【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
SDGs未来都市。聞いたことはあるけれど実際にどのような取り組みをしているのか、どのような街なのか、知らない人も多いだろう。
この特集では、「SDGsで変わる街、変わらない想い」をテーマにSDGs未来都市に選定された自治体にインタビューを実施し、街の魅力やSDGsの取り組みについて紹介する。
今回は、豊中市都市経営部経営計画課の松田さんに未来都市の取り組みについて伺った。
住宅都市として発展してきた豊中市
ーー豊中市の概要について教えてください。
豊中市は大阪府の中央部の北側、神崎川を隔て大阪市の北に位置し、東は吹田市、西は尼崎市、伊丹市、北は池田市、箕面市に接しています。人口約40万人(令和3年7月1日現在)の中核市です。
高い交通利便性と起伏に富んだ丘陵地帯をもち、早くから絶好の住宅地として選ばれ、文教都市の名声が高まるにつれ、人口は急激に増えました。人口急増にあわせて、住宅の建設や学校・道路・上下水道などの都市施設の整備が行われ、「千里ニュータウン」の開発、千里丘陵での「日本万国博覧会」の開催による鉄道・交通網の整備に伴い市街化が進行し、住宅都市として発展してきました。
ーー豊中市の魅力について教えてください。
これまでのあゆみのなかで培われてきた豊中市の特性は次のとおりです。
①教育・文化に対する市民の高い関心
豊中市にある大阪大学、大阪音楽大学、日本センチュリー交響楽団との連携協力や、市民や市民活動団体との協働による創造性の高い事業を開催するなど、「音楽あふれるまち豊中」を進めています。これらの活動が認められ、平成27年度には文化庁長官表彰「文化芸術創造都市部門」に大阪府内で初めて選定されました。②良好な住環境
豊中市は「住みやすい」との都市イメージが継続的に形成されており、「治安が良い・安心安全」「文化・教育に力を入れている」「公園も多く、緑豊か」といった回答が市民アンケート調査でも上位に入っています。③優れた交通利便性
さまざまな鉄道やバスなどの公共交通機関に加え、複数の高速道路や国道などの道路網が市内縦横に走ります。さらには大阪国際空港から全国各地へつながることができます。
ーー今までに、豊中市の中でどのような課題がありましたか?
大きく3つの課題がありました。
①人口減少・少子高齢化の進行
豊中市の人口は、昭和62年をピークに減少傾向にありましたが、平成17年を起点に増加傾向へと転じました。今後は、令和7年をピークに緩やかに人口が減少に転じることが想定されます。また、現在の人口は、約40万人で推移していますが、老年人口は年々増加し、この20年間で2倍以上と少子高齢化が急速に進展しています。②施設の老朽化
高度経済成長期に大量かつ集中的に整備された住宅や商業施設、道路・上下水道などの公共施設が、今後一斉に更新時期を迎えます。これに伴い、民間建築物と市有施設ともに老朽化施設の対策経費の増大や重大な事故などのリスクも高まることが予想されています。人口減少・少子高齢化を迎えるなか、今後どのように施設を維持管理していくかが大きな課題です。③地域におけるつながりの希薄化
住民の意識や生活様式の多様化、地域への関心や帰属意識の低下、これまでの地域活動への参加を志向しない人の増加などに伴い、地域における人のつながりが希薄になり、地域コミュニティを支える活動の担い手が不足しています。
全員参加型のSDGsコミュニティの実現に向けて
ーーSDGs未来都市では、どのような街に変わっていくのでしょうか?
豊中市が抱えるさまざまな課題を乗り越え、豊中市の強みである教育・文化に対する市民の高い関心や、良好な住環境、優れた交通利便性、活発・多様な市民活動といった特性を更に発展させ、まち全体で子どもたちを育み、その子どもたちが愛着と誇りをもってまちを創っていくことが、“みらいのとよなか”の礎になります。
そのために、行政をはじめ、市民や地域の各種団体、事業者である企業やNPO、大学などの多様な主体による協働のもと、お互いを認めあい、創意工夫し、新たな課題や長期的視点に立った改革に果敢に取り組む創造性あふれるまちづくりを進めていきたいです。
まちの変化やみんなの幸せを日々の暮らしのなかで感じとりながら、誰もが“明日がもっと楽しみ”と思える、誰一人取り残さない持続可能なまちを目指しています。
ーーそのためにどのような取り組みをしていますか?
