「金沢ミライシナリオ」で市民と来街者が「しあわせ」を共創するまちへ|石川県金沢市《SDGs未来都市特集》

#SDGs未来都市#地方創生 2022.02.04

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

SDGs未来都市。聞いたことはあるけれど実際にどのような取り組みをしているのか、どのような街なのか、知らない人も多いだろう。

この特集では、「SDGsで変わる街、変わらない想い」をテーマにSDGs未来都市に選定された自治体にインタビューを実施し、街の魅力やSDGsの取り組みについて紹介する。

今回は、金沢市都市政策局企画調整課の國本さんに未来都市の取り組みについて伺った。

歴史的なまちなみや街路を色濃く残す伝統と歴史のある都市。市民がまちへの愛着と連帯意識を持つ

ーー金沢市の概要について教えてください。

明治22年の市制施行以来、近隣町村との合併によって市域を拡大し、平成8年に中核市に移行しました。面積は約469K ㎡、3つの台地と、2本の川を骨格とし、豊かな自然に恵まれています。

2020年の国勢調査の結果によりますと、人口は 463,254人となり、2015年調査に比べて 2,445人の減少となりました。人口構造は年少人口が少ない人口ピラミッドとなっており、今後は人口減少と少子高齢化が進行することが予想されています。

ーー金沢市の魅力について教えてください。

藩政時代にまちの礎が築かれて以来、戦災や大きな災害に見舞われたことがなく、歴史的なまちなみや街路を色濃く残す伝統と歴史のある都市だといえます。

また、金沢市には、藩政時代から培われた自治の伝統があり、市民はまちへの強い愛着と連帯意識を持っています。現在でも、町会や公民館の地域活動をはじめ、福祉活動や地域の消防団を核とする自主的防災活動などに息づいており、連帯と協調を旨とする市民意識の土壌になっていると感じます。

ーー今までに、金沢市の中でどのような課題がありましたか?

北陸新幹線金沢開業により、東京までの移動時間が大阪・京都と同じ約2時間半に短縮されたことで、交流の可能性が一層広がり、金沢に多くの観光客が訪れることは喜ばしい半面、金沢が誇る有形無形の資産が観光によって「消費」され、変質し、中長期的に価値を失うリスクと隣り合わせな状況にあるということです。

そこで、これまでのまちづくりの基本を受け継ぎながら、これまでに培われた金沢のストックをさらに磨き上げつつ最大限に活用することにより、国内外から人・モノ・情報の集積を図り、その交流を通じて新たな価値を創造し、持続的な発展を続けるまちをめざしています。

世界の交流拠点都市金沢の実現へ。金沢SDGs「5つの方向性」

【提供】金沢市

ーーSDGs未来都市では、どのような街に変わっていくのでしょうか?

金沢が目指すまちの姿は、「世界の交流拠点都市金沢の実現~市民と来街者が「しあわせ」を共創するまち~」です。金沢SDGsには、これに沿った「5つの方向性」があります。

1つ目が、「古くて新しくて心地よいまち」です。自然、歴史、文化に立脚したまちづくりをすすめます。

2つ目が、「“もったいない”がないまち」です。環境への負荷を少なくし、資源循環型の社会をつくります。

3つ目が、「子供がゆめを描けるまち」です。次代を担う子供たちの可能性を引き出す環境をつくります。

4つ目が、「働きがいも、生きがいも得られるまち」です。誰もが生涯にわたって学び、活躍できる社会風土をつくります。

5つ目が、「新しいもの、ことを生み出すまち」です。文化や産業に革新的イノベーションが起きる仕組みをつくります。

また、自治体SDGsモデル事業として「市民生活と調和した持続可能な観光振興~「責任ある観光」により市民と観光客、双方の「しあわせ」を実現するまち金沢~」を掲げています。

ーー金沢SDGs「5つの方向性」の実現に向けてどのような取り組みをしていますか?

