企業とSDGsの現在地。課題とビジネスのこれから

#ESG#SDGs目標17#ジェンダー 2021.05.26

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【更新日:2021年6月18日 by 鈴木 智絵

2021年3月18日−19日にオンラインで開催されたMASHING UP SUMMIT 2021。

2日間で13のトークセッションが展開され、多様な分野で活躍する登壇者たちがSDGsというテーマを通じ、未来のビジネスのあり方について深いディスカッションを行う場となった。

今回の記事では「企業とSDGsの現在地。課題とビジネスのこれから」をテーマとしたトークセッションをまとめている。

日本のビジネスにおけるSDGsの課題ESG経営の意義について、俯瞰して解説が行われている。企業SDGs担当者や若手起業家、これからの社会をつくる世代に欠かせないトークセッションである。

登壇者

能條 桃子

一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN 代表理事

1998年生まれ、慶應義塾大学経済学部4年生。若者の投票率が80%を超えるデンマーク留学をきっかけに、2019年7月政治の情報を分かりやすくまとめたInstagramプロジェクト NO YOUTH NO JAPANを立ち上げ、2週間でフォロワー1.5万人を集める。その後、「投票に行こう」と選挙前にバズるだけでは投票率は上がらないと考え、NO YOUTH NO JAPANを団体化。現在、60名のメンバーとともに、ジェンダーと気候変動に関心を持ちながら、「参加型デモクラシー」ある社会をわたしたちからつくっていくために活動中。

村上 芽

株式会社日本総合研究所 創発戦略センターシニアマネジャー

銀行勤務を経て2003年より株式会社日本総合研究所。専門分野はESG(環境、社会、ガバナンス)側面の企業調査、SDGsと企業経営、子どもの参加論。主な著書に『図解SDGs入門』『少子化する世界』がある。

今回のトークセッションでは、若者の視点で社会づくりを提案・実行するメディアNO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條さんが、若者の視点からの疑問や課題を村上さんに投げかけた。

テーマ①SDGsの企業における現在地

Q1.SDGsの企業における現在地は?

2017年に経団連が企業行動憲章を改訂してから、持続可能な社会に貢献するトーンが強くなりSDGsの取り組みが広がっていった。コロナ禍の中でもその勢いは止まらず、「コロナだからSDGsどころじゃない」とはならなかったことがSDGsの企業における現在地を大きく表していると村上さんは語った。

Q2.SDGsバッジをつけている企業が増えているが、SDGsの内容を理解しているのかが疑問。実際にSDGsに取り組んでいる企業が抱えている課題は?

ESG経営やSDGsに取り組む企業から相談を受けることの多い村上さんによると、SDGsに取り組むべきだと判断した経営層がSDGsバッジを着けるのは、SDGsを社内に浸透させるためだそうだ。

しかし、SDGsに関して認知し、理解する事ができても「企業の活動とSDGsへの取り組みをどう具体的に結びつければ良いのかわからない」「長期的な目標であるSDGsを短期的に利益を上げながら事業や日々の仕事と結びつけるにはどうしたら良いのかわからない」といった課題を企業は抱えているという。

企業が抱えている課題に対し、村上さんは「国連が目標となると遠いと思いがちだが、自分との接点や会社との接点を見つけるとSDGsを身近なものに感じられる。その接点からSDGsへの具体的な取り組みを考えると良い」と語った。

テーマ②企業の抱える5つの疑問

能條さんは、企業が感じているSDGsへの課題感と若者が感じるSDGsへの懸念点が似ていると語っている。

テーマ②では企業、若者に共通する5つの疑問の中から2つの疑問を取り上げ、村上さんに投げかけた。

5つの疑問

①サプライチェーン上でSDGsの取り組みを考えるとき、どこまでやれば良いのか

②全社方針としてはSDGs推進だが、日々の業務や売り上げとの関係がわかりにくく社内の理解が広がらない。どうしたら良いのか

③SDGsで何か新しい取り組みを考えろと言われているがどうやったら良いのか

④「SDGsウォッシュに気をつけろ」と聞くが、どのように予防すれば良いのか

⑤新型コロナウイルス感染症とSDGsはどんな関係にあるのか

①サプライチェーン上でSDGsの取り組みを考えるとき、どこまでやれば良いのか

村上さんによると企業は特定の範囲だけではなく、どこから原材料を仕入れているのか、どんなパートナーに仕事を委託しているのか、また作ったものが使われて捨てられるまでどうなっているのかなどサプライチェーン全体に責任を持たなければいけない。そのため、SDGsやESGはサプライチェーン全体を通じて行うことが大切だそうだ。

