アパレル企業だからこそできる取り組みがある。「すごいをシェアする」アーバンリサーチの経営。

#廃棄物#環境#経営 2022.01.20

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

20以上のブランドを有し、全国に約210店舗をかまえる、株式会社アーバンリサーチは、「URBAN RESEARCH」「URBAN RESEARCH DOORS」「KBF」など、多数のアパレルブランドを展開するだけでなく、家具や食品の販売やカフェや宿泊施設の運営など、さまざまなライフスタイルを提案している。

今回は、アーバンリサーチの執行役員である萩原氏、サステナビリティ推進課の宮氏にお話を伺った。

取材で見えてきたのは、信念を持ちSDGsに取り組む企業の姿勢だった。

※記事内では、株式会社アーバンリサーチをアーバンリサーチと表記し、ブランド名をURBAN RESEARCHと記載する。

すごいをシェアする会社|アーバンリサーチ

ーーまずはじめに、自己紹介をお願いします。

萩原:アーバンリサーチで執行役員をしている、萩原と申します。

主な担当は経営企画、法務、サステナビリティ、内部監査で、他にもさまざまなことに関わっています。

宮:アーバンリサーチ経営企画部サステナビリティ推進課の宮と申します。

全社のSDGs推進のため、例えば、コミュニティ形成に繋がるような取り組みを実施したり、いろいろな企業と連携したり、さまざまな活動をしています。

ーーアーバンリサーチについて、魅力もふまえて教えていただけますか?

萩原:アーバンリサーチは「すごいをシェアする」という企業理念のもと、ライフスタイルを絡めてウェアやグッズを提案しているアパレル企業です。

社員一人ひとりが自分で気づいた「すごい」を外部に発信していく自由な社風で、自分を表現できる場所がたくさんあるところが魅力です。

SDGsの取り組みも「すごいをシェアする」の一環だと思って取り組んでいます。

社長はよく「伝統は革新の連続」と言っております。

革新を起こすため、新しいことをどんどん探して、みんなが驚くことや、知らないことを、イノベーションを起こしながら実現しようと日々努力しています。SDGsにおいてもそうした革新を続けることで、アーバンリサーチの伝統が作られると考えています。そして、これが「すごいをシェアする」に繋がっていくのではないかなと思います。

ーーすごいをシェアするための3つの理念として、「フレキシビリティー」「顧客起点」「価値あること」を掲げていらっしゃいますよね。これは社員のみなさんの根底にある考え方なのでしょうか。

萩原:そうですね。スタッフ一人ひとりが「すごいをシェア」できるような職場環境を整え、モチベーションを高めていき、3つの理念を考えながら働いて欲しいと思っています。

周りの方々からは「いち早く面白い取り組みをされますね」とよく言われますが、自分たちではアグレッシブとそんなに思っていません。

すごいことを皆さんに伝えようとしていたら、いつのまにかそう言われていたイメージです。会社には、それぞれの「すごい」をシェアすることを支援してくれる風土があるので、「やってみよう」という話は他社さんよりも多く、ハードルが低いのかなと思います。

ーー「早い」という言葉がありましたが、SDGsが採択された2015年以降、早期にSDGsやサステナビリティの領域には注目をされていらっしゃったのでしょうか?

萩原:国連でSDGsが採択されたのは2015年ですが、それ以前から環境や社会に対して取り組みをしていました。

例えば、「東北コットンプロジェクト」があります。

2011年の東日本大地震では、被害を受けた方々が多く、被災したエリアに対して、アパレル企業として何ができるのだろうということで、有志の方々が集まりました。

被災したエリアでは、海の潮で満たされてしまい農地で稲作ができない状況にありましたが、コットンを作ることはできました。そこでコットンを栽培し、採れた綿を使用して商品化し、販売する活動を開始して、これまで10年以上支援を続けています。

この活動もSDGsやコミュニティに繋がるのかなとは思いますが、当時はそうしたことは考えずに、その土地を盛り上げたいという想いで活動していました。

2018年にホームページでSDGs支援を宣言しましたが、当時は、アパレル企業でこうした宣言をしている企業は少なかったと思います。過去の積み重ねもあるのでSDGsのもとで新しいことをしたというよりは、今まで行ってきたことにさらに力を入れていったイメージですね。

ーー「すごいをシェアする」という企業理念のもと、取引先の皆様、クライアントの方、そして従業員の方々に何ができるのかということを考えてこられたからこそ、結果的にSDGsにも答え合わせのように繋がっていったのでしょうか?

