脱炭素と経済成長の両立は可能か|「カーボンニュートラルとビジネス」イベントレポート

#SDGs目標13#SDGs目標8#SDGs目標9#ビジネス#気候変動#環境#経済成長#脱炭素(カーボンニュートラル) 2021.04.19

この記事をSNSでシェア!

 

【更新日:2021年6月10日 by 佐野 太一

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

朝日新聞社と東京大学未来ビジョン研究センターは3月19日、第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」をオンラインで開催した。

このイベントは二部構成となっており、第一部では業界を代表する知識人によるプレゼン、第二部では登壇者同士によるパネルディスカッションが行われた。また、イベント冒頭では小泉進次郎環境大臣、木下スー駐日英国臨時代理大使によるメッセージが寄せられている。今回は第一部までの内容をレポートする。

アーカイブは5月10日まで公開されており、視聴料金は無料だ。

アーカイブ視聴の申し込みはこちら
◎登壇者(第二部まで含めたもの)

  • 小泉 進次郎環境大臣(ビデオメッセージ)
  • 駐日英国臨時代理大使  木下 スー氏
  • 東京大教授  石井 菜穂子氏
  • 日本総研理事長  翁 百合氏
  • ブルームバーグNEF 日本韓国市場分析部門長  黒崎 美穂氏
  • BofA証券取締役副社長  林 礼子氏
  • JERA常務執行役員  奥田 久栄氏
  • FFFジャパンオーガナイザー  酒井 功雄氏
  • 東京大教授  高村 ゆかり氏
  • 朝日新聞編集委員  石井 徹氏

脱炭素市場をめぐる大競争時代がやってきた|小泉進次郎環境大臣

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

小泉進次郎環境大臣は、朝日新聞の取材に受け答えする形でビデオメッセージを寄せた。

ー気候サミット、COP26などの重要国際会議にどのような姿勢で臨みますか。また、2030年、50年に向けて何をしていくべきだと考えますか。

私は新たに気候変動担当という使命を総理から受けました。とにかく、政府が一つになってこの国際会合に向けた対応方針を決めていく。その調整をしっかりやっていきたいと思います。そして、日本の「2050年カーボンニュートラル」の宣言が信頼のおけるものになるようにベストを尽くしていきたいと思います。

この国会で環境省は、地球温暖化対策推進法の改正案を提出しました。そこでは、菅総理の「2050年カーボンニュートラル」を法律の中に明示しています。これは極めて異例の対応ですが、予見可能性を高めて日本に投資を呼び込み、法制化することによって政策の信頼性・継続性を高めたい。その思いでこの新たな法律を出しています。

そして、私がよく耳にするのが「2050年まであと30年もある」という声。その認識はまったくの間違いです。勝負は、あと5年。環境省は5年のうちに、カーボンニュートラルを先行的に実践する地域をつくり、その地域を次々と広げていく「脱炭素ドミノ」を起こすことを計画しています。2030年までに再生可能エネルギーを倍増させる。そういった意欲的な目標を立てながら、 政策の総動員をしていきたいと思っています。

ー気候変動対策におけるビジネスの役割をどう考えますか。今回のシンポジウム参加者へのメッセージもお願いします。

まさに、この時代が来たと思っています。世界全体が脱炭素に向けて動いている背景には間違いなく金融やビジネスの流れがあります。もう脱炭素の市場以上に大きな市場は世界にないといわれるくらい、脱炭素市場をめぐる大競争時代が来ました。

コロナで大変なときに脱炭素の流れをあまりにも早く進めると、日本はむしろ産業で大きな影響を受けて、競争力が落ちてしまうのではないかという質問を受けたことがありますが、それは全く違います。むしろ世界はコロナ禍の中で一気にデジタル化、そしてグリーン化の改革を推し進めています。仮に日本がこの改革のスピードを緩めたとしたら、コロナからの復興のときに世界と大きな断絶が生まれてしまいます。

もちろん、日本のメーカーが風力発電になかなか参入できていないこと、EVの車載用電池を中国産に頼っていることなど、課題を挙げたらきりがありません。世界でどのように日本が持ち前の技術と今までの経験を活かして、脱炭素市場で勝っていくのか。多くの自治体、産業界、そして国民のみなさん一人ひとりと足並みをそろえて、その方向に向かいたいと思っています。

各国が主要経済国の気候変動対策を注視している|木下スー氏

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

駐日英国臨時代理大使の木下スー氏は、気候変動対策と経済成長を両立した成功例としてイギリスの取り組みを例示しつつ、日本の石炭火力発電廃止を提言した。

私たちはコロナウイルスのパンデミックの影響を長らく受けていますが、世界中でコロナ禍からの復興をより環境に良いものにしていく「グリーンリカバリー」が注目されています。日本でも脱炭素の動きが加速していると思います。昨年10月、菅首相は2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指すと宣言しました。そして先日、この目標を法制化するために地球温暖化対策推進法の改正案が閣議決定されました。

