H&Mが目指す持続可能な社会|7つのバリューはSDGsにもつながる

#サステナブル#ダイバーシティ#廃棄#持続可能 2022.02.14

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【更新日:2022年7月13日 by おざけん

スウェーデン発のアパレルブランド、H&Mは、2008年に日本に進出して以来、年齢や性別を問わず幅広い世代から支持されている。

手の届きやすいファッションブランドとしてデザイン性の高いファッションをリーズナブルな値段で提供する一方、持続可能なライフスタイルを実現するための取り組みも積極的に行っている。

世界中で愛されるH&Mは、グローバルブランドとしてどのようにSDGsに取り組み、持続的なファッション業界を創造しているのか。

今回は、H&MのCSR/サステナビリティ・コーディネーターを務める山浦誉史様と、PRプロジェクトマネージャーを務める田中都様を取材した。グローバル企業ならではの具体的なSDGsの施策を伺う。

10年以上CSRに取り組むH&M │ サステナビリティ・コーディネーターの仕事

ーー自己紹介をお願いします。

山浦:H&MのCSR/サステナビリティ・コーディネーターを務める山浦誉史です。2011年にH&Mに入社し、店頭での勤務、フロアマネージャーや店長を経て、2018年4月からサステナビリティに関わっています。

田中:H&MのPR プロジェクトマネージャーを務める田中です。よろしくお願いいたします。

ーーサステナビリティ・コーディネーターになったきっかけを教えてください。

山浦:2011年にH&Mに入社した当時から、CSRに取り組みたいと思っていました。2016年に日本のH&Mにもサステナビリティ・コーディネーターというポジションができ、2018年に前任の方が退職されるということで社内公募で就任しました。

ーー入社当時からCSRに着目していた理由はありますか?

山浦:アメリカでの大学生活が影響していると思います。学生時代にアメリカのH&Mを利用する中で、積極的なサステナビリティへの取り組みに魅力を感じていました。また、私が住んでいたサンフランシスコはオーガニック製品などが人気で、サステナビリティに通ずる考えが身近にあったことも大きな影響がありました。

ーーH&Mは2016年にサステナビリティ・コーディネーターの役職が出来る以前からCSRに積極的に取り組んでいたんですね。

山浦:世界全体としてサステナビリティレポートを発表するほか、日本でも、マーケティングやPRといった部署が牽引してCSRに取り組んでいました。

ーーサステナビリティ・コーディネーターは具体的にどのようなお仕事をされていますか?

山浦:H&Mグループ全体を通したグローバル単位での取り組みを、日本向けにローカライズするといった業務を担当しています。

さらには、サステナビリティに関して他の部署をサポートしたり、各店舗へのガイドラインを作成したりと、各部署との連携が欠かせません。

また、大学で自社のサステナビリティに関する講義を行うなど、外部の方とのやり取りも多い役職です。

ーーグローバルチームとのコミュニケーションも頻繁に行っているのでしょうか??

山浦:そうですね。H&Mグループが抱える8つのブランド全体のサステナビリティに関するミーティングがあり、さらにH&Mブランドのミーティングがあります。加えて、アジア太平洋地域でサステナビリティの情報を共有するミーティングもあります。レイヤーごとにしっかりと話し合う場が設けられていることが特徴です。

大切なのは企業・自治体・消費者が協力すること│消費者に働きかける取り組みを

ーーファッション業界全体の課題について教えてください。

山浦:過剰生産消費のあり方は重要な課題だと思います。よりサステナブルなファッション業界を創っていくためには、企業自治体、さらに消費者の協力が必要です。

例えば自治体との協力という観点では、街づくりの中でファッションに関する整備を企業として、サポートできるような仕組みがあればいいと思います。

企業は、よりサステナブルな製品やサービスを消費者に届ける使命があります。そして、消費者はどんな製品・サービスを選ぶのか、消費のあり方を見つめ直す必要があります。

企業・自治体・消費者が三位一体となってサステナビリティを考えることが重要だと思います。

ーーH&Mの廃棄削減に対する取り組みを教えて下さい。

山浦:H&Mでは衣料品は絶対に廃棄しません。必ずリウェア・リユース・リサイクルしています。安全衛生上問題がある場合でも、燃料として回収しています。

H&Mでは2013年からグローバル規模で古着回収サービスを開始しました。お客様が使用済みの衣類をリウェア・リユース・リサイクルしていただけるように、消費者コミュニケーションの観点からPRチームとともに行動変容を促せるような取り組みをしています。

ーー消費者の行動を変えていくための具体的な取り組みを教えて下さい。

田中:H&Mは2030年までに使用する素材を100%サステナブル素材にするという目標を掲げ、購入の際にサステナブルなものを選んでいただけるような工夫をしています。

2021年11月現在、H&Mの商品は全体の64%がリサイクル素材やサステナブルに調達された素材から作られています。サステナブル素材が50%以上含まれている商品にはグリーンタグをつけていて、購入の際にひと目でわかるようにしています。

さらに、購入したものをできるだけ長く使っていただけるようにケア方法もウェブ上で公開しています。

それでもいらなくなった服は回収を促しリサイクルするといったかたちで、お客様を巻き込んだ取り組みに力を入れています。

グリーンタグ(提供:H&M)

ーーサステナブル素材にはどのようなものがありますか?