萩原:答え合わせのように、結果的にこの活動は何番の目標に通ずるね、となることもある一方で、自分たちがどの方向へ進んだら良いかを教えてくれる道しるべのような存在ではないかなとも思います。答え合わせと道しるべ、両方の側面を持っていると思っています。

ーーサステナビリティ推進課を推進する上で、大変だったこと、楽しかったことを教えてください。

宮:抱えるブランド数が多いこともあり、会社全体に関わる内容に一つひとつ承認を得ることは大変です。また、0から1を創る作業という部分も大変だと感じます。

反対に、0から1を創り出す楽しさがありますし、これからのアーバンリサーチを作ることにも寄与でき、未来にとって良いコトやモノをチームのみんなで進めていけるのは楽しいです。

ーーどのような体制でSDGsを推進していますか?

萩原:2018年9月にHPでSDGs支援を宣言し、同年11月にSDR(Sustainable Development Research)という社内の各部署、各課を横断し、アーバンリサーチなりのSDGsの取り組みを考えるチームを発足しました。

正式にサステナビリティ推進課が立ち上がったのは2020年4月です。2021年からはそれぞれのブランドの商品開発チームにサステナビリティ担当を配属し、部署を横断した取り組みについて会議で話し合っています。

現在SDRは、サステナビリティ担当を中心に30名以上のメンバーで構成されており、毎週1回定例の会議を行い、社内のSDGs関連の取り組みの進捗確認や今後の動きについて話し合いをしています。SDGs基本方針である「3C」を作成したのもSDRです。

やるべきことをきちんと行ってからから発信|見かけに囚われない真のSDGs

2019年12月には、アーバンリサーチは、アパレル企業という視点から、企業風土を活かしたアプローチのために「3C」というSDGs基本方針を定め、ロゴを策定し公開している。

3Cは以下の3つのCから成り立ち、国際社会の一員として積極的にSDGsを推進している。

①Clothing Innovation (衣料資源の有効活用)
②Clean Earth (地球環境負荷の軽減)
③Community Building (コミュニティの形成)

ーー「3C」はどういったきっかけで作成されたのですか?

萩原:第1回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞した、北海道下川町との関わりがきっかけでした。

当時は、別のお取引をさせていただく話があったのですが、そのタイミングで受賞され、私が「ぜひ話を伺いたい」と申し出たところ、お話をさせていただく機会を設けていただきました。

お話を伺い、組織がどの方向に向かうべきかの目標をきちんと整理することが大事だと感じました。これは会社にも通ずる考えで、何か目指すべき目標が必要なのではないか、ということでSDGsの基本方針「3C」の作成に至りました。

ーー3Cを作成して何か変化はありましたか?

萩原:この3Cを作成していなければ、各ブランドが自分たちの思うSDGsの取り組みを行い、全社で見た時の一貫性に課題が出ていたかなと思います。枠組みを作ることで目指すべき方向が分かるので、会社全体がまとまりやすくなったのを実感しています。

ーー日本の企業は、ステークホルダーや投資家にストーリーを伝えることがとても大切になってきています。社内でブランドやストーリーなどを作成してメッセージを発信することは、マーケティングにおいてもSDGsの文脈でも重要だと思うのですが、萩原さんの考えを教えていただけますか?

萩原:ビジネスの視点から見るとその通りだと思います。売上や利益を上げるために、きちんとお客様に伝わるようにすることはとても大切で、PRしていくべきだと思います。

ですが、まずは発信する前に、中身の取り組みの部分をしっかり行っていきたいです。そして今後は、私たちのできるやり方で、発信を強めながらやることを増やしていく、という積み重ねを大切にしたいと考えています。

そして、私たちの取り組みから生まれるすごいをシェアしながら、ファンが増えるような会社を目指していきたいですね。

ーー今は、ストーリーの部分を作って発信していく力が各企業に求められているのかなと思っています。

萩原:そうですね。きちんと伝えていかなければならないと思います。一方で、SDGsは伝えるのが難しいとも感じています。上手く、多くの人に伝えるところは課題ですね。

環境問題を解決しようとしたら、コストが通常よりも多くかかり、比例して価格も上がってしまいますよね。欧米では、「価格が高くなっても環境問題を解決するなら高くなってもしょうがない」という風潮があると聞きますが、国内ではまだその段階にはないと思います。そうしたときに、環境問題への解決に繋がることをどれだけ上手に伝えたり、ご提案したりできるのかが重要なのだと思います。