金沢SDGs「5つの方向性」の実現に向けて具体的な行動計画として「金沢ミライシナリオ」を作成しました。

5つの方向性に対応した5つのシナリオがあり、それぞれに「目標」「取り組むこと」「実践アイデア」が整理されており、SDGsを市民全員で進めていく道しるべとなっています。これをもとに、CMやパンフレットなど各種広報媒体の作成やイベント出展等を通じて、市民全員に「金沢ミライシナリオ」が広まり、実践されていくよう努めています。

また、金沢市ではパートナーシップでSDGsを達成することをめざしています。そこで、SDGsに取り組むまたは興味がある個人・団体・企業が参加し、ともにSDGsを推進するIMAGINE KANAZAWA2030パートナーズをスタートさせました。

パートナーズでは、公式HP等で各々の取り組みを紹介するなど情報発信・交換を行い、また相互理解と交流を深め、会員相互でコレクティブインパクトを生むよう、交流会や見学ツアーなどを行っています。

さらに金沢市では、経済・社会・環境の三側面の施策をつなぐ「統合的な取り組み」として、観光と市民生活の調和、域内経済の循環の創出がなされる「金沢SDGsツーリズム」の推進を行っています。SDGsの文脈でまちの魅力を磨き高め、世界に発信することで、「責任ある観光客」、すなわち市民と考え方や行動を共有し、それを尊重することで、金沢に根づいた歴史・文化との交流を楽しむ観光客を世界中から呼び込み、市民生活と観光の調和、市民と観光客双方の「しあわせ」(仕合せ・幸せ)を実現していきます。

具体的には、「SDGsツーリズム」の重要な担い手である観光事業者向けに、SDGsツーリズムについて理解を深め、自分事としていただくため、勉強会・講演会を開催し、SDGs体感ツアーコンテンツの開発のためにモデルツアーを開催しました。また、観光事業者が行う先導的な取り組みについても支援しています。

観光事業者が行う先導的な取り組みとしては、町家を一棟貸しする宿の備品を全てサステナブルなものに変える、といった取り組みからLGBTQの方が安心して旅行できるまちにするための取り組み、伝統工芸体験をSDGsの観点から再編集してコロナにも対応した形で提供する取り組みなど、多様な取り組みが実施されました。

ーーSDGsの取り組みにかける想いを教えてください。

金沢は、歴史的な建物やまちなみ、伝統的な暮らしや文化がいまも色濃く残っており、
それらをまちづくりに積極的に生かしている「歴史都市」です。

また、世界で初めて、クラフト分野でのユネスコ創造都市として認定を受けて以来、世界各国の創造都市と交流を進めています。これまでのまちづくりの基本を受け継ぎながらも、これまでに培われた金沢のストックをさらに磨き上げつつ最大限に活用することにより、国内外から人・モノ・情報の集積を図り、その交流を通じて新たな価値を創造し、持続的な発展を続けるまち金沢をめざしており、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」を、金沢から実践していきます。

ーーSDGs未来都市の取り組みの具体的な成果について教えてください。

金沢市では、金沢かがやき発信講座として、金沢のまちの魅力等、さまざまな講座を開設し、知る・学ぶ機会を設けています。現在、SDGsに関する講座の申し込みが急増しており、今年度実施した市民アンケートにおいて、SDGsの認知度が9割を超えるなど、急激に市民全体のSDGsの認知度の向上、また気運の高まりを感じているところです。これを好機ととらえ、市民の具体的な行動につながる施策を進めていきたいです。

また、「SDGsツーリズム」の推進において、観光事業者が行う先導的な取り組み14件の支援を昨年(2021年)度行ったところ、観光事業者、参加者、関係者等から、来客数の増など具体的な数字の上昇からSDGsに関する市民の気づきまで、さまざまな分野において、多くの効果がみられました。今年度についても6件の取り組みへの支援を行っていますが、先導的な取り組みを収益化し、持続可能なものにしていくこと、他の事業・事業者へ広げていくこと、地域のステークホルダーを巻き込むことの難しさを課題としてとらえている事業者も多くいることが分かっています。これらの先進的な取り組みを単発的のものとしないよう、パートナーシップによる課題解決、資金面においても自律的な好循環をすすめる金融フレームの構築等を進めていきます。