④「SDGsウォッシュに気をつけろ」と聞くが、どのように予防すれば良いのか

SDGsウォッシュという言葉はグリーンウォッシュと言う言葉から派生したものである。

たとえば成分がオーガニックでとても良い商品と謳っているものでも製造工程で莫大なエネルギーを使っていたり、表では良いことばかりを言っていても裏では環境に悪いことが行われている。これらをグリーンウォッシュと言い、見せかけの取り組みを行う企業を批判する際に用いる言葉として使われてきた。SDGsウォッシュとはグリーンウォッシュと同じように、「SDGsに取り組んでる」「貢献している」と言っていながら実態が伴っていない、裏でギャップがあることを指すと村上さんはコメントした。

ここで学生の視点からSDGsウォッシュを感じるのはどのような時なのか、能條さんが具体的な事例を出してくれた。

「就職活動などで企業のホームページを見たりするが、たとえば石炭の会社が『石炭でSDGsに貢献します』と言っていたりする。しかし、気候変動問題の主な原因となっている石炭を用いてSDGsに貢献するのはどうなのか。また、SDGsの宣言をしている企業の実態をみてみると女性役員の割合が少なかったりする。SDGsを掲げたり、宣言することから始めるのはもちろん大事だけども、取り組む気はあるのか?と思ってしまう」と能條さん。

能條さんの意見を踏まえ、村上さんがSDGsウォッシュを予防する方法を提示してくれた。

「SDGsは製品やサービスを通じて課題に解決していくという風潮が強く、それには賛成である。しかし、企業である以上ビジネスチャンスも逃がしてはいけないと考えるのも仕方がないこと。だからこそ、どんなことにもこれは負の影響があるかもしれないと考える視点が必要。たとえば、どんなに素晴らしい商品であっても、急激に売れてしまえばその商品を作っている人が残業をしなければならなくなり、長い目で見ると続かなくなる。どんなに良いことであっても、必ず何か負の影響がはずだと考える癖をつけることが大切だ。」と村上さんは語った。

テーマ③企業の抱える課題

能條さんによると、今までの日本を成長させてきたものや、当たり前に根付いていたもの、疑う余地もなかったものがこれからの社会においては合わないと考えられるものが増えてきたように感じるそう。

SDGsの中でもジェンダーに関して、就活の際に企業によってはジェンダーバランスが崩れていることがあったりして、自分が内定を選ぶ際の1つの基準となっている。

また、企業の中で管理職の割合など女性が増えないことに対してモヤモヤを抱く若い世代は多いとのこと。

そこで、能條さんが村上さんに次のような質問を投げかけた。

Q1.ジェンダーに関して企業ではどのような課題がある?企業はそれをどう認識している?

企業の組織の中にいて、1つの組織で階段に上り出世していくなどの組織文化は、みんなある程度慣れていくもの。多様性はとても大事で、組織文化ももちろん大事だけれども新しい考えをどんどん取り入れていく。このベースが必要となってくるが、企業はそれができていないことが多い。

「日本では男女という意味でのジェンダーバランスがまだまだアンバランスであり、企業側もそれを頭では理解している。しかし、人材不足であることを理由に立ち止まってしまう企業が多いことが現実問題だ」と村上さんはコメントした。

Q2. 企業の中で、女性は使いにくい、人権としてジェンダーを考えにくいなどの風潮はある?

初めて社会に出たときに比べると、女性だからと言って損をすると感じることは少なくなったそうだ。しかし、「まだまだ足りない部分が多い。そこで必要となるのはジェンダーのことにしても、何にしても『気づいた人が言う』ということ。ジェンダーの違いや年齢の差があっても『言える環境作り』というのが1番大切だ」と村上さんは語った。

Q3.年功序列の会社が日本ではまだまだ多いが、その中でSDGsを取り組んでいくことは海外と比べて壁になるのでは?

日本は良くも悪くも島国の中でうまくやってきたからこそ変化が苦手であり、多様性を尊重することが苦手。たとえば、年功序列という考え方を中々変えられなかったり。

だからこそ「変化や多様性を意識して、苦手なところを伸ばすというマインドを持つことでSDGsへの取り組みに対応していくことが必要となる」と村上さんはコメントした。

ここで、村上さんが企業の抱える課題というテーマに関連した質問を能條さんに投げかけた。

村上さんによると、SDGsや社会問題に関心の高い今の若い世代とうまくやっていく方法の1つとして、SDGsの取り組みをはじめることもあるそうだ。

しかし、今の40代以上は20代と比べて小さい頃から勉強してきた内容が異なり、環境問題においてもジェンダーや働き方の価値観においても違うことが多いそうだ。

環境問題などは勉強すれば理解できることがあっても、人権や価値観に関しては勉強してもわからない、理解できないことが多いとのこと。

Q4.若い世代のSDGsに関する人権や価値観に対して、理解・納得のできる考え方など何かヒントを教えて欲しい

世代によって受けてきた教育が違うため、価値観が違うことがどうしようもない問題として存在している。たとえば、ジェンダーに関して今の(能條さんの)同級生は、「男性の方が女性よりも能力が優れている」「女性の方が男性よりも劣っている」と本気で思っている人はほとんどいないとのこと。それくらい、若い世代は教育に関しても平等であり、SDGsに関する考え方も当たり前の価値観として受け入れる人が多い。