英国では、2019年に主要経済国として初めて2050年ネットゼロの目標を法制化しました。さらに、昨年12月に二酸化炭素排出量の削減目標であるNDCを68%に引き上げると発表しました。今年11月には英国にてCOP26が開催される予定です。同じように、他の国からも具体的なNDCや気候変動対策が発表されることを願っています。

私たちが直面している気候危機に対抗するためには、NDCのような中間目標を設定することは必須となりますが、合わせて今すぐ温室効果ガスの排出を劇的に減らすために行動することも大事です。気候変動対策と経済成長は相反するものだと考えられていましたが、両立することは可能です。英国では1990年から2018年までの間、温室効果ガスを43%削減すると同時に75%の経済成長を遂げました。企業に対する投融資に関しても、気候変動への取り組みを公開しているか否かが重要なファクターとなっています。気候変動への取り組みは企業にとってなくてはならない戦略です。

2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指すのにカギとなるのが、石炭火力発電からの脱却です。パリ協定の目標を達成するためには、石炭火力発電をすべて廃止し、海外への石炭火力発電事業の支援に終止符を打つことが必要です。4月には米国のバイデン大統領主催の気候変動サミット、11月にはCOP26が英国で開催されます。これを機に日本の政府と企業、自治体がともにパートナーシップを構築し、目標達成に向かって進み始めることを願っています。

<第一部>2050年カーボンニュートラルをどう実現するか

パリ協定が採択された翌年の2016年から、経済界はビジネス形態をいかに変えるべきかについて議論を進めてきた。当初は産業革命当時からの気温上昇をまず2度に抑えるのが目標とされていたが、今では世界中で1.5度に抑えるべく方法が模索されている。それが本当に可能なのか、またはどう実現するのかをテーマに業界を代表する知識人がプレゼンを行った。

エネルギーのあり方を議論することがカーボンニュートラル達成のカギ|高村ゆかり氏

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

東大教授の高村氏は、カーボンニュートラルをめぐる現在の全体状況について説明した。

昨年10月の菅総理の所信表明演説の中で、2050年までに脱炭素社会の実現を目指すという表明がありました。その翌月、衆参両院で気候非常事態宣言というものが全会一致で採択されています。

皆さんご存知の通り、2019年の台風15・19号は日本各地に大きな被害をもたらしました。それぞれ2019年の自然災害による経済損失額で世界1位、3位に名を連ねています。気候変動が1つの要因となったと思われる災害が、我々の足元で経済的なインパクトをもたらしうる例ではないでしょうか。

工業化前と比べて1.5度に気温上昇を抑えるために設定されたのが、2050年カーボンニュートラルという目標です。現在、120カ国以上の国々とEUがこの目標を共有しています。今年誕生したバイデン新政権もこの目標に加わったほか、中国も遅くとも2060年までに実現すると表明しています。

今、各国の焦点は30年までにどれだけカーボンニュートラルに相応した排出削減を目標として掲げていくかというところにあります。日本の温室効果ガス削減の進捗状況は現在、1990年比で-14%削減まで来ています。このまま行くと2030年には40%の削減が見込めるようなスピード感です。日本の温室効果ガス排出量の85%がエネルギーの使用に伴う排出ですので、エネルギーのあり方を議論していくのが、このペースを加速させるためのカギとなるでしょう。

再エネのコストを下げ、火力発電の競争力を削ぐ政策を|黒崎美穂氏

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

ブルームバーグNEFで日本韓国市場分析部門長を務める黒崎美穂氏は、各国のエネルギー産業の分析結果を述べ、太陽光が石炭火力にとって代わるために必要な2つの解決策を提示した。

ここ数年で起こったエネルギー産業の大転換についての例をご紹介できたらと思います。ブルームバーグNEFは、脱炭素に関する専門的な分析・調査を行っているリサーチ機関です。電力市場、次世代交通システム、産業&ビル、農業、それぞれのセクターを技術的観点、コモディティの市場に与える影響、企業の戦略面、政策面、ファイナンス、消費者の動向まで分析の幅を広げています。

BNEFはこれまで、グリーンエネルギーへの投資額の推移をデータベース化してきました。昨年は世界全体で500億ドルの投資が行われ、記録更新となりました。再生可能エネルギー(太陽光や風力)の導入量は投資額の増加よりも高い比率で増え、これも過去最大でした。再生可能エネルギーの均等化発電コストがグローバルレベルで下がってきていることになります。

その国で新規の発電所を建てる場合、どの電源が一番安いのか色別で表すと、世界の2/3の国では既に再生エネルギーを利用した発電所が最も安いです。一方、日本や韓国、東南アジアの国々では石炭発電が最も安いままです。調査によると、日本において新設ベースで太陽光発電が石炭発電より安価になるのは2025年以降となります。一方、太陽光が既設の石炭火力より安価になるのは2050年です。

この状況を打破する方法は、一般的に考えて2つあると思います。1つ目は、再エネを早期に安く利用できるようにすること。2つ目は、火力発電の経済的競争力を削いでいくやり方です。G20気候変動対策スコアボードでは、日本はG20の中で5位。これに満足するのではなく、今後は化石燃料に関わる政策をきちんと整備していくことが重要だと思います。

