【更新日:2023年4月24日 by 大竹礼二】
SDGsは、国連が掲げた持続可能な社会の実現のための目標であり、その達成に向けた取り組みが世界的に進んでいます。建築業界においても、SDGsを取り入れた建築の需要が高まっており、地球環境への負荷を減らす省エネルギー性や再生可能エネルギーの利用、社会的・文化的な多様性の尊重などが求められています。この記事では、SDGsに沿った建築の取り組みや、具体的な建築事例、建築ガイドを紹介しながら、持続可能な社会の実現に向けた建築業界の役割について解説します。
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SDGsにおける建築の課題
SDGsをテーマにした場合、建築業界には様々な課題があります。例えば、エネルギー効率の低い建築物の多さ、都市化に伴う環境問題、社会的包摂の観点からのアクセシビリティの改善などがあります。
具体的な事例としては、日本の高齢化社会におけるバリアフリー化が挙げられます。高齢者や身体障害者の増加に伴い、建築物や住環境のアクセシビリティの改善が必要です。しかし、多くの建築物はバリアフリー化されておらず、車椅子での移動や段差のある場所へのアクセスが困難な状況があります。このような課題に対して、建築業界はよりバリアフリーに配慮した建築物の設計や改修を行うことが求められています。
SDGsと建築の関係性
SDGs(持続可能な開発目標)と建築は密接な関係があります。具体的には、SDGsの2番、7番、12番などの目標に直接関連しており、建築物のエネルギー効率を高め、都市計画にSDGsを取り入れたり、炭素排出量の削減を促進し、リサイクル可能な材料を使用するなどの政策を実施しています。このように、建築業界は時代の流れとともにSDGsに基づいた取り組みを進めることで、地球環境を保護しつつ、人々の暮らしや経済に貢献することが求められています。
SDGs目標2と建築
SDGs目標2「飢餓をゼロに」は、世界中の人々が健康的な食事を享受できるようにすることを目指した目標です。建築分野においては、持続可能な農業や食料生産に貢献する建築物や施設の開発が進んでいます。例えば、屋上や壁面に緑化を施し、野菜や果物を栽培する「都市農園」や、地域の食材を販売する「フードハブ」などが挙げられます。また、食品のロスを削減するための冷蔵庫や冷凍庫の設置や、食品の配達や保管に適した施設の開発も行われています。建築分野の技術やアイデアを活用して、飢餓問題を解決する取り組みが進められています。
SDGs目標7と建築
SDGs目標7「安価で安全なエネルギーをみんなに」は、持続可能なエネルギーへの移行を促進し、エネルギー貧困を解消することを目指した目標です。建築分野においては、再生可能エネルギーを活用することで、エネルギー効率の高い建築物や施設の開発が進んでいます。例えば、太陽光発電や風力発電を利用したエネルギーシステムの導入や、断熱材や省エネ設備の導入などが挙げられます。また、エネルギーを削減するために、自然光や自然風を活用する設計手法も注目されています。建築分野の技術やアイデアを活用して、持続可能なエネルギーへの移行を促進し、エネルギー貧困の解消に貢献する取り組みが進められています。
SDGs目標12と建築
SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」は、資源を効率的に活用し、持続可能な社会の実現を目指す目標です。建築分野においては、環境負荷の低減や廃棄物の削減、再利用を考慮した設計や施工が求められています。例えば、廃材を利用して建築物を作る「リサイクル建築」や、建物の寿命を延ばすために改修や再生を行う「リノベーション」が挙げられます。また、エネルギー効率の高い建築物の開発や、省エネ設備の導入も重要な取り組みとなっています。建築分野の技術やアイデアを活用して、環境負荷の低減や資源の効率的な活用を実現する取り組みが進められています。
SDGs建築ガイドとは
SDGs建築ガイドの概要
上述のように、建築環境に配慮することはSDGsとも関わってきますが、SDGsを踏まえて国際建築家連合は「17の国連SDGsに対する建築ガイド」を作成しています。
このガイドは、具体的な事例とともにSDGsの各目標と建築環境との関係性を概説しており、建築に関係する人々にインスピレーションを与え、建築がいかにSDGs達成に貢献できるかを示しています。フルカラーで写真も豊富なので、非常に読みやすいものとなっています。この建築ガイドは2018年に第1巻が、2020年には事例の数が大幅に増えた第2巻が刊行されています。
日本建築家協会は「SDGs建築ガイド日本版」を刊行していますので、興味のある方はこちらをご覧ください。
▽「SDGs建築ガイド日本版」はこちら
http://sys.jia.or.jp/news/detail.html?id=1119
SDGsに貢献する建築の取り組み事例7選
では、具体的にSDGs達成のための建築にはどのようなものがあるのでしょうか。建築ガイドから実際の事例を3つほど紹介します。
建築物1-目標1に貢献するボロンタリア・ホーム(インド)
インドのポンディシェリにできたこの住居は、ホームレスの人々のために設計されました。現地で採れる粘土でできた家で、窓枠やトイレのタイルなどに自転車の車輪フレームなどの廃棄材が利用されているため、低コストかつ資源の無駄を無くすような工夫がされた設計となっています。
こちらのインドの事例は、SDGsの1つ目の目標である、「貧困をなくそう。あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」と対応しています。世界の極端な貧困問題は徐々に改善していますが、いまだに持続可能な生計を立てられない人は多く存在しており、世界の貧しい人々が住居に割ける資金は全くないか、限られています。建築家はこのような人々に対して、低コストかつエコで安全な建物を建築し、彼らの生活を少しでも豊かにすることに貢献できます。
