【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
大日本印刷株式会社(以下、DNP)は、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクス、飲料などの数多くの事業を展開している企業である。今日では、「P&I」(印刷と情報)の強みを活かし、環境やエネルギー、ライフサイエンスなどの事業にも力を入れている。
環境に関連して、現在は「Recycling Meets Design™ Project」という「プラスチック製容器包装からの再生プラスチックをデザインの力で価値が高いモノへ変換し、世の中に生み出す」というDNPとデザイナーによる共創プロジェクトにも取り組んでいる。
今回は、DNPの包装事業部の福岡さんと尾見さんを取材し、DNPの包装事業部の取り組みや、「Recycling Meets Design™ Project」の概要と今後の展望などについて詳しくお話を伺った。
DNPが考えるリサイクルのためのプロジェクトとはなにか、DNPの描く未来のあたりまえに迫る。
見出し
パッケージにイノベーションを。新しい価値の創造。
ーーまず初めに自己紹介をお願いします。
福岡:大日本印刷株式会社の包装事業部の福岡と申します。包装事業部の中のイノベーティブ・パッケージングセンターという部門にいます。よろしくお願いします。
尾見:同じく包装事業部の尾見と申します。福岡と同じくイノベーティブ・パッケージングセンターの中のマーケティング戦略本部の環境ビジネス推進グループに所属しております。よろしくお願いします。
ーーイノベーティブ・パッケージングセンターではどのようなことをされていますか?
福岡:今までのようにお客さんから頼まれて製品をつくるだけでなく、DNPが仮説や課題を発見し、解決するための製品やサービスを主体的に提案する形へと変化しています。
イノベーティブ・パッケージングセンターはパッケージそのものだけではなく、パッケージに関わる製品・サービスも含めて新しい価値を生み出すことを目的として発足しました。
私自身が特に大事にしていることは、容器や包装を軸に作り上げた製品が、使い終わってから分別や廃棄がしやすいかどうかや、製造段階で環境に配慮した材料であるかどうか等の課題に対してむきあえているか?ということです。私は既存の製品の見直しや、新たな製品の開発につながるデザインやディレクションを主に担当しています。
ーー環境ビジネス推進グループではどのようなことをされていますか?
尾見:2年ほど前に環境ビジネス推進グループが発足しました。包装事業部では長年食品や日用品のパッケージを製造していますが、植物由来のプラスチックを使ったパッケージなどの環境に配慮したパッケージをご提供するなど、環境への取組を続けてきました。
しかし、循環型社会の実現が求められる時代になって、環境に配慮したパッケージを提供するだけではなく、使い終わってからのことにもきちんと取り組む必要が出てきました。そこで、今までの範囲に収まらないこともビジネスとして事業化しようと立ち上がったのが環境ビジネス推進グループです。
ーーパッケージは奥深いもので実用性が高いものなのに、すぐ捨てられてしまうような印象があります。
尾見:例えばポテトチップスの袋などは薄いフィルムに見えると思いますが、実は5層でできているものもあります。さまざまな素材のプラスチックを重ねて、バリア性を出して香りが飛ばないようにしたり、湿気を吸わないようにしたり。密閉性を維持した上で開けやすい加工を施すなどの使い勝手を向上させる工夫もあります。デザインも含めて、パッケージにはたくさんの技術や機能が詰め込まれているんです。
パッケージの一番の役割は、内容物をしっかり守ることです。それによって全国に流通できたり、長期保存が可能になったりと、実は消費者に届く前の部分でも重要な役割を担っています。
しかし、消費者からするとパッケージは食べ終わってから、すぐ捨てるものなので、ごみという印象も強いと思います。
実際、廃棄物の中でパッケージが占める割合も多いので、機能の割には悪者になりやすい側面もあります。その有用性はきっちり担保した上で循環の仕組みを作って、社会に適応させていくにはどうしたらいいかを検討しています。
ーーもともと、SDGsへの取り組みを重要視していたのですか?