山浦:例えば、H&Mのコットンは従来のものに比べ、よりサステナブルなコットンに100%切り替わっています。リサイクルコットンオーガニックコットンベターコットンと呼ばれる、3種類のコットンを使用しています。

他にもリサイクルポリエステルやリサイクルナイロンといった合成繊維、オーガニックシルクやオーガニックリネンなど、さまざまな素材があります。

田中:革新的な素材も積極的に取り入れています。例えば、ぶどうの皮や茎を使用した生地や、サボテンからできたヴィーガンレザーなどが挙げられます。

12月9日に発売されたコレクションには、ビーズが熱で溶ける糸でつけられていて、異素材を簡単に取り外しできるものがあります。リサイクルすることを前提としたデザインや革新的な素材・技術を幅広く取り入れています。

ーー近年、ファッション業界でもDXの流れを受けて、どのような変化があると感じていますか?

山浦:やはり循環型のファッション業界になるにしたがって、レンタルやサブスクといった2次流通プラットフォームの成長は見逃せないです。

H&Mグループとしても「AFOUND(アファウンド)」という、未使用在庫をオフプライスで売る専門のブランドや、「SELLPY(セルピー)」という2次流通プラットフォームを展開しています。循環型のファッションビジネスにも本格的に乗り出しているところです。

「7バリュー」で一人ひとりが輝くサステナブルな企業に

ーーH&Mでは大切にしている考え方があるとお聞きしました。

山浦:私たちは、7つのバリューと呼ばれる企業価値感に沿って働いています。スタッフの評価の基準は数字だけでなく、どれだけその価値観に沿って働いているかも重視されるので企業のポリシーやブランドの価値感をスタッフとしても常に求められています。

例えば「いつもシンプルに」という価値観があるのですが、物事を複雑にしすぎないで、シンプルに考える。「人を大切にする」は、個性を尊重してその人らしく、自分らしくあろうとする価値観です。私たちの働き方の根幹であり、評価の基準でもあります。

この7つのバリューはH&Mグループ全体に浸透する共通言語になっていて、世界のH&Mスタッフともつながっている感覚があります。

【H&Mの7つのバリュー】
①ひとつのチーム
②人を大切にする
③起業家精神
④確かな進歩
⑤コストコンシャス
⑥率直かつオープンマインド
⑦いつもシンプルに

ーー人事領域でのSDGsへの取り組みを教えて下さい。

山浦:H&Mには人権公正な雇用インクルージョン &ダイバーシティ(包括性と多様性)という3本柱があります。

公正な雇用」に関して、100%公正平等な企業になるというビジョンがあります。その中で、自社内とサプライチェーンにおける公正な雇用を目指しています。

社内でもダイバーシティに関する研修を盛んに行っています。全ての人にファッションを届けるというビジョンのもと、多様な価値観を受け入れることが重要になると考えています。

ーーファッションはまさにその人の価値観や多様性を表現するものですよね。ダイバーシティへの取り組みにかける想いはありますか?

田中:近年、「インクルージョン &ダイバーシティ(包括性と多様性)」に関して女性の活躍やLGBTQといったトピックが取り上げられやすいと思いますが、私たちの中では全員が自分らしくいれるかどうかを大事にしています。

性別や国籍といった表面的な違いが取り上げられがちですが、私たちは一人ひとりが個性や育った環境、価値観の異なる存在です。

例えば、女性マネージャーポジションの割合を上げるなどの取り組みも、女性だけを重視したものということではなく、性別関係なく平等に評価される会社にすることを目的とした取り組みです。

全ての人が自分らしくいられる職場環境であることを大切にしている会社だと思います。

サステナブルなファッション業界を創造するために

ーーサステナブルな企業を目指す上で、特徴的な人事制度はありますか?

山浦:毎年外部機関によるPEP(People Engagement Pulseの略)という社員満足度調査を行い、スタッフのエンゲージメントを調査しています。スタッフにとってよりよい会社になるためには欠かせない取り組みです。

特に、サステナビリティは社内のエンゲージメントを高める1つの要因です。社内のコミュニケーションを活性化させることで、H&Mの取り組みをスタッフに認知してもらうことを重要視しています。

田中:H&Mは、長く勤務しているスタッフが多いことも特徴の1つです。社内でのポジション移動もフレキシブルに行われています。離職率を抑えることも、サステナブルな企業であることにつながるのではないかと思います。

ーーH&Mではどんな人材が求められているのでしょうか?

山浦:採用に関しては様々な観点から総合的に判断を行いますが、自分が店長職に就いていた時には、先述の私たちのバリューに適応できるかどうかを特に見ていました。

自分が特に大切だと感じるのが、「率直かつオープンマインド」という項目です。いいことも悪いこともフィードバックしていくためには、率直な意見を言えることが大切です。

活発で持続可能な組織になるためには、全てのスタッフが積極的に話し合える職場づくりをしていく必要があると考えています。

ーーこれからの展望を教えてください。

山浦:今は社内スタッフの強化にフォーカスしています。H&Mのサステナビリティに関する取り組みをお客様に届けたい。そのためにはお客様に一番身近な店頭スタッフへのアプローチが重要です。サステナビリティの知識や情報があるだけでなく、実際に行動に移せるようなスタッフを育成することが目標です。

まとめ

今回の取材を通して、H&Mはグローバルな企業である強みを活かしながら、従業員や消費者一人ひとりに寄り添う形でSDGsに取り組んでいることがわかった。

持続的な社会を実現するには、環境や消費者といった外部への働きかけはもちろん、従業員全員が個性を発揮し生き生きと働ける職場作りが欠かせない。

特定のキーワードやマイノリティを意識しすぎるのではなく、全ての人が多様で素晴らしい唯一無二の存在であるという認識が自然と浸透している企業はとても魅力的だ。

最先端のファッション性とサステナビリティへの取り組みを両立しているH&M、今後の取り組みにも期待が高まる。

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