【更新日:2022年4月14日 by 三浦莉奈】
SDGs未来都市。聞いたことはあるけれど実際にどのような取り組みをしているのか、どのような街なのか、知らない人も多いだろう。
この特集では、「SDGsで変わる街、変わらない想い」をテーマにSDGs未来都市に選定された自治体にインタビューを実施し、街の魅力やSDGsの取り組みについて幅広く紹介する。
今回は、三重県いなべ市企画部政策課の堀田さんに未来都市の取り組みについて伺った。
豊かな自然×住みやすさでもっと豊かな都市へ
ーーいなべ市の概要について教えてください。
堀田:いなべ市は三重県最北端に位置しています。人口は45,169人(令和3年8月)で、西に鈴鹿山脈、中央には員弁川を挟んで田園地帯が広がり、緑豊かで住みやすい街です。自然環境を活かし、青川峡キャンピングパーク、農業公園、宇賀渓キャンプ場などアウトドア施設が充実しています。また、自動車関連産業を中心に東海地方の製造業の拠点でもあります。令和8年度には、東海環状自動車道全線開通を予定しており、ますます生活、産業、観光の発展が期待されています。
ーー今後の発展が期待されているいなべ市ですが、担当者視点で感じる魅力はありますか?
堀田:お茶、そば、豚肉などがいなべ市の特産品です。特に、黒い遮光幕で茶畑を覆い育てる「かぶせ茶」は濃厚なうま味を持ち、全国各地に愛好者がいる銘品です。山や川など自然が身近にありながらも、名古屋市など都市部へのアクセスが良いことから、近年若い世代の移住者が増えています。中には、農・食・アートの第一線で活躍する方もいて、地域資源と都会的な感性の出会いが、いなべ市に新たな魅力を生み出しています。
ーー今までに、いなべ市ではどのような課題がありましたか?
堀田:いなべ市ではもともと、市民・市民団体・事業者・学校・行政など各々がSDGsの達成に貢献する取り組みや事業を行っていました。具体的には、地元雇用で地産品を活用したベーカリーレストランや都市部から移住し地域課題を解決する多くの地域おこし協力隊、高齢者の管理による農業振興や循環型社会を実現する公園づくりなどです。
しかし、このような素晴らしい取り組みをしているのに、多くの団体がSDGsへの取り組みに関連していると気づいていないことが課題でした。SDGsの存在を知らない人も多く、連携して事業を行う機会も少ないという現状もあります。
「カジュアル」にサステナビリティに向き合う。
ーーSDGs未来都市では、どのような街に変わっていくのでしょうか?
堀田:いなべ市ではSDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業のふたつにおいて「グリーンクリエイティブいなべ ~グリーンインフラ商業施設「にぎわいの森」から、カジュアルなSDGs推進を世界へ~」をテーマに掲げています。このテーマを軸に年齢や性別、職業などに関わらず、あらゆる市民がSDGsを意識し、主体的に関われるよう変化していきたいと考えています。
具体的には、令和元年いなべ市新庁舎移転と同時に誕生した、自然を活かした商業施設「にぎわいの森」を先行事例に、自然の豊かさや地場産業を守りながら新たな人の流れを生み、住み続けられる魅力的なまちづくりを目指しています。
わたしたちは、「カジュアル」というキーワードを掲げており、誰もが気軽にサステナビリティに取り組む姿勢、日常生活からのSDGsの発見、実践できる気軽さを大切にしています。この気軽さが、SDGsへの意識付けや市民同士の連携創出のきっかけとなり、さまざまな課題の解決につながると考えています。
ーーそのためにどのような取り組みをしていますか?
堀田:SDGsへの取り組みとして大きく分けて4つの取り組みを実践しています。それぞれ詳しく紹介していきます。
①SDGs学習カードゲーム「Get The Point」
令和3年度からSDGs学習カードゲーム「Get The Point」を市内小中学校の授業で行っています。「Get The Point」を導入した理由としては、SDGsの意識付けのためにはいなべ市の未来を担う子どもたちへの教育が必要だと考えているためです。対象年齢は小学校3年生以上としており、児童・生徒がゲーム感覚でSDGsの基本的な考え方を身に着けながら、それぞれの生活に落とし込むことを目的としています。授業を受けた生徒からは「一度使ってしまうと戻らない資源がある」「みんなで協力したほうがいい結果になる」など、環境やパートナーシップに関して納得感を持った感想が出ました。言葉で説明すると難解なことも、ゲームを通して考えると楽しく学べるので今後も継続していきます。②いなべSDGs 4Tプロジェクト
令和3年度から、子どもたちへの教育として「Get The Point」とは別に「いなべSDGs 4Tプロジェクト」を実施しています。これは、ロジカルなSDGs教育ではない「日常の生活・体験から気付くSDGs」をテーマに、企業と行政がパートナシップを結び、年齢層ごとに4段階のテーマで分けられたカジュアルな体験型ワークショップを展開するものです。4段階のテーマとは、Touch・To make・Think・Tellの4つです。それぞれのテーマは幼児・小学生・中学生・高校生に対応しています。幼児は「触れる」。生き物に触れたときに楽しさ、驚き、喜びを体感します。
