や、今後の展望についてチェックしてみてほしい。

テーマ1:SDGs達成のためのテクノロジー活用。越えるべきハードルは?

ー小澤「SDGsの事業を推進する上で、どんな壁にぶつかりましたか?」

ー山田「私たちの場合は、取引先の大企業様とのやり取りですかね。ありがたいことに、弊社のテクノロジーやビジネスアイデアに関心を持っていただく機会は多いのですが、やはりSDGs部門を設置したばかりの企業様ですと予算をあまり割けない場合があります。それでも、先端技術がビジネスにもたらす成果を正確にお伝えし、プロジェクトの実現可能性をご理解いただけるようにしています。」

ー齋藤「地方で水産養殖業に携わっていらっしゃる方には、そういったデータを活用するといったことに不慣れな方が多いかもしれませんね。とはいえ、日本で60年ぐらいの歴史がある養殖業では、20代の社長さんも出てきていますし、私たちのサービスが刺さる方も数多くいらっしゃると思います。企業様との交渉では、モックアップをお見せすることによって、現場レベルでニーズを把握していきます。」

ー牛久「やはり、モックアップをご覧いただき、実際の使用方法を想定していただくことは効果的です。AIの開発は、私たちが「買ってもらえたら良い」で進めていたら上手くいきませんし、お客様側も「よく知らないけど、AIって何でもできるんだろう」という状態でも成功しません。お互いがお互いに詳しくなることが1番大事なんです。」

ー小澤「サステナビリティの領域だと、どうもビジネスに繋げるという観点を忘れてしまいがちかなと思っています。どのように考えてSDGsの事業化を大企業とやっているのかを伺ってもよろしいでしょうか。」

ー山田「SDGsを取り入れた事業の未来がどうなるのかを考えると、はっきり言ってチャンスしかないと思っています。それに懐疑的な方は一定数いらっしゃるのですが、消費者の意識の変化をはじめ、ビジネスチャンスを裏付けるデータはたくさん出てきているんです。私たちは、ROIといった指標を示しながら、AIだけでなくブロックチェーンなども含めた施策を総合的に提案するようにしています。」

ー小澤「齋藤さんにお聞きしたいのですが、養殖業においてコストがとても下がることにはどんなメリットがあるのでしょうか?」

ー齋藤「養殖業では、餌代が支出の6~7割ぐらいを占めています。一方で、餌のやり方は生産者さんによって全然違ったりしていて、再現性のない手法がとられていることが一般的です。そうすると、餌やりの自動化・最適化によって、餌代が1~2割削減できたり、もともと2年間かかっていた生育期間が半年ぐらい短くなったりと、大きなインパクトが期待できます。利益率ベースで20~30%ぐらい変わるような世界なんです。」

テーマ2:持続性の観点で、テクノロジーと相性がいい業種・分野は?

ー小澤「牛久さんは色々な分野でAIのプロジェクトを推進されていると思います。持続性の観点で相性が良い分野にはどんなものがあるのでしょうか?」

ー牛久「AIを用いたモニタリングの分野でいうと、衛星画像や航空画像をビジネスに活用しようという流れが、産業の種類を横断して出てきているところです。アプリケーションの開発というところで言えば、もちろんウミトロンさんがやっているように海洋も分析の対象になりますし、あとは林業なんかも相性が良いと思います。」

ー齋藤「Ridge-iさんがやっているテーマは、テクノロジーを導入するという観点ですごく相性が良いと思います。というのも、働いている人を減らす意思決定って、企業さんによっては二の次三の次になりやすいからです。そういった意味では、よりマストハブな領域にこういったサービスプレイヤーは入っていかなければいけません。レガシー産業のような、働く人がいなくなったというぐらい火が付いた状況におかれている業界の方が、事業経済性という観点ではずっと伸びていけるかなと思っています。」

ー参加者からの質問「現在、または将来の課題のうち、個人的に一番力を入れて取り組んでいきたい!というような課題があれば、ぜひ熱いお話をいただきたいです。」

ー齋藤「日本だからこそグローバルで課題を解決できる産業を創りたいです。日本は課題先進国として数多くの社会課題を抱えていますが、だからといって失望するのはなくて、燃えるような、ワクワクできる議題設定ができると思っています。まずは日本で課題を解決して、そこからグローバルに展開していきたいです。」

ー牛久「人間が創造性を発揮するのに集中できる環境を創りたいですね。細々とした単純作業はAIやロボットが勝手にやってくれる時代がやって来ると思っています。我々のような情報系の研究をしている人が自由闊達にやりたいことに取り組んでスピンアウトしていき、そこから次の研究につながるきっかけを見つけられるサイクルをどうしたら創れるのかというところが今1番興味を抱いていることですね。」

ー山田「特に貧困層のための教育環境を整備していきたいです。私自身にとって、貧困は16歳から1番情熱を注いできた領域なんです。ここは研究開発というよりは、具体的なサービスという形で世界中に届けられるようにしたいと思っています。ただ一方で、人類が地球で暮らしていく以上、気候変動というテーマはどうしても無視できません。公平で持続可能な社会を創るために、気候変動対策にはやはり力を入れていく必要があります。」

まとめ

第1回SDGs TECH CONNECTは「SDGsに具体策を」のテーマのもと、主にAI領域で最先端テクノロジーをリードされている方々を招いて開催された。

AIによる「自動化」と「最適化」は、今ではすべての業種業態に適用できる可能性があるほか、SDGsの達成にも貢献できる可能性も秘めている。

また、エシカル消費やESG投資が盛り上がりを見せる中、企業にとってSDGsへの取り組みは大きなビジネスチャンスにもなり得る。

「持続可能な開発目標」である以上、SDGsの達成には企業の取り組みが必要不可欠。テクノロジーにできることを何となくイメージするのではなく、実現可能性や利用方法について具体的な検討を進める必要があるのではないだろうか。

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