尾見:当初からSDGsを強く意識していたというよりは環境に配慮したパッケージづくりへの取り組みが結果としてSDGsにつながっていたという形です。
包装事業部では、高齢者や障がいのある方でも、あらゆる人に使いやすいパッケージを開発しているので、「誰一人取り残さない」というキーワードとも親和性があります。パッケージの機能面ではフードロス削減の部分も含めて、SDGsのさまざまな目標とつながっていると思いますし、さらに強化しなくてはいけないことがたくさんあると感じています。
ーー2021年の今、従来に比べてパッケージのあり方や求められているものは変化していますか?
福岡:変化していると思います。例えば、1990年代は、メーカー各社の競争が激しくて、1つの業界で数え切れないほどの商品が出ているような状況でした。現在はそんなことはなく、本当に必要な商品なのか?を見極めるようになり、ユーザーだけでなく社会全体からも課題点や問いが投げかけられています。
例えば、ラベルが本当に必要なのか、二重包装はしなくてもいいのではないか、ということもあたり前のように問われるようになりました。特にコロナ渦の社会において、家の中で使うものに対して、向き合う時間が多くなり、過剰なパッケージへの気づきも生まれたと思います。
そうするとメーカーや流通がパッケージのあり方を見直すべきではないかというように問われはじめます。メーカーの人たちは、この状況下でどうすればいいのか、迷っていると思いますし、社会全般で環境に対しての姿勢を求められているので、自社としての方針をどのようにするかは大きな課題になっています。
新たな価値を再生材から生み出すために。「Recycling Meets Design™ Project」に込められた思い。
ーー「Recycling Meets Design™ Project」が生まれた経緯を教えて下さい。
尾見:私が所属する環境ビジネス推進グループができる少し前から、海洋プラスチックごみ汚染の問題が注目されるようになりました。当時テレビなどでよく取り上げられていたのが、海を漂っているパッケージの写真です。
自分たちの日頃の生活の中でパッケージをたくさん捨てているという意識があることから、イメージに結びつきやすかったのかもしれません。
問題が浮き彫りになる中で、環境配慮した素材を使用したパッケージを使っていくだけでなく、パッケージとしての機能をしっかりと果たしつつも、それが循環していく仕組みというのも作らなければならないという想いから「Recycling Meets Design™ Project」が生まれました。
ーーパッケージの循環を考えたものがきっかけだったのですね。
尾見:プラスチックパッケージは実は多くの自治体で分別回収され、リサイクルされています。リサイクル手法はいくつかありますが、「マテリアルリサイクル」といって、回収された使用済みのパッケージを粉砕して溶かして固め直す、という手法でリサイクルされて作られたのがこの樹脂です。でも、この樹脂が何に使われているかはあまり知られていないですよね。
尾見:この再生樹脂にはまだ課題も多いのが現状です。例えば色に関して、さまざまな印刷のインキが混ざり合って緑がかったグレーになっています。この色になってしまうと、他の色に着色するのは難しいんです。
また、パッケージには、ポリエチレンやポリスチレン、ポリプロピレンなどのいろいろな種類のプラスチックが使われているので、それらが混ざり合うと品質が下がり、幅広い用途で使えるわけではないんです。においも残ってしまう可能性もあり、衛生的な課題もクリアしなければなりません。
そのため今は、物流に用いる、荷物を載せるための荷役台の輸送パレットとして使われていることが多いです。また、一部公園のベンチや車止めとしても使われていますが、国内では需要がなく海外への輸出が多い状況です。
分別収集のインフラが整っていて、多くの人が分別に協力し、手間とコストをかけて再生しているのですが、先の需要がないというのは問題です。せっかくリサイクルしても使えない、売れないという状況が続けば、リサイクル自体を阻害する要因になってしまいます。そこで、パッケージからの再生樹脂の新しい活用用途を見つけることで価値を生み出し、循環の輪を広げようと考えたのが「Recycling Meets Design™ Project」です。これまでのように技術的に何が可能か?から考えるのではなく、発想力のあるデザイナーの方々と一緒にアイデアを起点にモノづくりに落とし込んでいくことを狙いました。
ーー「Recycling Meets Design™ Project」で実際に開発が進んでいるアイデアを教えてください。
尾見:いまひとつ検討が進んでいるアイデアが「MaiLoop」です。元々は生活者向けの繰り返し使える配送用パッケージのアイデアとして生まれたのですが、これを社内便として活用できないかと考えています。DNPでは、グループ会社や工場拠点も多く、社内便の数がすごく多いのですが、今は使い捨ての封筒や既製品のファイルなどが使用されています。
そこで、丈夫で繰り返し使えるMaiLoopのアイデアを社内便封筒として使用してみて、耐久性や使い勝手をテストしてみることにしました。
MaiLoopの素材自体は先程のリサイクルした樹脂と、リサイクルゴムを混ぜたものからこのシートを作っていて伸縮性があり皮のような質感があります。
ーーMaiLoopを事業として社外にも提供する予定ですか?