産業・運輸・民生の社会構造を抜本的に変える取り組みが必要|翁百合氏

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

日本総研理事長の翁百合氏は、エネルギー供給サイド・エネルギー需要サイド・金融の視点から現状浮き彫りになっている課題を整理し、社会システム全体の構造を転換する必要性を訴えた。

パリ協定以降、世界中で気候変動対策に取り組む動きが加速し、国際金融市場における関心も高まってきています。そういった中で昨年コロナ感染症が広がり、SDGsへの意識の一層の高まりも見られるようになりました。環境を保全しながら復興を図っていくグリーンリカバリーの動きも顕著になってきています。

エネルギー供給サイドでは、エネルギーミックスをどうするべきかが課題として挙げられています。現在議論のために打ち出されている2050年のエネルギーミックス参考値は以下の通りです。

  • 再生可能エネルギー 5-6割
  • 化石+CCUS(回収・利用・貯蔵)/カーボンリサイクリング+原子力 3-4割
  • 水素+アンモニア 1割

エネルギー需要サイドでは、社会構造を抜本的に変えていくことが必要になってきます。産業部門では炭素生産性の高い産業への転換などが、運輸部門ではEVなどの普及に加え、MaaS、カーシェアリング、DXも重要になってきます。住宅などの商品を購入する私たちの生活において、個々人の意識を一層変えていく必要があります。

金融の視点からは、今後は環境を含めたサステナビリティについて取締役会で議論することが求められるということが言えます。まさに脱炭素は、経営の生命線になっているということだと思います。

2050年までの時間軸を考え、俯瞰的に各主体の課題を検討し、社会システム全体の構造を転換する必要があります。政府には規制改革や投資への支援を行うこと、企業には次世代を重要なステークホルダーとして位置づけて行動すること、国民にはカーボンニュートラルについて情報を共有しながら、行動していくことが求められているのではないでしょうか。

2050年ネットゼロは技術的に可能。中長期的な道筋を描くべき|石井菜穂子氏

引用:第3回朝日地球会議plus「カーボンニュートラルとビジネス」

東大教授の石井菜穂子氏は、世界のビジネスリーダーたちが気候変動に強い危機感を持っていることを示しつつ、カーボンニュートラル達成のための中長期的な目標とシナリオを設定する必要性について言及した。

どうしてヨーロッパを中心としたグローバルリーダーたちがネットゼロを真剣に考えようとしているのか、そのバックグラウンドをご紹介したいと思います。

1つ言えるのは、気候変動や生物多様性のロストをはじめとした地球環境へのダメージが非常に大きなリスクとして認識されるようになってきていることです。毎年1月に発行されるグローバルリスクレポートによると、2020年に世界のビジネスリーダーたちが認識するリスクのトップ5はすべて環境問題に関わるものでした。

脱炭素化を実現するにはもちろんエネルギーセクターが最も重要ですが、農業や都市の住まい方、生産消費の在り方についても考えなくてはなりません。ようやく去年の秋には、排出量ベースで63%に相当する国がネットゼロを宣言しました。しかし、これをどう実行するのかが大きな焦点になってきています。

2015年のパリ協定成立時点では、脱炭素技術が市場化されている業界はあまりありませんでしたが、2020年には電力セクターを中心とした多くの業界で脱炭素技術が提供されるようになりました。10年後には、70%の炭素排出分野で脱炭素化が主流になるだろうと言われています。

世界中でこれまで出されてきた研究成果を俯瞰すると、2050年ネットゼロは技術的には実現可能だと言えますし、コストも世界全体のGDPの0.5%程度で済むだろうと予測できます。中長期的な道筋をきちんと描き、結果的に我々の暮らしがより良いものになる確信が持てるシナリオを消費者や投資家に与えていくことが求められるのではないでしょうか。

まとめ

業界を代表する知識人たちが、エネルギーや金融、カーボンプライシングなどのテーマに対する見解を独自の視点で語った。

世界的な気候変動を目の当たりにしつつある各国政府や企業は既に、パリ協定とそれに基づいて掲げられている目標「2050カーボンニュートラル」の達成を目指して対策を練っている。新型コロナウイルスのパンデミックにおいても、ビジネスと政治を取り巻く状況の変化は加速を続けているようだ。

今や世界最大のマーケットとなった脱炭素市場をいかにして生き抜くのか。気候変動を食い止めながら、資本主義経済が成長を続けるためにはどのような対策が必要か。今一度、考える機会を持ってみてはいかがだろうか。

この記事をSNSでシェア!

  • ランキング

    新着記事

    アシックスの新しいランニングシューズNIMBUS MIRAI(ニンバスミライ)

    SDGsの基礎知識

    食品ロスとは?原因や日本と世界の現状、家庭でできる対策を紹介

    もっとみる

    おすすめ

    SDGsの3つの反対意見-SDGsに取り組む狙いを踏まえた解決策を紹介