小学生は「作る」。ものを作る楽しみ、驚き、モノの作り手への尊敬や感謝の気持ちを芽生えさせます。中学生は「考える」。自ら考え、仲間と助け合い、共感から得る喜びを学びます。高校生は「伝える」。人に伝えることで感謝される喜び、自ら理解を深め社会的知見を向上させることを目指します。今年度は小学生向けのプロジェクトを主に推進し、地元企業と協働して企業の技術を活かした体験プログラムを開催しています。燃料電池自動車の高圧水素タンク生産企業の協力で燃料電池教室、自動車部品試作メーカーの協力で間伐材や端材でのものづくり体験を行いました。これらを一時的な体験に留めず、長期的な教養課程で「4つのT」を切れ目なく展開し、市民と企業が一体となってSDGsの推進を目指しています。
③モバイルヒュッテプロジェクト
令和2年度からSDGs未来都市自治体モデル事業のひとつとして、軽トラックの荷台に屋台ユニットを乗せた「Mobile HÜTTE」を開発し、実証実験で運用中です。これはダイハツ工業といなべ市、一般社団法人グリーンクリエイティブいなべが連携して行っているものです。屋台ユニットは合計5台あり物販、飲食提供、ワークショップなどに使用できます。積み下ろし可能であるため、軽トラックさえあれば誰でも場所を選ばず出店できます。外装は明るい茶色で、親しみやすいカジュアルさとかわいらしさがあり、次世代のSDGsプロモーション用ショーケースとして注目を集めています。現在はイベントや市内企業での野菜やスイーツ、飲料の販売、子ども向けの自然体験ワークショップなどで活用しています。来年度に向け、販路開拓中の事業者、若手事業者中心にさらなる活躍を生む場として実用化を目指しています。
④まちづくり情報誌「inabe NOWTO」
先代がまちでつくりあげてきたもの・とき・ことを見つめ、未来を考えるきっかけを生む情報誌「inabe NOWTO」を、令和2年度に創刊しました。創刊号のテーマはSDGs。第2号以降も、地域の商店、公共交通、家庭料理など、多角的にまちとくらしをとらえながら、次世代へまちを受け継いでいくコンテンツを提供しています。この媒体では地域の課題、解決に向けて取り組む人や企業・団体などを深く掘り下げると同時に、情報誌の制作に関わる人材募集・育成も行っています。従来の行政情報誌では実現が困難な、いわば市民主役の情報誌です。いなべSDGsの入り口として、今後も定期的に発行をします。
※第2号から、まちづくり法人「一般社団法人グリーンクリエイティブいなべ」が発行主体となり、一部を市の事業として制作しています。
ーーSDGsの取り組みにかける想いを教えてください。
堀田:まちが抱える課題を解決し、持続可能なまちづくりに取り組むためにSDGsの視点は欠かせません。また、SDGsは地方創生にも関連するため、未来都市として、積極的に推進を行い続けます。行政だけでなく地域や企業と連携しながら「さりげない支えあいのまちづくり」に取り組みます。
ーーSDGs未来都市の取り組みの具体的な成果について教えてください。
堀田:SDGsは難しいことではなく、私たち一人ひとりの生活ですでに関わっているものです。
子どもなら「給食を残さないよう盛り付ける」「近所の人にも挨拶をする」、大人なら「近場の買い物は車ではなく徒歩で行く」「家事を分担する」など、身近で簡単なことも該当します。私たちのいまの行動一つひとつが、SDGsに関係すると気付くことが重要だと思います。
また、新たな行動を起こすときは小さく始め、積み重ねていく。同じ目的を持つ誰かとつながることで、大きな一歩にする。このように無理なく継続できるしくみが必要です。
SDGsはすぐに分かりやすい効果が生まれるものではありません。いなべSDGsの芽は、少しずつ皆さんと一緒に育てていきたいと考えています。
ーーSDGs未来都市の取り組みの成果を具体的に教えて下さい。
堀田:イベント要素を持たせた事業には、親子での積極的な参加がありました。コロナ禍で事前応募抽選形式となったものでも、直前の告知にもかかわらず、200名近い申し込みがありました。抽選に外れた方にもSDGsという言葉を知っていただくきっかけになりましたし、参加者からは「SDGs」「〇番の」という会話がイベント終了後に聞かれ、家族の間で自然と知識が身についていたと思われます。
また、連携している企業は、これまで以上にまちに対し目を向けていただくようになったと感じています。たとえば、4Tプロジェクトでパートナーとなった企業では、その後企業内でのいなべ産品の販売会を行ったり、いなべの地域性に特化した新商品の開発に着手しはじめたりするなど、新しい動きも始まっています。
いなべ市独自の政策で未来都市としての責任を果たす。
ーーこれからのSDGs推進の戦略、展望について教えてください。
堀田:現在の取り組みを推進しSDGsをSDGsだけ(2030年)で終わらさず、その後も持続していけるよう次世代を担う子どもたち向けの取り組みを進めていきます。
日常生活でできるSDGsを根付かせることで、SDGsへの取り組みを拡充させていきます。
さいごに
今回の記事で深くSDGs未来都市に触れ、さまざまな地域でSDGsを推進していくためにはもっとカジュアルに捉えることが必要なのかもしれないと気付かされた。
4つのプロジェクトを進めるいなべ市に今後も注目していきたい。