しかし、40代以上となると、例えば家庭科の授業は女性だけ、技術の授業は男性だけと分けて授業を受けてきたり、通っていた学校の名簿が最初に男性がきて女性が後というような教育を受けてきている。そうなると価値観が大きく異なるのは仕方ないと能條さんはコメントした。

能條さんは大学1年生の頃(2016年)にSDGsに関して勉強した際に、「経済と環境・人権を二項対立の反対と思わない」という考え方を知り、SDGsを理解することができたそうだ。

SDGsに関して環境を守るなら経済をやめないといけない、人権を守るなら経済をやめないといけないなど0か100で考えていたが、二項対立にするというよりも「ビジネスの中にどう組み込むか、経済の発展の中に必要な要素を取り入れていく」という説明を受け、腑に落ちたと能條さんはコメントした。

企業が行うSDGsキャンペーンなどでは、いつもの業務と全く違うことをしてSDGsに取り組んでいますと宣言したり、表面だけをよく見せようとすることでSDGsウォッシュとして批判される。企業に必要なのは、根本の変えなければいけないビジネスの構造であったり、事業とSDGsを反対のこととして捉えず、結びつけて考える力だと能條さんは語った。

質疑応答

最後に村上さんと能條さんが回答する質疑応答の時間が設けられた。

Q1.SDGsと聞くと目標数も規模も大きいと感じてしまうが、企業としてまず最初に取り組むべきことは?

「企業において何を今まで1番得意としてきたのが、社会のために何をして貢献して進んできたのかを振り返ることがファーストステップである」と村上さんは答えた。

「SDGsの17個の目標を全て達成しないといけないというわけではなく、自分の会社はSDGsの目標の何に当てはめることができるのかを考え、それを伸ばしていくという姿勢が必要」と村上さんはコメントした。

Q2.SDGsの目標達成には企業同士の連携が必要となると思いますが、連携するためにはどうしたらいいのか?

企業間でSDGsに対する共通の目標を擦り合わせ、その目標を達成するために連携するという企業間での話し合いが最も大切である」と村上さんは回答した。

その上で、「企業間の連携では、それぞれの組織の利益が優先されがちだが、どの目標をどうして達成したいのかという共通の目的や目標を、それぞれの企業が言葉にして伝えられる準備も必要となる」と村上さんはコメントした。

Q3.若い世代の意見を社会に取り込ませる、また上の世代と若い世代の意見を擦り合わせて社会全体で取り組むにはどうしたら良い?

若い世代に必要な考え方は、自分は上の世代と比べて経験が少ないから声をあげない方がいいと思わないことが大切。また、上の世代は色々な世代の色々な意見をきちんと聞き入れ、自分たちの世代の価値観だけで物事を判断しないことが大切である」と村上さんは語った。

若い世代、なかでも子どもは企業にとってステークホルダーと思われていないことが多い。

だからこそ「企業は、若い世代の声をどのように聞いて、取り入れてくのかを考える必要がある。これは一社だけではなくさまざまな企業で考えるべき課題である」と村上さんはコメントした。

「上の世代は生きている年数が多い分、自分の方が色々知っているという考え方ではなく、若い世代も上の世代もフェアに、ニュートラルに話し合える環境を形成することが大切である」と能條さんはコメントした。

Z世代(1990年代後半)以降の若者は社会課題への意識が高いと考えられている。SDGsの価値観に沿った、教育を受けてきているからこそ社会を担う存在と言われているがSDGsの目標達成を2030年までと考えると、今の若い世代が意思決定層になるにはまだ早い。だからこそ、今の意思決定層がやらなければいけないことがある。

若い世代に期待を込め、全てを託して自由にどうぞというスタンスではなく、今の上の世代が出来ることも考えていく必要がある」と能條さんは語った。

まとめ

「企業とSDGsの現在地。課題とビジネスのこれから」をテーマに行われた今回のセッション。学生の立場から能條さんがSDGsに関する鋭い疑問を投げかけ、企業側の意見も取り入れながら村上さんが的確な解決策や回答を述べ、互いの意見を擦り合わせながらテーマに基づいた熱いトークセッションを繰り広げた。

SDGsに関する価値観は、受けてきた教育内容の差により世代間で大きく違っている。

SDGsの目標17にパートナーシップが挙げられているように、SDGsの目標を達成するためにはさまざまな世代や企業が連携し、互いの意見を述べられる環境形成が必要となる。そのような環境がどの企業でも当たり前にできている社会を目指していきたい。

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