ものづくりの本質を生かした地域の活性化を|JAPAN MADE PROJECT

アーバンリサーチの主要事業部「URBAN RESEARCH 」では、2014年9月から「JAPAN MADE PROJECT(ジャパンメイドプロジェクト)」を開始し、企業やクリエイターによって作られるローカルコミュニティとともにその土地の魅力を再考し発信している。

2021年12月時点で東北地方をはじめ、東京や京都、長崎など6地域で展開し、各地域に根ざしたさまざまなプロダクトが製作され、販売されている。

ーーきっかけを教えてください。

宮:きっかけは、URBAN RESEARCHがアミュプラザ長崎という商業施設に出店する際に、施設の担当者の方が、「長崎にまつわる良いものや雑貨などを扱う企画をやらないか」というお話を持ちかけて頂いたことです。こうして2014年、長崎からJAPAN MADE PROJECTがスタートしました。現在は、石川・熊本・京都・東京・東北に広がっています。

今の世の中において、コミュニティは非常に大切で、強固にしていくことがどの場所においても非常に大事だと思います。SNSなどの普及により情報過多な時代であっても、信頼する人から入ってくる情報が一番信頼できますし、その人がおすすめするものは買いたくなるので、結局コミュニティが大事ではないかなと思っています。

ーー具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

宮:取り組みで大切にしているのは、地域活性化なので、そこを目的に、地域の方々と同じプロセスで同じゴールに向かうことを大切にしています。

それぞれがもっている魅力をアウトプットする内容は地域によって違います。例えば東北では、漁業に関する取り組みをしています。FISHERMAN JAPAN(フィッシャーマン・ジャパン)という若い漁師の団体の皆さんの理念や思いに共感し漁業の担い手を増やすため、取り組みを行っています。具体的には、FISHERMAN JAPANでは、「カッコ良くて、稼げて、革新的」という新3Kを掲げていらっしゃるのですが、最初の「カッコ良い」の部分を発信するため、一緒にプロユースの漁師ウェアを開発しました。

【引用】YouTubeチャンネル「URBAN RESEARCH MEDIA」より

東京では「銭湯」をテーマにしています。以前、東京では銭湯が今のコンビニ以上にたくさんあり、まちづくりの中心となっていました。ですが現在は、銭湯自体が衰退しており、その文化に今一度着目したいという話が社内で上がり、高円寺の小杉湯という老舗銭湯と協業して「URBAN SENTO」という取り組みを行っています。

始めの地、長崎では「ことはじめ」を大きなテーマにしています。長崎には出島があり、鎖国時代にそこから海外の文化が入ってきました。「長崎ことはじめ」という言葉が地域の皆さんの間で根付いていて、私たちが今目にしているモノの中にも長崎を経由して入ってきたモノがたくさんあります。そうしたものを取り上げながら、長崎の魅力として提供しています。

このように、それぞれの地域によってアウトプットの仕方は全部変えています。地域に寄り添い、お話を聞いて、「じゃあこういう取り組みをしていきましょう」「こういう風に進めていきましょう」ときちんと確認しながら取り組んでいます。

【引用】アーバンリサーチ 公式サイト

ーーさまざまな企業とコラボしていますが、SDGsの文脈でもパートナーシップは意識されていらっしゃいますか?

宮:SDGsの目標達成のため、共創が大事だと感じています。

特に私たちの専門分野であるアパレルは、いろいろな人や会社と繋がりながらものづくりをして、最終的にお客様に届けていくので、パートナーシップは大切にしています。

「ファッション」をキーワードにしながら異業種の方々と繋がる機会がここ数年で非常に増えていて、パートナーシップを大事にしながら事業を行っている状況です。

ーー今後はさらにまちづくりやコミュニティの部分を、ファッションや衣料を通して発展させていかれるのでしょうか?

宮:今はまだ計画段階なのですが、ある地域と当社の「commpost(コンポスト)」)という廃棄衣料を活用した取り組みとの連携を検討しています。今後もさまざまな方々と連携し合っていきたいですね。

ーーcommpostについて詳しく教えていただけますか?