大きく5つの取り組みをしています。
① 安心して産み育てられるまち
子育てしやすい環境の整備のために、待機児童ゼロを維持するとともに、多様な子育てニーズに応えるため、保育定員の確保や保育人材の確保を進めています。また、ひとり親家庭の仕事と家庭の両立の支援として、ファミリー・サポート・センター利用料の補助など、ひとり親家庭等日常生活支援事業等を実施しており、これらの子育てに関する情報を子育ち・子育て応援ポータルサイト「とよふぁみ」で一元化して発信しています。子どもの居場所づくりとして、学校や地域団体、NPO等の法人と連携しながら、全小学校区で地域の実情に応じて子どもが一人でも安心して来ることができる無料または低額の「子ども食堂」や、見守り員を配置し、放課後の校庭を開放するなどの取り組みも実施しています。
さらに、子育て家庭が安心して外出できるよう、まち全体で子育て家庭を応援する「赤ちゃんの駅」の数や「子育て応援団」の登録者数を増やしています。また教育・保育施設やコミュニティソーシャルワーカー、地域住民が集う「地域子育ち・子育て支援ネットワーク校区連絡会」の連携を深め、地域での「顔の見える」関係の構築に取り組んでいます。
② 子どもが育ち・学び、社会で活躍するまち
一人ひとりへのきめ細やかな指導が出来るよう、小学校35人学級編制の実施を進めており、令和3年度時点で小学校1年生〜4年生で実施しています。また、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が「ともに学び、ともに育つ」インクルーシブ教育を推進するとともに、外国にルーツをもつ児童生徒に対する適切な支援や互いの文化を尊重し学びあう教育を進めています。将来に向けた学びの場としては、公立小・中学校において、社会的・職業的自立に向けた基盤となる能力を育むため、ボランティア体験や職業体験を実施しています。また「明日の親のための講座」など命の大切さや親になることの責任について考える取り組みや、「ライフデザイン支援事業」などの結婚から育児までの切れめない支援事業を行い、次世代の親育成に向けた取り組みを推進しています。
③ 地域でつながり支えあうまち
少子高齢化という課題に対して、これまでの対象者別という概念にとらわれず、誰もが住み慣れた自宅や地域で自分らしく暮らせるように支援する地域包括ケアシステム・豊中モデルを推進しています。具体的には、多世代が集う交流の場として令和5年に開設予定の(仮称)南部コラボセンターの整備を進めていますが、開設前から地域の小中学生が教員をめざす大学生と学習に取り組む「学力向上支援事業(日曜学習)」や「夏休み学習サポート」及び子育て世帯を対象とした「ベビーマッサージ教室」や「キッズランドしょうない」などのプレ事業を実施しています。
④多様な働き方の支援
就労の意欲はあるがさまざまな要因により就職が実現しない求職者向けに、個々の状況に応じた就労支援プログラムの実施や、地域の企業(業界)に協力頂き、職業体験・訓練が実施できる事業を展開しています。これによって、就職できる機会の提供をするとともに、人手不足等の課題を抱える地域の企業や産業の活性化につなげることができています。⑤ 環境にやさしいまち
省エネ・創エネ化住宅の促進のため、市民の方向けに、「豊中市ZEH普及促進補助金」や「省エネ改修された住宅の固定資産税の減額」などを実施しています。環境に配慮した取組みを行っている「豊中エコショップ」認定店舗において「食品ロスの削減」や「プラスチックごみの削減」等に関するエコ活動をステッカーで表示し利用者にわかりやすく伝えています。
また、環境について楽しみながら学ぶ「とよなか市民環境展」を毎年開催しているほか、市の環境交流センターでは体験を通して親子で環境について学ぶことができるイベントを開催しています。
ーーSDGsの取り組みにかける想いを教えてください。
行政だけでSDGsの目標を達成することは困難であり、市民の方々や事業者、団体、教育機関など、さまざまな機関が連携して取り組むことが重要だと考えています。
そのために、これらが連携するためのプラットフォームとして、SDGsパートナー登録制度を活用すると同時に、SDGsをまだ知らない方やSDGsに関する取り組みをされていない方々に対して普及啓発し、SDGsを浸透させたいです。
ーーSDGs未来都市の取り組みの具体的な成果について教えてください。
SDGs未来都市に選ばれたことで、事業者・団体の皆さまからSDGsに関するお問い合わせやご相談を多くいただくようになりました。
こうしたお声を豊中SDGsパートナー登録制度にも反映させており、豊中SDGsパートナー登録制度では、SDGsに取り組んでいる事業者、団体、教育機関などに登録していただき、その取り組みを市のホームページに掲載することで、他の事業者などとの連携や新たな取り組みにつなげることを目的としています。その結果、登録した事業者間が連携し、新たなSDGsに関する取り組みを実施するなどの成果が出ております。
ーーこれからのSDGs推進の戦略、展望について教えてください。
令和2年度に作成し、広報誌に掲載したSDGsすごろくでは世代を超えて楽しんでいただくことができ、身近なことがSDGsにつながっているということを、すごろくを通して体感していただきました。このことから、市民一人ひとりが身近なところから、SDGsを知って取り組むことでSDGsの取り組みがさらに広がっていくと考えます。
引き続き、事業者・団体・教育機関等のさまざまなステークホルダーの皆様と連携しながら、SDGsの普及・啓発を進め、地域にかかわるさまざまな人たちが、主体的にSDGsに取り組む全員参加型のSDGsコミュニティの実現に向けて取り組んでいきます。
さいごに
子育て、教育、多様な働き方、環境への配慮など、さまざまな取り組みを行っている豊中市。だからこそ、住みやすいまちとして市民が安心して暮らしていけるのだと感じた。
地方におけるSDGsの認知度普及には、市政が鍵であり、市民をはじめとしたステークホルダーをどのように巻き込んでいくかが重要だ。
全員参加型のSDGsコミュニティの実現を目指す豊中市は、どのような発展を遂げていくのだろうか。今後の動きに目が離せない。