建築物2-目標3に貢献するマギーズ・センター(イギリス)
マギー・センターは、イギリスのマンチェスターにあるがん患者とその家族が安心して暮らせるように設計された住居です。この住居の特徴は、建築によってもたらされる癒しを重要視していることで、自然光や緑、庭園の見え方までが計算されています。センターには、プライベート空間から喫茶店や図書館、さらに植物の栽培スペースなど、室内外での治療効果を楽しめる様々な仕掛けがあります。
こちらの事例は、SDGsの3つ目の目標である「全ての人に健康と福祉を。あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」と対応するものです。ほとんどの人は、生活の大半を室内で暮らします。室内環境が悪いと健康にも悪影響ですし、特に病気や伝染病などは建築環境内で多く発生するため、健康問題に取り組む上でも建築環境について考えることは非常に重要です。
建築物3-目標6に貢献するワルカ・タワー(エチオピア)
こちらはエチオピアのドルゼに作られた水資源供給施設です。エチオピアの人々が使用する水質は極めて低く、この水による健康被害が深刻化しています。この問題を解決すべく設計されたこの施設は、大気の蒸気から結露と重力を使って水を抽出することができます。電力や複雑な装置を一切必要としないこの施設は、地域住民が簡単に操作・メンテナンスできるようになっており、装置によって生まれた日陰は地域住民のための共有空間を生み出しました。
これは、SDGs6つ目の目標である「安全な水とトイレを世界中に。すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」と対応する建築です。水は人が生きていく上で必要不可欠なものであり、エチオピアの事例のように水質の確保は健康問題の改善にもつながります。綺麗な水が不足している地域において、自然界の水を飲み水に変えることができるようなデザインが、建築には求められています。
建築物4-目標13に貢献するコープ共済プラザ
コープ共済プラザは、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」に貢献する建築物として注目されています。この建物は、再生可能エネルギーの太陽光発電や、省エネ設備の導入により、CO2の排出削減に貢献しています。また、建物内部には自然光が取り込まれ、空調システムもエコな設計が採用されています。さらに、建物の外壁には植栽が施され、熱や冷気の蓄積を抑え、外気温の影響を緩和することができます。これらの取り組みにより、コープ共済プラザは気候変動への対策を具体的に進めるモデルとして、建築分野での注目を集めています。
日本の建設企業-清水建設
清水建設は、SDGsに貢献する取り組みを積極的に進めている建設企業の一つです。まず、環境負荷の低減に取り組んでおり、CO2削減に貢献する省エネルギー設備の導入や、エコな建材の利用を進めています。また、建物のデザインや設計にも環境に配慮したアプローチを取り入れ、建物が持続可能な社会に貢献することを目指しています。さらに、社会貢献にも力を入れており、地域や社会のニーズに応じたプロジェクトを展開しています。例えば、震災被災地の復興支援や、スポーツや文化活動の支援など、様々な分野での取り組みを行っています。また、グローバルにも目を向け、海外での社会貢献や持続可能な都市開発にも取り組んでいます。清水建設は、建築分野での持続可能性の追求や社会貢献に注力し、SDGsに貢献する企業の一つとして、高い評価を受けています。
日本の中小企業-株式会社ユニバーサルデザイン
SDGsをテーマにした建築事例として、日本の中小企業である「株式会社ユニバーサルデザイン」が手掛けた「SDGsに配慮したバリアフリー住宅」が挙げられます。
この住宅は、高齢者や身体障がい者にも快適に暮らせるように設計され、廊下の幅や階段の手すりなどに配慮がされています。また、エネルギー効率にも配慮がされており、太陽光発電システムや断熱材の使用などが取り入れられています。このように、SDGsに配慮した建築は、より多くの人々が快適に暮らせるだけでなく、環境にも優しいものとなっています。
建築材料-スマートシェード
DNP調光ブラインド スマートシェードは、SDGsに配慮した建築資材の一つです。この製品は、室内の自然光を最大限に活用することで、省エネルギーを実現します。また、独自の制御技術により、室内の照度レベルを最適化することができます。これにより、快適な居住空間を実現しながら、電力消費量の削減に貢献することができます。
さらに、スマートシェードは、スマートフォンやタブレット端末と連携することで、屋外の天候や日の出・日没時間に合わせた自動制御が可能です。これにより、室内の環境条件を最適化することができます。また、遮熱・遮光性能にも優れており、夏の暑さや冬の寒さから室内を保護することができます。
DNP調光ブラインド スマートシェードは、建築資材として、省エネルギー性能や快適性能、自動制御機能、遮熱・遮光性能など、様々な面でSDGsに配慮した製品です。今後も、建築資材の分野において、SDGsに貢献する製品の開発や普及が進むことが期待されます。
まとめ
今回は、SDGsに対する建築業界の取り組みを紹介しました。世界のさまざまな地域で、建築がSDGs達成に貢献していることが分かっていただけたかと思います。
今回取り上げた事例の他にも、建築ガイドにはたくさんの事例が掲載されています。興味のある方はぜひ見てみてください。きっと、たくさんの画期的なアイデアに驚かされると思います。