日本航空株式会社(以下JAL)は、日本人なら誰もが知っている大手航空会社ですが、早い段階でSDGsやESGについての取り組みを強化し、成果を残しています。
今回はJALがESGに力を入れている理由や、どのような体制や姿勢で推進しているかについて、ESG推進部企画グループの西岡さんにお話を伺いました。
危機感は古くから持っていた
ーー自己紹介をお願いいたします
日本航空ESG推進部企画グループの西岡と申します。ESG推進部では、サステナビリティ全般を担当しており、主に投資家や一般のお客さまに向けた情報発信や、イベントを通した社内への意識浸透を担当しております。
ーーESG推進部はいつからどのような経緯でできた部署なのでしょうか
もともとは「地球環境部」という名前で、環境保全を中心としたCSR活動に力を入れてきました。2009年には非食物系植物由来のSAFを搭載し運航する「バイオフライト」を実施するなど、SDGsという言葉が出てくる以前から環境やエコといったところにフォーカスした取り組みをしていました。その後も世の中の流れに合わせ少しずつ形を変えていき、ESG推進部という形になったのは2020年の4月です。
ーー貴社ではどのような形でSDGsの社内推進をされているのでしょうか
社内に複数あるサステナビリティ関連の会議体事務局をESG推進部で担っています。
委員会で行う会議の周期はいくつかに分かれており、社長を議長として全役員が集まる「サステナビリティ推進会議」が四半期に一回、特に関わりの深い6~7の本部の役員が集まって行う「サステナビリティ推進委員会」とそれに付随する「サステナビリティ推進部長会」が毎月、そして各本部から担当の方に出てもらって情報シェアを行う「サステナビリティ推進担当者会議」を毎週やっています。
担当者会議は各本部から計20~30名ほど集まって行っているので、そこから各本部に情報を共有してもらっています。また、EMS(環境マネジメントシステム)の担当者を各本部やグループ会社にも置いていて、四半期に一回目標を立ててもらっています。
ーー貴社がSDGsを推進するようになったのはいつごろからで、きっかけは何だったのでしょうか
皆さんご存じのとおり、飛行機は一度の運航で相当な量のCO2を出す乗り物なので、危機感というのはサステナビリティやSDGsという言葉が出てくる前から持っていました。具体的な取り組みで言うと40年ほど前から、航空機を使って上空のCO2を観測するプロジェクトへの協力をしています。
企業の戦略としてやっていくことになったのは、2021年の5月に発表した五か年の中期経営計画で「2050年のCO2排出量の実質ゼロ」という目標を掲げたところからです。構想としては以前からあり、2020年の株主総会で、日本の航空会社としては初めての「2050年のCO2排出量の実質ゼロ」を目指していくことを宣言をしていました。この宣言をしたことにより、サステナビリティやESGが本格的に企業の中心となり、現在も力を入れて取り組んでいます。
手を取り合って一緒にやっていくことで進んでいく
ーーCO2削減に対して実際にどのような取り組みをされているのでしょうか
大きく分けて3種類あります。
1つ目は「温室効果ガスを削減できる燃費の良い機体を使う」ことです。飛行機は燃料を燃やすことによってCO2 を排出しているので、燃費の良い機体にすることで燃料を削減できれば、その分CO2排出量も減ります。具体的なところで言いますと、ボーイング787や3〜4年前から導入している一番新しいAIRBUS A350型機はかなり低燃費で、これまでの飛行機と比べ、約15〜20%ほど燃費が良い機体です。
2つ目は「パイロットの操縦の工夫でできる削減」です。例えば、空気抵抗が少ないと燃料の消費量が削減できることを利用し高度の高いところを飛ぶなどがあります。他にも、着陸してからお客さまが降機するまでの移動を片方のエンジンのみで行うことも、パイロットができる工夫の1つです。そのような小さな取り組みの積み重ねで燃料使用量の削減をしています。
3つ目は「SAF(持続可能な航空燃料)を使う」ことです。SAFについては、チャーター便などの一部の便で使用しているのですが、原油を使わずに地上にある原料から作る燃料です。そのSAFを一緒に作るところから、実際に飛行機の燃料として飛ばすところまでを他企業とともに取り組んでいます。
ーーSAFの使用について、世界と比べ、日本の立ち位置はどのあたりなのでしょうか
アメリカは国や州からの支援による事業化および利用の後押しがあり最も進んでいます。ヨーロッパでは特定の空港では絶対にSAFを積まなければならないなど、法規制化が進んでいます。アジアやその他の地域では、まだ本格的な取り組みが始まっているとは言えません。