ー先導的な取り組み 20件(R3年度現在)ー
①ゲストハウスPongyi(ポンギー) 用水の街金沢 オンラインエコ体験プログラム
②九谷光仙窯  KUTANI CORE TOURISM
③コッコレかないわ/加賀建設  ナッジdeキヅキSDGsプロジェクト
④こはく  市場のある暮らし~もったいないでロスを減らそう~
⑤こみんぐる  旅音(こみんぐる.WORK)
⑥蒼風庵  脱プラスティック・脱使い捨て 森林資源活用で快適な空間を
⑦高田蒔絵工房  金継ぎ~持続可能な伝統工芸~
⑧TABITAIKENネット  金沢の森と人を元気に! 森林浴と香りプロジェクト
⑨TryAngle  宿泊・観光事業者へのユニバーサルツーリズムオンライン研修&「医療的ケア児の旅行ガイドライン」無償配布
⑩トラベルアイ  寺町寺院群を巡る「まちのり」ガイドツアー
⑪北陸鉄道  金沢SDGsの鉄道・バスモデルコースの社内提案募集及び対外広報
⑫YOU-I JAPAN  金沢の庭園発見プロジェクト~市民も観光客も庭師になろう~
⑬UIGI  ダイバーシティ金沢LGBTQセーフプレイス&ツーリズム
⑭ラッピングアトリエ金澤くるみ  金沢紙袋プロジェクト~みんなでシェアする金沢紙
⑮kanazaWAZA研究所  放置竹林で行うサスティナアート「TAKETOKI」体験ツアー
⑯金沢レインボープライド  金沢LGBTQ+フレンドリー・ツーリズム
LGBTQ+コミュニティと観光産業との産民学協働による商品・サービスのモデル開発・発信事業
~金沢レインボー応援宣言(仮称)のキックオフ~
⑰協同組合兼六園観光協会  兼六園SDGsツーリズム推進プロジェクト
⑱TABITAIKENネット  金沢・能登の里山をいかすSDGs 香りプロジェクト
⑲株式会社できる  SDGs 里山田んぼカフェ
⑳トラベルアイ  からだにやさしい、地域にやさしい、地球にやさしい焼き菓子屋さん

「いつか、だれかが」から、「いま、わたしが」へ 金沢ミライシナリオの実践を市民全員に。

【提供】金沢市

ーーこれからのSDGs推進の戦略、展望について教えてください。

「いつか、だれかが」から、「いま、わたしが」へ
金沢ミライシナリオの実践を通じて、SDGsを市民全員に広げていきます。

そのため、CMなど各種PR媒体を活用し、周知を進めていき、SDGsの進捗度を測る取り組みとして、指標及び目標の設定を行い、金沢SDGsの達成度を可視化したいと考えています。

また、前述のIMAGINE KANAZAWA2030パートナーズの参加メンバー及び交流の機会を増やし、パートナーシップによるSDGsの達成に向けた取り組みを資金面で加速させる仕組みを構築するため、企業版ふるさと納税や、パートナーズ会員からの寄付、金融機関からの出資など、資金の調達方法、ならびにその資金を管理運用する仕組みを検討していきます。

SDGsツーリズムの推進については、引き続きSDGsの推進に資する先導的な取り組みを実践する事業者の支援を行うとともに、宿泊施設や着地型ツーリズムを運営する事業主のSDGsの実践・取り組みを理解しやすくするとともに、取り組みの加速化、認知度の向上をめざすための仕組みを検討していきます。

さいごに

伝統があるからこそ、有形無形の資産が観光によって消費され、その輝きが消えてしまわないようにSDGsの文脈から街の魅力を高め、世界に発信していくことで市民生活と観光の調和を図る姿が印象的だった。

また、目標の実現のために街に関わるすべての人が当事者意識を持てる仕組みづくりを行っていると感じた。具体化された5つのシナリオによって、「いつか、だれかが」ではなく、「いま、わたしが」へと意識を変化させているのだ。

伝統の輝きと新しい価値観を融合させて、より魅力的なまちづくりを進める金沢市の取り組みに今後も期待だ。

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