尾見:まずは、社内で実証実験をする段階です。「Recycling Meets Design™ Project」を発表したときにも多くの反響をいただきました。しかし、デザイナーのアイデアからの実装までの距離は多少あるので、社内の実証実験をいくつか回して、できるだけ実装までの距離を詰めた上で、社外に提案していきたいと思っています。
ーーデザイナーさんとの共創プロジェクトは実際どのようなものでしたか?
福岡:私たちは、どうしても先入観を持って再生材やリサイクル素材を見てしまいがちですが、デザイナーには先入観があまりありません。例えば「この色をどうやって価値や意味があるものにしていけばいいか」や「弱点をもっと活かせないか」など、多角的な見方をしてくれます。
弱みに見える部分を、強みになるようにどんどん目線を変えていき、アイデアを出していくところがデザイナーならではだと感じました。また、SDGsの目標11「つくる責任 つかう責任」で考えると、どちらかと言えばこれまでのデザインの役割は「仕上げ」の部分を担うことが多かったと思います。
デザイナーはたくさんのものを生み出していますが、その行く末がどうなっていくかをあまり具体的に描けていないことや、その根幹である素材にまで考えを馳せることがそれほどありませんでした。実際、パッケージに携わっているデザイナーもリサイクルの仕組みがどうなっているのかを全く知らなかったという話を聞いたこともあります。
デザイナーとして、どのように環境問題に取り組むべきなのか、何かやりたい気持ちはあってもなかなか自分だけでは動きにくいなどの悩みもわかり、今回の取り組みで具体的に何をすればいいのかが見えてきたというコメントはいただいています。
社会課題の解決をテーマに。DNP×デザイナーのパートナーシップ「デザインの力」で変わる未来。
ーー最後にこれからの「Recycling Meets Design™ Project」の展望をお伺いします。
尾見:まず、MaiLoop以外でも製品化を目指していきたいと思っています。また、今年の7月から新たなデザイナーの方々に加わってもらい、第2期を実施することも決まっています。
第1期については再生材の存在自体を課題として、これで何をつくるかを考えてきましたが、例えば先ほどご紹介したMaiLoopはECの増加に伴う梱包材の増加といった別の社会課題を解決するものでもあると感じました。
そういうアイデアはすごく納得性が高いし、より価値が上がるという経験があったので、再生樹脂を使って他の社会課題をいかに解決するかというテーマを考えていきたいと思っています
福岡:まだ1年目でいくつかのアピールしかできていないので、社内にも知らない人が多いんです。リサイクルってパッケージだけで完結する話ではなくて、もしかしたら全然違う業界のものに置き換わっているかもしれないという可能性も考えさられます。
例えば、会社内が一番身近な社会なので、隣の事業部の人が困っていることを解決できることもあるなとつくづく思います。
会社の中でもっと仲間を増やし、自分たちの強みもちゃんと分かった上で企業や流通、大学や団体などに向けて発信し、お互いの強みを掛け合わし、課題を解決するためのきっかけの場にもしたいと思っています。
おわりに
今回の取材では、DNPの既存の事業を超えたプロジェクトについてお話を伺うことができた。
ごみの分別や材料について考えるだけでは、それは本物のサステナブルにはつながらないことを知ることができた。持続可能な社会をつくるためには、パッケージだけではなく、様々なエネルギーや素材が循環が円滑にできることが重要であることを考えさせられた。
再生材やリサイクルされた素材がデザインと融合することによって、循環型の社会が「あたりまえ」になる時が楽しみである。