日本でも国により2030年に向けて供給の義務化の方針が示されるなど、SAFの使用にむけた取り組みが加速しています。日本でもっとSAFの動きを活発にしていくために、航空業界だけでなく、他業界の企業とも協力して業界横断的に取り組んでいるというのもそうですし、企業同士が一体となって、国に対しての働きかけも行っています。
ーー「かくれナビリティ」に取り組もうとされたきっかけについて教えてください
今でこそ浸透してきていますが、サステナビリティやエコは、企業がESG戦略として進めていく時に、押し付けのような形になってしまうことが課題としてありました。
そんな課題を解決する手がかりを探して、他の企業の方や社外の方とお話をしていた際に「ちょっとしたことでCO2排出量が削減できるんですね」と驚かれることが多く、社員にとっては当たり前で何とも思っていなかったことでも、それを知らない人からすると意外なことであり面白いことなんだと気づきました。そのような誰にでもできる取り組みをわかりやすく発信していくことで、JALが一方的にやっていることでもなく、お客さまに押し付けるわけでもなく、お客さまとJALが一緒にサステナブルな未来を創っていくことに繋がるのではないかと考え、#かくれナビリティという形で打ち出しました。
かくれナビリティの取り組みについて詳しくはこちらから↓
お客さまに楽しんでもらうことを第一に目指す
ーー貴社はDEIの観点でいくつもの賞を受賞されていますが、どのようなところが評価されているとお考えですか
DEIは中期経営計画の大切な課題として設定しており、経営陣が目標を立てたうえで、全社として取り組んでいるという点が大きいと感じています。
また、DEIに対してのイベントや勉強会を社内外で開き、学びの姿勢を絶やさずにやっていることも理由の一つであると思います。今年の6月もプライド月間ということで、コロナ前ぶりに「JAL ダイバーシティDay」というイベントを社内で開催して一日DEIについて考える機会を作るなど、常にDEIについての知識を会社としてアップデートしています。
また、お客さまとの接点を大事にしており、飛行機をご利用くださるどんなお客さまに対してもフライトやその後の旅行などを楽しんでいただくことが目標であり、第一に目指すところであります。社外のイベント等への参加を通じ、お客さまの目線に立って、どうしたらよりよいサービスや体験にできるかを社員の一人一人が考え、一致団結しアイデアを出せているところが評価いただいていると感じています。
ーー社内でイベントや勉強会などを行っているとのことですが、実際にどのような反応や変化があるのでしょうか
新たに得た気づきや学びについて、熱心にアンケートを書いてくださっています。
また、イベントや勉強会を通じて得た学びを、一人一人が自分の部署に持ち帰って波及させていくことが大事だと考えています。勉強会を通して他の部署の方とコミュニケーションをとり、他の部署でやっていることを自分の部署でもDEI視点を取り入れてやり方を変えていかれたりなど、ポジティブな変化も見られています。
ーー航空会社ということで、多様な国籍や文化の方がご利用されると思いますが、そんな貴社にとってDEIで大切だと考えるポイントはどこですか
どんなお客さまにもお楽しみいただくうえで、私どもにできることの1つとして「選択肢を増やす」ことがあり、これはDEIを考える中で大切なことだと思っています。
例えば、言語対応ではサイト上で15か国語ほどを揃えていること、移動の面で規制がある方のために、空港に特別なカウンターがあることや資格を持った客室乗務員がいること、アレルギーや宗教に対応した機内食を30種類以上揃えていることなどが挙げられます。このように選択肢を増やすことによって、どんなお客さまにもその方にあったものを選んでいただくことができ、空の旅を楽しんでいただくことに繋がると考えています。
さいごに
今回の取材では、SDGsという言葉が広がるよりも前から、環境やD&Iのところに力を入れていたことを知り、今ではESGが戦略の最上位まで来ているなど、ESGにかけるJALの本気度が伺えました。
中期経営計画で明確な目標を掲げたところから、委員会形式での密な連携、押し付けることのないキャンペーンやイベント、社内での勉強会や研修会により知識の蓄積という一連の流れは、ESG戦略を掲げたい企業の見本となるべきものではないでしょうか。
SDGs connectディレクター。企業のSDGsを通した素敵な取り組みを分かりやすく発信していきたいと思います!