【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
SDGs未来都市。聞いたことはあるけれど実際にどのような取り組みをしているのか、どのような街なのか、知らない人は少なくないだろう。
この特集では、「SDGsで変わる街、変わらない想い」をテーマにSDGs未来都市に選定された自治体にインタビューを実施し、街の魅力やSDGsの取り組みについて伺う。
今回は、神奈川県相模原市政策課SDGs推進室の榎本さんに未来都市の取り組みについて伺った。
「自然」と「都市」の調和で発展する相模原市
ーー相模原市の概要について教えてください。
相模原市は、首都圏南西部、神奈川県北部に位置し、1954年に市制を施行して以来、内陸工業都市、住宅都市として発展し続け、2006年から2007年には近隣4町と合併し、2010年には戦後生まれの市として初めて政令指定都市に移行した人口72万人の都市です。
市内にはJR東日本、京王電鉄、小田急電鉄合わせて6つの鉄道路線が通り、近年は、圏央道相模原ICと相模原愛川ICの相次ぐ開業など、交通アクセスの良さを背景に、大きく発展を続けています。
ーー相模原市の魅力について教えてください。
リニア中央新幹線の駅が設置される橋本駅や、在日米陸軍相模総合補給廠の一部返還地を生かしたまちづくりが検討されている相模原駅を中心に、ますますの発展が見込まれています。
また、市の西部には、丹沢大山国定公園や陣馬相模湖自然公園に指定されている雄大な森林地帯のほか、豊かな水をたたえる宮ヶ瀬湖や津久井湖、相模湖が広がり、キャンプや釣り、ハイキングの適地としても多くの人たちに親しまれています。
ーー今までに、相模原市の中でどのような課題がありましたか?
令和元年東日本台風において大規模な土砂崩れが多発し、尊い人命が失われるなど甚大な被害が発生しました。これは、気候変動による集中豪雨の多発、台風の大型化に加え、相模原市の森林が適正な間伐などによる管理が十分に行われておらず、森林の持つ土砂災害防止機能が低下していることにも起因していると考えられており、気候変動対策や森林保全は喫緊の課題です。
また、相模原市は市域の約6割を森林が占めていますが、このことを知っている市民は3割弱にとどまっており、都市部と中山間地域の交流を促進するなど、都市と自然の一層の調和を図ることが求められています。
2016年7月には、緑区に所在する神奈川県立津久井やまゆり園において、障がいのある人への一方的かつ身勝手な偏見による大変痛ましい事件が発生しており、障がいの有無にかかわらず、誰もがともに支えあう共生社会の実現に向けて、一層の取り組みを推進する必要があります。
市民一人ひとりが幸せを感じ、笑顔で暮らすことができるまちを実現したい
ーーSDGs未来都市では、どのような街に変わっていくのでしょうか?
自然環境と都市環境を併せ持つ相模原市の特徴を生かしながら、多様な主体との連携・協働により、森林の保全、低炭素社会の実現、循環型社会の形成に取り組み、人と自然が共生するやすらぎと潤いのある街、また、年齢や性別、国籍、障がいの有無などにかかわらず、誰もが共に支え合いながら心豊かに笑顔で暮らせる街の実現を目指しています。
ーーそのためにどのような取り組みをしていますか?
市の取り組みだけではなく、市民、企業、団体等がそれぞれSDGsの理念や目標を理解することが必要なので、積極的な普及啓発活動に加え、気候変動問題への取り組みや障がいへの理解促進に関する取り組みなど、さまざまな取り組みを行っています。
代表的な5つの取り組みについて紹介します。
1つ目は、SDGs特設サイト「SDGs one by one」の開設です。キャラクターを用いてSDGsの17のゴールを分かりやすく解説するとともに、市の取り組みや市内企業・団体の取り組みについて情報発信をしており、PV数は月間30万を超え、多くの人に親しまれるサイトとなっています。
2つ目は、オリジナルSDGsカードゲームの活用です。SDGsの理念やパートナーシップの大切さを楽しみながら学ぶことのできるオリジナルSDGsカードゲームを制作し、小・中学校を中心に活用を進めています。
3つ目は、気候非常事態宣言の表明です。令和元年東日本台風による甚大な被害を受けて、令和2年9月に政令指定都市では初めて宣言を表明しました。これは気候変動の与える影響に対する危機感を共有し、日常の災害への備えや、温暖化の原因となる二酸化炭素の排出抑制に全市一丸となって取り組むことを目的としており、この宣言を契機として気候変動についての理解を深めるイベントやワークショップの開催や、2050年の二酸化炭素実質排出ゼロに向けたロードマップを作成し、カーボンニュートラルに向けた取り組みを進めています。
4つ目は、「森のイノベーションラボFUJINO(愛称︓森ラボ)」の運営です。中山間地域の藤野地区に、新しい働き方であるテレワークの拠点の森ラボをオープンし、実証運営を開始しています。SDGsと親和性の高いさまざまな活動が行われている藤野地区で、都市部の人々が自然を感じながら働くことのできる場を提供するとともに、「SDGs with ART」をコンセプトとし、個性豊かな地域とつながるハブとなり、イノベーションを生み出すことを目指しています。
5つ目は、「共にささえあい生きる社会」づくりの推進です。障がいの有無にかかわらず、あらゆる人の尊厳が守られ、安全で安心して暮らせる社会の実現に向け、研修会・イベント、パラスポーツ体験、障がいへの理解を進める情報発信サイト「さーくる」の運営など、さまざまな機会や媒体を通じて障がいなどに関する市民の理解促進に努めています。
ーーSDGsの取り組みにかける想いを教えてください。
将来にわたって、市民一人ひとりが幸せを感じながら笑顔で暮らすことができるまちを実現することが行政の責務であると考えています。
SDGs未来都市として、経済・社会・環境の広範な課題に対して統合的に取り組むことで、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」持続可能な社会が実現するという想いで取り組みを進めています。
ーーSDGs未来都市の取り組みの具体的な成果について教えてください。
特に若い世代への普及が進んでおり、中高生を対象としたアンケート調査で「SDGsについてどのように考えますか?」という問いに対し、「とても大切なものであり積極的に取り組みたい」・「興味があるのでもっと詳しく知りたい」という回答が全体の8割を超える結果となりました。
ーーこれからのSDGs推進の戦略、展望について教えてください。
SDGs未来都市の取り組みを活発化するためには、市民、企業、団体など多くのステークホルダーを巻き込んでいくことが不可欠です。
相模原市では企業・団体などのSDGsに関する取り組みを促すとともに、市との連携、また相互連携を深めるため、「さがみはらSDGsパートナー制度」を立ち上げました。今後は、パートナー間の連携により、社会、地域課題の解決に取り組むためのスキームの構築を進めています。
また、SDGsの普及啓発を更に進めることにより、一人ひとりの行動変容につなげ、相模原市に住む誰もが、世代や立場を超えて2030年に向かってともに取り組んでいくことを目指しています。
さいごに
自然と都市の調和で、発展を遂げてきた相模原市。
インタビューからは、災害や事件により人命が失われることのないよう、市民一人ひとりが笑顔で暮らせるまちをつくりたいという、「誰一人取り残さない」市政が現れていると感じた。
熱い想いをもちながらSDGsに取り組む、相模原市の今後の動きに注目だ。