萩原:これからの地球環境や人のはたらき方・暮らし方に対して、新しい常識を示していきたいという想いから誕生したブランドです。

アーバンリサーチでは、もともと廃棄衣料の問題と、障害者の方々の法定雇用率に課題を抱いており、こうした課題を同時に解決するために立ち上がりました。(当社の廃棄衣料は汚損や不良のため、お客様にどうしても販売できなくなった衣料品のみです。)

異なる素材や品質が混合しているため、分別が難しいと言われている衣料品のアップサイクルですが、素材分別が難しい廃棄繊維を色で分けて、付加価値のある素材にリサイクルする研究を行う「「Colour Recycle Network (カラーリサイクルネットワーク)」との協働によって、新素材と新製品を研究・開発しています。

また、サステナブルなマテリアルとプロダクトの開発・生産を目指し、大阪・箕面のNPO法人「暮らしづくりネットワーク北芝」と共に、素材・製品の生産過程における、障がい者をはじめとする就労困難者や地域住民との協働を実現させています。

ーーSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」は達成が難しいとおっしゃる企業も多いです。アパレル企業だからこそのやりやすさはあるのでしょうか?

宮:お声がけをいただくときに、アウトプットをより伝わりやすくしたいという相談事も多数ありますし、私達もアパレルが生業ではあるので、衣料品で表現することは多いです。

私たちは「ファッション=ライフスタイル」だと思っています。例えば、会社の歴史的にはアパレルを中心に行ってきましたし、事業の中心もアパレルですが、その他にも宿泊施設「TINY GARDEN 蓼科(タイニーガーデン タテシナ)」や床屋さん、カフェの運営などさまざまな事業を行っています。

私たちが考えるファッションは、総合的にお客様をワクワクさせるような生活を作ることだからこそ、異業種の方々と交わってもさまざまな提案ができると思いますし、そこが強みだと思います。

ーー先ほどお話しいただいたライフスタイルや街のように、アイテムだけではなく、体験や経験を通してライフスタイルをデザインすることを重要視されているのですね。

宮:私個人の意見ではありますが、今後はモノを持つ時代ではなく、消費をする場所が体験であり、コトを買うような消費に変わっていくと思っています。サブスクリプションの発展に伴い、私たちが主としているアパレル事業も変化し、タンスに服をしまうという考え方がなくなる時代もいつかは訪れるのかもしれません。そうしたときに、私たちがワクワクするようなライフスタイルを提供していくことが会社の価値になると思っています。

アーバンリサーチの役割として、もしかしたらいろいろな社会の課題を繋ぐ、プラットフォームのような立ち位置も目指していくべきなのかなと思っています。

ーー世の中にはファストファッションのように、安くて質の良いものを、というトレンドもあると思います。一方で、一つひとつのアイテムに対してストーリーを求める動きがあると思います。これについてどのようにお考えですか?

宮:これからの時代大事なのは、後者だと思います。情報の透明性が求められると思うので、素材の段階から販売するところまで、販売した後の行く先まできちんと見せて提供していくことが、理想の形だと思っています。

しかし、ファッション業界の課題は根深く、私たち自身もまだまだではあるので、日々できることを模索しながら、少しでも貢献できるように、良いことを目指して取り組んでいます。

大量消費時代が終わりを迎えてきており、重要な節目だと思うので、提供できる価値を見直しながら、私たちで整理して、世の中に発信していかなければいけないと思っています。

ーー今後の展望を教えてください。

萩原:SDGsの基本方針である「3C」がビジョンそのものなので、そこに向かって自分たちのできることをやっていきたいと思います。

また、一人ひとりが問題意識を持ち、共感しながら取り組まなければ進まないという実感もあるので、まずはスタッフ一人ひとりが環境や社会問題に対して意識を向けてもらいたいです。最終的には、一人ひとりが実行に移せるような枠組みを作っていけたら良いと思っています。今後、こうした取り組みから生まれた私たちの商品にご期待いただければと思います。

宮:繰り返しになってしまいますが、ファッション業界はまだまだ課題が多く、私たちの力だけでは解決できないことも沢山あるので、さまざまな企業様とパートナーシップを組んで、前に進めていけるような取り組みが広がればいいなと思います。

表面的なものではなくて、一緒にゴールを定めて伴走できる企業がたくさん集まると、一つのコミュニティとなって、社会にインパクトを与えられるようなことができると思うので、もしアーバンリサーチにご興味がある企業様がいれば、ご一緒できると嬉しいです。

さいごに

「中身が伴わなければ発信すべきではない。まずはきちんとやるべきことを行った上でどのように発信すべきかを考える。」

SDGsが当たり前になってきている現在、時代に乗り遅れまいと、発信だけにとらわれ中身が伴わない企業も少なくないのではないだろうか。

これからの時代永く生き続けるためには、アーバンリサーチのように強固な軸を定めることが企業には求められているのかもしれない。

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